• 配信日:2021.01.20
  • 更新日:2021.09.15

オープンイノベーション Open with Linkers

エグゼクティブ対談 ~ ソニーのイメージセンサ事業を成功に導いた鈴木智行氏 ~

はじめに


今回は元・ソニー株式会社 執行役副社長、現・株式会社アイデミー 社外取締役の鈴木智行氏と、弊社代表の前田の対談内容をご紹介します。

鈴木氏は1979年にソニー株式会社に入社後、2018年に退社するまでの間、執行役員、副社長などの重要なポジションを歴任し、現在のソニーの礎を築いたキーパーソンの一人です。

半導体、ディスプレイ、バッテリーなど様々な事業分野において研究開発、イノベーション推進に取り組まれましたが、特に注目すべきは鈴木氏主導の下、大成功を収め、今や同社の柱の一つとなったCMOSイメージセンサ事業です。

イメージセンサは、日本語では撮像素子と呼ばれる半導体素子で、レンズと共にカメラの基幹部品です。このイメージセンサには大きく分けてCCDとCMOSがあります。

デジカメの黎明期、そしてその後の全盛期にはCCDが主流だったことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。

2000年代初頭のソニーは、他社のデジカメへの供給のみならず携帯電話向けなどを含め、市場トップシェアを誇っていました。ところが、圧倒的なトップにいながらにして、鈴木氏はCCDからCMOSへの転換に大きく舵を切ります。

その理由は、鈴木氏が考える未来のイメージセンサ、未来のカメラには技術的にCMOSが必須だという明確なビジョンがあったからです。企業が中長期の成長を見据えた戦略を立てる際、鈴木氏は将来に向けたストーリーを描くことが重要だと述べています。

また、イメージセンサのみならず、業績悪化からのソニー再生に向けた組織改革、イノベーション推進、内外問わず連携におけるキーポイントなどについても自らの経験を交えて明かして頂きました。

それらの話は普遍的なものであり、おそらく多くの企業に適用できます。イノベーション推進に向けて様々な課題に直面している企業にとって参考になるものと思います。


元ソニー執行役副社長 鈴木氏とリンカーズ代表 前田

CCDからCMOSイメージセンサへの転換と事業戦略


40年以上に及ぶ歴史を持つソニーのイメージセンサですが、最初に世の中に出されたのはCCDです。前述したように、CCDでは市場シェアトップに立つも、鈴木氏は2004年にCMOSへの転換を会社に訴えます。

絶好調のCCDからなぜCMOSへの転換を行う必要があったのでしょう。

「CCDはキャパシタ、CMOSはトランジスタで構成するイメージセンサです。2000年代初頭の時点では、画質に関してはCCDの方が圧倒的に優れていました。しかし、スピードはCMOSの方が桁違いに速い。

イメージセンサの進化を考える前に、まずは将来のカメラがどうなるのかを思い描いた時、静止画の画素数は1億画素になり、また動画撮影の性能も向上することが予想されました。

動画の解像度は4K、8Kになり、フレームレートも当時は秒間30コマでしたが、120コマ、更には、240コマになる。ところがCCDは速度が遅く、そのような進化には対応できません。

将来のカメラに必要な機能・性能を考えると、CMOSイメージセンサへの転換は必然だという結論に至りました」

鈴木氏は、イメージセンサ単体での機能・性能のロードマップではなく、その先の未来のカメラの進化を想像することからイメージセンサ事業の戦略を作り上げています。

企業の戦略、そしてマーケティングについて、特に部品事業の場合にはプロダクト単体ではなく2段先の視点(カメラメーカー、及び、カメラ市場の視点)から5年、10年先の将来像を描き、それに至るストーリーを作ることが基本だとしています。

「5年後、10年後にどう進化・成長するのかというストーリーを作ることが先決です。半導体に限らず、部品事業のマーケティングは2段階上の視点で見る必要があると思います。

部品メーカーがセットメーカーの情報だけで将来を決めようとすると間違いかねません。BtoB、BtoCを問わず、2段階先の顧客の視点からも考えなければ戦略を誤る恐れがあります」


