• 配信日:2021.02.17
  • 更新日:2021.09.15

オープンイノベーション Open with Linkers

大手コンサルティングファーム3社に聞く〜2021年 製造業動向予測①

2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、私たちの生活は一変しました。 「3密」を避けた新たな生活様式の浸透とともに、各企業は在宅勤務をはじめとした様々な対策を進めながら、企業としての在り方を再定義してきたように思います。

この度リンカーズは、大手コンサルティングファーム3社をお招きし、新型コロナウイルスが製造業に与えた変化や、2021年の動向予想、特に自動車産業と化学産業の変化をテーマにしたWebセミナーを実施いたしました。

●登壇者
株式会社野村総合研究所 顧問 村田 佳生 様
株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 山本 和一 様 ★記事はこちら
A.T.カーニー株式会社 マネージャー 谷村 勇平 様 ★記事はこちら

本記事では、株式会社野村総合研究所 顧問 村田 佳生 様の講演をご紹介いたします。

ポストコロナをにらんだ製造業の企業価値創造



新型コロナウイルスと製造業の変化・行動




不確実性市場の勝ちパターン

村田 様:みなさんこんにちは。本日は「ポストコロナをにらんだ製造業の企業価値創造」というテーマでお話いたします。

本セミナーは「2021年」というのが1つのテーマになっていますが、この「2021年」は多くの企業にとって重要な意思決定をしなければならない非常に大事なタイミングになるのではないかと思っています。

そこで、2021年も含め「ポストコロナ期」と、少し期間を長く捉え、大きく前半と後半の2つにわけてお話したいと思います。

前半は「不確実性の高まるマーケットの中で、企業はどのように立ち向かっていくか」というテーマです。

「新型コロナの流行」は、誰も予測しなかった不確実な変化ですが、今回「過去の不確実性市場の勝ちパターン」について整理したうえで、後半は、その勝ちパターンの一つの概念である「イネーブラー」という考え方をテーマに据えてお話します。

中小企業の不況は大企業にも波及する

今回は新型コロナが流行していますが、過去にもスペインかぜやアジアかぜがあり、これらのパンデミックには、だいたい2年、場合によっては4年間の収束期間が必要でした。新型コロナの流行から1年近く経ちましたが、ここまでの期間でも日本の経済について与えている影響はかなり大きいと考えています。

先進国の中でも、日本はとりわけ体力のない「中小企業」に依存しているという側面があり、これらの企業が廃業や倒産をしてしまうと、仮に需要が戻ったとしても、需要を満たすための供給ができなくなる、いわゆる「供給制約」が起きます。

過去にも経済の「リセッション」は何度もありましたが、こういった予測観点で見ると、今回の「コロナ禍」も経済への影響は甚大になると考えています。

大企業は、中小企業に比べればまだ体力があるかもしれませんが、中小企業が弱ることで、結局はその余波が大企業にも及ぶであろう、ということは想定しておかなければいけません。



日本の経済、雇用の現状

このような非常に厳しい、変化が激しいマーケットの中で、企業はどのように立ち振る舞えばよいのか、ということを私たちはケーススタディしてきました。

私たちが主に取り上げたのは、日本が世界的にも強い電子部品産業および工作機産業です。この産業の企業を中心に30年間分の財務分析をし、そこから大きな学びがありました。本日はその中でも「電子産業」を取り上げてお話をします。

高ボラティリティ産業の長期業績変化

「電子産業」は4つの点で、ボラティリティ(市場変動の度合い)が大きい業界です。

1点目は「需要変動が大きいこと」です。電子産業は需要のピークが過ぎ、1年も経つと市場の3、4割が減少する業界です。

また2点目に「用途変化が多いこと」、3点目に「用途側のモデルチェンジが短く、短いサイクルで回っていくこと」、4点目に「技術の進歩が速く、すぐ技術が陳腐化していくこと」が挙げられます。

