
- 配信日:2022.02.08
- 更新日:2022.04.13
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーションが生まれる組織 ~ 価値を創造する「変革のリーダーシップ」 ~
イノベーションとは
経済学者のシュンペーター( Joseph Alois Schumpeter )は、代表作『経済発展の理論(Theorie der Wirtschaftlichen Entwicklung )』の中で「新結合」という言葉を使い、イノベーションの概念を提唱しています。
シュンペーターによれば「イノベーション」とは、企業者が生産を拡大するため、生産方法や組織といった生産要素の組合せを組み替えたり、新たな生産要素を導入したりする行為を指します。
つまり、革新的な技術や製品を開発し、新たな市場を開拓することだけでなく、組織そのものを改革し、新たな価値を生み出すことも「イノベーション」と呼ぶことができるということです。
リンカーズは、元・ソニー株式会社 執行役副社長の鈴木 智行 氏をお招きし、「価値を創造する『変革のリーダーシップ』」という Web セミナーを開催いたしました。
鈴木氏は 1979 年にソニー株式会社に入社後、2018 年に退社するまでの間、執行役員、副社長などの重要なポジションを歴任し、現在のソニーの礎を築いたキーパーソンの一人です。
半導体、ディスプレイ、バッテリーなど、様々な事業分野において研究開発やイノベーション推進に取り組まれました。特に「 CMOS イメージセンサ事業」は、鈴木氏主導の下、大成功を収め、今や同社の柱の一つとなっています。
本セミナーでは、鈴木氏がソニーにおいて変革を成し遂げるベースとなった、リーダーシップ、組織、マネジメントに焦点を当てて講演いただきました。
新規事業を担う方はもちろん、成果を生み出す組織を構築したいと考える管理職やリーダーの方にとって、実践者の考え方や価値観に触れることができる内容と考えております。ぜひご覧ください。
関連記事:エグゼクティブ対談 ~ ソニーのイメージセンサ事業を成功に導いた鈴木智行氏 ~
◆目次
はじめに ~ リーダーとは何か ~
イノベーションを創造するリーダーに必要な2つの要素
失敗から見えるイノベーション成功のポイント
イノベーションを創造するリーダーたるもの「魅力的な人間」であれ
イノベーションが生まれる組織に必要な3つの要素
イノベーションが生まれる組織を実現した事例
イノベーションを創造するマネジメント
「いつまでに」「なにを」「どうやって」
「設計図」の活用で明確になる企業の未来
マネジメントに必要な「ロジカルシンキング」
まとめ ~ 未来は前途洋洋か ~
はじめに ~ リーダーとはなにか ~
最初にご紹介するのは、米国大統領ジョー・バイデン氏による、就任 100 日目のスピーチの一部です。
演説の中で、バイデン大統領は「コロナ・パンデミック」と「経済格差への対応」、そして、「世界のリーダーになること」などについて触れていました。このスピーチの中で私が注目したポイントは2点あります。
1点目は、「かつてアメリカは GDP の 2% を研究開発費に投資していましたが、現在は( GDP に対する研究開発費の割合が)1% になっている」という指摘です。
このままでは、アメリカは世界の中でリーダーシップを取ることができない。
これからアメリカは国として研究開発を推進し、世界のリーダーとして復活する、ということを述べています。
2点目は、「民主主義が危機的状況になっている」という指摘です。
民主主義に対する人々の信頼を取り戻す、という意思が伝わります。
そして、この演説からはバイデン氏の「強いリーダーシップを発揮する」という意気込みが感じられます。
私たちも、日本の産業界を復活させるために、企業人としてリーダーシップを発揮しなければならない時にあるのです。

