• 配信日:2022.12.13
  • 更新日:2024.03.12

オープンイノベーション Open with Linkers

知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「スタートアップとのオープンイノベーションにおける留意点」のお話を編集したものです。
ウェビナーでは、中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士の山本 飛翔さまに、知財戦略に取り組むメリットや、大手企業とスタートアップが協業する際に契約内容で注意するべきことをお話しいただきました。
事業戦略やオープンイノベーションに携わっている方は、ぜひご覧ください。

知財戦略と事業の関係


知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点

より良い知財戦略を行うためには、知財・ビジネス(事業戦略)・技術(研究開発)の3つが密接に連携している必要があるといわれています。
特にスタートアップの多くは未開拓の市場を創っていくことになるため、小さくニッチな市場を開拓していくだけでは、大きな規模の企業に成長するのは難しいでしょう。スタートアップの宿命として、自社とともに市場そのものも成長させていくことが求められます。
その際に役立つのが「オープンクローズ戦略」です。

知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点

「特許」という言葉を聞いたとき「独占」というイメージを持つ方が多いと思われますが、知財戦略において「特許」とは知財を独占するために使うだけではありません。自社におけるコアな領域を特定したうえで秘匿化し、又は知的財産権を取得し、自社で望まれない使い方をされた場合に差し止めをするといったクローズ領域のみならず、市場を育てるべくプレイヤーを招き入れるため、一定の範囲で技術等を開放するオープン領域を設ける際にも、特許等の知財が有効に活用されることとなります。

知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点
知財戦略のメリット、大手企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける留意点

このように、コア領域以外の部分については市場を大きくするために、さまざまなプレイヤーを招き入れる必要があります。そこで、積極的に自社の技術の使用を許していくという戦略を取ることが考えられます。
この際に重要なのは、ルール無用で市場に参入されると後の競争が激化してしまうという点です。特にスタートアップはリソースが大手企業に比して不足しているので、他社と対等な条件で競争すると企業体力の面で不利になります。自社の影響力をある程度守ったうえで市場を大きくするためには、例えば開示する技術について、特許ライセンスを伴う形にすることで他社に一定のルールを課して、自社が競争できる土台を作ったうえで市場に参入してもらうことなどが効果的です。このような面を考えると、スタートアップとオープンクローズ戦略は相性が良いのではないかと思われます。

スタートアップが知財戦略に取り組むメリット


知財戦略に取り組むことは、大手企業にだけでなくスタートアップにもメリットがあります。どのようなメリットがあるのか説明します。

資金調達の際に優位性をアピールできる

資金調達はスタートアップにとって非常に重要なイベントです。資金調達をするためには投資家へプレゼン(ピッチ)を行います。そのプレゼンの中では、現存するまたは潜在的な競合と比較して自社がいかに優れているかをアピールしつつ、今後現れる競合に対してどのような参入障壁を作っているのか説明することまで求められるケースもあるでしょう。
このようなプレゼンをする際、特許を取れている技術があると、その技術は特許庁から「世界に同じものはない新しい技術」といわばお墨付きをもらったことになります。
また特許を取得した場合には、権利侵害がなされれば差し止めの請求が可能なため、意図しない使われ方をした場合にブロックする参入障壁の裏付けとして活用することもできます。
さらにスタートアップはニッチな市場を育てつつ自社の成長が求められるため、オープンクローズ戦略を実施することをプレゼンの中で投資家にアピールすることで、自社の成長戦略を根拠を持って示すことにもつながるでしょう。

模倣品の排除を効率的に行える

知財は模倣品対応においてコストパフォーマンス良く活用することができます。
企業としては模倣品を排除する際、訴訟をせずお金も時間もかけたくないという意見が多いと思われます。例えば to C の商品を取り扱う Amazon などのプラットフォーム上に自社の知財を侵害する商品が販売されていた場合、運営に報告することで取り下げ対応などを行ってくれます。
また海外から模倣品が輸入されている場合は税関差し止めという制度があり、税関に申告・手続きをすることで輸入をストップしてもらうことも可能です。
知財があれば、訴訟を起こさずとも模倣品を排除することができます。

訴訟のリスクを減らせる

Facebook (現: Meta )が上場する直前に Yahoo! から特許侵害訴訟を起こされたことがあります。スタートアップが上場する際は、自社の商品・サービスは少数であることが一般的です。このような状況で主要なサービスが特許侵害によって差し止められるリスクがあると、簡単には上場審査が通りません。
困った Facebook は IBM などから数百件の特許を購入し、カウンター訴訟を起こしてもつれ込みながらも Yahoo! と和解することに成功しました。
この事例の Facebook の対応策からもわかるように、通常、原告側は訴訟を起こす前に必ず被告側がどのような知財を持っているかチェックします。なぜなら被告側が反訴し、自社で起こした訴訟にも負け、被告側が起こした訴訟にも負けてしまうと原告側にとっては大損害につながるからです。
その意味では、訴訟提起時に相手方が特許権を1件も持っていないということになれば、少なくともその時点でのカウンターリスクはかなり低いということで、訴えられやすくなってしまいます。そのため、成長フェーズが進むにつれて、自社を守るためにも、ある程度の特許権を保有し、訴訟されるリスクを下げることも重要となります。