元・ソニー株式会社 執行役副社長、現・株式会社アイデミー 社外取締役の鈴木智行氏

しかし、いかにイメージセンサの未来がCMOSにあろうと、当時のソニーはCCDが好調の最中です。CMOSへの転換を訴える鈴木氏に対して社内からの逆風があったことは想像に難くありません。

「社長から怒られましたよ(笑) 社長というか本社からといった方が正しいでしょうか。当時の私は半導体事業本部 イメージセンサ事業部の事業部長を務めていて、CCDで大成功を収めていました。

しかも、CMOSイメージセンサの開発においてソニーは最後発でしたから、先行他社と同じ構造体でセンサを作れば、何もかもが他社特許に引っかかる訳です。

それでも私は将来のカメラを想像するとCMOSしかないと考えていましたから、カメラ事業の担当役員とも折衝し、イメージセンサの未来に関する意見の合意を得て、最終的には会社を説得することができました」

いかにソニーといえどリソースは有限で、あらゆる事業への分散はできません。事業戦略においては「選択と集中」がやはり重要だと考えられています。

「色々な手を打っておくことは安心材料になりますが、それではリソースが分散し、その事業だけに掛けている企業には負けてしまいます。やはり『選択と集中』が重要ではないでしょうか」


鈴木智行氏とリンカーズ前田

横の連携と技術の強化


イメージセンサをCCDからCMOSに大転換することに限らず、イノベーション推進には課題がつきものです。戦略策定、組織マネジメントなど、上手く回し切れていない企業は多いのではないでしょうか? 

弊社の顧客、ウェビナー参加者などからも同様の悩みが届きますし、オープンイノベーションの成功事例を知りたいという声も多く挙がっています。

今でこそソニーは復活を遂げていますが、経営が傾いた時期があることは皆様ご存知だと思います。そして、ソニーも再生に向けた難題は多かったようです。

「イメージセンサをCMOSに転換することだけでなく、ソニー全体の再生に向けてテレビ、カメラ、ゲーム、半導体など、各カテゴリ間で技術を補完すべく、どのように連携を図っていくのか、という点もテーマの一つでした」

具体的には技術の分野を軸に横の連携を取るため、技術テーマ別のコミッティーを設置したそうです。

「それまでは製品カテゴリ間でのエンジニアの交流はほとんどありませんでした。

しかし、カテゴリの垣根を越えてメカならメカ、電気なら電気のエンジニア同士で話をすると、他所のカテゴリの技術が自分のカテゴリでは有効なことに気付いたりするわけです。

そこで技術戦略コミッティーを設け、定期的に各技術のエンジニアが集まり、それぞれのカテゴリにおける課題を持ち寄って補完するという、バーチャルな組織の取り組みを始めました。これは効きましたね」


鈴木智行氏

各カテゴリのエンジニアが横の繋がりを持つことで技術力が向上し、様々な課題の克服に繋がったといいます。その代表例の一つが、メカ戦略コミッティーの取り組んだ接合技術です。

「今やネジや釘だけで接合する時代ではなく、非常に高精細な部品を接着剤で貼り合わせていくことが増えました。しかし、接着剤の研究もソニーでは、あまりやっていませんでした。ところが、メカ技術戦略コミッティーでテーマの一つとして取り組んだ結果、接合・接着技術が飛躍的に進化しました。

接着剤自体をソニーが作るわけではありませんが、パートナー企業から様々なものを入手して試し、接着技術の知見を蓄積しました。同様に、各技術戦略コミッティーで様々なテーマの開発が進んでいくこととなりました」

未来に向けた技術的課題への挑戦


横の連携を生かすために設置されたバーチャルな組織、技術コミッティーですが、持ち寄られた課題への取り組みは、エンジニアにとっては所属部署における主たる業務とは別に行われるものです。

大抵の企業では日常業務で手一杯の従業員が多い中、ソニーではどのようにしてエンジニア達のモチベーションを維持、向上させたのでしょうか。

何らかのインセンティブがないと動かないのではないか? という疑問もぶつけてみました。


リンカーズ前田

「基本的にエンジニアは未来に向けた技術課題の克服に燃えます」

鈴木氏はエンジニアを突き動かす最も大きな原動力は困難な課題への「挑戦」そのもの、そしてそれを成し遂げた時に得られる「達成感」だとしています。また、動機付けのタイプには大きく分けて2種類あります。

