- 配信日:2024.01.10
- 更新日:2024.06.10
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーションとは?定義・種類・事例などを紹介
「イノベーションとはなんだろう?」
「イノベーションにはどんな種類があるの?」
「イノベーションを起こせる組織とはどんな組織?」
企業に勤めていて、初めてイノベーション推進を担当することになった方は、このように悩むケースが多いでしょう。
イノベーションとは何か、イノベーションの必要性や日本企業が抱える課題について、一般社団法人 新技術応用推進基盤 代表理事、マグナリープ株式会社 代表取締役の谷村勇平(たにむら・ゆうへい)氏にお話を伺いました。イノベーションに関する一般論を踏まえ、谷村氏個人の見解や、谷村氏が代表理事を務める新技術応用推進基盤における定義などもまとめています。
これからイノベーションに取り組む企業の担当者の参考になること間違いなしの内容です。
◆目次
・イノベーションとは?
・イノベーションの必要性
・イノベーションの分類と考え方
・日本が抱えるイノベーションの課題
・日本企業におけるイノベーションの事例
・イノベーション人材と教育の関係性
・イノベーションを起こす企業の理想的な在り方
・日本でのイノベーションを活発化させるために必要なこと
イノベーションとは?
ーーまずイノベーションとはそもそも何か、定義を教えてください。
谷村氏:クリステンセンやドラッガー、シュンペーターなど多くの人が様々にイノベーションの定義や類型を提唱しています。しかし、どの産業、どの時代、どの組織、技術開発か新規事業か既存事業かなど、主語によってイノベーションの定義も変わります。全てに共通して当てはまる定義はないというのが私の意見です。
上記を前提として、今回は現代日本における比較的大きな企業の、とくに製造業の新規事業を担当する会社員にとって役立ちそうなイノベーションの定義や類型は何かを考えていきます。
まず一般論として、現代の日本企業では、「世界のどこにもなかった革新的なもの」でも、「世界のどこかでやっていたことかもしれないけれど特定の企業にとっては新たな取り組みであるというもの」も、どちらもイノベーションと呼びます。ゼロからものを生み出すだけでなく、既存のものを複数組み合わせて新しい取り組みとすることもイノベーションです。技術的なことに限らず、組織の制度や仕組み、ビジョンといった概念を新しくすることもイノベーションと呼んでいると思います。
これらを表面的にとらえると、その主語にとって新しい取り組みであれば、なんでもイノベーションと呼べるようにも思えます。しかし現場の感覚としては、さすがに新しい取り組みなら何でもよいわけではないとも思えます。イノベーションと、単に新しい取り組みの違いはどこにあるのでしょうか?
両者の違いがどこにあるのか、現場の感覚を言語化するならば、私は「世の中や自社が変わりそうだという期待感、実績・成果などがともなっているか」が違いを作っていると考えています。主語となるものが非連続な成長を達成できそうだという期待感を持てる取り組みでなければ、それはイノベーションとは呼べないというのが個人的な考えです。
一般的に、イノベーションを起こしたいと考えている企業は、現業に何らかの行き詰まりや危機感などを抱えていて、現業を続けるやりがいを見失いつつあるパターンが多いと思います。「努力をしても利益率が低く儲からない」「社会的なインパクトが少なくなってきて、現業を続けていてもやりがいを感じられない」といった現業への行き詰まりを打破し、新たにやりがいあることを実現したいという思いがイノベーション創出活動の根底にあるように思います。
このような現代日本企業の感覚を踏まえると、イノベーションとは「企業にとっての新たなやりがいを発見すること」(一般社団法人 新技術応用推進基盤の定義)と定義できるのではないでしょうか。
ーー例えば「事業としてすごく儲かる」だけでは、谷村様の団体が定義したイノベーションには当てはまらないのでしょうか。
谷村氏:はい。たしかに、儲かるかもしれない事業に対して、経営者や株主は強いやりがいを感じられるかもしれません。しかし従業員個人や取引先などはどうでしょうか。単に儲かるというだけでは、やりがいを感じてくれるとは言いきれないでしょう。ステークホルダー全体がやりがいを発見し、実行すべき価値を確信できることがイノベーションだとすると、少しばかりの金額を儲ける取り組みを見つけただけでは、イノベーションを起こせたとはいえないと思います。
ーーもし「世界に貢献できる取り組みにやりがいを感じる」という従業員がいたとしたら、「儲かる」かつ「世界に貢献できる」取り組みをセットで見つけられて初めてイノベーションが起こせたといえるということですね。
