- 配信日:2022.09.28
- 更新日:2024.08.07
オープンイノベーション Open with Linkers
イノベーション事例~ IHI の取り組みを徹底解説(前編)
IHI のイノベーションに向けた取り組み
実際に IHI がどんな取り組みをしてきたのかを紹介します。
・お客さまとの共創活動
・社内の新規事業提案活動
・イノベーションの学びと経験(社内の教育研修システム)
・Project Booth での取り組み
お客さまとの共創活動
お客さまの強みと IHI の強みを生かして新たな価値を生み出すべくシーズベースの共創活動に取り組んできましたが、シーズベースのイノベーションはなかなかうまくいきませんでした。
そこで、どちらか一方の課題(ニーズ)をどちらかの強み(シーズ)で応えるシーズ×ニーズの議論に置き換えて、お互いの強みを少しずつ入れ込んでいくお客さまとの共創スタイルを模索してきました。
お客さまとの共創活動を通して「私たちは間違っていた」と学ぶ機会が何度かありました。
まず、課題を抱えるお客さまをお迎えする際に、技術者に共創活動のスタートから参加してもらってしまったことがあげられます。課題解決の技術的な理解が難しい場合はこの方法で間違いはないのですが、技術者や研究者は、常に自分の技術を活かしたいと考えており、その機会を探しています。これは決して悪いことではなく、私個人としてはそのような熱い思いを持っている人でないとイノベーションは起こせないと考えています。
しかし、一旦お客さまの課題と技術者の保有技術がリンクしてしまうと、解決に必要な技術がその技術ではなかった場合、ピボットが非常に難しくなるという問題が発生します。技術者には自分の技術を使いたいという熱い思いがあることも、ピボットの難しさにつながります。
このことから、イノベーション組織の人間がお客さまの課題を一回受け取るなど、ワンクッションを入れる必要があったのではないか、という学びを得ました。
次に、イノベーションに取り組むにあたり、さまざまな技術者を呼んだブレインストーミングを行ってきました。新事業を興すことをミッションとして日々思考している人たちが集まるブレインストーミングならうまくいったのかもしれません。しかし、物理なら物理、機械なら機械、構造なら構造など専門の技術を高めることに専念しているメンバーは、日々新たな事業の創出について考えているわけではないため、アイデア創出には苦戦しました。
結果的に何も生まれないブレインストーミングに毎回呼ばれる技術者が出てくるという悪いサイクルが出来てしまいました。
いきなりブレインストーミングをするのではなく、まずは少数精鋭で集中してベースとなるアイデアを創り上げ、アイデアを広げたり、別の視点からアイデアを評価するために技術者に参加してもらったりする方法もあるのではないかということもお客さまとの共創活動から得た学びの1つです。
社内の新事業提案活動
「社内の新事業提案活動」を3年ほど行ってきました。3年間で100件ほどの新事業提案があり、そのうち5件は、事業化の可能性があって活動を継続しています。
新事業提案活動では、「ソリューション」の検討に偏り、「ビジネスモデル」や「新たなアイデアをどう事業化するのか」を具体的に仮説検証せずに検討を進めた結果、事業化の出口が見つからなくなることがあります。また、Google 検索をかけてヒットしないと「オリジナルのアイデアだ」「競合は少ない」と勘違いしてしまったり、インターネットからの都合の良い情報に基づく環境分析により、偏った「社会ニーズ」を見出してしまったりすることがあります。
このような課題を抱えつつも、3年間の新規事業提案活動に、技術開発本部にいる470名の技術者のうち100名弱が参加、または何かしらの形で関わってきました。イノベーター理論でいうとアーリーアダプターを超えてアーリーマジョリティに入りつつあると思っています。新規事業提案も、発案者が提案する前に、アイデアのクオリティが上がるような壁打ちする仕組みを作ることで、もう少し前進するのではないかと考えています。
そのためには、ある程度の教育制度も必要だと考えており、IHI のグループ内向けに「新事業創出研修」というものを行っています。
イノベーションの学びと経験(社内の教育研修システム)
IHI は B to B ビジネスが中心になりますが、デザイン思考をベースとしたアジャイルなイノベーション活動をB to Bビジネスに適用するにはどうすれば良いのか、社内教育を行っています。この研修は2つの階層に分けて行われています。
1つ目は「 Level 2:広く浸透させる」です。
