• 配信日:2023.09.28
  • 更新日:2024.04.19

オープンイノベーション Open with Linkers

新規事業成功のカギ~横河電機のオープンイノベーションの考え方~

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『横河電機から学ぶ~オープンイノベーション徹底解剖~』のお話を編集したものです。

元 インテル株式会社 副社長であり、現 横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部 本部長の阿部 剛士(あべ つよし)様より、横河電機の取り組みを事例に、新規事業成功のカギや 21 世紀のイノベーターに求められることなどをお話しいただきました。

新規事業を成功に導くポイントや、その手段としてのオープンイノベーションの考え方を知りたい方は、ぜひお読みください。

横河電機のR&Dにおける組織体制


横河電機には事業本部内の R & D 部隊と、イノベーションセンターという R & D 専属の部隊の2つがあります。それぞれ役割が異なり、事業本部の R & D 部隊は新規 × 既存の分野に取り組み、イノベーションセンターは新規 × 新規の分野に取り組むという形で分担しています。

イノベーションセンターでは、お客様が抱える課題に対して事業部が保有していない技術を保管する研究開発を行ったり、お客様とともに潜在課題を発掘・顕在化し、その解決手段を考え、事業創出につながる研究開発を行ったりしています。

三身一体の事業開発/技術開発の進め方


一般的に研究開発センターは「先行研究開発・技術開発」「コア技術基礎開発」「コア技術実用化開発」というフローで開発を進めていきます。そこに「事業開発部隊」が伴走し、さらに知財開発部隊も伴走することが必須だと私(阿部様)は考えています。かつて、知財は開発フローの中盤から後半に関わってきたのですが、昨今は開発の最初から知財開発も行うことが重要になってきている印象です。

新規事業成功のカギ


新規事業成功のカギ~横河電機のオープンイノベーションの考え方~

新規開発を行うときに重要なのは、まず「そもそも組織に0から1を生み出せる人材はいるのか」ということです。1を 10 もしくは 10 を 100 にする人材は多いものの、0から1を生み出せる人材はそう多くありません。その人材が熱量の高い人物であることも大切です。

そしてトライ & エラーができるチームかどうかも重要になります。新規事業の多くが最初計画したプラン通りに進みません。そのためチームにトライ & エラーができる能力と気持ちがあるかどうかが成功のカギになります。

さらに既存事業のリソースに頼らず、新規事業と既存事業を対等の立場で考えることも大切です。横河電機のように歴史のある会社では、社内でよくシナジー効果やリバレッジなどの話が出るのですが、私個人としては、新規事業にこのような話を持ち出すことはやめた方が良いと思っています。なぜなら新規事業が既存のビジネスに引っぱられてしまうからです。もちろんセールスチャネルに関してはシナジーなどをしっかり考えるべきだとは思いますが、それ以外の部分では当てにならないケースが多い印象です。

また新規事業を自発的に始めたいと考えている社員を集め、スタートアップのつもりで取り組むことも大切です。

組織体制でいうと、組織を少数精鋭の事業ユニットに分けて、スタートアップ的な敏捷性(びんしょうせい)や適応性を醸成する、あるいはこの事業ユニットが企業の持つ無形資産(特に知的財産や顧客資産)を自由に利活用できるようにしなければいけません。事業開発プロセスも、特にシステマティックにすること、そして PDCA を回すだけでなく OODA ( Observe :観察、 Orient :方向づけ、 Decide :意思決定、 Act :行動)も適材適所で使い分けていく必要があります。

「破壊」から「ずらし」のテクニック

新規事業成功のカギ~横河電機のオープンイノベーションの考え方~

「破壊」から「ずらし( Pivot )」のテクニックも重要です。既存市場 × 既存技術をずらすと既存市場 × 新規技術と新規市場 × 既存技術の分野になり、これは日東電工の「三新活動」として有名です。イノベーションは常に新しい取り組みの中で起こるものではなく、シュンペーターが提唱しているように、市場と技術の組み合わせの変化によって起こります。そのため、既存の商品でも何か一つの属性を変えるだけでもイノベーションが起こる余地は十分にあるのです。

最初から新しい分野に挑戦するのではなく、既存事業をもとに新しい分野へとアプローチしていくというフローは、理に適っていると思います。

リーン・スタート

新規事業成功のカギとして、リーン・スタートについてもお話しします。安易なリーン・スタートは避け、やみくもに Pivot するのではなく、計画をしっかり立てることが重要です。さらに既存顧客だけでなく、競争のない市場(未知の顧客)もターゲットにし、段階的にではなく最初から大きなビジョンを掲げましょう。そして製品だけでなくマーケティング & セールスも疎か(おろそか)にしてはなりません。良いものが売れるのではなく、分かりやすいものが売れます。顧客へのタッチポイントも考える必要があるのです。

また0を1にする活動だけをしていても、生み出したものは粗大ゴミになってしまいます。1を 10 や 100 にする必要性もあるということです。

10 や 100 に成長する「1」の条件は、以下の3つだと考えています。

  • ・Unique(独自性)
  • ・Repeatable(持続性)
  • ・Scalable(拡張性)