リーダーシップについてお話しする前に、リーダーについて少しお話しましょう。
リーダーシップを発揮できる人(リーダー)をある側面から見てみると、「内省的実践家」であると私は考えています。つまり、自分自身が実践していることを、他者との対話やフィードバックなどを経て、次の「実践」につなげる「内省と実践を繰り返す人」だということです。
優れたリーダーを目指すのであれば、みなさんも内省的実践家を目指してほしいと思います。
また、リーダーの心得、それは「行動しろ」( by Tom Perters )ということです。
私が経営を学んだ時、最初に言われたのもこの言葉でした。

イノベーションを創造するリーダーに必要な2つの要素
では、本題の「リーダーシップとはなにか」について考えていきます。
私が考えるリーダーシップの定義は、「大きな画を描いて人を巻き込む」です。
これは「大きな画を描く」と「人を巻き込む」の2つに分けて考えることができます。
- ・大きな画を描く = ビジョンを描く
- ・人を巻き込む =(描いたビジョンを実行するために)周囲を巻き込み変革行動をおこす
この2つを実行してはじめて、リーダーシップを発揮したといえるでしょう。
「ビジョンを描く」
リーダーシップの定義の1つ、「ビジョンを描く」について詳しくお話します。
人類最高傑作のビジョンの1つと言われているのが、1962 年、アメリカの J・F・ケネディ大統領による “ We choose to go to the moon in this decade !(人類は月に行きます!)”と示されたビジョンです。

これが人類最高傑作のビジョンの1つと言われる理由が2つあります。
1つ目は、「時期が明確である」こと。
企業のトップがビジョンを発するときに、「いつまでにやる」と期限を切っていることは稀です。
しかし、ケネディ大統領は「 1960 年代中に人間を月に到達させる」と明言し、実際に 1969 年、アポロ 11 号による月面着陸によって達成しています。
2つ目は、「達成イメージが共有できる」こと。
このスライドのように、(月面着陸を)達成した時のイメージが具体的に想像できるか。そして、それを他者と共有できるか。
この2点を心に留めて、ビジョンを描くようにしてみてください。
イノベーションの成功の鍵は「現状把握」と「未来予測」
次に、リーダーはビジョン達成のための行動を起こします。
ビジョンを達成するための行動、すなわち「変革行動」「革新行動」を成功に導くにはどうすればよいでしょうか。
秘訣は以下の5つです。

- ・明確な目標設定やビジョン
- ・強力なリーダーシップ
- ・優秀な技術者
- ・技術者の熱意
- ・的確な市場や技術の予測
最後の「的確な市場や技術の予測」では、数年後の市場のトレンドを読み取ることが重要になります。
しかし、日本企業の経営者の中で予測が重要といった人はいません。
1990 年代初頭のバブル崩壊後、20 年以上にわたって経済の停滞が続いたことについて、
「失われた 20 年」と言われますが、この間日本企業の経営スタイルは、目先の利益最優先の近視眼的経営になっています。
今こそ3年後、5年後、10 年後の未来を予測し、ヒト・カネ・モノに投資をすることが重要なのです。
ビジョン達成のための変革行動
ビジョン達成のための変革行動について、まとめた図式は以下のとおりです。

