• 配信日:2024.03.21
  • 更新日:2024.04.18

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島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

CVC設立までの島津製作所の取り組み


ここからは CVC に対して島津製作所内でどのような取り組みを進めてきたのか、具体的に紹介していきます。

CVC設立準備とスケジュール

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

CVC 設立までのスケジュールをまとめたのが上の画像です。

2022 年5月にCVC 設立に着手しました。同年7月から CVC の方式(単独でやるのか二人組合でやるのか)を検討し、二人組合で行う方針になるのに合わせて委託先の選定と CVC 設立の目的の議論を進めてきました。この期間が3〜4カ月ほど。その後、執行役員会や取締役会で 12 月に決議されたという流れです。

当時の苦労として、 VC や出資に関する知識が社内になかったため、基本知識を身に付けることから始める必要がありました。また 50 億円という金額は決して安い額ではないため、預ける VC の見極めや、 KPI の決定にも時間を要しました。

2023 年1月からファンドの契約や出資戦略の詳細検討、理財部と法務部の設立準備を開始。先述の通り、設立は 2023 年4月となりました。設立準備期間で苦労したこととして、事業会社と VC の財務や法務の考え方に差異があり、用語が伝わらないなどの状況を解消する必要があったことが挙げられます。あとは出資戦略と中期経営計画の擦り合わせも苦労した点です。中期経営計画も 2023 年の4月に出来上がるため、それが確定するまで出資戦略も決まらず度々修正することがありました。

大変なことは多々ありましたが、無事 CVC 設立に至りました。私自身、出向していた時期に CVC に関する知見を得ていたことで、グローバル・ブレインと円滑にコミュニケーションを取ることができたと感じています。

出向していた際に学んだことは、主に3つあります。

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

  • 1. ソーシングから DD 、投資契約と実行、出資の支援、追加出資までの一連の VC 業務。
  • 2. 複数社の起業支援や社外取締役の経験を通じて知ったスタートアップの苦労
  • 3. ハンズオンする VC の大切さ(資金、経営、組織設備、事業開発などでしっかり支援できる VC か否か)

3つ目についてはもちろん、会社の株式を切り売りして VC の出資を受け入れるべきかという議論はあると思います。しかし見方を変えると、自社事業に魅力を感じて応援してくれる VC ならば心強い存在になるでしょう。

事業会社によるスタートアップの出資種類

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

島津製作所は本体出資 * を年に1〜2回やっていましたし、共同研究も多数行っています。そうした中で、なぜ CVC を作らなければならないのかという議論が発生しました。本体出資で十分ではないかという意見もありましたが、出資の方法によって長所と短所があります。

本体出資の長所はファンドの期限がないためスタートアップと長期的な連携が可能です。しかし、現状として島津製作所では出資をした後のモニタリングができていなかったり、出資を取締役会に通すまで時間がかかったりなどの課題がありました。

また 2018 年に1社だけに対して LP 出資 ** を行ったことがあります。 LP 出資は情報収集の手段として有効ではあるのですが、自社の思惑と異なる領域まで出資対象となってしまうという懸念点がありました。

それぞれの課題を解決するべく、 CVC 出資を行うことになったという背景があります。 VC に関する知見があるのが私しかいなかったため、グローバル・ブレインに参画してもらう必要があり、その分のコストはかかってしまうのですが、 VC が持つノウハウやネットワークが活用できるという長所があります。

*本体出資=組合(ファンド)という形態をとらずに自社で出資をおこなうこと。
**LP 出資=ファンドを通してベンチャー企業への出資を行うこと。投資にかかる直接の業務の執行をせず、責任範囲が有限であることが特徴。

Shimadzu FIFにおける実務

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

次に Shimadzu FIF における実務を紹介しますが、概ね他社の CVC に近い流れだと思われます。

まず CVC の基礎となる活動方針をしっかり作り込みます。中期経営計画とロードマップを基に作りますが、これらは日々変わっていくものです。そのため経営層や事業部と1〜2か月に1回は議論しながら活動方針を更新しています。このような議論の中で経営層と信頼関係を構築することも重要だと認識しています。

