- 配信日:2024.05.08
- 更新日:2024.11.22
オープンイノベーション Open with Linkers
生体センシング最新技術20選
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『生体センシング先端技術調査2024~最新技術20選~』のお話を書き起こしたものです。
弊社では、生体センシングの先端技術とトレンドを調査し、その結果をまとめた「生体センシング先端技術 2024 調査レポート」を作成しています。このレポートの中から、ヘルスケア領域を中心とした生体センシング技術の最新事例を 20 個抜粋して紹介しました。
セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。資料もあわせてぜひご覧ください。
◆目次
・生体センシングの注目度が高い理由
・ヘルスケア向け生体センシング1:基礎生体情報のセンシング技術の最先端
・ヘルスケア向け生体センシング2:新たな生体情報センシングとその応用
・モビリティ/製造/建築/小売向け生体センシング
・「生体センシング先端技術 2024 調査レポート」のご案内*より詳しく知りたい方にオススメ
生体センシングの注目度が高い理由
まずは生体センシングの注目度が高いのはなぜか、その理由を3つ説明します。
1つ目の理由として、現代人の「自分の健康状態はどうなのか知りたい」という欲求が挙げられます。病院などの医療機関で使われる疾患を分析するためのモニタリングは、患者の命に関わるため高度な技術が要求されます。この分野での技術的進歩、特に、センサの小型化、感度の向上、さらには AI を用いた生体からの特徴量 * の選択的抽出などの技術が組み合わさり、民生化が起きています。このような展開は、現代人の健康への欲求というニーズに応える形で進んでいると考えられます。
*特徴量=対象データの特徴を定量的に数値として表したもの。
2つ目の理由として、要素技術のコモディティ化があります。センサの小型化、 IoT デバイス、 AI で特徴量を抽出する、この3つの技術が重なり合うとさまざまなことが可能になります。そこから先のフェーズ、いわゆる何を解決したいのか、どういう情報を可視化して使用者に届けたいのかという課題探りが重要になると思います。
2010 年の初頭にフィットビット社が「活動量のデータを測定できる」というグリップ計を発表してから、次に Apple Watch ができて歩数やカロリーが測定できるようになりました。それ以降、生体センシング情報を取る機器そのものが私たちの身近にあるものになっていったと感じます。ここはやはり電子デバイス、すなわちモバイルの開発が進んできたこともあって、自分の生体情報を取得することがより身近になっているのでしょう。
生体センシング技術のコモディティ化が進んだ背景には、以下4つの要因があると考えています。
- 1. 技術の進歩と普及
- 2. 市場競争の激化
- 3. 需要の拡大と変化
- 4. 規制緩和
3つ目の理由は、生体センシング技術が広く応用されるようになったことにより、データを解析し、何か新しいことを始めなければならないと感じる人が増えている点が挙げられます。生体センシング技術には、センサ、 IoT 、AI などさまざまな技術が盛り込まれています。センサこれらの技術が統合されて使用される生体センシングデバイスは、新しい需要を生み出すハブとなるのではないかと、多くの人が考えているのです。例えば住宅分野での応用に関していえば、トイレを介して生体情報を取得するなどの需要があると思います。
ここからは生体センシング技術の事例を 20 個紹介していきます。
ヘルスケア向け生体センシング1:基礎生体情報のセンシング技術の最先端
血糖値、心拍、体温といった日常の健康管理で継続的に計測するもの、または血液からのバイオマーカー * を取得するものや、簡便ながん検診などの事例をまとめました。
*バイオマーカー=ある疾患の有無や治療効果などを示す目安となる生理学的指標のこと。
Add Care Limited の事例
香港の Add Care Limited は、皮膚に照射した近赤外光の吸収によって血糖値を測定するモニタリングウォッチ「 DynasynQ 」を開発しました。測定方法は非侵襲 * 的ではありますが、皮膚の色や角質層の厚さなどといった個人差が、血糖値測定に影響する可能性があります。そのため、これらの影響要因を分析するための採血は必要です。
*非侵襲=生体を傷つけないこと。
Healthcare Vision の事例
中国の Healthcare Vision は、ラマン分光法による非侵襲的な血糖値モニタリングシステムを開発しました。ラマン分光法とは、皮膚に照射した近赤外線の散乱の仕方を分析して、特定の分子の動きを調査できる技術です。Healthcare Vision は、血中のグルコースを特定して濃度を算出できます。昨今、グルコースを特異的に測定しやすくなったことと、分析技術の発達により測定デバイスの小型化が可能になったことで、ラマン分光法による開発が進んでいます。ただし、現在発表されているデバイスはまだ大型といえるサイズであり、小型化は将来的な目標といった状態です。
毎回体に注射針を刺して採血することは、血糖値を測定するうえで非常に負荷の高い作業です。そこで、針を刺す必要のなく短時間で測定できる非侵襲的な血糖値のモニタリングの実用化が長い間待たれていました。
Exo Imaging, Inc. の事例
アメリカの Exo Imaging, Inc. は、「 Exo Iris 」という非侵襲的な健康モニタリングデバイスを開発しました。ハンディタイプの超音波送受信機能を備えたエコーデバイスで、従来のものと比較して小型化・低価格化を実現しました。デバイスを経由して高解像度の映像が得られるため、遠隔地にいる患者の術後経過やモニタリングに利用可能です。
Withing France SA の事例
フランスの Withing France SA は、「 BeamO 」という体温測定・心電図・心肺機能監視・血中酸素飽和度測定が可能なデバイスを開発しました。心拍と血中酸素飽和度は光センサで測定し、電極に指を当てることで心電図を測ることができます。また電子聴診器によって心音と肺の音を取得可能です。体調が悪いとき、病院に行かずとも自分で健康チェックができます。
今後、遠隔医療に役立つ機器になると思われます。
California Institute of Technology の事例
アメリカの California Institute of Technology は、「 NewtriTrek 」という汗に含まれる栄養素や代謝産物を一度に測定可能なデバイスを開発しました。要素技術としてレーザー加工したグラフェンと人工抗体を組み合わせています。これら技術を用いて汗に含まれる複数の分子を一度に測定することが可能になりました。
スポーツ中の体の変化をチェックしたり、疾病の早期発見ができたりするデバイスとして活用されることでしょう。
Norbert Health, Inc. の事例
アメリカの Norbert Health, Inc. は、リモート光電容積脈波計( rPPG )技術を使い、非接触で心拍を測定する製品のプロトタイプを発表しました。ミリ波を使って心拍数を測り、赤外線カメラと可視光カメラを使って人の顔の特徴と表面温度を検出することで体温を測ることが可能です。複数の光源を使いながら人の生体情報をリアルタイムでモニタリングする製品です。
Preacidium, Inc. の事例
アメリカの Preacidium, Inc. は、ベッドの下に置くだけで睡眠中の人の体動・呼吸・心拍・心拍変動をモニタリングできるデバイス「 RemWave Sleep 」を開発しました。ラジオ波を送受信できるアンテナを搭載したデバイスで、測定の精度は医療用のパルスオキシメーターと同程度とされています。
睡眠中はウェアラブルデバイスを付けることを煩わしく感じる人も多いです。また、ウェアラブルデバイスの着用が困難な乳幼児も存在します。こうした状況で、非接触センシングデバイスがモニタリングツールとして役に立つでしょう。
次のページ:引き続き、生体センシング技術の事例を紹介します。