• 配信日:2020.11.06
  • 更新日:2024.05.16

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーションのすすめ Part ① ~Webセミナーレポート~

「オープンイノベーション」が叫ばれて久しい中、必ずしも望んだ結果が得られているわけでは無く、成果の最大化に向けた重要なノウハウは各社に局在化、暗黙知化している状況にあります。

そこでリンカーズは、これまで様々な企業のオープンイノベーションを技術マッチングの観点から支援してきた結果見えてきた、「オープンイノベーションが浸透している企業の成功パターン」を具体例を交えて紹介し、皆様のイノベーション活動が加速する組織体制/オペレーション設計の一助となる情報を提供することを目的に、本Webセミナーを企画・開催いたしました。

今回は「これからのオープンイノベーションの在り方」「実現に向けた課題」という2つのテーマに即した「キーワード」を各パネリストの皆様に事前に準備いただき、そのキーワードを取り上げながら、そのキーワードの解説、ディスカッション、質疑を進めていくスタイルで進行しました。

本記事では「これからのオープンイノベーションの在り方」のパートをご紹介いたします。

パネリスト
● 一般社団法人Japan Innovation Network 常務理事 松本毅様
● キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎様
● リンカーズ株式会社 代表取締役社長 前田佳宏

モデレーター
● リンカーズ株式会社 取締役 加福秀亙

1.オープンイノベーションの前に顧客価値と向き合う大切さ

■オープンイノベーションだけが事業成功の解ではない

加藤勇志郎様(以下「加藤」):最初のキーワードとして、私から「顧客価値に向き合う」を挙げさせて頂きました。 私は前職のマッキンゼーに勤めていた時代、新規事業の立案に携わらせていただいたのですが、多かったのが、トップが「オープンイノベーションをやる」と言い出して、そのプロジェクトに経営陣がアサインされ、「自分たちはよくわかっていないけれど、なんとなく『AI』とか『IoT』を使った新規事業をやりたいです」という問い合わせでした。
これでは「オープンイノベーションをする」「IoTを使うこと」が目的になってしまい、そのためにどんな事業をやるか、というプロダクトアウト的な考え方になってしまい、結果、うまくいかないことも多かったです。

当たり前ですが「お客様が何を求めているか」「自社がどのように進化していくべきか」という目的や考えがあった上で、それに対し、現状の自社のアセットや足りない部分を踏まえ、オープンイノベーションをやるのか、アライアンスを結ぶのか、もしくはジョイントベンチャーを組むのか、といった必要なピースを集めてくる、というのが当然あるべき姿です。 ですから、当然オープンイノベーションだけが1つの解ではないので「オープンイノベーションから入らない」というキーワードも挙げさせていただきました。

モデレーター:ありがとうございます。あくまでオープンイノベーションは手段にしか過ぎないので、きちんとしたゴール設定が重要だということですね。オープンイノベーションについては、松本様も前職の時代から長く携わっていらっしゃったと思いますが、どのようにお考えでしょうか。

■「お客様の価値観がどう変わっていくか」を常に見る

Japan Innovation Network

松本毅様(以下「松本」):2つの点をお話したいと思います。
1つは、じつはJIN(Japan Innovation Network )と提携している海外機関の調査によると、世界のグローバルスタートアップの中で、96%は投資回収ができない点。その失敗の理由の大半は「会社を興してサービスを始めたが、客のニーズがなかった」ということなんです。いくら技術やビジネスモデルに磨きをかけても、「顧客理解」を事業の早い段階からやらないとほとんどがうまくいかない。
その点、うまくいっている4%のスタートアップは、未来に向けて「お客様の価値観がどう変わっていくか」を常に見ている。そういう顧客ニーズや社会価値がどう変化しているのかを日本の大手企業も見習わなければならないです。

もう1つは、「社長がオープンイノベーションをやると言うので、やります」というケースが多い点。その場合 「御社にとって、オープンイノベーションをやる目的はなんですか?」と聞いても、意図や目的が全く考えられていないので答えが返ってこない。大事なのは、将来の新しい価値を与えるかということをしっかり考えることです。
目的・意図のないオープンイノベーションはやめましょう。各企業が「現在お客様に与えているAという価値」から、「将来与えていく新しいBという価値」への劇的な変化・シフトを起こす。つまりはAからBへ意図的にシフトする事がイノベーションの源泉です。イノベーションの成功確率を高めるスピーデイで効率的な手法としてオープンイノベーションを推進する事が重要です。