「動機付けには外発的なものと内発的なもの、2種類があると思います。インセンティブは外発的動機付けにあたります。ボーナスなどの報酬がそうですね。一方、内発的動機付けは、達成感、成長感、仲間からの称賛などです。

将来必要となる技術の開発に成功することで得られる達成感は技術者にとっては非常に大きなもので、やはりその『挑戦』には燃えるわけです。

逆に言えば、そのような燃えることのできるテーマがなければなりません。これは先ほどお話した5年後、10年後に向けたストーリーを描けるかどうか、組織のトップがそのイメージを従業員に見せられるか、という点にもかかってくることです」

コミュニケーションスキル


内外問わず、他の技術者、他の部署、他社と連携する際にはコミュニケーションが非常に重要になってくることは明白です。鈴木氏はコミュニケーションの重要性については次のように語っています。

「協業では互いの良いところを出し合う必要があり、それにはコミュニケーションスキルは重要になってきます。コミュニケーションとは、一方的な情報伝達ではなく、相互に行うもので、いわゆるギブ・アンド・テイクが基本です。

情報を受け取るだけでなく、自らも情報を提供する。当然、相手が言っていることを正しく理解する必要もあります」

コミュニケーションスキルを高める方法についても鈴木氏の意見を伺ってみました。


リンカーズ前田

「それは人によると思います。本来はコミュニケーションスキルを高めるための訓練も全社的に行うべきことだと思いますが、そのようなことができている会社は中々ないと思います。やはり、個人個人の日々の努力にかかってくるのではないでしょうか。

その意味ではソニーも他の会社と同じです。コミュニケーションスキルを身に着ける努力をしている人は当然高まっていくことでしょう。とはいえ、先ほども言ったように、本当は組織としても育てていかなければならないものだと思います。

そもそも仕事は一人でしているわけではなく、チームで行うものです。スマホを例にすると、一つの機種を開発・設計して完成させるまでには千を超える人数のエンジニアが関与します。コミュニケーション、そしてそのスキルがいかに重要かは、そのことからも分かると思います」


鈴木智行氏

現在のスマホには非常に多くの要素が詰め込まれていて、何か一つが欠けている、劣っているだけでも競争力を持ちえません。

「全てがエクセレントでない限り、トータルでエクセレントなスマホにはならない」と鈴木氏は仰っていて、それは複雑な要素を持つプロダクト全てに共通することだと思います。

上下間、部署間での対等性


コミュニケーションにおける意思決定のスピードは、双方ともに速ければ速いほど良いはずです。限られた時間内でのトライ・アンド・エラーの回数も増やせることでしょうし、良い物がより速く完成することと思います。

しかし、互いが意思決定者であればベストですが、そうではない場合、現場の人間は意思決定の伺いを上司に立てる必要があり、それは社内・社外を問わずオープンイノベーションにおけるスピードを妨げる要因の一つだと感じています。

この点に関して鈴木氏は、意思決定者と現場との風通しが鍵だと指摘しています。

「意思決定者と現場が近ければ近いほどスピード感は出ます。ですから、意思決定者は開発の現場、生産の現場に必ず足を運び、コミュニケーションを密に取る必要があります。

振り返れば、ソニーの業績が落ちていた時代には意思決定者と現場のコミュニケーションが不足していたように思います。それも正しい意思決定を行えなかった要因の一つだと思います」

イメージセンサ、半導体事業を鈴木氏が主導していた時代には開発と製造が一体となってプロダクトに取り組めるよう、開発部隊と製造部隊間での連絡会を月に1回開催していたそうです。

「当時、製造は別会社で、その工場は九州にありました。私は製造も同じチームだと考えていて、開発の部長には毎月必ず製造現場に足を運んで連絡会に参加してもらい、開発と製造の間で密にコミュニケーションを取るようにしていました。これはとても大きな鍵だったと思います」


鈴木智行氏

また、鈴木氏は部署間での上下の区別なく、対等な立場での連携の重要性も指摘しています。

「開発が持ってきたものを製造が有無を言わずにやる、そういったことは止めようと。当時、私は製造側からみて十分な品質を確保できそうもないとか、歩留を取れそうもないと判断した場合には、「製造側は受け入れを断れ!」と言っていました。

