- 配信日:2023.10.12
- 更新日:2024.06.24
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フードサイエンスの最新技術と事例20選
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『フードサイエンスの進化~食品品質向上の最新技術と事例』のお話を編集したものです。
農林水産省 農林水産研究所 客員研究員の大野 泰敬 (おおの・やすのり)様より、フードサイエンスの最新技術と事例 20 選をお話しいただきました。
最新のフードサイエンス/フードテックについて知りたい方は、ぜひお読みください。
◆目次
・フードサイエンスのトレンド
・世界で注目されているフードサイエンス/フードテック企業の事例
・今注目したい腸内細菌など身体によいフードサイエンス/フードテック企業の事例
・日本で注目したいフードサイエンス/フードテック企業の事例
・フードサイエンス/フードテックに取り組むならパートナー選びが重要
フードサイエンスのトレンド
まずは、フードサイエンス領域について、直近の市場状況のトレンド分析を紹介していきます。5つに分類したフードサイエンスの領域を説明します。
フードサイエンス領域1:食品化学
食品化学のトレンドは、高い栄養素・付加価値・健康・美容に良い影響を与えるスーパーフードが多い傾向でした。また、環境や健康に優しいキーワードでは、新しい食品添加物の開発・研究がありました。コロナ禍で食品化学をはじめ、食領域の考え・消費動向が大きく変わっているのです。
フードサイエンス領域2:食品微生物学
今年は腸内環境に関連する新しいサービスや研究が多く、腸内フローラを改善し健康への影響を研究する企業のプレスリリースも増えた印象です。
また、食品の安全性確保のための新しい方法と技術開発、微生物による食品の発酵、発酵食品の人気も高まっています。製造プロセスの改善研究が進みました。また、微生物の抗生物質耐性がどう影響するか、コロナの研究も進んでいます。
フードサイエンス領域3:食品工学
食品工学の領域として持続可能な食品生産では、環境に優しい、新しい食品生産方法の開発・研究が見られました。日本では食品廃棄物の再利用など、エコフィードを含めた食品の副産物、廃棄物の有効活用が多い印象です。
例えば、3D プリントを使った食品、セルロースナノファイバーといった食品の品質と安全性を改善するためのナノテクノロジーがあります。また、代替タンパク質として昆虫や植物ベースの研究も盛んでした。
フードサイエンス領域4:食品栄養学
食品栄養学では、個々のライフスタイルに合わせた栄養食品の展開をするパーソナライズド栄養、腸内フローラが栄養吸収と健康にどのように影響するか、機能性食品や栄養と免疫力に関する内容、食事療法などの研究・リリースがありました。
フードサイエンス領域5:感覚科学
感覚科学では、食品の見た目・香り・味・触感・感覚など、全体的な食事体験がどのように人に影響するのか、脳や味覚の研究も多くありました。食事体験、食品の好みの研究などの感覚科学も、通信会社含めて研究が活発でした。
トレンドをまとめると、コロナ・付加価値のある新しい栄養素・完全栄養食・持続可能・代替などのキーワードが目立った印象です。
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「味を数値化するフードテック」について、味の数値化に取り組みつづけて 20 年の、株式会社味香り戦略研究所 主席研究員の髙橋 貴洋(たかはし たかひろ)様に、弊社セミナーでお話しいただき、その内容をレポート記事にいたしました。記事では、おいしさを構成する要素や、味の分析事例、味分析から生まれたサービス事例などを紹介しています。感覚科学に興味をお持ちの方は、こちらの記事もぜひご覧ください。
世界で注目されているフードサイエンス/フードテック企業の事例
世界で注目されているフードサイエンス領域の企業の一部を紹介します。
フードサイエンス事例1:zbiotics
(画像引用元:zbiotics ウェブサイト)
まずは、zbiotics です。二日酔いの治療薬として注目の飲料を展開しています。飲むとアルコールから出る有害な副産物を分解する酵素を生成します。日本の納豆に存在する自然なプロバイオティクスの細菌を起点にし、遺伝子工学を活かしていることが特徴です。
フードサイエンス事例2:zume
