- 配信日:2024.08.30
- 更新日:2024.11.22
オープンイノベーション Open with Linkers
サントリーのオープンイノベーション事例~課題と活動変革~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『お客様価値を創出するためのオープンイノベーションの仕組み創り』のお話を編集したものです。
サントリーホールディングス株式会社 研究企画部 課長 博士(技術経営)弁理士の前川 知浩(まえかわ ともひろ)様に、サントリーでオープンイノベーションを始めた背景や、取り組みなどについて語っていただきました。
◆目次
・サントリーグループの紹介
・サントリーの R&D
・サントリーの R&D 体制
・サントリーのオープンイノベーション活動の歴史
・オープンイノベーション活動における3つの課題
・課題解決のための活動変革
・スタートアップとのオープンイノベーションを開始
・サントリーのオープンイノベーション事例
サントリーグループの紹介
私たちサントリーグループは、企業理念として「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命の輝き』を目指す」ことを掲げており、自然と水の恵みに生かされる企業として、企業活動を続けています。
まず初めに、簡単にサントリーグループの事業内容を紹介します。現在は売上の半分以上を清涼飲料・健康飲料が占めており、お酒が35 % 、健康食品・外食・花などの売上が11 % となっています。
サントリーのR&D
弊社は、人と自然を深く理解し、自然の恵みから創り出す「美味&健康&サステナビリティ」の新たな価値の提供を通じて、人に寄り添い、地球に寄り添い、新たなウエルネス体験を生み出していくことを目指し、R&D活動を推進しています。
弊社の R&D では基盤研究、技術開発、商品研究をつないで最終的にお客様に提供する価値を実現していきます。基盤研究の面では、植物や水、微生物、健康科学の研究力が大きな強みとなっています。
サントリーのR&D体制
サントリーグループではホールディングスの下に事業を行うビジネスユニットがあり、商品開発や商品技術開発はそちらで行なっています。そして SIC (サントリーグローバルイノベーションセンター)がサントリーグループの基盤研究を支えています。
私が在籍しているオープンイノベーションの部隊はサントリーホールディングス株式会社に所属しています。
サントリーのオープンイノベーション活動の歴史
弊社がオープンイノベーション活動を開始したのは 2007 年です。当時ナインシグマ社が手掛けている技術探索のマッチングサービスを活用したのが最初のオープンイノベーションとなります。
その後、 2013 年に SIC が設立された折、オープンイノベーションの専任部署が開設され、2017 年には主に大学や公的機関と連携した技術導入のプロセスがある程度確立されました。
2017年までの期間は特に印象深く、オープンイノベーション活動を進めるうえで大変苦労した記憶が残っています。
2013 年当時、オープンイノベーションをやるなら「いかに外部の機関と連携し、最新の技術を取り込むかが重要だ」と考えました。このため、活動の最初のステージでは、とにかくサントリーに先端技術を紹介して下さる、社外の機関とのネットワークを拡張することを考え活動をしました。この考え自体は悪くはないのですが、良くなかったのは「拡張」が目的化してしまったことです。
2015 年、 2016 年と社外機関とのルートを拡充し続け、そこから得た最新テクノロジー情報を「こんなに面白い技術があるらしい。これを使って新しい商品につなげられるんじゃないか」と社内の研究者に次々と提案し続けたのですが、その結果は散々な有様で、私たちの提案が一切採用されない状態が続いたのです。
それどころか、研究者たちから「オープンイノベーション専任部署の人たちは好き勝手に社外出張し、自分たちが楽しんでばかりいる」と反感を抱く状況になってしまいました。こうした状態が続いた結果、 2016 年の終わり頃には、オープンイノベーション専任部署も人員が一新され、かつ大きな変革を迫られる状態となりました。恥ずかしながら、ここで初めて「会社に役立つオープンイノベーション活動とは何だろうか」ということに向き合うことになったのです。
オープンイノベーション活動における3つの課題
当時の課題は、画像の3点に尽きます。まず、社内の研究者たちは自分たちの研究がお客様の新しい商品・サービスにつながるようテーマを決めて推進しています。そんな彼らが持つ課題感は健全なもので、彼らがどんな悩みを持っているか、そのニーズの抽出が不十分でした。
次に、オープンイノベーション担当者が個人の判断で先端技術を探していたのも問題でした。またオープンイノベーション担当者が足を使って先端技術を一つひとつ探索していたので、効率も非常に悪く、より多くの有益な先端技術を社内に繋げることが出来ていなかったと思っています。
最後に、見つけてきた先端技術の受け渡しにも問題がありました。言うならば、社外で見つけてきた先端技術の情報をそのまま研究者に伝えているだけで、その具体的な活用法の検討はお任せ状態。つまり、見つけてきた先端技術がいかにお客様の新商品・サービス開発につながるのかという議論に進めることができていなかったのです。