- 配信日:2023.09.28
- 更新日:2024.06.24
オープンイノベーション Open with Linkers
新規事業成功のカギ~横河電機のオープンイノベーションの考え方~
A VUCA WORLD ではスピーディな意思決定が求められる
現在の世界は A VUCA WORLD と呼ばれており、指数関数的変化に加えて Bigbang Destractive が起きています。
本来市場が拡大する際、最初にイノベーターがいて、次にアーリーアダプターが参入し、この段階にティッピングポイントがあります。このポイントを超えると、アーリーマジョリティが参入して一気にビジネスが立ち上がるという普及モデルがあり、これは今でも有効なモデルです。しかし最近は、イノベーターはいるのですが、ビジネスは一気に立ち上がり、すぐに終わるという曲線を描きます。すなわち、市場が終わるスピードが急激に早まったため、経営者は意思決定を早くしなければなりません。
そこで意思決定や行動のスピードアップのためにオープンイノベーションとクローズドイノベーションが重要になるのですが、多くの企業が必ず悩まされるのが NIH ( Not Invent Here ) Syndrome です。
「自分たちで商品・サービスを開発する」という文化が強く根付き、この文化にこだわってしまうと開発に当然時間がかかります。そのため、まず何を自分たちで作って、何を外から買ってくるかをより明確にする必要があります。そこで重要になるのがオープンイノベーションです。何を作って何を買うかという判断は非常に簡単で、自分たちが作って競合との差別化や特許などの価値を生むのであれば自分たちで作るべきでしょう。そういった価値が自分たちで作っても生まれないのであれば外から買うという仕分けをするのが良いと思います。
一方、自社のコア・コンピタンス(強み)など内部リソースを使うことができる「 Type of Star Seeker 」という概念もあります。さらにオープンイノベーションにおいて、内部で利活用されていない知財や技術を外部企業にライセンスやカーブアウトすることもできます。 メリットは独自の得意分野の強みに基づくので安心感があり、統制や機密性を担保可能なことです。一方、市場シーズ & ニーズのアンマッチが生じる場合があり、手前味噌なプランで取り組むと、市場に受け入れられません。あるいはリニアなイノベーションになりがちです。つまり、成功してもビジネスサイズが小さいという憂き目に合いがちなのです。
もう1つの概念「 Type of Moonshot 」は、非連続ですが、市場や顧客目線でイノベーションを推進し、外部リソースをパートナリングなどで活用するということが定義になります。 顧客目線や市場ニーズに基づいていて、外部リソースの有効活用で上市のスピードが向上する一方で、機密性や知財保護マネジメントが難しいという面があります。
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R & D のこれから
R & D ( Research & Development )を、将来 C & D にしていかなければならないと思っています。 C とは、 Connected のことです。 Connected Research & Development で R がなくなるわけではないのですが、 R & D から C & D への変化が求められます。
また、マーケティング用語に「 Goods-DL( Dominant Logic )」というものがあります。これはプロダクトアウトの時代にモノそのものが価値を持っていた時代のことです。現在は「 Service-DL 」に移っています。サービスを通して顧客体験を最大化する時代です。
しかし「 Service-DL 」も次の時代に移行しつつあります。それが「 Community-DL 」です。さまざまな価値をコミュニティ全体の価値として最大化していく時代になっていることを、私たちは頭の中に入れておかねばなりません。特に System of System という考え方や、コミュニティ全体のことを考えて、社会資本に対する貢献という意味で「 Community-DL 」の概念というのは、これからのマーケティングとして重要視していかなければならないのです。
現在の世の中にはさまざまなリスクがあり、先が読めない時代です。そのため R & D を C & D に変える必要があります。非連続な A VUCA WORLD に DX や新型コロナを足すと、 Perfect Storm となり、現在はどの企業も国も同じ船に乗り、大きな波の中にいる状況といえるでしょう。競い合っている状況ではないということです。みんなが協力して大きな波を越えていかなければなりません。「 Competition から Co-orporation へ」ということが強く叫ばれているのも、このような背景があるからだと考えています。
