
- 配信日:2022.09.01
- 更新日:2022.09.27
オープンイノベーション Open with Linkers
スケールフリーネットワークで起こす DX 2.0 と QX
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した 2021 年 12 月 22 日の Web セミナー「~ 東芝から学ぶ ~ オープンイノベーション徹底解剖」のお話を編集したものです。
ウェビナーでは、株式会社東芝の代表執行役社長 CEO(講演時は執行役上席常務 最高デジタル責任者)の島田 太郎 様に「スケールフリーネットワークで起こす DX 2.0 と QX( Quantum Tranformation )」についてお話しいただきました。
DX 推進や、量子産業について興味がある方は、ぜひご一読ください。
◆目次
・オープンイノベーション成功のための工夫
・「みんなの DX ・ CPS 」活動
・QX ( Quantum Tranformation )とは
・QX の時代
・量子暗号通信システムの事業化
・量子技術が実現する未来の社会
スケールフリーネットワークとは
「スケールフリーネットワーク」について説明していきます。
Web サイトのリンクを保有している人を多い順に並べると「スケールフリーネットワーク」という、不公平な形になってしまいます。
保有しているリンクの数が平等な世界では、真ん中ぐらいの保有数が一番多くなる正規分布になります。
対して「スケールフリーネットワーク」は、たくさんのリンクを持つわずかな人たちと、ほとんどリンクを持たない大多数の人たちで構成されます。
Web のリンクは人間が貼っているため、人間の行動がそのまま反映されているといえるでしょう。
「スケールフリーネットワーク」が完成すると、様々なことが起こります。
例えば「パンデミック現象」です。
これは SNS が普及したときに私たちが体験した現象そのものです。
『 Facebook 』のユーザーがそのデータをシェアしたり「いいね」をしたりすることで、スケールフリーなネットワークが自動的に生成されていくのです。
「東芝方式」でスケールフリーネットワークを作る
私が考えた「東芝方式」を紹介します。
「東芝方式」とは、アセットオープン化方式です。
私たちが提供している比較的ありふれた技術のアセットをオープンにして、コストを抑えて素早くネットワークを生成しようという狙いがあります。
昔、「パソコンといえば 〇〇」といわれるほど代表的な製品だった PC がありました。
その後、 別会社が AT互換機というものを公開しましたことで新規参入企業が急増しました。
結果として 当時の代表的な PC は市場から姿を消してしまいました。
すなわち「身近なアセットをオープン化することによってスケールフリーネットワークの土台を作れば良いのではないか」というのが「東芝方式」の考え方です。
オープンイノベーション成功のための工夫
また東芝では、オープンイノベーションとして社外の組織と連携する際に、さまざまな工夫を凝らしています。
オープンイノベーションの流れを従来と逆にしました。
東芝側が、おそらく世の中にないと思われる技術をオープンにして、ベンチャー企業を募る形にしたのです。これがとても上手くいきました。
「みんなの DX ・ CPS 」活動
東芝では DX ・ CPS (サイバーフィジカルシステム)に取り組むにあたって特別なチームを作りません。会社全体が DX に向かって進む「みんなの DX 」を重視し、ピッチ大会を行っています。
ピッチ大会で出たアイデアは社内ファンドなどで加速させ、現在は 100 を超えるアイデアが実現に向かって動いています。
成功事例『スマートレシート』
ピッチ大会で出たアイデアが本格的な展開に至り、成功した取り組みの1つに『スマートレシート』があります。
『スマートレシート』とは、スマホアプリをダウンロードして『スマートレシート』が使える店舗での会計時にバーコードを提示すると、紙のレシートが出ずに決済データがアプリへ届くというものです。
『スマートレシート』は地域創生にもぴったりです。
現在『会津財布』という会津若松市のスマートシティの取り組みで、データの紐付けを担っております。会津財布を使うとレシートが出てきて、アプリにコインが貯まるという仕組みです。
『スマートレシート』を使った地域創生のなにが良いかというと、巨大な EC でしかできなかった、ユーザーへの商品リコメンドや、デジタルを使った分析などを商店街でもできるようになるという点です。
データの主権に関する問題
ここで問題となるのが「集めたデータは誰のものなのか」ということです。
私たち東芝は、購入物や購買行動といった情報は、全てその本人のものだと考えています。
これは GDPR ( General Data Protection Regulation :一般データ保護規則 ) の考え方をさらに追求したものです。
そのため、データの主権を個人に戻さなければなりません。
すなわち「データの徹底した見える化」と「ユーザー自身がデータを管理できること」を、サービス提供側が明確にした状態で、データを扱う必要があります。
そこで、私たちは「 Privacy statement (プライバシーステートメント)」を作りました。
私たちの基本的な考え方は、「企業ではなく人を中心に考えた、信頼できるデータ社会の確立」です。
QX ( Quantum Tranformation )とは