この階層では、新事業の創出だけを目的とせず、デザイン思考によるユーザー視点の取り組みが日常の業務効率化にもつながることを、広くに理解してもらうことを目的としています。これは、デザイン思考研修の受講者から「研修自体は参考になり、自分の職場でも活用できそうですが、デザイン思考という考え方や取り組みを知っている人、認めている人が職場にいないので実践できません。」という回答がありました。
この方は「上司も一緒に研修を受けさせてほしい」と言ってきました。結局、新しい手法を学んでも、それを現場で活用するには、 IHI の職場の取引きコストが非常に高かったのです。
新しい手法をしっかり学んだメンバーが職場で実践するには、職場の上司や同僚の取引きコスト(共有に費やす時間)を下げる必要があり、 Level 2の教育では、新事業創出に限らず、デザイン思考の考え方やプロセスを広くIHIグループに浸透させるような研修を行っています。
2つ目の「 Level 3、4:実践を通じてスキルを取得する」では、デザイン思考の考え方やプロセスをしっかりと学びながら、デザイン思考をベースとして新事業創出に取り組みます。
Level 3 では、BtoBビジネスにデザイン思考を活用する開発スタイルの考え方やプロセス、マインドセットについて5日間の座学とワークショップで学びます。その後 Level 4 の研修として、約半年間かけて、私たちの部署のメンバーと、 IHI グループの4つの事業領域から選抜されたチームが、新事業創出を目指した活動を行い、デザイン思考をベースとした開発スタイルを実践的に習得します。
Project Booth での取り組み
プロジェクトブースでは、研究開発に取り組む技術者だけでなく、営業や事業部門の設計者がバーチャルなチームを組み、具体的な案件に取り組みます。i-Baseは社外の皆さまもご利用いただけるので、案件によっては、お客さまやステークホルダーの方々にも加わっていただき、事業化に取り組みます。
企業によっては新たな事業に取り組むチームを社外に置くことで、周りの目を避けたり、既存事業から切り離したりする方法を採用しています。IHI では、アイデアの初期段階では営業や設計、研究の専門家が必要なタイミングでチームに加わり人的リソースを流動的に活用するため、チームのメンバーは社内にとどめて取り組みを進めています。
私たちは、最終的な事業化は事業部門が行うという認識に立ち、プロジェクトブースでは、事業部門が引き取るフェーズまで事業を育てます。そのために、プロジェクトブースでは、事業化に向けて必要な仮説・検証を繰り返し行っていきます。リーンスタートアップ(コストを抑えて最低限の機能を持った試作品を短期間で作り、ユーザーの反応をキャッチしながら開発を進めること)で提唱されているように「価値仮説」は「課題仮説」と「ソリューション仮説」から成り立っています。
私たちは、「課題仮説」と「ソリューション仮説」を、ビジネス上の仮説とテクニカルな仮説に分類し、事業化に向けた影響度と、仮説の確度の二軸でマッピングします。
新たなアイデアの事業化に向けた数々の仮説の中から、事業化への影響が大きい、つまり「この仮説が崩れると事業がなくなる」というくらい影響が大きく、かつ仮説の確度が低いものから順に潰していくことで、お客さまや社会に需要されるビジネスの確度を段々と上げていきます。
最終的に事業部門に新たなアイデアを引き取ってもらえなければ、事業化できません。プロジェクトブースでは、初期段階から必要に応じて、負担が大きくならない程度に事業部門の営業や設計者に入ってもらいます。
事業化できる見込みが高くなるにともない、既存事業、いわゆる事業部門が参画する比率を高め、最後は事業部門に引き取ってもらう仕組みづくりを現在進めていこうとしています。
(後編につづく)
後編はこちらから
・IHI がイノベーション活動を進める中で見えてきた3つの課題
・課題解決型イノベーションから踏み出すための取り組み
・イノベーション活動に関する情報発信を強化
・イノベーションを生み出すための機能と体制の強化
についてお話いただいております。
講演者紹介
岩本 浩祐 氏
株式会社 IHI 技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ長
【略歴】
・1998 年 4 月 石川島播磨重工業株式会社(現 IHI )技術本部 技術研究所 入社
・2004 年 5 月 航空宇宙事業本部 宇宙開発事業推進部
・2008 年 4 月 技術開発本部 基盤技術研究所 構造研究部
・2019 年 4 月 技術開発本部 技術企画部 連携ラボグループ
・2022 年 4 月 技術開発本部 技術企画部 企画推進グループ(現職)
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