• 配信日:2024.03.01
  • 更新日:2024.04.18

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーションの定義と類型を企業の事例とあわせて紹介

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『 オープン・イノベーションの考え方と捉え方~オープンイノベーション徹底解剖アカデミア編~』のお話を編集したものです。

横浜国立大学大学院にて技術経営論、イノベーション・マネジメント論を専門とされている、国際社会科学府・研究院の真鍋 誠司(まなべ せいじ) 教授に、「オープン・イノベーションの定義と類型、具体的な事例」についてお話しいただきました。

オープン・イノベーションを基本から学びたい方は、ぜひお読みください。

オープンイノベーションとは?その定義


オープンイノベーションの定義と類型を企業の事例とあわせて紹介

まずオープン・イノベーションとは何か考えてみましょう。オープン・イノベーションの提唱者の定義が解答になると思います。提唱者はヘンリー・チェスブロウというアメリカの学者です。

チェスブロウはオープン・イノベーションを「知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して社内イノベーションを加速するとともに、イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大すること」と定義しています。

この定義を踏まえて、私(真鍋氏)としては、オープン・イノベーションとは「技術・知識・アイディアの源泉と活用を社外に求めることによって、イノベーションを興して成果を得ること」だと考えています。

技術・知識やアイディアの源を社外に求める、あるいは既にあるものの新しい活用を社外に求めること。要するに技術・知識・アイディアが会社・組織の境界を越えることがオープン・イノベーションです。

源泉を社外に求めるとは、技術やアイディアなどを社外から持ってくるということです。これはインバウンド型オープン・イノベーションと呼ばれます。反対に自社の既存技術などを社外で活用してもらうことは、アウトバウンド型オープン・イノベーションと呼ばれます。インバウンド型・アウトバウンド型両方を並行して行う双方向型オープン・イノベーションも存在します。

オープンイノベーションの類型


オープンイノベーションの定義と類型を企業の事例とあわせて紹介

オープン・イノベーションは、3つに分類されます。それが先述のインバウンド型・アウトバウンド型・双方向型(カップルド型)の3つです。

双方向型はさらに、相補(そうほ)型創発型の2つに分類できると私は考えています。それぞれの違いについては、後ほどお伝えします。

オープン・イノベーションの分類について、それぞれ詳しく見ていきながら、具体例も紹介していきます。

インバウンド型オープンイノベーション


インバウンド型オープン・イノベーションは、例えば「サプライヤーや顧客、外部組織との統合を通じて、自社知識の基盤を強化すること」です。

要するに、企業の外にある技術・知識を企業の内部に流入させることに当たります。

具体的な手段としては、

  • ・ユーザー、サプライヤー、大学など公的機関との共同開発
  • ・ベンチャーへの投資
  • ・知財の購入
  • ・企業買収

などが挙げられます。

P&G社の事例


P&G 社(プロクター & ギャンブル社)は、スローガンとして「 Connect and Develop (つなげる + 開発する)」というものを打ち出しています。 1999 年に P&G 社は、これまで社内でやっていた研究プロセスを社外に拡大することを決定しました。そこで、外部イノベーション担当ディレクター制度を創設し、 2002 年までに社外イノベーション比率を当時の 10 % から 50 % に引き上げる目標を設定。かなり難しいことをやっていた印象です。

当時、 P&G 社内には 約8,600 名の科学者・研究者が在籍していましたが、社外に目を向ければ 150 万人もの科学者・研究者が存在し、自社で抱えているのはごく一部であると考えました。その 150 万人の中には P&G で行っているのと近い研究をしている人もいると想定。そして、社内で全てのイノベーションを行う必要があるのか、改めて検討しました。これはインバウンド型のオープン・イノベーションといえます。

一方、社内のアイディアを社外に出すアウトバウンド型オープン・イノベーションも、 P&G社 で開始。開発したアイディアのうち、 P&G 社が商品化しなかったものは、3年後に競合を含む他企業が利用可能として、社外に販売する制度を構築しました。

オープンイノベーションの定義と類型を企業の事例とあわせて紹介

インバウンド型オープン・イノベーションの事例として「プリングルス プリント」を紹介します。諸説あるのですが、ここでは私が聞いた話をお伝えします。

P&G 社の社員が「ポテトチップスの表面に何か印字したら売上が伸びるのではないか」と考えたそうです。しかも、ハロウィンやクリスマスといったパーティーシーズンに合わせたことが印字してあれば、パーティーでポテトチップスを食べる際に盛り上がるのではないかと。つまりポテトチップスを食べ物として捉えるのではなく、パーティーグッズの一つとして顧客に捉えてもらえれば、さらに売れるのではないかと考えたのです。

オープン・イノベーションの活動をする前の段階として、オープン・イノベーションによってどういう価値創出をするか、しっかりとした目標を持っていないと成功する可能性は極めて低いです。この P&G 社の事例は、とにかく美味しいポテトチップスを作るというよりは、パーティーグッズをポテトチップスで作ろうという新しい価値創出を考えていたと、私は解釈しています。

ところが P&G 社内に、揚げる前のポテトチップスに文字を印刷する技術がありませんでした。そこで、世界中から印刷するアイディアを募集したところ、イタリアのとあるベーカリーが、ケーキにメッセージを可食性インクで印字する技術を持っていることが分かりました。そのベーカリーから技術を導入し、文字やイラストが印刷されたポテトチップスが完成。パーティーシーズンに間に合い、売上が大きく上昇しました。

P&G 社ほど大きく、優秀な研究者を抱えている会社なら、ここで挙げた事例のような取り組みは、時間さえかければ社内だけでできたはずだと、私は思います。ですが、今回の例で重要だったのはパーティーシーズンに間に合わせるということでした。ポテトチップスに印字する技術をじっくり開発していたら、パーティーシーズンに間に合わず、売上向上は期待できなかったでしょう。つまり、 P&G 社はインバウンド型オープン・イノベーションにより、時間をお金で買ったということです。

インバウンド型オープン・イノベーションは、自社に技術が全くないことへの取り組みを実現させるために行うこともあれば、やればできるものの時間やお金がかかり過ぎるので社外のものを取り入れた方がコストカットできるという目的で行うこともあります。

「自社に技術がないからやりたいことを諦める」というのは、とても簡単なことです。しかし、オープン・イノベーションという手段を上手く使うことさえできれば、今までは諦めていた新しい価値の実現を、諦める必要がなくなります。この考え方が、 P&G 社の事例から読み取れることです。

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