• 配信日:2022.04.28
  • 更新日:2023.06.20

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「〜 京セラから学ぶ〜 オープンイノベーション徹底解剖」を書き起こしたものです。
京セラ株式会社 研究開発本部 オープンイノベーション推進部の大崎 哲広 氏(以下、大崎氏)に「京セラのオープンイノベーション事例」をお話しいただきました。

創業当初からイノベーションを続ける京セラ


京セラ株式会社は、1959 年創業のベンチャー企業です。今は従業員が 8 万人弱、2021 年 3 月期で 1 兆 5000 億円を売り上げる会社になりました。
祖業はセラミックの構造部品の製造です。この技術を圧電や電子部品に応用して機器を製造し、その機器を使用したシステムやソリューションへと事業を広げています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

現在の京セラの主な事業領域は、産業・自動車用部品です。
セラミックがメインの構造材・半導体関連部品、半導体のパッケージなどの部品を作っています。
そのほかコンデンサやフィルタなどの受動電子デバイス、携帯電話などのコミュニケーション機器を製造。
旧三田工業株式会社を M&A して、ドキュメントソリューションも行っています。
生活・環境事業領域では、ソーラー、太陽光エネルギー、ホテル事業があります。
変わったところでは電動工具、包丁、タンブラーなど日常生活でよく使われるものも製造しています。
燃料電池のセル事業など非常に幅広く展開しています。
京セラというと、創業者の稲盛が作った京セラフィロソフィとアメーバ経営を思い浮かべる方も多いと思います。
前者は、「きれいな心で願望を描く」「素直な心を持つ」など、仕事の判断を含めて人生を大きく左右するような、人間的にプリミティブなことを重視しています。わたしたちはこのフィロソフィが書かれた手帳を何度も読んでいます。
後者は、小グループ単位での採算を意識しています。値決めは経営、健全資産の原則、ガラス張りで経営するといった基本を叩き込まれます。
京セラではこの2つを一生懸命教えられます。

オープンイノベーションの2つの拠点


京セラは研究開発の中でまずオープンイノベーションをしています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

研究拠点は主に 2 つあります。「けいはんなリサーチセンター」と「みなとみらいリサーチセンター」です。
「けいはんなリサーチセンター」は、京セラの生業である、セラミックの部品や材料系の研究拠点です。
京セラの高周波フィルタ、薄膜電子部品、パワーデバイス、エネルギーデバイス、パネル、SOFC のセルなどの研究開発をしています。
「みなとみらいリサーチセンター」は、関東に点在していた機器・システム系の研究拠点を1箇所に集約したものです。
主に、 AI 、ソフトウェアによる画像処理、通信機器のノウハウを使った IoT・5G の通信システム、エネルギーマネジメントシステムや ADAS 車載システムなどの研究開発をしています。

オープンイノベーション促進に向けた「みなとみらいリサーチセンター」の取り組み


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

「みなとみらいリサーチセンター」は、2019 年に開所しました。
2019 年に開所する前に、オープンイノベーションによる、新たな価値創出で、みなとみらい 21 地区に新研究所を設立。
社長の宣言で「オープンイノベーション促進をはかるために、共創スペースを設置し、社内外の人が多く出会い、活発に交流、協力しあいながら、新たな価値を生み出す」という取り組みが始まりました。
こういった場を設けるのは京セラでは初めてです。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

オープンイノベーション拠点を社内外の交流の場にする


社内外の架け橋をつくる

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

最初は交流の場として、社内外の人たちをひとつの場に集めて、ワイワイガヤガヤやる機会を作りました。
2019 年のオープニングイベントとして、異種格闘技戦をやりました。一般の方にも公募を行い、観覧していただきました。イベント後には宴会を行い、参加者同士の交流を図りました。
もう少し専門的な交流の場としては「メタマテリアルとアンテナ」があります。
この分野で研究開発をしている関係者を集めて、シンポジウムを開催しました。他にも、様々な AI サロンや、AI の研究者を集めて、AI について議論するイベントなど、社外の人たちを招いて社内外の方同士が交流できるようなイベントを企画・開催してきました。
異種格闘技は好評だったので毎年恒例となっています。

社内の交流を増やす

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

社外と交流しようにも、社内の交流ができておらず、お互いが何をしているかわからないのが問題でした。
社内もわたしたちが引っかき回すぞ、ということで、企業別交流会で企業と企業の一般公募者を集めて、お互いの技術交流をしました。
単に技術交流をするだけだと何も生まれないので、何回か技術交流を続けたあとは、SDGs をまず課題としてどう捉えて、それについて解決策を 2 社で考えようといったワークショップに発展するような交流会をやりました。
また、京セラの社員に他のベンチャーがどういうソリューションを持っているか、ベンチャーデイをやりました。研究開発の内容を各事業部に紹介するようなバーチャルオープンラボデイといった社内イベントもここから発信しています。