横河電機では数年前に、スローガンとして「 Co-innovating tomorrow 」を作りました。これは「たとえ競合他社だったとしても必要であれば協業する」といった因子も含まれていて、横河電機単体で実現できるものではありません。いろんな企業と協業しながらイノベーションを創出していきたいと思っています。
そこには問題もあります。もし、common vision や high-level goals が共有されていないと、協業する両社がぶつかり合ってしまいます。そのため、少なくともパートナーにする企業・アカデミアなどとは、 MTP ( Massive Transformative Purpose )やビジョン、ゴールがハイレベルでマッチしている必要があると感じています。
21世紀のイノベーターの使命
今世紀のイノベーターに求められることは、「テクノロジーと社会がいかにして共存できるか」。今世紀におけるテクノロジーの劇的な変化は、自身のあり方や世界に対する認識について想いを巡らせる良い機会です。テクノロジーが実現し、可能にしてくれる社会モデルについて考える時代といえます。
こういった背景があるため、最先端のテクノロジーは社会の現状を簡単に追い越してしまい、現在のルールでは全く追いつきません。一方で制度や規制を無視して先走ったところで、社会には受け入れられないというジレンマがあります。そのため、21 世紀のイノベーターは規制当局を巻き込み、必要であれば競合企業や利害関係者の信頼を得ながら産業全体の発展を促すエコシステムを構築していくことが求められるでしょう。
イノベーターは、今まではアカデミアや顧客だけを見ておけば良かったのですが、それでは足りず、現在は6C と定義したタッチポイントを持つ必要があると考えています。
- 1. Customer
- 2. Consortia
- 3. Competitor
- 4. Cooperator
- 5. Community
- 6. Control
21 世紀を乗り越えるには、各自が「世界観」を持つべき
私たち横河電機は 100 年以上「もの造り」に勤しみ、顧客満足・品質確保・生産性向上ということを愚直に追求してきました。一方で、この「もの造り」は「もの創り」に移っていく必要があります。新しく価値を創り、新しく市場を創り、新しく事業を創る時期に入ってきていると感じています。
この 21 世紀は世界情勢が複雑化してきていますが、最も前途有望で最も危機を孕んだ(はらんだ)時代だと認識しています。これからの将来は今の延長上にあると思わない方が良いでしょう。そのため、皆様にはぜひ「世界観」を持ってもらいたいです。「 What is your Worldview ? 」と聞かれたときにスムーズに答えられるように高い視座を持って、虫の目だけでなく鳥の目、さらに潮の流れを見る魚の目、上下逆さまに見るコウモリの目、この4つの目でもって世界観を持ってほしいと強く願っています。
講演者紹介
阿部 剛士 氏
横河電機株式会社 常務執行役員 マーケティング本部 本部長 CMO 博士(技術経営)
アムニモ株式会社 取締役
横河バイオフロンティア株式会社 取締役
シンクレスト株式会社 取締役(非常勤)
【略歴】
1985 年、現インテル株式会社に⼊社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部⻑、マーケティング本部本部⻑、技術開発・製造技術本部本部⻑を歴任。
2009 年以降、取締役、取締役 副社⻑、取締役 兼 副社⻑執行役員に就任。
2016 年横河電機株式会社に⼊社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画、標準化戦略、オープンイノベーション、工業デザインなどを傘下にマーケティング本部を統括。
常務執行役員 マーケティング本部本部⻑ CMO として現在に至る。
【関連記事】
こちらの記事では、VUCA 時代における事業戦略、マーケティング機能、オープンイノベーションのあり方などを、同講演者である横河電機株式会社の阿部 剛士様にお話を伺い、まとめています。事業戦略、企業改革に興味がある方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
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