- 配信日:2024.02.26
- 更新日:2024.06.10
オープンイノベーション Open with Linkers
CES2024レポート(後編)~カテゴリー別の注目技術〜
リンカーズでは毎年 CES の会場に行き、テックベンチャーを中心に調査レポートを作成しています。
本記事は CES2024 の調査レポートの内容を抜粋して紹介した Web セミナー『 CES2024 報告会』を書き起こしたもので、前後編の2本構成の後編です。後編は、CES2024 出展の弊社注目の技術事例をカテゴリー別に解説しています。前編は、CES2024 の会場の雰囲気や展示の内容、出展組織の傾向などを紹介しており、こちらも掲載しておりますので、ぜひあわせてご覧ください。(前編はこちら)
また内容の理解促進にお役立ていただきたく、セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料配布しております。(前後編共通の資料です。)
CES2024 の様子をさらに知りたい方は、ぜひ資料もご覧ください。
◆目次
・注目カテゴリーの技術紹介
・デジタルヘルス / ウェルネスの注目技術事例
・モビリティ / ロボティクス / IoT の注目技術事例
・ソフトウェア / Web3 の注目技術事例
・Emerging Tech の注目技術事例
・『 CES2024 テックベンチャーの先端技術動向調査レポート』のご案内※より詳しく知りたい方におすすめ
注目カテゴリーの技術紹介
ここからは、いくつか分野を絞って注目技術を紹介していきます。弊社では、最近特に技術として成長してきている、画像の青で示した領域を調査しました。
具体的には、以下の領域です。
- ・デジタルヘルス / ウェルネス
- ・モビリティ / ロボティクス / IoT
- ・ソフトウェア / Web3
- ・Emerging Tech(イマージングテック)
それぞれの分野について注目技術を紹介していきます。
デジタルヘルス/ウェルネスの注目技術事例
ヘルスケア領域について注視しながら CES を周ってみて思ったことは、医療機器開発となると明確な課題があって、そこに取り組むことになります。しかし、ヘルスケア領域はニーズが曖昧(あいまい)だったり、技術とユーザーの課題ギャップがあったりしながら進んでいるということです。
非侵襲的連続血糖モニタリング
画像で示しているのは、非侵襲(ひしんしゅう)* 的連続血糖モニタリング技術の事例です。開発が進み、製品化に近い技術を挙げています。
左側のフランスの企業はマルチスペクトル中赤外間接光音響技術を用いた手首装着型経皮(けいひ)連続血糖モニタリングデバイスを開発しています。そろそろ製品化する予定とのことでした。
真ん中の韓国の企業は近赤外光を使って血糖値を測定する技術を開発しています。スマートフォンとセットになっていて、結果がスマートフォンに送信されます。
右側の企業も韓国の会社で、針の代わりにレーザーで皮膚に穴をあけて採血し、痛みを軽減させるレーザー採血用穿刺(せんし)装置を開発しています。こちらは実用化の段階まで進んでいます。
どの技術も共通して、数ある取得データの中から特定のデータのみをピックアップするために AI を活用していることを謳(うた)っていました。
日本でも非侵襲的連続血糖モニタリングの技術開発が、アカデミアで進んでいます。
*非侵襲=生体を傷つけないこと。
非侵襲的血圧モニタリング
次は、非侵襲的血圧モニタリングの技術事例です。
左側のアメリカの企業は、長年 CES に出展し続けている企業です。通常、血圧を測定するときはベルトを巻いて腕を圧縮する装置を使いますが、圧縮されるときの煩(わずら)わしさや、ベルトの劣化などにより正確に測れないことがあります。そこで、光学式センサーで血圧を測定する技術を開発しました。このようなセンサーを用いて血圧を測る仕組みは他の企業でも研究が進んでいます。
真ん中のカナダの企業は、バイタルサインを読み取るアプリケーションを開発している企業です。その技術を応用し、鏡に生理機能や心理状態を推定して投影する技術を開発しています。スマートフォンのカメラで顔を写すと、データを取得し、分析が可能です。日常生活の中で病気になり得るリスクの可視化をサポートすることを目的として開発が進んでいます。顔データは血流を測定することのみに使用し、他には用いないということで、プライバシーにも配慮しています。
右側の台湾の企業もカフレス血圧計を開発しており、橈骨(とうこつ)* の動脈に圧力をかけて血圧を測定します。