新型コロナの影響もあり、日本の大手企業もこれまでの考えをリセットしなくてはいけないケースも増えていますし、目指すべき未来の顧客価値は大きく変わるはずです。ですから、新型コロナの影響がある今、これまでの手法を考え直すいいタイミングかもしれません。

2.オープンイノベーションを加速させる組織体制

■顧客価値の変化に呼応して、組織自体も変えていく

モデレーター:松本さんの最初のお話でベンチャー企業の96%が失敗していく中で、成功する大きな要因は「お客様がいないところに挑戦した」という話だったと思いますが、弊社リンカーズ株式会社もベンチャーとしてやってきた中で、前田さんはどのようにお考えですか。

Linkers 前田

前田佳宏(以下「前田」):お客様自身が日々変わっていく中で、顧客価値を固定して考えてしまうと、半年後、1年後に作ったソリューションがお客様の心に刺さらない、ということが往々にしてあると思います。
ですから、顧客価値の変化というものを常にウォッチしていく必要があります。そこで重要なのは、顧客価値が変わると会社のイシューも変わっていくということ。
そしてイシューも変わるとソリューションも変わり、ソリューションが変わると組織も変わります。つまり組織の意思決定のサイクルを早くし、組織自体も変わっていかないと、日々変化する顧客価値に対応ができない。つまり「顧客価値に向かう」ということは「組織体制」とリンクするので、組織もフレキシビリティが非常に大切だと思います。

モデレーター:組織が大きくなればなるほど、稟議の数も増え、対応が難しくなってくると思いますが、そこをうまくクリアするための手段というのはありますか?

松本:私がよくベンチャー企業の社長に苦言を呈されるのは、日本の大企業のオープンイノベーション部門・新規事業部門・CVC部門は、戦略に基づいた意思決定を社内できちんと行い、「話がうまく行けば協業する」という前提でベンチャー企業にインタビューに行くのではなく、単なる報告書作りのためにインタビューを行うことが多い、ということです。インタビューをして、それでは協業の話をしましょうという段になったら、「報告書ができたのでもういいです」と言われると。ですから、先ほどの話のように、機会ができればすぐ協業に動ける「Stop&Go」の決済の仕組みを社内でちゃんと作っておかないといけないですね。

■チーム組成の成功事例「エースを集合させる」

モデレーター:事前の準備が大切ということですね。これに対しては、ベンチャー企業の立場から、加藤さんはなにかご意見がありますでしょうか。

加藤:先ほど前田さんがおっしゃった「組織」というところで、大企業側の支援をしていた立場から言うと、新規事業がすごくうまくいったところで最も重視したのは「チーム組成」なんです。 今回オープンイノベーションに関わる方が多く参加されていらっしゃると思うので、言葉を選ばなくてはならないのですが、大企業のオープンイノベーションのチームメンバーの場合、すごく優秀なメンバーが集められることは少ないです。
どちらかとういうと、余っている人を集めました、というようなチームが多い印象で、これではなかなかうまくいかないと思っています。支援がうまくいった時というのは、大企業側で各部署でのエースを全員集合させてメンバーを作っていました。

何が変わるかというと、当然優秀メンバーなのでスピード感があってうまくいきやすくなることもそうなんですけど、優秀な人が集められているところ、会社として本気でオープンイノベーションをやろうと思っていることをアピールできるし、周囲の注目度も変わります。
ですから、いろんな意味でチーム組成はじつはすごく重要だと思っています。相手ベンチャー企業のやる気も変わりますので、本気でオープンイノベーションをやるのであれば、優秀なメンバー集めてスタートすることはとても大事です。

■スピード競争と投資リスクに対応できる「戦略的提携」

モデレーター:貴重なご意見ありがとうございます。 ここで会場からの質問を1つ紹介します。「オープンイノベーションの形態としてM&A、ジョイントベンチャー、業務提携などいろいろありますが、どのような観点でその形態を選択するべきでしょうか」という質問ですが、いかがでしょうか。

松本:今いろいろなオプションの手法が出てきて、みんなの新しい手法に飛びついている状況なのですが、 クローズイノベーション(自前主義)ではスピード競争に勝てない、スピードに対応できるM&Aをいきなり行うと、投資リスクが高く日本の企業は失敗する確率も高い。
そこでスピード競争と投資リスクに対応できる「戦略的提携」言い換えるとオープンイノベーションから入る、というのがMIT教授のマイケル・A・クスマノという経営学者の考えです。