開発が上、製造が下という関係ではなく、対等な立場でやり取りしなければ最終的に上手くいきません。開発と製造が連携して技術を上げていかないと品質も保証できるようにはなりません。繰り返しになりますが、やはり組織間コミュニケーションが大事だと思います」

そして、同種の問題はハードウェアとソフトウェアの間にも存在していたそうです。

「ソニーに限らず日本企業は特にそうではないかと思いますが、ハードウェア先行で、そこに後からソフトウェアを載せていきます。最後にソフトウェアにしわ寄せが来るんです。

短期間で商品化の時期に間に合わせろ、と。これは苦しいですよね。しかし今はもうハード先行の時代ではないと思います。全体のシステムを考えてハードとソフトが連携し、論理的に適切なプロダクトを作るべきだと思います」

ソニーにおけるオープンイノベーションについて


ここまでは主に内部連携に関するお話でしたが、外部連携についての考えも伺っています。以前のソニーは自前主義が強かったそうですが、現代では全てを自前でやることは根本的に不可能になってきているといいます。

「やはり自社で全てを抱えるということが現実として難しくなってきていると思います。昔は電機メーカーが自前で半導体の主要部品を全て抱えていましたが、もはや無理がありますね。しかも、ソニーはといえば、ずっと自前主義でやっていましたので、外との協業は上手ではなかったと思います」

確かにソニーは独自規格、独自技術で全てを自社で賄うという印象がありますが、そもそも外部連携をするとしても中小企業やベンチャーを探すのではなく、大手が中心だったそうです。

「大手企業との連携が多かったと思いますし、実際には特に半導体に関しては大手しか不可能だったと思います。というのも、半導体の設備は非常に高価ですし、材料調達面でも供給頂くボリュームが大きいですから。製造設備にしろ材料にしろ大手しか対応できなかったように思います」

その一方で、創業初期からの付き合いの中で、共に成長し、今や大手となったパートナーも多いそうです。


リンカーズ前田

リンカーズのビジネスマッチングについて


インタビューの最後に、弊社のサービスについて鈴木氏にご意見を求めました。

「リンカーズのビジネスマッチングは、とても意義のある事業だと思います。昨今のプロダクトはとかく複雑化しています。繰り返しになりますが、一社で全てを抱えることは本当に不可能になってきているわけです。



そのため、企業だけでなく産学連携も含めて、複数のパートナーが上手く協業していくことが重要だと思います。そして、そのための企業マッチングですから」と、弊社のサービスが世のオープンイノベーション、外部パートナー探索に関して意義あるサービスだと仰って下さっています。


鈴木智行氏とリンカーズ前田

先ほど例に挙げたスマホにおいてもCPU、メモリ、ディスプレイ、カメラ、ソフトウェア/アプリと、様々なコンポーネントで構成されていて、その全てが優れていないと買って頂けません。協業する全てのパートナーが優れている必要があります。

そして優れた技術を持ち、要求に見合った適切なパートナーを見つけ出すことは、課題の一つでもあります。

「協業するからには卓越した技術力を持つ、適切なパートナーとお付き合いをしたい訳です。勿論コストも重要ですが、最大の鍵は技術力です。

そのため、パートナー探索においては、その目利きが鍵となるのではないでしょうか。優れた技術力があるのかどうか、それを見抜かないといけない。

これは、リンカーズにとって、とても大変かつ重要なことではないかと思います。難しい仕事だと思います。相手の要求を技術的にも正確に理解しなければいけませんからね」

ご指摘の点は弊社も認識している点です。弊社のスタッフの技術力・目利き力は当然として、全国の産業コーディネーター、中小企業ネットワークなどあらゆる手段を投じて適切なパートナーをマッチングできるよう日々努力、強化しています。

そのためにも一社一社と密にコミュニケーションを取り、お客様にご満足頂けるマッチングをご提案できるよう今後もサービスの改善に努めていく所存です。

貴重なお話を頂戴でき、鈴木氏にはこの場を借りてお礼申し上げます。また、ここまでお読み下さった読者の方にもお礼申し上げます。


リンカーズオフィス受付での鈴木智行氏とリンカーズ前田