• 配信日:2023.03.30
  • 更新日:2024.04.19

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人間の五感を再現する注目技術20選

この記事は、リンカーズ株式会社(以下、弊社)が 2023 年3月1日に主催した Web セミナー、『五感(触覚・嗅覚・味覚・視覚・聴覚)を再現する技術:注目技術 20 選』を書き起こしたものです。

弊社では、手触りなどの触感を再現するハプティクス技術をはじめ、五感を再現する様々な技術を網羅的に調査し、その結果をまとめた「五感を再現する技術マルチクライアント調査レポート」というものを作っています。このレポートの中から注目の技術を一部抜粋して紹介します。

セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけますので、ぜひ本文と合わせてご覧ください。

調査の背景と目的


人間の五感を再現する注目技術20選

人間の視覚や聴覚だけでなく、触覚・嗅覚・味覚を再現するための技術は、次世代のコミュニケーション・エンターテインメントツールの進化において重要なパーツです。現在は他社製品との差別化要素としても五感の再現が重視されているように感じます。

メタバースなどにおいては、いかに五感の再現性を高め、利用者に没入感のある体験をさせるかが重要なファクターです。そこで、アカデミアからベンチャー企業、大手企業まで幅広く技術を調べました。

人間の五感を再現する注目技術20選

今回の調査対象は「触覚」「嗅覚」「味覚」「視覚」「聴覚」の5つを再現する技術です。それぞれを調査する中で見えてきた傾向と、興味深く感じた 20 件の事例を紹介していきます。

五感を再現する技術1:触覚を再現する技術


人間の五感を再現する注目技術20選

まずは触覚を再現する技術です。

一言で「触覚」と言っても刺激や手触り、力覚(硬いものの抵抗力・反発力)、温冷感など再現する感覚はさまざま。他にも異なる切り口として、例えば道案内の際、右折するときに右足に振動を伝えるというような、情報伝達 / ナビゲーションを目的とした触覚の再現などもあります。

そもそも触覚とは何か、振動や表面形状、冷温間などが人間の感覚にどのように影響しているのかといった研究も、アカデミアを中心に行われています。

刺激/手触りを再現する注目技術

人間の五感を再現する注目技術20選

最初に紹介するのは、振動を加えることで、ざらざら感やつるつる感を再現する技術です。

5〜 10 年前から注目されている技術ですが、従来の触覚ディスプレイは、画面全体を一様に振動させるだけで、異なる箇所を同時に触る複数の指に対してそれぞれの触覚を与えることができませんでした。

しかし、マトリクス状の電極を用いることで場所によって異なる質感を再現したり、磁場と電場を使って縦方向と横方向とで別々の質感を持たせたりすることができるようになってきています。

事例1:Tianma Japanの技術

人間の五感を再現する注目技術20選

Tianma Japan という日本の企業では、同じディスプレイの中でも触った場所によって異なる質感を同時に発生させるディスプレイを開発しました。

電極を透明基板状の縦方向と横方向に配列して、表示された画像の領域(画像の亀のいる部分といない部分)に対応する電極に、周波数の異なる電圧を与えることで、電極の交点に生じる周波数の差分に対応した静電気力の振動を利用して、異なる質感を再現しています。

事例2:筑波大学の技術

人間の五感を再現する注目技術20選

筑波大学では、縦方向と横方向とで別々の質感を再現する技術を開発しました。

電磁アレイが形成する磁場で磁性流体の粘度が変化すると、主に縦方向の振動が励起されます。一方、導電電極に高電圧高周波の電気信号を与えて指を動かすと、静電吸着が発生して画面に対して水平方向の力が発生します。この縦方向の振動と、水平方向の力が合わさることで、全ての方向に対しての触覚提示が可能になっているのです。

この技術を使うことで、例えば縦方向と横方向とで触ったときの感触が違う繊維を再現したり、生体組織の質感をリアルに再現したりすることができます。今後は教育現場や医療現場などでの活用が期待されている技術です。

空間に触感を発生させる技術

人間の五感を再現する注目技術20選

次に紹介するのは、何もない空間の1カ所に超音波を集中させ、その部分に指が触れると何かに触ったような感覚を再現する技術です。

この技術に立体映像などの技術を合わせることで、理論的には空間に投影した映像を仮想的に触れたり、操作したりすることが可能になるとされています。

ただし現状の課題として、超音波を用いた触感再現技術は出力の小ささや触感を発生させられる領域の狭さなどがあり、実際に技術を製品などに使用するにはまだ時間がかかると思われます。

一方、画面左の Carnegie Mellon University というアメリカの大学では、手で触って感覚を再現するのはハードルが高いため、「口に触感を再現する」という技術に絞って開発を行ったりしています。

事例3:Carnegie Mellon University の技術

人間の五感を再現する注目技術20選

こちらは、 VR ゴーグルの下に超音波アレイを付けて、口元に超音波を集めることで、口の周りに何かが触れたような感覚を再現する技術です。事例として、口の周りを蜘蛛が這っているような触感を再現していました。

「口」という限定された領域でのみ触感を再現するため幅広い領域に対応する必要がなく、唇は人間の体の中で指に次いで感度が高い部分であることも影響して、比較的弱い刺激でも没入感を高めることができます。超音波を使った触感の再現技術としては非常に有望といえるでしょう。

事例4:Ultraleap の技術

人間の五感を再現する注目技術20選

空間を手で触って感覚を得るという技術において、世界で早くから研究を始めていたのが、イギリスのベンチャー企業である Ultraleap です。

実際に製品として提供されており、アレイ状の超音波発生器で超音波を空間に集め、その部分を触ると手がモノに触れたような感覚を再現できます。

現在は、空間上のディスプレイなどと組み合わせてクリック感や、ダイヤルなど手を増してモノを使う感覚などを、フィードバックを出すことが実現できているようです。

事例5:シカゴ大学の技術

人間の五感を再現する注目技術20選

超音波とは違った技術ですが、興味深いものがあったので紹介します。

シカゴ大学では、化学物質を使って触感を再現する技術を研究しています。これまで、例えば皮膚が痺れた感覚や刺されたような感覚を振動などの物理的な技術によって再現するのは難しいとされてきました。

そこでシカゴ大学では、大胆な方法ではあるのですが、感覚を発生させる薬液を直接皮膚に注入するというアプローチで再現する方法を研究しています。この薬液は、皮膚に注入しても安心だと確認されているものです。