• 配信日:2024.03.21
  • 更新日:2024.04.18

オープンイノベーション Open with Linkers

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『島津製作所におけるスタートアップ連携の取り組み~オープンイノベーション徹底解剖~』のお話を編集したものです。

株式会社島津製作所 基盤技術研究所 新事業開発室 CVC グループ グループ長 橋爪 宣弥(はしづめ のぶや)様に、株式会社島津製作所で CVC * を立ち上げた背景や、取り組みなどについて語っていただきました。

CVC という形でのオープンイノベーションに興味がある方は、ぜひお読みください。
*CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)=事業会社がベンチャー企業などに対して出資を行うこと。

島津製作所のオープンイノベーションのプロセス


島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

島津製作所の製品は主に研究開発で使われることが多く、基礎研究をしてから製品開発を行い、その後も応用技術の開発を行うというサイクルを回しています。その中で古くから、大学の研究室の先生方や企業の研究所、スタートアップなどに島津製作所の製品をご活用いただいています。

今までスタートアップに関しては、弊社の装置を購入していただくか共同研究するかしかご活用いただく手段がなかったのですが、 CVC が追加されたことで出資という連携方法が加わりました。

島津製作所のCVCの概要


島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

島津製作所で CVC ができたのは 2023 年4月です。 2023 年度は 2025 年度までの中期経営計画がスタートした年であり、それに伴って新しい取り組みの一つとして CVC も出来ました。

その中期経営計画の中では、4つの分野を掲げています。

  • 1. ヘルスケア領域(ライフサイエンス分野/メドテック分野)
  • 2. グリーン[ GX ]領域(脱炭素/エネルギー関連分野)
  • 3. マテリアル領域(先端材料開発/リサイクル関連分野)
  • 4. インダストリー領域(半導体/量子センサーなどインダストリー全般の関連分野)

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

そして 2023 年4月にグローバル・ブレイン株式会社(以下、グローバル・ブレインという)とともに CVC を設立しました。実際のファンドの名称は『 Shimadzu Future Innovation Fund 』で、『 Shimadzu FIF 』という略称で呼ばれています。

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

運用総額は 50 億円です。運用期間は 10 年間ですが、5年で投資を終えるつもりです。投資対象ステージ * はシード・アーリーを中心にミドル以降にも対応すると掲げていますが、やはり対象となるのはシード・アーリーとなります。理由は2つあり、1つは島津製作所の製品は研究開発に使われることが多く、シード・アーリーのスタートアップのお役に立てるだろうと考えていること。もう1つは、財務リターンの観点で考えると、ミドル以降は高い倍率は出にくいためです。

*ステージ(スタートアップの成長ステージ):スタートアップを成長段階で区分したもので「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」で表される。

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

画像は Shimadzu FIF の全体像です。 Shimadzu FIF という器があって、グローバル・ブレインと島津製作所が共同で運営しています。グローバル・ブレインには幅広いコネクションを使った情報収集と、投資家目線での出資検討評価・判断、出資ごとのモニタリングなどをお手伝いいただいています。

Shimadzu FIF からスタートアップに出資をして M&A あるいは IPO(新規上場株式) でリターンを得るという仕組みで運用しています。

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

出資領域はヘルスケア・グリーン・マテリアル・インダストリーで、それぞれの分野におけるディープテックを研究開発しているスタートアップであれば出資の検討が可能です。そしてグローバル・ブレインと島津製作所それぞれの担当者が情報共有しながら連携しています。

島津製作所社外の組織として Plug and Play や VC(ベンチャーキャピタル) 、銀行、NSIC(野村SRIイノベーション・センター)などとも連携し、社内組織からも案件が上がってきたら投資検討に入っていきます。通常であれば執行役員会で協議しますが、島津製作所では CVC 専用の決裁ルートを作っており、一定の金額までであれば CTO と経営戦略担当が最終意思決定に進めるか判断をします。最終意思決定はグローバル・ブレインが行いますが、島津製作所としての意思決定はこの2名の判断が取れれば可能です。一定金額を超える場合、社長、 CTO 、 CFO 、経営戦略担当の判断が必要になります。

このような体制を作り、出資の決裁を迅速化し、最短であれば 1.5 か月、平均2〜3か月で出資まで持っていけるような仕組みになっています。

CVC全体のスキーム

まずはスタートアップを探索し、財務面・事業面の評価に加え協業検討や PoC( Proof of Concept:概念実証)ができるかなども評価します。この評価をクリアしたスタートアップに出資をするという流れです。島津製作所の場合、投資先となるのは技術開発型の企業が多いので、協業検討で実験をすると時間がかかってしまうため、出資前の協業検討に関しては軽くおさえておき、出資をした後に本格的な協業検討を行います。資金調達中のスタートアップはとても忙しく、その中で実験などを行うのは難しく負担をかけてしまうため、出資前後で PoC に強弱をつけています。

そしてグローバル・ブレインのほうで出資先の管理やモニタリングを行います。

最終的には戦略リターンと財務リターンを見ることになります。 CVC としては戦略リターンが優先で、 M&A や技術の獲得、共同開発などが戦略リターンに該当すると思われます。出資したスタートアップの価値が最大化できるのであれば島津製作所が M&A をすることだけが選択肢ではありません。

また、 財務リターンも重視しています。

探索後、評価面談に至る確率は 10 % ほどで、出資に至るのは現状1% 以下です。1件あたりの出資金額は 5,000 万円から2億円の範囲が多いです。

次のページ:島津製作所の CVC の取り組みを具体的に紹介します