• 配信日:2024.04.12
  • 更新日:2024.04.12

オープンイノベーション Open with Linkers

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

この記事は、リンカーズ株式会社(以下、弊社)が主催した Web セミナー『ケミカル・マテリアルリサイクルの最前線~材料別の最新技術から注目のアップサイクル、意外なリサイクル材料の使い道まで~』のお話を書き起こしたものです。

弊社では、ケミカル・マテリアルリサイクル領域において、材料別のリサイクルプロセス技術と具体的な用途(転用先)に関する最新事例を幅広く調査した「ケミカル / マテリアル リサイクル技術最前線マルチクライアント調査レポート」を作成しています。このレポートの中からリサイクルにまつわる注目事例を 16 個紹介しました。

セミナーで使用した講演資料を記事の最後の方で無料ダウンロードいただけます。講演資料もあわせてぜひご覧ください。

リサイクルの定義


マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

まず前提として、今回お話をするリサイクルの定義について説明します。

廃棄物対策と言えば、Reuse(リユース)・Reduce(リデュース)・Recycle(リサイクル)の3R がよく知られています。これに昨今は Renewable(リニューアブル:再生可能材料への置き換え※紙ストロー化など) を加えた4R を環境省は推し進めようとしています。このような流れの中で、リサイクルは上図中の3番目の工程に該当し、廃棄物などを回収・再利用するステージを指しています。同じく3番目の工程には、排出された炭素( CO2 等)の回収・再利用も含まれるのですが、今回はそちらではなく、あくまで廃棄されたものを物質として再生・利用するという意味でのリサイクルを対象としております。

世界と日本のリサイクル事情


本題に入る前に、世界のリサイクル事情を簡単におさらいしていきます。

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

画像は OECD (経済協力開発機構)加盟国のごみリサイクルランキングを表したグラフです。 2015 年時点の世界の平均リサイクル率は、およそ 15 % でした。対して日本は 2020 年時点で 20 % となっており、ランキング上位には入っていません。日本は世界の平均よりはリサイクル率が高いものの、目立ってリサイクルが進んでいるかと言われるとそうではないというのが実情です。

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

更に、日本のリサイクルに絞って見ていきます。リサイクル率は、リサイクルする物質によっても異なりますが、特に問題となることの多いプラスチックに限定すると、 2019 年の段階で実質的なリサイクル率は、わずか 25% となっています。日本はサーマルリサイクル(廃棄物から熱エネルギーを回収すること)をリサイクルの1つと認識していますが、こちらは海外では認められていないため、実質的なリサイクル率は、ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルを合わせた分のみになります。
今後、日本がリサイクル推進国として世界で認められるには、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの推進が必要不可欠でしょう。

リサイクルとアップサイクルの違い


マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

それでは次に、今回対象としているリサイクルの具体的な内容についてお話しします。
先にお伝えした通り、サーマルリサイクルについては、海外ではリサイクルと認められないため、今回は対象外としております。
逆に今回、厳密にはリサイクルではないのですが、4R を実現する新たな概念として注目を集めているアップサイクルを対象に含めました。

・マテリアルリサイクル
廃棄物などを原材料として、物質を分解/裁断し、元の物質と同じ素材のまま再利用すること。

・ケミカルリサイクル
マテリアルリサイクルのうち、廃棄物などを科学的に処理して原料に戻したうえで再利用すること。

・バイオリサイクル
ケミカルリサイクルの手段としてバイオを活用すること。

・アップサイクル
リサイクルの中には入らないものの、本来捨てられるはずの廃棄物に新しい価値を与えて再生すること。

なお、これらリサイクルの各種定義と使い分け方は、企業や団体によって微妙に異なります。そのため、さまざまなリサイクルの解釈に触れてみた結果、概念としては、経済産業省が発表した上の模式図が1番わかりやすく、個人(リンカーズ技術リサーチャー石田)的には納得感がありました。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルは、どちらも最終製品を材料や原料レベルに分解して再び製品を作るループを形成するものですが、戻る段階が異なると理解できます。ではアップサイクルはどう解釈したら良いのかというと、こちらは正確にはリサイクルではなく、ループから外れて全く異なるものになります。ケミカルリサイクルに似ているともいえますが、先ほど述べた通りケミカルリサイクルは元の製品の原料に戻していくループの中にありますので、転用先が元の製品とは異なる価値を持つものになるとしたら、それはアップサイクルに当てはまるのだと認識しています。