圧迫し過ぎず負担を減らし、日常生活でよく使うスマートフォンにデータを送る。そして AI を活用しながら医療機器レベルの測定を可能にすることを、どの企業も目標としています。
*橈骨=前腕部の親指側の骨。
AIと生体信号処理を組み合わせた睡眠モニタリング
次はスリープテックと呼ばれる分野の技術事例を紹介します。 2020 年の時点でスリープテックの出展は存在し、当時はここで紹介する技術の前段階のような状態でした。 2024 年はかなりプロダクトに近づいている印象を受けました。
左側のアメリカの企業は、睡眠中の脳波を測定して骨伝導(こつでんどう)で音を伝えて睡眠の質や集中力を向上させるデバイスを開発しています。スリープテックは睡眠だけでなく、音楽にもひも付いて眠りやすい音楽を骨伝導を通して送るなどの技術に取り組む企業も増えてきています。
真ん中のイギリスの企業も、脳波を検知して睡眠を誘発する音楽を流す技術を開発しています。現地の担当者は「パーソナライズ神経刺激オーディオセラピー」と呼んでいました。このようにスリープテックは単に脳波を計測してその結果から睡眠状態をどう改善するか提案するだけでなく、より深い眠りにつけるための音楽を流すなど、眠っている間にリアルタイムで睡眠を改善していく技術が増えている印象です。さらに AI を活用した生体信号処理アルゴリズムで睡眠時無呼吸症候群などを検出することも可能になっており、音楽を流す機能と合わせて開発している企業が多く見受けられました。
以上がデジタルヘルス / ウェルネス領域の注目技術事例の紹介です。
モビリティ/ロボティクス/IoTの注目技術事例
モビリティ / ロボティクス / IoT 分野の大手企業の動向についてお伝えします。
大手企業のモビリティ/ロボティクス/IoT
全体的に、特に自動車に関しては、最近流行している EV の充電に関する技術や、センサ、特に LiDAR(ライダー)* に関する技術、ドライバーの状態測定に関する技術が昨年から継続的に開発されている印象でした。言い換えると、今年は突飛なアイデアを打ち出した企業は少ないと感じました。そのため今回は、私(リンカーズ蒲原)の個人的な観点で注目したい技術を紹介いたします。
*LiDAR=レーザー光を照射して物体までの距離や方角を測定する技術。リモートセンシング技術の一つ。
まずは画像左側の重機について。昨年まで建機・重機を出展している企業は全く無いわけではなかったものの、 CES 全体の中ではごく少数が出展されているイメージでした。しかし今年は、キャタピラーという企業が有名ですが、他に Doosan などの建機会社が実機を出しているブースが2〜3集まっているのを見かけました。コロナ禍の影響が緩和され、世界的に元気を取り戻し始めたためか、マーケティングに予算を割く建機会社が増えてきたのではないかと考えています。一つ例を挙げると、ミニサイズの電動重機が何社か出展しまして、私が調査している範囲では、従来は建機・農機に関しては大型のものでいかにパワーを発揮するかがトレンドという印象でした。今年は一人乗りの小型重機の展示が多く見られました。そして、高速充電など自動車で培われた充電技術が重機にも応用され、実用化に向けて動いているように感じました。
次にロボティクスについての注目技術を紹介します。中央の画像、「 Oscar the Sorter 」というソリューションで、モノをつかんで分別するピッキングを行うマシンです。よくあるソリューションではあるのですが、他の製品との違いは AI による画像解析を使っていないという点。アームがモノをつかんだときに流れる電流値の違いを取得し、識別に AI を使って材質や重量を分別します。
私個人として、 AI による画像識別技術は成熟しているように感じているため、それ以外の AI とロボティクスを組み合わせたようなソリューション、 AI の新しい使い方を見つけた企業はないか探していました。その観点でいうと「 Oscar the Sorter 」は、私が探していたソリューションに合致するものだったと言えます。スタートアップだと LLM( Large Language Models:大規模言語モデル) が大人気のため、それを使ったチャットボット技術が多く、やや期待外れな印象を受けました。 AI に関して完成したスマートなソリューションに限って見ると、スタートアップより大手企業のほうが、開発にリソースを割けるのかもしれません。
