
- 配信日:2022.08.16
- 更新日:2022.08.26
オープンイノベーション Open with Linkers
マーケティングによる企業改革と価値創造
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した「~ 横河電機から学ぶ ~ オープンイノベーション徹底解剖」のお話を編集したものです。
ウェビナーでは、横河電機株式会社の常務執行役であり、マーケティング本部 本部長 CMO の 阿部 剛士 氏に「 R & D から C & D へ ~ マーケティングによる企業改革と価値創造強化 ~ 」についてお話しいただきました。
事業戦略、企業改革に興味がある方は是非ご一読ください。
◆目次
・ VUCA + ~ 予測不能な外部環境 ~
・ 2 度の戦略的転換を行った横河電機
・ 事業の戦略的転換を支える横河電機の「三種の神器」
・ SDGs に貢献するための新規事業戦略
・ 横河電機の企業変革へのアプローチ
・ 事業戦略を担う横河電機マーケティング本部の機能
・ イノベーションを担う横河電機の R & D ( Research and Development )
・ 研究テーマ数とオープンイノベーションの伸長
・ スピード重視のオープンイノベーションと C & D
・ まとめ ~ 指数関数的な社会の変化への対応が大切 ~
VUCA + ~ 予測不能な外部環境 ~
「 VUCA 」は「 LEADING and THRIVING in a VUCA WORLD 」というように、よく「 WORLD 」とペアで使われることが多い言葉です。
「 VUCA 」は4つの単語の頭文字から成り立っています。
・Volatility (変わりやすく)
・Uncertainty (不確実で)
・Complexity (複雑で)
・Ambiguity (あいまい)
つまり「 A VUCA WORLD 」とは「 DISRUPTION (予測不能)」ということです。
残念ながら「『 A VUCA WORLD 』『 DISRUPTION 』が今世紀のニューノーマルになる」というのが世界的な意見の一致であり、現在の企業の経営者たちは非常に大変な時期に経営をしていることになります。
「 A VUCA WORLD 」の中で「 DX (デジタルトランスフォーメーション)」に対応する必要もあり、これだけでも大変なのですが、さらに新型コロナウイルスがやってきました。
これらを全て足した現在の世界はまさに「 Parfect Storm 」です。この大波を乗り越えるためには、競合他社とも協業しなければならないと、私たち横河電機は認識しています。
2 度の戦略的転換を行った横河電機
このような環境の中で、横河電機はどんな取り組みをしているのかを説明します。
横河電機は 100 年を超える歴史がある企業です。横河電機の長い歴史の中で特筆すべきことは、過去2回の戦略的転換期があり、それを乗り越えていることです。
第1回目の転換期は、「横河・ヒューレッド・パッカード( YHP )」という計測事業に転換したタイミングでした。
第2回目の転換期は 30 ~ 40 年ほど前に立ち上がった、現在の制御事業です。横河電機本体は、時代に合わせて製品のポートフォリオを大きく変えながら今に至っています。
しかし、現在横河電機の売上のうち約7割がハイドロカーボンに依存しています。これが私たちにとっての1つのリスクではないかと考えており、脱・ハイドロカーボンを目指しています。
事業の戦略的転換を支える横河電機の「三種の神器」
事業の戦略的転換期を迎えるにあたり、重要なポイントが 3 つあると考えています。
●「 Moonshot (非常に困難ではあるが成功すれば大きなイノベーションを生む壮大な計画・目標)」を打つ
右肩上がりで成長している間は現在の事業の延長で良いのですが、転換期を迎えたならば Moonshot を打ち、バックキャストして事業計画を作っていかなければなりません。
●世界的課題にチャレンジ
横河電機が次の売上の柱を立てるためには、世界的課題にチャレンジする必要があると考えています。
●スピード
「 A VUCA WORLD 」において重要なのはスピードです。スピードを上げるためには組織も企業文化も変えなければなりません。「 agility (機敏さ)」が重要になってくると考えられます。
横河電機の経営における三種の神器(コアコンピタンス)
横河電機には3つのコアコンピタンスがあります。
1つ目は測ること( Measurement )。
可視化するということ、センシティングテクノロジーです。
2つ目は測った結果をもとに制御すること( Control )。
横河電機は「 Distributed Control System ( DCS :分散制御システム)」というものを持っており、世界で初めて DCS を開発したのは横河電機という歴史もあって、制御も得意としています。
3つ目は測ることで出てくる情報( Information )。
IT というよりも OT (オペレーティングテクノロジー)のセクターでの情報を横河電機のコアコンピタンスと認識しています。
横河電機は「 Measurement 」「 Control 」「 Information 」という「三種の神器」で経営しています。