このように、変化が大きく厳しい状況にさらされることが多い電子産業ですが、この中で日本の企業は生き残ってきました。



高ボラティリティ産業の長期業績変化

また、上のスライドに挙げた企業を見ていただければわかるように、同じ電子産業の中でも、企業ごとに細かく見ていくと、業績に差があります。

とりわけ私たちが注目しているのは「村田製作所」という会社です。村田製作所は、過去には業界の中でトップクラスの成長をしましたし、高い営業利益を維持してきました。

村田製作所の過去30年のROIC(投下した資本に対してどのくらいの利益が出ているかがわかる指標)は以下のグラフのようになっています。



ROIC_村田製作所

このグラフを見ていただければわかるように、村田製作所は、他社平均をおおよそ上回る形で市場の変化を乗り越え高い収益率を維持してきました。

財務的に見ていくと、好景気の時に多くの利益を出し体力(資本)を蓄え、不景気の時は、この貯めていた体力をもとに体力温存し、リストラも基本的には行わず、必要に応じてM&Aを含め大型の投資をし、景気回復期にはいち早く再成長を目指す、という企業姿勢がわかります。



村田製作所の事例

ここから見えてくる重要なことは、マーケットの変化があったときに、それが「好景気であれば高いパフォーマンスで利益を出す」。逆に「不景気であれば蓄えた利益を使い、回復期に備え準備をする」ということです。

「ポストコロナ」では、質的にも「元の環境に戻らないという不可逆的な変化」が起きており、体力的にも戦略的にも「勝ち組企業と負け組企業」の明暗がはっきりと出て、業界再編が行われるであろう現実が突きつけられています。

またここ1、2年の「ポストコロナ」期における企業の準備の仕方次第で、今後5年、10年の業績が決まってくる可能性も高いでしょう。そういった意味で「2021年」はとても大切な1年だと言えます。



ポストコロナの環境認識

製造業の現状とイネーブラー化の必然性


それでは、具体的にどのようなことを考えて企業経営していくべきなのでしょうか。 このテーマについて考える際、考慮に入れていただきたい「イネーブラー」という概念を私たちからお伝えしたいと思います。

「イネーブラー」について具体的な話をする前に、1つのチャートをご覧いただきます。



従業員1人当たり時価総額の比較

左からGAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)や、従業員1人あたりの株式時価総額が多い企業が並んでいます。かたや30年ほど前の1989年のデータを調べてみると日本企業はトップ10の中に7、8社、トップ50の中に32社も入っていました。

しかし2019年には、トップ50の中にトヨタ自動車1社しか入っていません。では、この「1人あたりの株式時価総額」が何を表しているかと言うと、「企業価値をどれくらい創造しているか」という、ある種の「企業としての結果」です。

またこのチャートに「1億円」の赤いラインを引きましたが、これから新しく企業の価値を創造し、世界で競争していくためには、最低1人あたり1億円の時価総額を目指さないといけないでしょう。

GAFAはすべて1億円ラインを超えてきていますし、今新型コロナワクチンを作っているファイザー社も2億円くらいの価値を創造しています。

翻って日本では、製造業のトップクラスにあるトヨタ自動車やSONYでも1億円のラインを超えていません。平均的に見ると、日本の製造業は1人あたり2、3000万円しか時価総額がなく、世界と比べると桁が1つ2つ違うという現実があります。

これの現実を打破するヒントしては、今世界に山積する「社会課題」を解決することにあると思っています。この課題を企業が技術で解決し、価値創造ができるかどうかに成功がかかっており、GAFAやBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)はこれらの課題を解決してきたからこそ今の価値があるのだと考えています。(下に続く)

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企業価値創造としてのイネーブラー


そこで「企業価値創造する切り口」として、「イネーブラー」という概念を紹介します。


「イネーブラー(Enabler)」は、あることの目的や成功を可能にするための人やモノや手段を指します。弊社野村総研の定義では「新たな社会を技術で実現させるキープレーヤー」をイネーブラーと呼んでいます。



イネーブラー

過去、世界の製造業は、作ったモノを、新興国を中心とした「未充足地域に販売する」ことで成長してきました。

しかし今後は、次世代社会システム構築に向け「ボトルネックになっている社会課題を見つけ、それを技術でどのように解決していくか」が、製造業が企業価値を創造していく上での鍵になります。

これからは「ボトルネックになっている課題を解決できる」といった瞬間に、世界中からリソースが集まってくるでしょう。

すでに世の中では、機器やモジュールのインターフェース標準化が図られていますから、この課題を一点突破すれば、すべての機器やモジュールに組み込まれ、一気に世界のマーケットに乗れる可能性が出てきます。

ベンチャー企業でも、こういった「一点突破型」のイネーブラーがどんどん登場しており、大企業だからといって油断はできず、こういった企業に負ける可能性が無きにしもあらず、と思います。