谷村氏:そうですね。ただなにも世界規模でなくても、もっと日々の仕事に直結していること、「直接取引をしている顧客に喜んでもらう」、「自分なりに良いと思える製品に関わることができた」などでもやりがいを見つけられると思います。スケールの大きさとイノベーティブさは必ずしもイコールではないと思います。
イノベーションの必要性
ーー企業がイノベーションを行う必要性を教えてください。
谷村氏:私たちの団体の定義に沿って話をすると、企業としては現在の事業に対して危機感や失望感などを持ち、これを打破するためにイノベーションに取り組むのが基本です。すなわち、イノベーションとは “ 企業の自分探しのような取り組み ” ともいえると思います。
人生に例えるなら、企業として若者だったスタートアップのときに新しい事業を作り、ある程度事業として育ってきて順調に成長して、やがて中年となってそれなりには稼げるようになったものの、一方で将来もある程度見えてしまった…。そんな状況の時に「このままでいいのか」という疑問が生まれ、また新しく情熱を傾けられる先を探す。人生でいう「中年の危機」のような想いが、企業のイノベーションの取り組みにも根本にあるのかもしれませんね。
よくイノベーションの目的にあげられるような、事業継続性の確保や市場環境変化への対応といったものは結果的に表れている課題であり、根本は、法人が持つ前向きな企業文化や精神を腐らせずに保つためにイノベーションが必要なのではないかと私は考えています。
ーー人間個人に起きることなら、その人間たちが所属している企業(組織)にも同じことが起こり得ますよね。
谷村氏:そうですね。イノベーションは本来、外圧に耐えるために仕方なく行うような後ろ向きのものではなく、企業として情熱やアイデンティティを維持するために行う前向きな取り組みであると思います。
売上や利益率を上げたいといった表面的な話で完結する取り組みではなく、企業が企業として存続するために必要な根本的な取り組みがイノベーションであるということです。
ーーどうしても企業だと収益性や成長性などに目がいきがちだと感じます。
谷村氏:もちろん、売上や収益性に気を配ることはとても重要で、それらに全く結びつかない取り組みでは、(イノベーティブではあっても)企業の取り組みにはなりえません。
しかし、単なる新規の取り組みからイノベーションへ脱皮するには、これだけでは足りないということだと思います。「事業が黒字になるということ」は、「求めてくれる人がいるということ」の代替指標ですから、売上金額そのものではなく、その売上金額の意味合いを考えることがイノベーションには必要だと思います。
イノベーションの分類と考え方
ーーイノベーションにはどのような類型がありますか。
谷村氏:冒頭でお伝えしたとおり、多くの人がさまざまなイノベーションの類型を唱えています。例えばクリステンセンは「破壊的イノベーション」と「継続的イノベーション」といった分け方をしていますし、ドラッガーやシュンペーターなどはまた別の分類をしています。
今回のインタビューのテーマである「現代日本における比較的大きな企業の、製造業における技術開発または新規事業」、「イノベーションを活発化するために自社の取り組みを整理する」という目的であれば、チェスブロウの唱えた「オープン」「クローズド」という類型で自社の取り組みを振り返ってもいいと思います。
しかし繰り返しですが、チェスブロウだけでなく多くの人がさまざまな分類をしています。「これ1つでどんなケースでも明瞭に分けられて、良き示唆を与えてくれる」といった万能な類型などは存在しえないというのが私の意見です。
【関連記事】
クリステンセンの破壊的イノベーション理論を日本に紹介したことでも有名な玉田 俊平太博士に、破壊的イノベーションについて弊社セミナーでお話しいただき、その内容をレポート記事にいたしました。興味のある方はこちらもご覧ください。
ーーでは、今回はチェスブロウの唱えた「オープン」「クローズド」という類型でお話を進めていただければと思います。
谷村氏:はい。まず大手製造業の技術開発/新規事業であれば、どうしてもイノベーションにR & D は避けて通れないでしょう。しかし新商品開発の難しさを示す一般的な話として、千三つという言葉があります。研究テーマを企画できても、それが事業として成り立つまでにさまざまな困難を乗り越える必要があり、 仮に 1,000 個テーマがあれば最後まで生き残るのは3つという意味です。
しかし、企業のイノベーションを活発化させようと考えたとき、この消え去った 997 個のテーマを、本当に捨ててしまってよいのでしょうか?