まず、自分たちの企業が置かれている現状を認識します。ここでは「 3C 分析」「 SWOT 分析」を用います。
この 3C 分析とは、「顧客( Customer )」「競合( Competitor )」「自社( Company )」の3要素を組み合わせて分析することで、戦略を練るためのフレームワーク。
SWOT 分析とは、「強み( Strength )」「弱み( Weakness )」「機会( Opportunity )」「脅威( Thread )」の内外環境を俯瞰(ふかん)して見ることで、マーケティングに生かすフレームワークです。
現状認識した後は、企業として将来のビジョンと目標、例えば3年後、5年後、10 年後に目指したい姿を設定します。
現状とビジョンが設定できたら、それら現状と目指す未来のギャップを分析し、いま何をしなければならないかという課題抽出、戦略策定、変革行動を起こします。
この課題抽出の際には、みなさんもシックス・シグマの品質管理のためのフレームワーク手法をご自身で学び、
CTQ ( Critical To Quality /重要品質特性)を抽出し、経営戦略マップに展開してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、ソニーでは、1997 年、出井伸之氏が社長の時代に GE ( General Electric )社に学んで、全社的にシックス・シグマを導入しています。半導体部門は今でもシックス・シグマに基づいて業務を遂行しています。
失敗から見えるイノベーション成功のポイント
今度は視点を変えて、企業が変革に失敗する理由についても考えてみましょう。
以下のような理由が考えられるのではないでしょうか。
- 1. 現状のままでいいと思ってしまう。危機感がない。
- 2. 現状のままではダメだと思う人が繋がっていない。
- 3. せっかく繋がったけれど、不平・不満だけでビジョンがない。
- 4. ビジョンを創っても、それを皆に伝えていないので絵モチ。
- 5. ビジョンを伝えると障害物がどんどん出てくるのにへこたれる。
- 6. やっと一里塚に来たのに、そこまでの歩みを認めてあげない。
- 7. 一里塚を越えただけなのに、間違って最終勝利宣言をしてしまう。
- 8. せっかくの変革経験から学習せずに、ハドメしない。
1から4までの理由は会社に危機感がない、つまり、会社が変革の必要性を感じていない、変革が起きない企業の実態をあらわしています。まずは会社自体に危機感があるか、そして全社一丸となってその危機に立ち向かっているか、ということが大事です。
5から8までの理由は、実際に変革への業務を遂行するにあたり、従来とは全く異なる行動が必要で、障害が多くなり、途中で諦めてしまうこと。または小さな成功だけで満足してしまうような実態をあらわしています。
変革への行動は、それを企業文化にまで浸透させてはじめて、成功できるのです。
上記、失敗する理由を踏まえると、変革に成功する8つのポイントは下記になります。
これが有名な『変革の8段階プロセス』( ジョン・コッター)です。
- 1. 変革の必要性
- 2. 変革のネットワーク
- 3. 変革のビジョン作り
- 4. コミュニケーション
- 5. トラブル・シューティング
- 6. マイルストーン・マネジメント
- 7. しつこさ、とことんやり抜く
- 8. 人事、組織文化、学習する組織
イノベーションを創造するリーダーたるもの「魅力的な人間」であれ
次に、リーダーシップを発揮する上で、リーダーに必要なピープルスキルについてお話しします。
ピープルスキルは、ヒューマンスキルとほぼ同じ概念で、日本語でいうところの人間力です。
ちなみに GAFA の入社試験では、専門的な知識を有しているのは当然のことで、さらにこのピープルスキルがチェックされるそうです。
ピープルスキルについては、こんな言葉があります。
“ People skills are what being a great leader is all about.(人を扱う能力が、優れたリーダーであることのすべてである)”
つまり、優れたリーダーはピープルスキルを持っていて当然、ということです。
では、ピープルスキルとはなんでしょうか。
ピープルスキルを分解すると、以下の3つに分けられます。
- ・クリティカルシンキング
- ・コミュニケーション
- ・コラボレーション
これらのうち、コミュニケーション能力やコラボレーション(周囲との協力)の有無についてはわかりやすいですが、
クリティカルシンキングは、ほかの2つと比べると日本ではあまり馴染みがなく、考えられていない視点です。
クリティカルシンキングは日本語の直訳が「批判的思考」であるため、ネガティブな意味に捉えられることもあります。
しかし、むやみに批判する思考というわけではなく、自分の考えに対して健全な批判的視点を持ち、主観的ではなく客観的に捉えること、という意味であり、ピープルスキルの根幹を成す重要なものです。
クリティカルシンキングは、さらに3つのアイテムに分かれています。
- ・問題解決能力
- ・常識へのチャレンジ精神(固定観念にとらわれない/過去の常識にとらわれない)
- ・失敗を恐れない/失敗から学ぶ
このようなピープルスキルを身につけ、行動できる人がリーダーシップを発揮できるのだと思います。
私はリーダーは魅力的である必要があると思っています。
そして、魅力的なリーダーになるためには、センスをみがくことが必要です。
仕事ができるのは当然のこととして、それに加えてセンスも備えた上司は、部下にとっても魅力的に映ります。
芸術作品に触れたり、映画を見たりして、美しいものを美しいと感じる力を身につけることを大事にしてください。
イノベーションが生まれる組織に必要な 3 つの要素
つづいて、組織論についてお話します。
最強の組織は、以下の構成要素によって成立すると言われています。
- 1. 組織に称賛されるリーダーがいる。
- 2. 組織自身が「学習する組織」である。
- 3. 組織員が内発的に動機付けされている。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「称賛されるリーダー」
まず、構成要素の1つ目「称賛されるリーダー」について取り上げましょう。
人から称賛されるリーダーには、4つの特質があります。