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

今回紹介するリサイクル対象原料と技術領域をまとめたものが上の画像です。対象原料は多岐(たき)にわたるため全てを網羅(もうら)することは難しい状況です。そのため、大きく分けて以下の4つに分類しています。

  • 1. 樹脂(プラスチック)
  • 2. 金属
  • 3. 紙/布/繊維
  • 4. 食品/バイオマス

技術領域としては、以下の3つです。

  • 1. マテリアルリサイクル
  • 2. ケミカルリサイクル
  • 3. アップサイクル

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

リサイクルの注目事例16選


リサイクルにまつわる注目技術を、対象原料および技術領域別に 16 種類紹介します。

樹脂(プラスチック)×マテリアルリサイクルの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

まずは樹脂(プラスチック)を原料に、マテリアルリサイクルする技術事例を紹介します。

PVC Separation Pty Ltd の事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

PVC Separation Pty Ltd というオーストラリアのベンチャー企業では、ポリ塩化ビニルを対象に、複数のポリマーが重なっている物質でも分離できる技術を開発しています。2つの溶媒を用いることで、それぞれのポリマーに分離することが可能です。ポリ塩化ビニル以外にも、ポリエステルや紙ラミネートなどを含む物質でも分離できます。

リサイクルに関する新興企業がオーストラリアで少しずつ増えており、特許を取った技術も増加している印象を受けます。これまでリサイクル領域は欧州が先行しているイメージでしたが、オーストラリアでも盛んに取り組まれているようです。

株式会社ブライトイノベーションの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

リサイクルの領域では、廃棄物を正確かつ迅速に分別する技術を研究している企業が多数あります。株式会社ブライトイノベーションという日本の企業もその一つです。この企業では、 AI を活用して画像情報から廃棄物の色・形・種類などを認識し、学習した情報と瞬時に照合しながら廃プラスチックを分類する技術を開発しています。

金属×マテリアルリサイクルの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

次に、金属を対象原料としたマテリアルリサイクルの事例を紹介します。

n2s Ltd.の事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

n2s Ltd. というイギリスのベンチャー企業では、微生物を使って電子機器や回路基板から貴金属を抽出する技術を研究しています。この技術により、好酸性の細菌を使ってプリント基板から複数の金属を抽出することに成功しました。特に銅は、利用可能な 75.8 % のうち、 99 % 以上の純度の銅箔として回収できたと発表されています。銅以外の金属でも回収が可能とのことです。

化学的手法だけでなく、生物学的手法で金属をリサイクルする技術の研究も進んでいます。先の「リサイクルの種類」で述べた「バイオリサイクル」に当てはまる技術です。

Daimler AGの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

金属に関していうと、電池のリサイクルの研究も各企業で取り組まれています。昨今目立っているのは、欧州の大手自動車メーカーが古いバッテリーを回収・再利用するプロジェクトを進めていることです。 Daimler AG というドイツの企業もその一つ。電気自動車に使われていた古いリチウムイオンバッテリーを再利用するためのリサイクル施設を建設しました。施設内では湿式製錬プロセスによるクローズドループリサイクルを進めています。

紙/布/繊維×マテリアルリサイクルの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

続いては紙・布・繊維を対象原料としたマテリアルリサイクルの事例を紹介します。

Södra Skogsägarnaの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

Södra Skogsägarna というスウェーデンの企業では、古いベッドシーツ・タオル・衣類などといった消費後の繊維廃棄物と木材を組み合わせて高品質の繊維パルプを開発しました。廃棄物から綿とポリエステルを分離させ、綿に含まれるセルロースと木材のセルロースを組み合わせてパルプにします。

Catack-Hの事例

マテリアル/ケミカルリサイクルとアップサイクルの注目事例16選

Catack-H という韓国の企業では、超臨界流体を使って、 CEDP( Carbon Fiber Reinforced Plastics :炭素繊維強化プラスチック)の廃材から、本来の性質をそのままに炭素繊維を再生する技術を開発しました。

同じ技術を研究している企業は、回収する炭素繊維のパーセンテージの大きさで競い合っている印象です。

韓国は冒頭で紹介した世界のリサイクル率ランキングでもアジアで唯一上位に入っており、リサイクルに対する意識が高く、取り組む企業も多いように感じられます。

次のページ:引き続き、さまざまなケースの事例を紹介します。