- 配信日:2021.02.22
- 更新日:2021.09.28
オープンイノベーション Open with Linkers
2021年 製造業動向予測② ~大手コンサルティングファーム3社に聞く〜
2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受け、私たちの生活は一変しました。 「3密」を避けた新たな生活様式の浸透とともに、各企業は在宅勤務をはじめとした様々な対策を進めながら、企業としての在り方を再定義してきたように思います。
この度リンカーズは、大手コンサルティングファーム3社をお招きし、新型コロナウイルスが製造業に与えた変化や、2021年の動向予想、特に自動車産業と化学産業の変化をテーマにしたWebセミナーを実施いたしました。
●登壇者
株式会社野村総合研究所 顧問 村田 佳生 様 ★記事はこちら
株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 山本 和一 様
A.T.カーニー株式会社 マネージャー 谷村 勇平 様 ★記事はこちら
本記事では、株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 山本 和一 様の講演をご紹介いたします。
1.主語を「エンドユーザー」に据えて自動車産業を考える
2. コロナ禍が与えた「移動」への影響
3.エンドユーザーと繋がる・エンドユーザーを知る
4. 価値起点での自動車作り
5. 多様な方法での移動の提供
主語を「エンドユーザー」に据えて自動車産業を考える
山本様:私からは「自動車産業」の観点から、本日のテーマについてお話させていただきたいと思います。
そもそも「自動車とは何か」と考えた時、エンドユーザーの視点に立ってみると、自動車は「移動の手段」、更に正確に言えば「複数ある移動手段の1つ」でしかありません。
例えば「A地点からB地点に行きたい」と考えたときに、人は自動車以外に、バス、鉄道、自転車、バイク、徒歩、飛行機等、様々な移動手段を組み合わせて移動をしています。
つまり、自動車産業は「自動車」が「数ある移動手段の1つに過ぎない」と認識し、その上で、エンドユーザーが「どのように“移動”をしたいと思っているのか」を考えていくことが重要です。
下のスライドにもあるように、これからは主語を「自動車産業」ではなく「エンドユーザー」に据えて考えていくことがポイントになるでしょう。
そう考えた時に、エンドユーザーはどのような「移動」をしたいのか、それ以前にエンドユーザーはどのような「生活」をしているのか、を考えることが次のテーマになってきます。
「生活」の変化が「移動」の多様化を生む
2020年より新型コロナが流行し、みなさんの生活も大きく変化したと思います。そしてコロナの流行がおさまった後に以前と同じような生活が戻るかというと、そうではないでしょう。
そこで、「ポストコロナ」の生活スタイルを考えてみることが、まず最初のポイントになります。
以下に「ポストコロナ」の生活変化について、10項目挙げてみました。
このセミナーもそうであるように、みなさんは「ウェビナー」や「リモートワーク」といった「オンラインサービス」に接する機会が増えたのではないでしょうか。働き方が変容し、在宅勤務をしたり、Zoomなどでオンラインミーティングをするようになりました。
またECサイトやネットショッピングの利用が増え、「Uber Eats」の利用可能地域が増加し、医療など遠隔でも受けられるサービスも広がっていると思います。このようにオンライン化が進み、且つそれが生活に根付いていく可能性が高いことは、大きな変化かと思います。
また、自宅で仕事ができるようになり、在宅で仕事を続けていると、疲れて仕事もスタックすることがあるでしょう。オフィスであれば、会社を抜けて散歩をすることも難しいですが、自宅であれば、少しリフレッシュに気分転換することも可能です。
これはどういうことかというと、「仕事」と「日常」の境目を「融通させることができる」ということです。仕事とプライベートの切り替えを自分でコントロールする難しさがあるとはいえ、自分がしたいときに仕事をし、休みたいときに休めるようになっています。
一方で、この1年間は「巣ごもり生活」も経験してきたかと思います。すると、健康維持のために散歩したり、QoLを高めるための外出、もしくは人との交流の重要性に気づくことにもなりました。
またリモートワークが増えると、長期休暇が取得しやすくなり、お盆や正月といった時期以外でも仕事を休むことへのハードルは下がりました。
加えて、在宅勤務になると長時間家族と一緒の空間にいることになり、1人の時間や空間を確保することも大事になります。また社会貢献や環境問題への意識や行動に変化があった人も多くいます。そして、このような意識の変化を踏まえ、住む場所や生活の拠点を郊外や地方に求める人の動きも見えてきました。