SDGs に貢献するための新規事業戦略
現在から1つ前の中長期計画を作るにあたり、三種の神器をベースにして完全に SDGs にコミットするしかないと考え始めました。今後、世界の脱・ハイドロカーボンの動きは変わらないだろうという仮説のもとに、私たちは SDGs について勉強し始めたのです。
SDGs を先程の三種の神器で因数分解した結果、当時 17 個のうちの 11 個のタイルに対して横河電機は貢献できるという自信を持ちました。そのため横河電機の1つ前の中長期計画では、 SDGs17th に 100% アラインする事業戦略になっています。
横河電機の企業変革へのアプローチ
横河電機は今まさに企業大改革を行っている最中です。私たちはマッキンゼーのフレームワーク「 7S 」を参考にしています。
7S は3つのハード S と4つのソフト S から成り立っています。
- ハード S
- ・Strategy(戦略)
- ・Structure(組織構造)
- ・System(システム)
- ソフト S
- ・Shared value (共通の価値観)
- ・Style(経営スタイル)
- ・Staff(人材)
- ・Skill(能力)
ハードの 3S のうち、私の部署であるマーケティング本部は「 Strategy (戦略)」を担っています。「 Structure (組織構造)」は人材部門、「 System (システム)」は IT 部門の担当です。
現在、マーケティング本部と人材本部、情報システム本部(横河電機ではデジタルソリューション本部と呼称)の3つの部門が会社を変えるために歯車を回しています。
事業戦略を担う横河電機マーケティング本部の機能
横河電機のマーケティング本部は、普通のマーケティング本部と違っています。以下に列記したものは全てマーケティング本部の「 Roles & Resposibilities 」としてデザインされています。
【横河電機 マーケティング本部の役割】
- 1. デジタルマーケティング
- 2. マーケット・インテリジェント( MI )
- 3. マーコム
- 広報・広告
- Webマーケティング
- 4. ブランディング
- 5. 次期中期・長期事業計画案
- 6. 新事業開拓
- R & D
- M & A ・戦略的アライアンス
- 7.特許戦略
- 8. 標準化戦略
- 9. オープンイノベーション
- 10. 渉外( Government affair )
- 11. 工芸デザイン
- ・課題の本質の見極め、定義と分析
- ・Make or Buy の判断
- ・社内外ネットワーク機能
- ・社内外ネットワークのハブ機能
- ・人材育成
- ・Customer (顧客)
- ・Consortia (学術)
- ・Competiter (競合他社)
- ・Cooperator (補完者・パートナー)
- ・Community (サイバー空間を含むコミュニティ)
- ・Control (監督官庁・行政機関による制御)
1~4 は通常のマーケティング部門の担当になります。5~11 は通常のマーケティング部門が持っていない機能になります。本来は経営企画部門が持つものですが、全てマーケティングの傘下にある状態です。私から見るとこれら全てが「マーケティングアセット」という立ち位置になります。
イノベーションを担う横河電機の R & D ( Research and Development )
横河電機では R & D を「イノベーションセンター」と呼んでいて、大体 150 人ほどの規模で運用しています。日本だけで 150 人で、その他にインド、アメリカ、スイスにも人員がいて、全体だと 300 人強います。
イノベーションセンターでは、お客様が抱える課題に対して事業部が保有していない技術を補完する形での研究開発を行っています。
さらにイノベーションセンターの重要な役割として、お客様とともに潜在課題を発掘・顕在化し、その解決手段を考え、事業創出につながる研究開発を行うことがあります。
前者はどちらかというと垂直思考で、「問題解決型」と呼ばれています。後者は水平思考で、「問題開発型」と呼ばれています。水平思考ができる人材は多くありませんが、私たちイノベーションセンターの人材は垂直思考も行いつつ、水平思考を使って問題開発を行うことを心がけています。
研究テーマ数とオープンイノベーションの伸長
研究テーマ数と共創先の推移
研究テーマの件数は 2016 年以降年々伸びています。しかし使えるリソースは限られているので、件数を増やすだけではいけません。どの研究をやるかだけでなく、どの研究をやめるかも決める必要があるのです。
結果、2016 年から 2020 年までに研究テーマ数は約2倍になりました。
また共創活動による研究の数も増えています。社内の共創先件数は 2016 年から 2020 年までの5年間で5倍になり、社外の共創先件数は同じ期間で 7.5 倍に伸びました。
技術開発( R & D )と事業開発と知財開発は常に並走する