たしかに自社の企業活動としては難しいテーマであったかもしれないけれど、中には世の中的には価値があると思えるテーマもあるのではないでしょうか。
この状況をチェスブロウの提唱した「オープン」「クローズド」という分類で考えるならば、極端に言えば、クローズド(自社内)でやるべきイノベーションテーマを3つ発見し、オ―プン(協業)でやるべきイノベーションテーマを997個発見したということになると思います。テーマを3つしか発見できなかったわけではありません。
研究開発は千三つだからといって、では最初に 1,000 個ではなく 10,000 個考えようというのも大変です。997 個にもっときちんと目を向ければ、イノベーションに結びつくものもあるのではないでしょうか。
では、今まで消え去ってしまっていた 997 個のうち、どのようなものならオープンイノベーションのネタになるのでしょうか?
例えば、売上数兆円の企業が新規事業を作る場合、少なくとも 100 億円くらいの事業でなければ「やる意味はない」と判断しがちです。しかし、もし売上が1億円でも生まれる事業なのであれば、その企業にとっては意味がないかもしれないけれど、社会的には意味がある事業かもしれません。オープンイノベーションという形で社外に出してみたり、分社化してみたりすることによって事業化まで持っていける可能性を高められるものもあります。人知れず消えていくテーマが日の目を浴びることができるわけです。また事業化にまでこぎつければ、事業売上は1億円でも数十億円のバリュエーションがつくことだってあるかもしれません。
現在の日本企業では、あくまでクローズドに研究開発を進めることがベースにあって、オープンイノベーションは飛び道具的な位置づけを出ていないというか、ともするとお遊び的にすら扱われているケースもあるように思います。
実際、オープンイノベーションという言葉だけが一人歩きをしていて、あまりオープンイノベーションへの理解が進んでいないようにも感じます。単に他社と連携することをオープンイノベーションと捉え、受発注の関係やすり合わせ開発と同じでしょと思っている方さえ多いのではないでしょうか。
オープンイノベーションの本質は、クローズドの中では消え去ってしまう研究テーマに光を当てることだと思っています。それは、子会社を作って新規事業を立ち上げ、本来ならやる価値がない事業を世に出していくことかもしれませんし、新規事業から何らかの実績が生まれたことで事業売却をして、他の会社と合併することで産業として作り上げることかもしれません。
いずれにしても、日の目を浴びずに消えていたテーマを、しっかりとイノベーションにまで育て上げることを考えることは、日系大手製造業にとって重要ではないでしょうか。そのためには、生まれた研究テーマを途中で脱落することを覚悟でクローズドに進めていくのか、オープンに割り振っていくのかという類型には意味があると思います。
日本が抱えるイノベーションの課題
ーー「イノベーション=大発明」というわけではなく、最初は小さいことだけれども他社と合併するなどして産業が生まれていくこともイノベーションになるということですね。そうした合併などして生まれるイノベーションについて、日本が抱える課題はありますか。
谷村氏:はい。少し話が逸れるかもしれませんが、昨今の日本は昔と比べると M & A にも慣れ、VC や CVC も活動の幅を広げるなど、昔に比べて投資が一般的になってきたと思います。しかし、M & A について語るとき、買い手側のメリットに注目した説明が多く、事業売却する側にどういったメリットがあるのか、売却を前提とした事業を生み出すことにどういった意味があるのかにフォーカスして語られることが少ないような印象を受けます。