・Competent (有能である)
・Forward-looking (先見の明がある)
・Honest (正直である)
どの特質をとっても、天賦の才能ではなく、学習・訓練の結果として身につくものです。
特に、先見の明があるリーダーには、めったにお目にかかることはありません。
また、これも当然ですが、嘘をついたり、間違えたりしたときに、素直に謝罪ができないリーダーと行動を共にする組織員はいません。
「学習する組織」
次に、最強組織の構成要素2つ目「学習する組織」についてです。
ピーター・センゲは、著書『最強組織の法則』の中で、「学習する組織」の5つのディシプリン(躾、規律)を述べています。
組織そのものが「学習する組織」になっていて、組織の学習や訓練によって、これらのディシプリンを進化させることが最強組織への道程だと説いています。

- ・自己マスタリーを追求している。
- ・共有ビジョンを持っている。
- ・メンタル・モデルを払拭している。
- ・チーム学習を実践している。
- ・システム思考
チーム学習について、最強組織となるには学習する組織であること、なかでも気づいて学ぶ力があることが特に重要です。
この気づきは、組織にとって重要であるのはもちろんのこと、個人にとっても継続した学習姿勢を取れるかどうかに関わる大切なポイントです。

なぜ気づく力が重要なのでしょうか。
人はだれしも、最初は「無意識・無能」の状態です。
今日、私の話を聞いて、自分にはできていないと気づくことによって「意識・無能」になり、
学ぶことで「意識・有能」に変わり、できるようになるからです。
さらにそれを意識して繰り返すことで、最後には「無意識・有能」、つまり習慣になります。
ここに至るには、努力や訓練が必要ですが、習慣になるまでやりきるのが非常に大事です。
私の経験上、優れたリーダーはポジションや年齢と関係なく、学習を止めません。
日々学習、日々成長を繰り返しています。
余談になりますが、ソニーの故・大賀 典雄 会長は文系出身(東京藝術大学音楽学部声楽科卒業)なので、
毎朝3時に起きて、技術の勉強をしてから出社する、というのを習慣にしていたそうです。
そのおかげで技術出身のエンジニアとも対等に話ができ、
製品に対しても技術的な見地から意見を述べることができた、と聞いています。
また、5つのディシプリンの中で、最近特に着目されているのは「システム思考」です。
エレクトロニクスのプロダクツやサービスの開発では、昨今、どの企業も生産している製品やサービスがとても複雑です。
そのプロセスの中で、モノづくり、コトづくりをしているので、システム思考は組織の根幹になくてはならない、とても大事な考え方です。
システム思考の大きな要素は2つあります。
1つ目は、「全体最適」。
1つの現象を点として捉えるのではなく、全体における構成要素として捉え、
全体最適を捉えるというのがシステム思考の根幹です。
2つ目は、「氷山モデル」。
見えていない変化のレバレッジを理解するために、氷山モデルを活用します。
認識しておかなければならないのは、目に見えない深層のレイヤーに真の原因が存在するということ。
そして、目に見えている事柄は、氷山の一角でしかないということです。