戦略的提携から、買収先の企業とwin-winの関係を構築し、M&Aで成功した例が堀場製作所です。堀場製作所は元々1本10万、20万の自動車用のセンサーを扱う会社だったのですが、エンジンの開発のシステム化のアセットを持っていたEUのベンチャーと協業し、1システム2億円、3億円になる車のエンジン開発を行えるようになり、企業として大成功します。 そして最終的にこのEUの企業を買収することになりました。これは堀場製作所とEUのベンチャーが、買収の前にwin-winの関係を築いていたからこそ、M&Aで成功したんですね。win-winの関係を構築する前に買収、となるとうまくいかなかったはずです。
この事例から考えるに、戦略的提携から入って、必要に応じてM&Aやジョイントベンチャーを行うというシナリオ作り、戦略づくりが必要だと思います。私のオープンイノベーションの根幹は戦略的提携という考え方です。(下に続く)

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3.イノベーションの成功確率を高めるマネジメント・システム

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■創造性の追求ーー「個人技」ではなく「組織技」

モデレーター:ありがとうございました。さて、2つ目のキーワードとして、松本様から「成功確率を高めるマネジメントシステム」を挙げていただいております。

松本:イノベーションには「創造性の追求」と「効率性の追求」とがあります。日本企業は「効率性の追求」は得意なのですが、今は変革に迫られています。さらには、時代の変化が激しい中では「創造性の追求」をしっかりやるべきです。社内で「イノベーター」と呼ばれる人が出て活躍していた時代もあったのですが、今はそういった「個人技」に頼るのではなく、「組織技」に移行することが「創造性の追求」に求められています。
もちろん「効率化」も今のデジタル化の時代に対応しなくてはいけないので、結果的には「効率性」と「創造性」の両立がもとめられます。スタートアップが活躍し、大手企業もイノベーションを加速させる。どちらも必要ということです。

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さきほどイノベーションには「AからBへの変化・シフトが必要」という話をしましたが、その間にイノベーションプロセスがあります。イノベーションプロセスの前半の部分、「事業創造」の部分がなかなかスムーズには行かない。イノベーションを阻む課題がいろいろあります。 「今までの成功モデルから脱却できない」「既存事業による短期業績に注力しすぎる」「顧客の本質的なニーズを捉えられない」「現場のアイデアがことごとく弾かれる」「内部リソースにこだわりすぎる」等、自前主義の会社が多いので、内部リソースにこだわるケースが多いです。

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日本の大手企業が抱える課題としては、「決まったことを確実に実行する経営」、つまり既存の事業については利益が出ているが、「見えないものを探索し、決める経営」つまり新しい事業創造ができていない。そして「社長」はこの両方をきちんと見てマネジメント、コミュニケーションを図るという役割を担います。これが「2階建て経営」という考え方です。 イノベーションに「OS」と「アプリ」があるとすると、現在は「アプリ」のほうが注目され、新しいアプリが開発されると、いろいろなオープンイノベーションがそれに飛びつく状況なのです。しかしなかなか成果が出ていない。それはOSが古いままだからです。

そこで2019年に、既存の組織からイノベーションを起こすマネジメントシステム(OS)が国際規格化された「ISO56000シリーズ」が発効されました。 AからBへ劇的な変化・シフトを起こすために、AからBの間にはイノベーションのプロセスがあります。組織の状況をきちんと把握し、やるべきことに向かってリーダーシップを発揮し、イノベーションに関わる個人の力量はどうあるべきか等、支援体制として社内の調整力がきちんと標準化されている。そしてイノベーションの中心にいるイノベーターが、試行錯誤しながら価値を生み出せるような仕組みが、今回国際規格化されているところです。

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この中心の部分が最も重要なのですが、顧客のニーズを理解し、機会をきちんと探索し、自社の力量を鑑みて、コンセプトを創造し、検証する。この検証を行わずに失敗する例が非常に多いです。

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4.オープンイノベーションにはトップと仕組みが大切

■「トップのコミットメント」「現場のやる気」「イノベーション推進チームの機能」

松本:またオープンイノベーションには「トップのコミットメント」「現場のやる気」「イノベーション推進チームの機能」この3つが私は必要だと思います。 そして海外の場合は、オープンイノベーションがトップダウンで進むケースが多いのですが、日本では中堅層、ミドル・トップダウンで進むことが多い。「ミドル・トップアンドダウン」これが日本で成功するケースに多いと思います。