ソーシング(投資先の探索)に関しては、グローバル・ブレインと島津製作所の双方で案件を持ち寄り、毎週会議を通してどの案件を先に進めるか検討し、興味のある案件に関しては面談を実施します。

案件がある程度進んだらグローバル・ブレインが主に DD( Due Deligence:企業の買収や事業投資を行う際、将来的にリスクとなる可能性があることをあらかじめ把握し、適切な買収、投資判断を下すべく、対象企業や事業の実態を調査すること)を行い、島津製作所は協業や技術を中心に検討します。また PoC も円滑に進められるように、初期検討段階から関連部門の部門長がオブザーバー(観察者)として参加。最終の投資委員会まで会議が3つあり、部長クラス、役員クラス、グローバル・ブレインの投資委員会で検討し、最短で 1.5 か月で出資するという流れです。

VCとCVCのキャピタリストの違い

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

VC と CVC のキャピタリスト(投資担当者)の違いをまとめたのが上の図です。

VC のキャピタリストはコンサルや金融、事業会社など、さまざまな経歴をお持ちの方が多くいます。一方、事業会社の CVC のキャピタリストの場合は新卒以来、同一職種あるいは中途でも類似業種で似たような職種の方が多く見られます。

人材要件としては、 VC は投資してなんぼであるため、案件発掘をして投資実行できる人が求められます。 CVC の場合は加えて事業シナジーが考えられて、各部門に人脈がある人が求められる傾向があります。

社内連携の観点で見ると、小〜中規模の VC の場合、上司の判断を仰ぐあるいは単独で動くなど連携は少なめです。 CVC は社内連携が多岐(たき)にわたります。これだけ見ると CVC のキャピタリストの確保や育成は難しいことがお分かりいただけるでしょう。個人的には中途で採用することは難しく、社内育成するしかないと考えています。

島津製作所のCVC運営に関する今後の取り組み


島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

最後に島津製作所の CVC 運営に関する今後の取り組みについてお伝えします。

1つ目は適切な KPI の設定です。今年度は件数を KPI にしましたが、それが KPI として正しいのか考え、取締役会と議論した結果、1年ごとに見直すことになりました。引き続き適切かつ定量的な KPI を模索し続けます。

2つ目は協業の成果を出すことです。協業成果は短期・中期・長期に分けて計画立案しています。長期だけだと経営層は納得してくれないと思いますし、協力者も減ってしまうと思われるので、半年〜1年以内には小さくても成果を出すことが理想です。

3つ目は財務リターンを狙うことです。 CVC の資金は預かったお金であるため、多額のお金を減損させれば次の投資機会を失ってしまう可能性があります。また財務リターンを出すことで協業するスタートアップ側に変化があり、協業できなくなったときの保険にもなります。そのため、戦略リターンだけでなく財務リターンも狙うことを考えています。

4つ目は人材育成。 CVC 活動を通じてキャピタリストや経営人材の育成を行いつつ、人材ローテーションも行なっていく予定です。

講演者紹介

島津製作所のCVCの取り組み〜出資によるスタートアップ連携〜

橋爪 宣弥 氏
株式会社島津製作所 基盤技術研究所 新事業開発室 CVC グループ グループ長

【略歴】
2006 年、株式会社島津製作所に入社。基盤技術研究所に所属し、医療機器の研究開発に従事。
2014 年に基盤技術研究所に新設された新事業開発室に異動し、ヘルスケアや医療を中心に新規事業の企画立案、排尿量測定システム Urina(ユリーナ)等の複数プロジェクトのリーダーとして開発や臨床研究を推進。
2020 年1月に京都大学イノベーションキャピタル株式会社へ出向し、キャピタリストとして大学発スタートアップの起業支援や出資、出資後のハンズオンを経験。
2023 年1月に原籍部門へ戻り CVC の設立準備を進め、2023 年4月には CVC グループを立ち上げてグループ長に就任。

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