「内発的動機付け」
最強組織の構成要素3つ目は、組織員が「内発的に動機付けられている」ということです。
内発的に動機付けられるための要件は以下です。

- ・自律性:自分が自分自身の行為の源泉でありたいという欲求
- ・有能感:人は自分を取り巻く環境に対して効果的にかかわり、それに対して有能でありたいという欲求
- ・関係性:他者と繋がっていたいという欲求
- ・達成感:充実感や満足感に繋がる
この4つがあると、人は動機づけられると言われています。
わかりやすくやる気が上がる給料アップや昇進というモチベーションもありますが、これは外発的動機づけです。
この外発的動機付けよりも内発的動機付けのほうが、大きく動機づけられます。
イノベーションが生まれる組織を実現した事例
さて、私がソニーにいるとき、最強組織を創り上げるために心がけたのは、
縦割りの組織に横串を刺す、という活動です。
組織と組織の間にコミュニケーションや協力体制がなく、「サイロが立っている(タコツボ化している)」とまで言われていたソニーの組織運営に、横串のバーチャル組織を実現した例をお話します。
私はソニーで、事業カテゴリーを超えた組織間連携の仕組みを3つ作りました。
「技術戦略コミッティ」の設立
8つの技術カテゴリ【メカ、光学、ソフトウェア、LSI(半導体)、信号/情報処理システム、デバイス・材料、電気、生産技術】において、事業本部・グループ会社の枠を超えて技術者(メカニカルエンジニア)を集め、技術戦略コミッティを作りました。
そしてそこで、組織を超えた共通の取り組むべき技術課題を抽出し、問題を明確にし、各コミッティでそれを解決していきました。
面白いことに、技術者同士では、普段関わっている仕事が異なっていても話は進みます。
この取り組みでソニー全社として強みになる技術開発ができました。
「設計責任者連絡会」の設立
企業の競争力は、「(優秀な)人」と、その人が「どんな環境(ツール)」のもとで仕事をするか、という「人と環境」の2点で決まります。そこで、技術者の設計環境(ツール)を常に最新の状態にアップデートするという、DX 推進のための委員会を作りました。後のコロナ禍であっても、設計環境が常に最新にアップデートされていたおかげで、テレワークにもスムーズに移行することができました。
「優れたエンジニアを認める制度」の見直し
ソニーには「 Distinguished Engineer( DE )」と呼ばれるエンジニアがいます。
DE とは、「ソニーの技術の顔」として課題解決や技術戦略をリードする役割を持った、優れたエンジニアを指します。
当時、この DE 制度は形骸化しており、ソニー全社で 400 名ほど存在していました。
これを 40 名程度に厳選し、名誉と報酬の付与を行うことで、DE 活動自体を活性化させました。
「情報の共有化」
また、この「横串活動」を行う中で大事にしていたことが「技術の共有化」です。
ソニーの持つ技術は、エンジニアが技術レポートとしてしたためており、
そのレポートを一括管理する文書管理システム「 LIBROS-ER (リブロス)」を作りました。
このシステムに全社の技術レポート( ER / Engineering Report )が登録され、
全社員は組織の別なく、誰でも閲覧することができます。
イノベーションを創造するマネジメント
最後に、マネジメントについてお話します。
マネジメントをする立場の人にとって、もっとも重要な仕事は「中期計画」の策定です。
一般的に、中期計画を5年後の売上利益目標、と定義をする経営者もいるようですが、全く異なります。
中期計画は、企業経営の方針として最も活用されている経営計画であり、いわば戦略策定プロセスです。
最も重要なのに、実際は忘れられていることが多いプロセス、とも言えるでしょう。
経営学者のピーター・ドラッガーは、著書『マネジメント』の中で「マネジメントの6要素」を定義しています。
また、企業の戦略目的を「顧客の創造」、マネジメントの役割を「組織に成果をあげさせるためのもの」と定義しています。