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「油を使わなくても揚げ物ができる調理機器」の開発に成功したフィリップスの例を紹介しますと、トップがきちんと「肌の健康」「運動のモチベーション」「低カロリー調理」という機会を特定し、そして2社のベンチャーと協力して、記録的なヒット商品を生み出しました。

トップが「高品質の試行錯誤」を支援するIMS(イノベーション・マネジメントシステム)をきちんと導入するか否かで、グローバルに競争できるかどうかがかかっています。そのために、協業するベンチャーとコミュニケーションをとり、顧客のニーズにあった機会を特定し、コンセプトを検証しながら創造開発ソリューションの特定につなげていく、という仕組みをしっかり作りましょう、ということを私からのメッセージとしてお伝えしたいと思います。

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■高品質の試行錯誤を繰り返し、新しい価値を生み出すマネジメントシステムを構築する

モデレーター:ISOを導入するとなると、社内も大変だと思いますが、先ほど頂いた質問の中に「大企業のオープンイノベーションの方法はイメージがわきますが、中小企業では機械の特定や社内リソースに制限が出ることがあります。 中小企業がオープンイノベーションや新規事業をするにあたって一番重要なポイントは何でしょうか」という質問がありました。今お話していただいた「組織づくりが重要」というポイントは、中小企業にも当てはまりますか。

松本:じつは、先ほどお話した「イノベーション・マネジメントシステムの国際規格化」というのは、ヨーロッパでは元々中小企業をより強くするために進められていたものなんです。日本では大手企業だけでなく、地方の中小企業をより強くするために、 この「イノベーション・マネジメントシステム」に力を入れていきたいという声が日本の各地の地方行政からも出ています。 ですから、日本では国や行政が支援しながら、このシステムを導入して地方の中小企業を強くしていく、という枠組みが考えられると思います。

前田:私からも、このご質問への回答を付け加えさせていただきます。ヨーロッパでの中小企業というと、日本では中堅企業に当たると思います。 ベンチャーのような小さい企業では、マネジメントシステムそのものがないと成り立たちません。 ところが地方へ行くと、すごく有名な、ほぼ大企業に近い中堅企業があります。こういう中堅企業も仕組み化が必要かと思っています。 また、2025年になると、中小企業の7割が70歳以上の経営者になると言われています。ちょうど今が世代交代の最中であり、文化も含め、会社の仕組みについても変えていく時期に来ていると思います。

モデレーター:ありがとうございます。加藤さんからは、ご意見ございますか。

■顧客は何を求めているのか

加藤:私の会社のお客様も、メインは中小企業になるのですが、新しい事業をやりたいとおっしゃられる企業は多い、という印象はあります。例えば板金とか金属の加工会社だと、消費者向けにInstagramとかFacebookのアカウントを会社で作って、「面白い製品」を紹介して、販売をされているところが多いのですが、うまくいっている会社はほとんど無い。
それには2つ理由があると考えています。1つは自分達に今ある技術の中から全て派生してしまってるので、「自分達が今持っている技術の中で」何か面白いもの作れないかと考えてしまい「お客様のニーズから来てない」というところ。

もう1つは、社長が肝いりで進められていないというところ。若手の社員に「ちょっとInstagramやってみて」という感じでいろいろ試行錯誤させて、もちろん若者のほうがSNS等のリテラシーがあるので、その方がいいという考え方もありますが、これまでやったことがない新規事業を始めるとなると、意思決定もスピードも必要なので、経営陣のコミットが非常に大事だと思っています。社内リソースというよりも、経営者がコミットできるかどうかが重要ではないでしょうか。

■新規事業は別の組織でやること

モデレーター:ありがとうございます。ここで「失敗が許されない風土になる理由は何でしょうか」という質問が来ていますが、これはISOを導入することで変わってきたりするのでしょうか。

松本:もともとJINは「二階建て経営」というのを提唱しています。既存事業と同じ場所で新規事業をやろうとすると、既存事業のどうしても力が大きいので、新規事業はなかなかうまくいかないケースが多いです。 そこで、新規事業は別の組織でやることを推奨しています。しかし新規事業やイノベーション部門は、社長のトップダウンでやらないと難しい。だから、社長が覚悟をもって、こういう枠組みをしっかり作るということが大事です。

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モデレーター:「トップと仕組み」が重要ということですね。

パネルディスカッション「これからのオープンイノベーションの在り方」の1つ目のテーマである「これからのオープンイノベーションの在り方とは」は以上となります。

2つ目のテーマ「実現に向けた課題」の記事はこちらです。

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