(画像引用元:zume ウェブサイト)
zume は、プラスチックの代替化を図る企業として、最も注目されています。
同社はどのようなパッケージにニーズがあるかユーザー調査を行い、満たすための設計、必要な材料科学、耐えられる材料を追求し、バイオマスを原料としたパッケージを作りました。
プラスチックを作って捨てる過去 50 年間のサイクルを変えるために全力で取り組み、多くの調査機関から、ビジネスとして伸びる可能性が高い、と注目されています。
フードサイエンス事例3:EVERY
(画像引用元:EVERY ウェブサイト)
EVERY は動物由来のタンパク質を使わない製造に取り組んでいます。同社の CEO が、USDA で働いていたとき、卵の生産に 636 ガロンと膨大な量の水が必要なこと、1時間に100 万匹以上の動物が殺されているなど、畜産業などの温室効果ガスの排出量に驚愕したため、動物を使わないタンパク質を作りたいと創立しました。
酵母の発酵でタンパク質を生成し、実際の卵と変わらないくらい美味しいと好評です。パン・お菓子などに応用できます。
フードサイエンス事例4:Meati
(画像引用元:Meati ウェブサイト)
Meati は植物ベースの肉の代替品を製造する会社です。特殊な菌系体を使って、本物の牛肉に近い食感・風味を実現しています。原材料も少なく済むうえ、食物繊維が豊富でコレステロール、抗生物質、ホルモンも一切含まれません。さらに、グルテンフリーかつ全ての製品が非遺伝子組み換えです。
食品化学とテクノロジーを使って持続可能な健康的な食品メーカーになる、と注目されている企業です。
今注目したい腸内細菌など身体によいフードサイエンス/フードテック企業の事例
フードサイエンス事例5:Vedanta Biosciences
(画像引用元:Vedanta Biosciences ウェブサイト)
Vedanta Biosciences は、微生物の群衆の役割を利用して新しい治療法を開発しています。微生物の組み合わせで人によいものを作る動きが海外や国内でも見られています。
フードサイエンス事例6:bacterico
bacterico は微生物の力を使い健康改善の研究開発に取り組んでいます。例えば母親の腸内細菌が子どもの腸内細菌に良い影響を与える、という研究テーマで、腸内フローラケアのギフト提供サービスを展開しています。
フードサイエンス事例7:カルビー株式会社
カルビー株式会社は近年、国内の腸内細菌研究機関であるメタジェンと、腸内フローラの専門家の株式会社サイキンソーとの共同プログラムとして、ボディグラノーラを販売しました。自宅で腸内フローラ検査キットを使って返送すると、4〜6週間ほどで自分の腸内細菌に合ったグラノーラが届くサービスです。価格は1万円ほどです。
地域にも、腸内細菌や身体の健康、微生物の状態から新しいサービスを提供する企業が増えています。
フードサイエンス事例8:株式会社テクノスルガ・ラボ
静岡県の株式会社テクノスルガ・ラボの大きな特徴は、トータルサポートです。微生物・腸内細菌の試験の分析、理化学分析、両方に展開できます。専門家も機材も揃えており、国内でも珍しいでしょう。
フードサイエンス事例9:Nature’s Fynd
(画像引用元:Nature’s Fynd ウェブサイト)
Nature’s Fynd は数百年前の火山で発見された微生物から、20 種類のアミノ酸を含む「 FY 」というタンパク質源を作っています。太陽・雨・土壌をほとんど必要とせずに非常に少ないエネルギーで作ることができ、環境負荷が低いです。同社は8兆人を世界の食糧危機から救いたい思いで、事業を展開しています。業界からも高い評価を得ており、アメリカで非常に話題の商品です。
2030 年以降、食料の需要と供給のバランスが崩れる可能性が高い中で、役割を発揮し業界をリードする一社となるでしょう。
フードサイエンス事例10:Upside Foods
(画像引用元:Upside Foods ウェブサイト)
Upside Foods は、動物を殺さずに細胞を取り、栄養豊富な環境で成長させて、本物の肉製造を目指しています。伝統的な畜産業よりも少ないリソースで待機中の温室効果ガスを大幅に削減できます。また、本物の肉と比べて栄養素・テクスチャー・味で違いを感じません。
培養肉は FDA から安全性が認証されており、一部サンフランシスコのレストランでも販売されています。
次のページでは、フードサイエンス事例 11 ~ 20 を紹介します。