「イネーブラー」というのはどのような会社なのか、ということについてもう少し具体例をあげて説明します。今回お聞きくださっているみなさまの中には、自動車業界に携わる方もいらっしゃるかと思いますが、今自動車業界の中では「自動運転」というのが1つの潮流になっています。その分野に関して、現在2社の「イネーブラー」が出てきています。



モビリティ業界のイネーブラー事例

1社目はアメリカの「Quanergy Systems(クアナジーシステムズ)」というベンチャー企業です。この会社は「LiDAR(ライダー)」という高精度な周辺環境認識センサーを作っています。

「LiDAR(ライダー)」は、1つ2、30万円で販売されており、Quanergy Systems社が行おうとしているのは、これまで高価な部品を必要としていたLiDARを、半導体を利用してより低コストで製作し、従来の10分の1の値段で提供するということです。

この値段まで価格が下がると、かなり普及が進むのではないかと考えられます。

もう1社もアメリカの「Nuance Communications(ニュアンス・コミュニケーションズ)」という音声認識技術・製品を提供するソフトウェア会社です。

音声認識センサーは、自動運転に必要となる非常に基礎的で重要な技術ですがこの会社は、世界の83の言語と方言に対応する音声認識の技術を提供しています。

また医療分野でもイネーブラーは出てきています。医療分野では、誰もが最先端の治療を受けられる、「高度医療社会の実現」が1つのテーマになっていますが、本日ご紹介する1社目は「Intuitive Surgical(インテュイティブ・サージカル)」という手術ロボット製造会社です。みなさんもよくご存知の外科手術システム「da Vinci(ダヴィンチ)」を手掛けています。



ヘルスケア業界のイネーブラー事例

この会社の時価総額は、ほぼSONYと匹敵します。このダヴィンチの手術用ロボットがあれば、日本にいながら、アメリカの患者を手術することも可能になります。

もう1社の「Flatiron Health(フラットアイロンヘルス)」という会社は、220万人の患者の電子カルテを分析し、「どの患者に」「どの治療をしたら」「どの結果になったか」というデータをタグ付けしています。

このように電子カルテで得た匿名化された臨床情報を構造化し、研究開発向けに提供することで、患者にとって最適な治療法を選ぶことができるようになります。この会社に製薬大手のロッシュが目をつけ、2018年に2000万ドルほどで買収しました。

このように、欧米ではそこここで「イネーブラー」と呼べる企業が誕生しており、非常に高い企業価値を想像しつつあります。



イネーブラー化の要件

次に「イネーブラー」と呼べる会社にするにはどうすればよいのか、ということについて考えてみたいと思います。



イネーブラーの要件と事例

「イネーブラー」になるための条件について調べたところ、大きく3つあります。

まず1つ目は「市場の巧みな切り取り」です。 社会課題について目の付け所がよいとともに、限られたマーケットで圧倒的なプレゼンスを狙っています。事業を「幅広く薄く」手掛けるのではなく、「ピンポイントで市場を制覇」しています。

2つ目は「圧倒的なR&D投資」です。国内の企業から見ると、こんなところにお金をかけるのか、と驚くようなところにもR&D投資をし、時には人海戦術を用いて市場を押さえにかかります。

3つ目は「上手な仲間づくり」です。最近流行している「エコシステム」という言葉がありますが、新しいマーケットを立ち上げるのであれば、自社だけでやろうとせずに、共に市場を盛り上げる仲間づくりをすることも大切です。

日本におけるイネーブラーの事例


では、日本でもこの要件を満たすような会社が何社かあります。その中で、本日ご紹介するのは佐賀県にある「OPTiM(オプティム)」という会社です。



イネーブラーの要件と事例(オプティム)

すでに東証一部に上場しており、時価総額も1600億円ある会社です。この会社の年間売上が80億円ですから、時価総額から鑑みるに、この会社が非常に評価されていると言えるでしょう。

もともとはシステム開発を行っていた会社ですが、昨今市場が活性化しているAIやloTを利用して新たな事業展開を行なうようになりました。

オプティムが行っている事業の1つは「スマート農業」です。農業をどのようにデジタル化していくか、というのは農業において大きなテーマですが、オプティムは今このテーマに取り組んでいます。その例として2つほどご紹介します。