R & D の中ではどうしても PoC ( Proof of Concept :概念実証)が増える傾向があります。つまりコンセプトをお客様に示さなければならず、早い段階でどういったものをやりたいか明らかになってしまいます。かつアジャイル開発(アジャイルソフトウェア開発)はスピードも要求されます。
これまでのアジャイル開発は「 Water Fall 型」でリニア(直線型)にフェーズが進んでいきました。もちろん横河電機でもアジャイル開発を取り入れており、日本のみならずインド、中国、アメリカ、ヨーロッパ各国、シンガポールなど、どこかで分散し、24 時間地球のどこかで開発が進んでいるというスクラムを組んでいます。
ここで注意すべき点は、こういった技術開発には事業開発が並走し、さらに知財部が当初から関わってくるということです。横河電機では開発の後半から知財部が関わってくることが多かったのですが、初期の段階から入ってきます。
なぜこのようなことをしているかというと、パートナー企業との間で起こり得る知財に関する障害をあらかじめ取り除くという目的はもちろん、開発の価値や、知財ポートフォリオの観点(知財をいかに経営につなげていくか)で知財部を早くから巻き込むためです。
また、スクラムでアジャイル開発をしていると、本社からすると何が開発されるかはブラックボックスになりがちです。この状態が続くと知財に関するチェックが入らず、開発者たちが意図的にではなく知らないうちに何らかの特許に接触してしまう可能性があります。そのため、技術開発( R & D )と事業開発と知財開発は常に並走する必要があると考えています。
スピード重視のオープンイノベーションと C & D
オープンイノベーションで「 A VUCA WORLD 」を乗り越える
今の世の中は「 A VUCA WORLD 」であり、指数関数的に変化しています。そしてもう1つあるのが「 Big Bang Destructive 」というものです。
かつて、技術の成長はゆっくりとしたものでした。しかし現在の技術は急速に成長しています。この現象を「 Big Bang Destructive 」と呼んでいます。
最初のイノベーターはいるのですが導入者数が突起し、そして一気に終わりを迎えます。 B to B ではこのようなケースは少ないのですが、 B to C では増加しています。
しかし、横河電機は「 NIH Syndrome ( Not Invent Here Syndrome :別の組織や国が発祥であるという理由で技術や製品、アイデアを採用しないこと)」の傾向があります。なぜなら横河電機のデザイン・開発における憲章(バイブル)の1行目に「まず自社で開発するべき」とあり、どうしても NIH Syndrome に陥りがちだからです。
それではいけないので「 Make or Buy (作るか買うか)」の判断をしなければなりません。
そこでマーケティング本部の中にオープンイノベーションのチームを持っていて、次のような役割を与えています。
最近は特に「社内外ネットワーク機能」「社内外ネットワークのハブ機能」を強化しています。
R & D から C & D へ
C & D とは「 Connect & Development 」のことです。 C とは、いかに外界との接点を増やすかということで、イノベーションセンターのリサーチャーたちにも今までの顧客( Customer )だけでなく6つの C に対して強く接点を持たせようとしています。
この試みはすでにかなり進行していて、 R & D センターのプロジェクトの9割は「 Consortia 」や「 Customer 」、一部では官庁系と協力したりもしています。今後は競合他社と協業することもあるかもしれません。
まとめ ~ 指数関数的な社会の変化への対応が大切 ~
今世紀は最も前途有望で、最も危機をはらんだ時代です。そしてこれからの未来は現在の延長上にはないと思った方がいいでしょう。
昭和の時代まではリニアに変化していましたが、平成・令和になってからの変化は指数関数になっています。怖いのは理想とのかい離、すなわち失望のエリアです。このエリアでの変化は小さいので経営者は見逃しがち、あるいは軽んじがちです。ところがティッピングポイント(しきい値)を超えると一気に成長し、気がついた頃には追いつけないというリスクが考えられるのです。
今、経営者たちは小さな変化にも注意しなければならないということになります。
講演者紹介

阿部 剛士 氏
横河電機株式会社 常務執行役員 マーケティング本部 本部長 CMO 博士(技術経営)
【略歴】
1985年、現インテル株式会社に⼊社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部⻑、マーケティング本部 本部⻑、技術開発・製造技術本部 本部⻑を歴任。
2009年以降、取締役、取締役 副社⻑、取締役 兼 副社⻑執行役員に就任。
2016年、横河電機株式会社に⼊社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画、標準化戦略、オープンイノベーション、工業デザインなどを傘下にマーケティング本部を統括。
常務執行役員 マーケティング本部 本部⻑ CMO として現在に至る。
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