• 配信日:2023.07.19
  • 更新日:2024.04.19

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーションを成功させる思考

オープンイノベーションのイメージの共有が重要


オープンイノベーションを成功させる思考

プロセスをオープン化していない状態で研究開発部門では、「どんな姿が自社にとって本当の意味でオープン化なのか」というイメージが共有されていないケースが多いです。

そのため、例えば研究開発を行うテーマを企画の審査にかける時点から「研究のコアの部分は自社技術でカバーする一方で、それができた暁(あかつき)には周辺技術や補完する技術、システム化する部分などは時間をかけずに、自社のリソースを含めてオープン化し、イノベーションを起こす」という仕分けを、ジャッジをする人間、研究する当事者などとあらかじめ共有しておくことが大切です。

リサーチャーが研究開発をしていて計画を組みながらオープンイノベーションを進めていくわけですが、そこにいきなり外から新しいものを持ち込んだとしても、オープン化するという心構えや準備、事前合意がないと「共創」ではなく「競争」に陥りがちです。今までと違うことをするけれども、それがオープンイノベーションとして新しい価値を生んでいくということを共有しておき、結果的にプロダクトの競争力向上が目的となることを共通認識として関係者が理解しておくべきです。

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さらに IMS (Innovation Management System)に代表される仕組みについて。

オープンイノベーションを推進するための「場」や「ツール」をシステムとしていかに管理しながら、どの場面でどういう「場」や「ツール」を提供することで、自社のイノベーションがオープンであることの良さを生かせるかが共通言語として認識していることが大切だと思います。

「場」「ツール」に関してはいまやマッチング・プラットフォームなどいろいろな手段が使える時代です。こういったものを各社の文化に合わせて、経営者や上長たちを巻き込みながら、自社の文化に対してどういうツールが適しているのか、議論することも重要なポイントです。

日本のオープンイノベーションのお手本


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日本のイノベーションを考えるとき、シリコンバレーが見本としてよく扱われます。 20 年以上前からシリコンバレーのイノベーションの仕組みを学んで日本に持ち帰ろうという動きがありました。

当時の人々がシリコンバレーで学んだことは現在の日本のオープンイノベーションのシステムに活用されていると思いますし、当時シリコンバレーに行った人たちが、今の日本企業のリーダーとしてイノベーションを牽引していると認識しています。

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しかし、シリコンバレーはアメリカの中でさえも歴史的に見て特殊な地域です。元々は何もなかったエリアがゴールドラッシュによって人が増え、さまざまなパイオニア精神が持ち込まれて、当時「鉄道王」と呼ばれた Stanford 卿が現在のシリコンバレーの礎を作り、東海岸や中西部とは違って白人社会ではない、いろいろな人種が集まった社会が構築されました。これはシリコンバレー特有の歴史です。

オープンイノベーションを成功させる思考

それから文化的背景に関してもシリコンバレー特有の部分があり、学生や大学教授、起業家たちが食事を通して気軽に議論を交わせるような環境がシリコンバレーではできています。

日本企業がこのようなシリコンバレーの特徴を学んで得ることもありましたし、これからも学ぶべきことがあるのだと思うのですが、個人的にシリコンバレーをお手本にするべきかは疑問が残るところではあります。

オープンイノベーションを成功させる思考

日本がイノベーションエコシステム、特にオープンイノベーションのやり方を考えるときには、アメリカのシリコンバレーやイギリス、フランス、ドイツなど歴史的にも大きな工業的なパワーを持った先進国を参考にすることが多いです。

一方でイノベーションの世界ランキングを見ると、トップにはスイスやスウェーデン、オランダなどといった小国ながら個性的な国々がランクインしています。

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このような背景を考えると、世界の先進国を参考に学ぶことも大切ですが、日本と共通点を持つイノベーティブな国々を参考にすることも重要だと考えます。

スイスやスウェーデンなどの国々と日本の共通点としては、例えば国内資源が少ないことや、世界的に優秀な大学・研究教育機関があること、科学技術に関する長い歴史があること、物事に真摯(しんし)に向き合う国民性、国全体が産学連携を支援していることなどが挙げられます。

日本が新しいオープンイノベーションシステムを実装していくときに、一度、こうした国々のことをもっと知って、日本がどういう特性を持った国で、どのようなイノベーションに向いているか振り返ることも、新しい考え方、特に今回のテーマにしている「思考」という点でも必要なことではないかと思っています。

ただ地勢(ちせい)や国民性、歴史は国によってさまざまですから、他国の真似をするだけでなく日本自身が新しいイノベーションのスタイルを築いていく必要があると考えます。

オープンイノベーションは光が当たっていない部分を照らすこと


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オープンイノベーションの取り組みは非常に難しかったり、大変だったり、地道だったりします。プロセスとしては無駄が多いと感じるかもしれません。

一方でオープンイノベーションに関わる人々からすると、既存の事業はどうしてもこれまでの経験や着実なアプローチを重視せざるを得ません。こういった顕在的なプロセスが安定的に成果を出せる方法ではあります。それに対してオープンイノベーションに関わる人々は、潜在的、つまり光が当たっていない場所にも、もしかしたら新しいトライをすることで予期せぬ結果が生まれるかもしれないと考えて、探求・発見することを楽しむ思考が求められるでしょう。

これらはオープンイノベーションに関わる人々の特権でもあり、培っていかなければならない部分だとも思います。好奇心やワクワクする気持ちを持ちながら、日本のオープンイノベーションをどのように発展させていくか、私も改めてみなさんと一緒に考えながら取り組んでいきたいというのが個人的な想いです。

講演者紹介

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鶴 英明 氏
ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 共創推進室 専任部長

【略歴】
東京大学大学院工学系研究科 精密機械工学専攻 博士(工学)。理化学研究所 基礎科学特別研究員を経て、1996 年 株式会社本田技術研究所入社。基礎技術研究センターで、Honda Jet 向けガスタービンエンジンや CF 複合材、PEMFC/SOFC 用触媒やナノカーボン、水素貯蔵材、非 Si 系太陽電池、二次電池電解質や電極材、非可食部由来バイオエタノールなどさまざまな新素材の物性、シミュレーション、実用化プロセス研究に幅広く従事。また、二度の米国駐在期間中、海外基礎研究所立ち上げ、コーポレートベンチャリング研究、研究マネジメントや戦略的研究企画業務を経験した。
2016 年ヤンマー株式会社入社。中期計画で掲げたオープンイノベーションに取り組み、新規事業創出、産学連携、スタートアップ投資等を担当。2022 年7月より現職。自治体と連携した脱炭素プロジェクトの推進を主軸としたオープンイノベーションによる社内外との共創に日々奮闘している。

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こちらの記事では、ヤンマーグループがいかに組織的にオープンイノベーションに取り組んでいるのかを、同グループの鶴 英明 様と事業部メンバーの方々にお話を伺いました。
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