1つは「ドローンによる農薬散布」です。そもそも、農薬散布は重労働であり、且つ必要がない場所まで農薬を撒いてしまうことがあり、高コストな作業です。そこで必要な所(虫食いが発生している所)にのみ、ピンポイントで農薬散布をするためにドローンは有効です。

また農薬を必要としている「虫食いの場所」を見つけること自体、手間がかかるわけですが、その場所を見つけるために、もう1つの例としてあげている「ドローンによる圃場モニタリング」を行っています。

このモニタリングにドローンを用いるとどのようなメリットがあるかと言うと、1時間に100ヘクタールほどもモニタリングができ、現在日本の農地面積であれば、ドローンが6000台もあればモニタリングが1日で完了できる点です。

そういったところで、オプティムはドミナント戦略を狙っているのではないかと思いますし、スマート農業の1つの切り口として非常に有効だと考えています。

また2つ目の要件に挙げた「圧倒的なR&D投資」ですが、このスマート農業というテーマに取り組むため、オプティムも圧倒的なR&D投資をしており、100億円に満たない売上高のうち、約40%もR&D投資に回しています。

日本の製造業における売上高R&D比率の平均はわずか2〜3%、ハイテク企業でも10%ですから、オプティムの投資比率がいかに破格かがわかります。

圃場モニタリングをするために、作物ごとに虫食いの場所の画像を撮影、特定し、その場所にタグ付をします。そのタグ付けのサンプルを人海戦術でより多く集めて精度の高い分析をし、質の高い教師データ(AIの学習データ)を作成します。

このような分析のために、技術系のスタッフを雇用するという形で投資をしています。

また、地元の大学との関係づくりも非常にうまく行っており、佐賀大学の中に企業の本店を移転しました。本店を大学内に移すことによって、優秀な学生をアルバイトとして安価で雇用でき、先ほどお話しした虫食いの場所を特定しタグ付けする仕事(AIのアノテーション)に従事してもらうことも可能になります。

その他にも、佐賀大学の医学部と共に研究所を立ち上げ、AIを用いた緑内障の診断なども行われています。

要件の3つ目に挙げた「仲間づくり」についてですが、先ほどお話しした大学との関係づくりの他にも、オプティムは多くの業界と良い関係性を築いています。

まず1つが「農家との関係づくり」です。通常、オプティムが手掛けているようなサービスは、農家に対して「売る」と考えがちですが、オプティムはサービスを利用したいという農家に「無償で」提供しています。

そして、サービスを利用することで減農薬が可能になった作物をオプティムが通常の価格より買い取り、減農薬作物として通常より高い価格で流通に乗せています。

また安売りされることのない「ふるさと納税」の返礼品として自治体に収めることも行っています。このように、互いがwin-winの関係を築けるマーケットを構築しています。



大企業における処方箋

この「イネーブラー」という概念は、大企業にとっても新たな挑戦になるのではないかと考えています。まず先ほどお話しした3つの要件と、大企業の傾向を照らし合わせて考えてみましょう。

「市場の巧みな切り取り」については、小さなマーケットでもよいからドミナントな存在にならなければならないですが、大企業は大きな市場を狙いがちです。

また「圧倒的なR&D投資」についても、事業範囲が広いため、分散投資をしてしまっている可能性があります。

さらに「上手な仲間づくり」についても、事業規模を維持するために、グループ会社を含め自社のみでバリューチェーン全体を手掛ける傾向があります。

しかしながら、新たなマーケットを立ち上げるためには、上手な仲間づくりをするほうが得策だと思いますし、これからは、イネーブラーで企業価値を作るということが、トレンドになるのではないかと思います。



大企業にとってのイネーブラー

私自身は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代から製造業を見てきましたが、このポストコロナの時代、製造業には「新しい社会システムを作るイネーブラー」としての役割を期待したいと思っています。

これからの製造業は、幅広く製品を手掛けるというよりも、新しい社会システムを実現できるエッジの利いたプロダクト、競争力のある商品技術をどれだけ持てるかという勝負になってくるでしょう。

そういう点では、幅広く張り巡らせているR&Dの形や仕組みを見直しするタイミングに来ているとも言えます。

本日お話をさせていただいた時期(1月)は、ちょうど事業計画を立てている会社も多いと思います。来年度の事業計画の中に「イネーブラー」という概念を盛り込むことを、一度検討してみていただきたいと思います。

野村総合研究所 村田 様の講演レポートは以上になります。
Part2では株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 山本 和一 様の講演をご紹介いたします。
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