右の画像は前編でも紹介した LG Electronics 社による、透明ディスプレイに映像を投影する技術です。今年はこのディスプレイを大型化した技術が出展されていました。この透明ディスプレイの特徴は、 IoT の観点でいうと、配線が不要な点です。空中にディスプレイを設置し、近くに音声や映像を無線伝送する装置を置いておけば使うことができるため、電源以外のケーブルの取り回しなどを気にする必要がありません。映像の解像度は 4K 、リフレッシュレートは最大 120 Hz に対応可能です。
また、従来の透明ディスプレイでは黒が表現しにくいという課題がありましたが、物理的な背景幕を上下させることで対応できます。
無線伝送の技術も成熟している認識でしたが、さらに進化をしているように感じ、今回紹介させてもらいました。
スタートアップのモビリティ/ロボティクス/IoT
次にスタートアップのモビリティ / ロボティクス / IoT 分野の注目技術を紹介します。
まずはモビリティからです。画像に「要素技術の民主化」と書いたように、大手企業と同じくスタートアップも突飛なアイデアが出てきたという印象はあまり受けませんでした。それでも、この場ではなるべく興味深い、尖った技術を紹介したいと考えていたので、画像にある3つの技術をピックアップしました。
左側のアメリカの企業は、可動部がないソリッドステート LiDAR を開発しています。液晶の偏光の特性を使ったメタサーフェスを用いており、電圧を加えることで液晶の偏光パターンを細かく変え、光の反射角度を変えることができます。この反射光が LiDAR として活用可能で、一番小さいサイズのものでは iPhone のカメラに取り付けることも可能です。これが完成すると、LiDAR も低価格化し、壊れにくくなり、一般消費者の手も届きやすくなるでしょう。
真ん中のアメリカの企業 Polymath Robotics は、私有地を走る重機を自動操縦化できるソリューションを開発しています。公道を走らせるには法令に準拠する必要があるため、製品化するとなると時間がかかります。しかし私有地を運転するということに限れば、技術自体が一般化してきており、ビジネスとしても成り立ってきています。
右側のポーランドの会社 SYDRON はバーティカル・テイクオフ・ランディング(垂直離着陸)が可能な eVTOL(イーブイトール、電動の垂直離着陸機) を開発しています。機体内部の中央にジョイスティック * があって操縦が可能で、8つの電動プロペラが回転して浮遊します。特徴は、水素と電池のハイブリッドバッテリーを使っている点です。これにより、同企業で使っていた従来のバッテリーの2倍ほどの距離を時速 90km で最大 60 分、2人乗りで飛行可能です。バッテリーや機体の安全性などの技術進展度がすでに高まっているため、このようなソリューションも製品化に近づいていると考えられるでしょう。
またスタートアップに限らず、今年は大手・中小企業も電動キックスクーターの展示数が非常に多いという傾向が見られました。そのため、今後電動キックスクーターが更に市民権を得ていく可能性が高いでしょう。このような新しいモビリティが生まれると付随(ふずい)して新技術も増えていくので、電動キックスクーターも注目したい分野です。
*ジョイスティック=スティック(レバー)を傾けることで方向入力が行える入力機器のこと。
ロボティクスと IoT は上の1枚の画像にまとめています。こちらも突飛なアイデアはなかったものの、その中でカスタマイゼーションの高度化は目立った動きだったと思います。
左側のオランダの企業や、真ん中の韓国の企業は扱っている技術は全く異なります。前者は自律移動ロボット、後者は電動義手です。この両企業に共通していることは、モジュール(部品)を着脱することで必要な機能、大きさなどを変えることができる点。これによりお客様のニーズにより細かに応えることが可能になり、カスタマイゼーションの高度化の事例と言えます。
特に真ん中の韓国の企業で開発している義手は低価格で製造でき、また従来は部分的に欠損してしまった手に細かく対応した製造が難しかったのですが、モジュール化により対応可能になりました。
もう一つ、要素技術として右側のフランスの企業SilMachが研究している技術を紹介します。静電力で動作する、多数のくし形電極を持つシリコンデバイスを使い、またメカニクスをうまく組み上げることによって、振動だけでなく進んだり回ったりするギアを作れる技術です。静電力とシリコンデバイスといった組み合わせの大きなメリットとして、エネルギー効率が良いことと、耐磁性が高いことがあります。このようなメリットから、「 IoT を少しだけ動かしたい。けれどエネルギーはくいたくないし、動作を重くしたくない」というニーズにリーチするような要素技術になり得るのではないかと感じました。