では、企業の戦略目的である「顧客の創造」のために行う、2つの行動とは何でしょうか。
それは、マーケティングとイノベーションです。
マーケティングに優れている会社の代表として「Samsung(サムスン)」、
イノベーションに優れている会社の代表として「Apple(アップル)」が挙げられるでしょう。
実際、私がソニーの競争相手を定義するときはこの2社を挙げていました。
「いつまでに」「なにを」「どうやって」
マネジメントの役割はマネジメント・システムを確実に実行し、組織に成果をあげさせることです。
マネジメント・システムでは、まず「 Why (なぜやるのか)」【ビジョンの策定】を策定し、
その後「 What (なにをやるのか)【中期計画】を立てます。
繰り返しになりますが、ここで大切なのは事業戦略と技術戦略の策定です。
これを策定したら、具体的にマネジメント・システムを実行する「 How (どうやってやるのか)」の部分に落とし込み、1年間の事業計画をたてて、業務サイクルを回します。
事業計画の策定で最も大切な作業は、アクション・プランへの落とし込みです。
アクション・プランでは、「何月何日までに何をする」というアウトプットの内容と期日を明確にすることが肝要です。
アクションプランさえきちんと描けていれば、あとは年間の PDCA を回し、フィードバックをかければよいでしょう。
中期計画、事業計画策定に用いてほしいフレームワークは、バランススコアカードの4つの視点になります。
そのうち、特に大事なのは、企業間競争の源泉となる下位の2つの視点「業務プロセスの視点」と「学習と成長の視点」です。

中期計画や事業計画には、業務プロセス改革と人材育成の項目を必ず盛り込み、確実に実行しなくてはなりません。
さて、実際に事業計画を立てるうえで考えてほしいのが、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)という本で紹介されている「重要」と「緊急」の軸です。
下の図では、人々の業務を「緊急軸」と「重要軸」に分け、それを4つの領域で示しています。

右上から時計回りに
- 「重要かつ緊急(第一象限)」
- 「重要ではないが緊急)(第三象限)」
- 「重要でもなく緊急でもない(第四象限)」
- 「重要だが緊急ではない(第二象限)」
の活動が当てはまります。
では、過去1週間の自分の業務をこのマトリクス上に展開してみてください。
「第二象限(赤色部分)」の「重要だが緊急ではない」に、どんな業務がプロットされているでしょうか。
多くの人は「第一象限(重要かつ緊急)」の業務に最もたくさんの時間を割いていると思います。
しかし、将来にとって価値になる業務は「第二象限」に記載されています。
みなさんは、この「第二象限」にプロットされるような「人材育成」「業務改革」「組織改革」に時間を使うことができているでしょうか。この部分に時間を割かない限り、個人の成長はありません。
また、この部分に時間を割くことで、結果的に「第一象限」の事象も削減することができます。
「設計図」の活用で明確になる企業の未来
最後に紹介したいのが、中期計画の策定に先立って描いていただきたい「未来戦略設計図」です。
未来戦略設計図フォーマットは下のスライドになります。

未来戦略設計図は、
- 「ミッション・ビジョン・バリュー」、
- (ミッション・ビジョン・バリュー達成のための)「戦略課題」、
- (その戦略課題達成のための)「成功要因」
で構成されています。
各構成要素間の繋がりについては下のスライドの通りです。

ミッション・ビジョン・バリューを策定するうえでは、時期が明確であることや達成イメージが共有できることが重要であるとお伝えしましたが、なんといってもワクワクドキドキするビジョンでないと人の心に刺さらない、ということも覚えておいてほしい点です。
また、戦略策定には前述の 3C 分析が必要です。 3C 分析の中では、特に自社分析が難しいと言われていますので、 SWOT 分析を用いて、自社の状況を把握するのでも良いでしょう。
さらに、過去に成功している企業は、戦略が流れと動きを持ったストーリーとして組み立てられており、中期計画を策定する前に、この戦略ストーリーを描くことで、設計図の骨子が決まります。
スターバックスコーヒーの例を紹介します。