社外のアクセラレーションプログラムに参加し「どうやって人が集まるか」を習得する

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

社外のビジネスアクセラレーションプログラムも重要です。京セラも実力がつけば、単体でこういったことをやりたいと思っています。今は、まだいろんなところに参加させていただいています。
羽田の天空橋に一昨年に新しくできた街をイノベーティブにするために、

  • ・新しいアイディアを実装するためのビジネスコンテスト
  • ・みなとみらいを使った実証実験の募集
  • ・ソニーとやっている大手企業コラボスタートアップベンチャーのコンテスト

これらで、「どうやって人が集まるか」を勉強、習得しています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

また、近隣企業、周辺企業とともに新たな機会を創出していくプログラムをいくつかやっています。
ポイントは社内の連携をすること。連携が取れた社内の人たちを今度は外に引っ張り出します。
社外では、ベンチャー、自治体、大学、他の大企業、リビングラボの人たちとの連携を目指します。
そのようにして、目立つ、つながる、挑戦するという言葉を合言葉に機会創出をはじめています。

オウンドメディア「オープンイノベーションアリーナ」


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

京セラには「オープンイノベーションアリーナ」というオープンイノベーション専用ページがあります。
ここで情報発信をすると、様々な方から問い合わせや反応が返ってきます。ファン作りです。
「オープンイノベーションアリーナ」ではモノを売りませんが、ファンの方々とより深く交流するためにマーケティングオートメーションを活用しています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

オウンドメディアによる情報発信でさまざまなことがわかりました。
ニュース、ジャーナル、拠点の紹介、カタログといったカテゴリーがあります。
一番多いのは、研究開発の技術カタログを見にこられる方で全体の 40 %を占めます。
リンカーズが運営している「TechMesse」も似ていると思いますが、京セラの技術に興味を持ってページを見ていただく方が非常に多いです。
その次が、インタビュー記事、オープンイノベーション文脈の読み物で、20% くらいです。
多くの人が京セラに対して抱く興味は「技術」にあると痛感しました。
今後は技術記事をどんどん増やしていこうと考えています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

訪問者はやはり大企業が多いです。
その点、まだベンチャーへの取り組みが十分にできていないと思います。大学関係者もそんなに多くありません。
これからは、中小、ベンチャーとも交流を持てるようにしたいと思います。

オープンイノベーションで「二兎追うものは二兎を得る。」を目指す


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

研究開発におけるオープンイノベーションの横軸は研究グループです。私たちは常に自分たちが持っていない新たなピースを探しています。この視野をもう少し広げたり、全然違うところからピースを持ってきて、「こういうことが出来るのでは」と言ったりすることが、私たちのもう 1 つの役割だと思っています。活動としては、外の人たちと中の人たちをつなぎ合わせる支援となります。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

今、わたし達が目指しているのは、「二兎追うものは二兎を得る。」です。
図は、アイディア出しの会議における、参加者の専門分野の多様性とアイディアの価値の相関を表しています。
横軸は参加者の専門分野の多様性を表していて、右側に行くほど多様性が高くなります。
縦軸は出てくるアイディアの価値を表していて、上側に行くほど価値が高くなります。
専門家集団が集まったときは、ある程度、質の高いアイディアがたくさん出てきます。しかし、イノベーションを起こせるほどのものではありません。
一方で、さまざまな専門性を持つ人が集まると、全体的なアイディアのレベルは下がりますが、たまにキラッと光るアイディアが出ることが報告されています。
私たちは、このような環境を社内外の連携で作りたいと考えています。これはわたし達の一つの使命です。
出てきた上質なアイディアを他の力を借りて、価値が高いものにしていく。この二つを目指して活動するために、さまざまな場を設けています。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

人と人が出会い、交流し、協力し合う環境づくりのために、「目立つ」「つながる」「挑戦する」を合言葉に、京セラはオープンイノベーションのプラットフォームを構築しています。

京セラ R & D のオープンイノベーション


オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

上の図に照らして見ると、京セラの社内には4つのアメーバがあります。それぞれ別の観点からオープンイノベーションを自立的に進めています。
本当は全部を統括できるといいのですが、私たちは今、上の図の中でも「機会に関する意図」を中心に、そこから新しい機会を産んで、「機会を特定」し、その「コンセプトを作り上げて」「検証する」ということを中心に活動しています。
なにか新しい良いコンセプトが出てくると、「ソリューションの開発」までいきます。わたしたちはアメーバなので、びよーんと手を伸ばせるんです。伸ばせるところは伸ばしてしていこうと思っています。
いろんなアイディアが京セラの中で生まれて、イノベーティブなアイディアを拾い上げていけるような機会を数多く作ることが、京セラの R & D としての組織のやり方です。

京セラのオープンイノベーション事例


オープンイノベーション事例:コンセプトカー(初代)