日本企業はクローズドイノベーションの高いハードルをクリアして事業を作る傾向があるので、これを黒字事業にできると「大切な我が子として大事に育てて、絶対に自社で保有し続けるぞ」という考え方になりがちです。そのため事業売却にネガティブなイメージを持つ企業も多いのですが、当然ながら事業売却する側にも多くのメリットがあります。売却側のメリットにあまり注目していないがゆえに、どちらかというと強者が弱者を吸収するようなM & Aのイメージが先行し、前向きな(例えば最初から高値売却を目的とした事業設立など)が少ない印象です。
研究開発系のベンチャーの設立/売買収や、他社への売却を前提としたスピンアウト企業の設立などももっと活発化してくると、日本のオープンイノベーションの現場ももう1歩変わってくるのではないでしょうか。
ーー他に日本企業が抱えるイノベーションの課題はありますか。
谷村氏:現状、世間では「日本企業はイノベーションを生んでいない」とか、「日本はイノベーションが生まれにくい」とか、批判的な意見が多いように思います。しかし、私の知る限りではありますが、日本企業はイノベーションを生むための努力をかなりしていると思います。実際、日本の大企業の多くは自前の研究所を持っていますし、諸外国と比べても、毎年少なくない金額を投資しています。OECD (経済協力開発機構)の統計を見ても、OECD 38 カ国のR & D (研究開発)投資額のうち、 だいたい10 % くらいを日本が占めています。
それでも日本人の一般的な自己イメージとして「日本はイノベーションが起こせない」と思われてしまうのはなぜでしょうか。1つの考えとして、「クローズドイノベーションを中心にしすぎた」ことも原因ではないかと思います。 生み出した 1000 個のアイデアのうち外から見えるのは3つだけで、その裏側に 997 個のアイデアがあると知っているのは内部の当事者だけです。結果、外側からでは企業のイノベーションの取り組み自体がよく見えなくなってしまうのです。
海外では、日本よりも「とりあえず事業化する」という意識が強いように思います。アイデアが上手くいくか、継続できるかは別として、とりあえずカタチになって社外に出ています。上記の話でいえば、日本企業では 997 個のアイデアが外から見えないわけですが、海外企業ではこのうちいくらかはオープンイノベーションや社外連携、子会社化などのプロセスを経て社外に出ています。結果的に、外側からみると海外企業の方がイノベーションの手数が多いように見えるのではないかと思います。
日本企業がイノベーションを何も行っていないかというと、私はそうは思いません。ただ、たとえ小さなアイデアだとしても形にして、事業としてもっと世の中に出していっても良いのではないかとも思います。裏返せば、そうしたとりあえずカタチにする力や、戦略的に事業を産み/畳むことを身軽に行う力が日本企業の課題だとも考えています。
また、従業員個人のレベルでいえば、仕事に対して「リスクを負ってでも実行してみたいという情熱や覚悟、やりがいのようなもの」が不足していることも課題ではないでしょうか。
何事も実行するにはリスクが伴うものです。評論家的態度で言えば「どんな小さなアイデアでも事業化すればいいのに」と思えても、いざ自分の担当として事業化するとしたら、様々なリスクや不安に直面します。人生においてこの仕事をやってみたいという情熱が担当者になければ、出世競争なども含めたリスクを負ってまで取り組みを前に進めることはできません。社内評論家的態度の人間に事業をリードすることは決してできませんが、こうした逃げの態度をとる会社員の方も少なくないでしょう。人材育成の観点では、こういった意欲の低下こそ課題の本質なのかもしれません。