これらの「変化」をまとめると、「リアルでないといけないと盲目的に信じていた」ことが、「合理的にデジタルやバーチャルでも問題がないと気づいた」ということではないかと思います。そう考えると、コロナ禍が去った後も、便利なものはこれからも継続して残っていくでしょう。(下に続く)
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コロナ禍が与えた「移動」への影響
そう考えたとき、先に上げたような「変化」は「移動の仕方」にも当然影響が及ぶと予想できます。では、具体的にどのような影響があるかを考えてみます。
例えば、EV(電気自動車)だと「航続距離が長く、頻繁に充電しないで済む、充電を心配しなくても良い」というのは1つの「価値」です。
またカーシェアリングの場合だと「前に利用していた人の臭いが残っておらず快適に利用できる」、車両本体であれば「窓がクリア且つ太陽光を遮断し、日差しが強くても外の景色を楽しめる、日焼けもしない」といったことも「価値」になります。
これからは、この「“価値”を実現するためにどんな技術や技能開発が必要なのか」という思考プロセス(「はじめに“技術”ありき」ではない思考回路)で考えることが必要です。
また、ひと口に「自動車」といっても、これからは様々な形をした自動車が登場すると思います。「四輪」なのか「二輪」なのかの違いがあったり、自動運転が主流になれば車内空間の使い方が変わってきたり、貨物と人を同時に輸送したり、「空飛ぶクルマ」も出てくるかもしれません。
多様な「移動シーン」や「価値」を考えると、「これまでの自動車」の枠にとらわれない、多種多様多用途な「自動車」が出てくるでしょう。
多様な方法での移動の提供
では、多様な「自動車」をどのように提供するか、という点についても考えてみます。
自動車の提供については「利便性」と「価格」のバランスを考慮して、いろいろな方法が考えられます。
「価格」は安いに越したことはないと思いますが、「利便性」に関して言うと、利用する人によって「いつでも乗れる」ことが重要なのか、「どこでも乗れる」ことが重要なのか、それとも「占有できる」ことが重要なのか、3つの要素が存在します。
その3つの利便性の要素をすべて満たす(ただし価格が最も高い)のが、「オーナーカー(自家用車)」であり自動車の「販売」となります。その真逆に価格が最も安い(ただし利便性が最も低い)「路線バス」です。
また最下部「オーナーカー」と最上部「路線バス」の間には、従来から「タクシー」や「レンタカー」がありますが、昨今は、その「タクシー」と「レンタカー」の間も更に細かく要素満たす移動の提供方法が出てきました。
具体例として、スライドにもありますように、「自動車サブスクリプション」「ライドヘイリング」等従来はなかった新しいサービスが生み出され、試されています。そして、その一部はすでに市場に浸透し始めている、というのが昨今の自動車産業を取り巻く動きです。
さて、ここまで「これからの自動車産業は何を考えていくべきか」についてお話をさせていただきました。これは「今あるマーケットの中でどのように競争していくのか」という観点での話です。
しかし、国内のマーケットに限定して考えてみると、人口減少であり、非常に厳しい市場になることが予想されます。そうならば「移動したい」という需要を増やす取り組みを行うのも良いのではないでしょうか。この点について話をしたいと思います。
例えば「自動車に乗ってでかけたい」と思ってもらえる魅力的な行き先を提案できるか、といった課題につながってくると思います。
日本は北から南まで、自然・産業・史跡等様々な魅力を持った土地があります。こういった日本全国に眠っている観光資源を掘り起こし、出かけてみたい行き先を作り上げることが必要ではないでしょうか。
その時、行ってみたいと思わせるためには、眠っている観光資源をどのように活かすのか考えることが必要になります。観光資源を活かし「癒やし」や「学び」と行った先での過ごし方やエンドユーザーに提案していくことで「移動需要」を創出していくことも可能でしょう。
「生活」の変化とともに「移動」も変化・多様化しました。これからは「エンドユーザー起点での自動車作り・移動の提供」、それに加え「移動需要の規模を増やす取り組み」が重要になります。
需要を増やすためには、人々が移動したくなる工夫が必要になってきますし、エンドユーザーにとっての「嬉しさ」を提供することが必要です。ただ、需要を増やすことが出来れば、産業も活性化することが出来ます。
こういったことを、2021年に限らず将来に渡って取り組んでいくことが重要だと考えています。
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