ここからは、京セラが今まで行ってきた主な取り組みの事例をご紹介します。

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

京セラは車載部品をたくさん作っています。
最初はそれぞれの事業部で、それぞれの営業が、それぞれのところに売りに行っていました。京セラがトータルでどんなことができるかを形にしようということで、コンセプトカー作りをはじめました。
最初のコンセプトカーは、「トミーカイラ・ZZ」です。京都の電気自動車のベンチャー企業 GLM と協力して、トミーカイラ・ZZ に京セラの様々な車載部品を搭載しました。世の中に京セラの部品を示すために、このコンセプトカーを製作しました。

オープンイノベーション事例:コンセプトカー(二代目)

去年は、二代目のコンセプトカー「モアイ」を作りました。
今あるものだけではなく、車体もオリジナルを作りました。将来、自動運転になったときに「移動」はどうなるかというコンセプトを提案しています。
モアイは自動運転を前提とするコンセプトカーなのでハンドルもありません。前回のトミーカイラ・ZZ は公道を走れましたが、モアイは公道を走れません。車内に操作タッチパネルをつけて、走り出すと前のガラスと同じ景色を映し出す技術を導入しました。コンソールをあたかも透明化し、乗っている光景になります。スピーカーは振動スピーカーで様々なインフォメーションや音楽が流れます。
外はレトロで、中は未来の車です。他にも、空中にキャラクターが浮き出る空中ディスプレイや京セラの LED 照明を使いました。京セラの素材を使いながら「未来の車とは?」を提案させてもらいました。
カーデザイン専門の会社とオープンイノベーションで作りました。
透明化の技術は、東京大学の稲見先生が攻殻機動隊をとても大好きで、将来、攻殻機動隊みたいなことがやりたいと思って研究をはじめられました。

オープンイノベーション事例:自動運転

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

京セラは自動運転にも取り組んでいます。
JR 東日本主催のモビリティ変革コンソーシアムで自動運転技術を実証実験しています。
車と路側機とのやりとり、普通はすれ違いの制御を無線でやりとりするところを京セラが担当しました。現在もそのバスが走っています。
また、車載ミリ波レーダーを使ったトラック隊列走行の実験を先進モビリティというベンチャーと一緒にやっています。3 台トラックが並んでいて、先頭以外に運転手はいません。2 台目、3 台目のドライバーの負担を軽減し、物流業界の人手不足を改善します。

オープンイノベーション事例:医療ヘルスケア

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

Possi という子供用歯ブラシです。
圧電の素子を使って、歯磨きした本人だけに音楽が聞こえます。両親の仕上げ磨きをいやがり、歯ブラシを噛んで親に磨かせない子供がたくさんいます。
開発者がそれを子育てで体験して、その課題を解決したいということで、ライオンと一緒に新しい歯ブラシを開発しました。ソニーのファーストフライトというクラウドファンディングで成功しましたが、事業化まで紆余曲折がありまして、私たちのホームページにインタビュー記事が載っているので、ぜひ読んでください。

オープンイノベーション事例:社内外ベンチャー

社外のスタートアップ、PLUG AND PLAY や Global Brain と組んで、ベンチャー育成をやっています。
また、社内にアイディア公募制度があり、社内スタートアップを育てる取り組みもしています。

自治体とのオープンイノベーション事例


自治体とのオープンイノベーション事例:環境・エネルギー

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

太陽光発電や産業用蓄電池などエネルギーマネジメントシステムを使って、エネルギーの地産地消率をアップする実証実験を鹿児島県日置市で行っています。

自治体とのオープンイノベーション事例:IoT

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

横浜市内団地の宅配ボックスに IoT 装置をつけ、運送業者が来る前から、宅配ボックスがいっぱいで入れられないのか、まだ入れる余裕があるのかがわかります。利用者側も当日荷物が来るとわかっていれば、あらかじめ宅配ボックスを予約できます。大規模団地は宅配ボックスを置く場所が限られるため、宅配ボックスを有効活用し、少人化できる実証実験をして、事業化を目指しています。
以上で京セラのオープンイノベーションのお話を終わりたいと思います。

講演者紹介

オープンイノベーション事例 ~ 京セラ R&D の取り組みを徹底解説 〜

大崎 哲広 氏

京セラ株式会社 研究開発本部 オープンイノベーション推進部 責任者

1991 年に京セラ入社。
総合技術本部、中央研究所(けいはんな)にて III-V 属半導体薄膜の研究から、半導体薄膜デバイスの商品化・事業化に従事。
その後、半導体材料基板の開発を経て、2016 年にソフトウェア研究組織の立ち上げに参加。
研究企画立案や IoT 機器とシステムのトータル開発から現職。
社内外の連携イベント実施や外部コミュニティに参加し、京セラと外部のリレーション構築を担当。現在はみなとみらいの共創スペースを使ったオープンイノベーションの場づくりを進めている。

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