データの取得は、スケールフリーを使って個人に紐付けることが重要です。
先ほどの『スマートレシート』はユーザーがデータを集めてくれます。
例えば、ある店舗のユーザーがデータを集めた場合、個人単位で見るとその個人の数パーセントのデータにしかなりません。
ところが『スマートレシート』を使っている人が、そのレシート情報から自分が何を買っているかを知りたいと思うようになると、データのカバー率が全く違ってきます。
すでに次の「量子によるトランスフォーメーションの時代」( QX の時代)が見えてきているのです。
QX の時代
量子産業は「量子コンピューター」だけでは成立しません。
『スマートレシート』のような「膨大なデータ」と「通信」「アプリケーションソフト」が必要です。
量子コンピューターが解決できる問題には「静的な問題」と「動的な問題」の2つのタイプがあります。
静的な問題とは、1回計算したら答えが変わらないものです。材料や創薬がこれにあたります。
動的な問題とは、そのときどきで答えが全て変わるものです。
金融のポートフォリオや会話、もしくは電力など、膨大なデータをもとに最適化することによって、その時その時で価値が生まれます。
そして、これをつなぐネットワークが量子化します。
量子インターネットになると「エンタングルメント」という技術を使って、何百キロも離れたところで量子が同じ状態になります。「重ね合わせ現象」というものを使えば、大量の情報を瞬間的に送ることが可能です。
量子インターネットが興ってくると、今のネットワーク環境が根本から覆ることになります。
量子暗号通信システムの事業化
東芝は 2020 年 10 月に、その最初のアプリケーションである量子暗号通信を、私の部門で事業化することを発表しました。
鍵配送において、世界最高速度と世界最長距離を誇る装置です。
しかし、ユーザーが本当に欲しいのは箱物(装置)ではなく安全な通信です。
API で呼び出せば安全な通信ができるようになるというサービスにすることが重要であり、サービス化によって、その売り上げや利益は 30 倍くらいになると私たちは試算しています。
現在の東芝は世界中で QKD (Quantum Key Distribution :量子暗号通信) サービスを提供できるように動いている状況です。
量子技術が実現する未来の社会
量子技術が実現する未来の社会において大切なのは、箱物を作るだけでなくビジネスモデルも作り、箱物とつながるデータにアクセスできるようにしておくことです。
例えば、先ほどの『スマートレシート』で集めたデータをもとに量子コンピューターで分析することでセレンディピティを皆さんにお届けできるようになるだろうと、思っています。
講演者紹介

島田 太郎 氏
株式会社東芝 代表執行役社長 CEO
(講演時は同社 執行役上席常務 最高デジタル責任者)
【略歴】
1990年 新明和工業(株)入社。
BoeingとMcDonnell Douglas に出向後、1999年 Siemensの一部である SDRCに入社し、SiemensKK、ドイツのSiemens 本社等経験後、2015年 専務執行役員に就任。
2018年10月 コーポレートデジタル事業責任者として(株)東芝に入社。
2019年4月 執行役常務 最高デジタル責任者、2020年4月 執行役上席常務に就任。
2022年3月 代表執行役社長 CEOに就任。
自動車、精密機器設計、重工業、ソフトウェアのFAのエキスパートとして、大手グローバルメーカーのデジタル化コンサルも行う。現在はロボット革命と産業用IoTイニシアチブ、IoTアクセラレーションラボのアドバイザーとしても活動。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆ 「Linkers Sourcing」サービス紹介ページ
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆「 Linkers Marketing 」サービス紹介ページ
貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供します。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントを可視化することにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げます。
◆「 Linkers Research 」サービス紹介ページ
リンカーズのグローバルな専門家ネットワークや独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術動向を調査します。調査領域は素材、素子、製品、ITシステム、AIアルゴリズムまで幅広く、日本を代表する大手メーカーを中心に90社以上から年間130件以上の調査支援実績があります。
オープンイノベーション推進についてお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
「まだ方向性が決まっていない」
「今は情報収集段階で、将来的には検討したい」
など、具体的な相談でなくても構いません。
リンカーズが皆さまのお悩みや課題をお伺いし、今後の進め方を具体化するご支援をさせていただきます。
▶▶リンカーズへのご相談を検討されている方はこちらからもお問い合わせいただけます。
※問合せフォームが開きます。
▶▶リンカーズはさまざまなセミナーを開催しています。
セミナー情報はこちらをご参照ください。