戦略ストーリーを描く上で大事なポイントは、クリティカル・コアとコンセプトです。
ストーリー全体の一貫性を高める上で、車の両輪のような役割を果たしています。
マネジメントに必要な「ロジカルシンキング」
さて、少し話がそれましたが、マネジメントを行う上で大事なことは、ロジカルシンキングができることになります。
そして、その基本手法は MECE(ミーシー)です。
MECE とは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive (抜けなく、漏れなく、ダブリなく)の頭文字です。

ものづくりの工程、歩留まり発生の要因、品質に対する考え方も、すべて MECE に考えられるかどうかがロジカルシンキングの基本です。
ロジカルシンキングの基本手法2つ目は、 So What ? Why So ? です。

- ・So What ? = 各要素から、課題の結論を示すこと(帰納法)
- ・Why So ? = So What ?で導かれた結論の妥当性を証明すること(演繹法)
この MECE と So What ? / Why So ? の2つの手法を用いてロジカルシンキングができるかどうかで、人とのコミュニケーションに圧倒的な差が出ます。
みなさんがコミュニケーション能力、説明能力を高めたければ、このロジカルシンキングを鍛えてみてください。
まとめ ~ 未来は前途洋々か ~
さて、これまで戦略策定について、いろいろお話してきましたが、大切なことは皆さんの未来が前途洋々か、ということです。ぜひ、前途洋々になるように未来戦略設計図を描いて欲しいと思います。
私はソニー時代に、事業部長としてイメージセンサーの未来戦略設計図を書きました。
完成までに半年かかる大仕事でしたが、部下と共有できるまで書き下すにはそのくらいの時間がかかるものです。
また、一度設計図を描いてしまえば、あとは楽です。
今日の話を踏まえて、一度しっかり、設計図作成に取り組んでみてください。
講演者紹介

鈴木 智行 氏
元・ソニー株式会社執行役副社長
現・株式会社アイデミー 社外取締役
職歴
1979年03月 静岡大学修士課程(電子工学研究所・応用物性)修了)
1979年04月 ソニー株式会社入社 CCDテストシステム構築
1982年04月 ソニー国分(株) CCD測定技術立上げ
1985年04月 CCDシステム部門 CCD設計課統括係長
1995年04月 ソニー国分(株) CCD開発センター副長
1996年12月 CCDシステム部門 組立技術課統括課長
1997年07月 CCDシステム部門 CCD商品部統括部長
2000年01月 CNC・SC・ ID部門 CCD事業部長
2001年12月 ソニーセミコンダクタ九州(株) 執行役員専務
2002年06月 SNC・ISC プレジデント
2004年06月 ソニー株式会社 業務執行役員
2011年07月 R&D PF CDD 本部長
2012年04月 ソニー株式会社 執行役 EVP
半導体事業本部長 本部長
2012年07月 DSBG 本部長
2013年07月 R&D PF 本部長(兼)
2014年01月 ソニーエナジーデバイス(株) 代表取締役社長(兼)
2015年04月 ソニー株式会社 執行役 副社長
2018年06月 ソニー株式会社 退社
現在、複数社の社外取締役、顧問を勤める。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆ 「Linkers Sourcing」サービス紹介ページ
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆「 Linkers Marketing 」サービス紹介ページ
貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供します。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントを可視化することにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げます。
◆「 Linkers Research 」サービス紹介ページ
リンカーズのグローバルな専門家ネットワークや独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術動向を調査します。調査領域は素材、素子、製品、ITシステム、AIアルゴリズムまで幅広く、日本を代表する大手メーカーを中心に90社以上から年間130件以上の調査支援実績があります。
オープンイノベーション推進についてお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
「まだ方向性が決まっていない」
「今は情報収集段階で、将来的には検討したい」
など、具体的な相談でなくても構いません。
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