• 配信日:2025.07.11
  • 更新日:2025.07.14

オープンイノベーション Open with Linkers

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

この記事は、リンカーズ株式会社が主催したWebセミナー『大阪ガスの事業創造とオープンイノベーションの最前線』のお話を編集したものです。

大阪ガス株式会社 執行役員 事業創造本部長の夏秋 英治(なつあき えいじ)様より、同社の事業創造活動とイノベーション戦略について詳細に解説いただきました。Daigasグループが展開する事業創造本部の組織体制と仕組みを紹介。メタネーション技術開発をはじめとするカーボンニュートラルへの取り組み、既存事業の高度化、新規事業創出に至るまで、長期・中期・短期の時間軸に沿った戦略的アプローチを体系的に説明しています。

Daigasグループの概要


大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

Daigasグループの事業の概要を説明します。売上はグループ全体で約 2 兆円、 2023度の経常利益は 2,000 億円で、利益ベースでは海外比率が約 4 割という状況です。海外からの天然ガスの調達・輸送から電力販売までを一貫して行っているのがバリューチェーンとしての強みだと考えています。

画像の円グラフを見ていただくと、海外での利益がエネルギー同業他社の中でも非常に多いのが特徴です。事業の柱としては海外エネルギー事業、国内エネルギー事業、 LBS (ライフ & ビジネスソリューション事業。不動産、情報通信、材料など。)があります。

Daigasグループのイノベーション体制と全体像


大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

Daigasグループ全体の中期経営計画では、大きな3本柱として「従業員の輝き」「ミライ価値の共創」「経営基盤の進化」を掲げており、私たち事業創造部門はグループの中で、これらの柱を実現する重要な役割を担っていると理解しています。

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

こちらはDaigasグループ全体での事業創造部門の位置づけを示したものです。私たち事業創造本部は、経営企画部門と並びコーポレート部門に所属をしています。事業創造本部の中には「未来価値開発部」「未来価値実現部」「先端技術研究所」という3つの部があります。

また、事業部門にグループ会社として株式会社KRI という会社があり、事業としては研究のアウトソーシングを受けるという日本では珍しいユニークな事業を展開しています。

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

画像の図には、縦軸に大阪ガスの強みである「顧客接点」と「技術力(エネルギー関連)」を記載しています。そして横軸には事業のステージを示しており、「創出ステージ」「成長ステージ」「収益ステージ」は、テーマ探索から始まって事業化まで、それから事業成長・拡大というイメージです。

私たちはよく、「種をまいて苗にするまでは創出ステージで、苗を苗木にするところまでが成長ステージ。木になって実を結ぶところが収益ステージ」と表現します。

その中で「先端技術研究所」は、技術の部分で創出を担います。顧客接点(サービス系の業務)の創出ステージは「未来価値開発部」が担い、戦略の立案やパートナー探索、協業・提携などを試みます。それらを経て、 PoC も終わり、「事業にできそうだな」ということになったら、「未来価値実現部」に引き継ぎ社会実装を進めていくという形です。

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

「長期」の取組みとしては、強みを生かした基礎的な開発や市場での情報探索を行いつつ、小さな種まきをしています。「中期」の取組みとしては、成功の見込める事業に絞り込んで苗の育成に取り組んでいます。そして「短期」の取組みとして、既存事業に近い領域では事業部門と連携しながら時間を意識して社会実装を進めています。

それぞれの取組み方については、大まかに4つのアプローチがあると考えています。「 ① 研究開発」と「 ② 事業探索」は、主に「長期」の取り組みに対して行っているアプローチです。「 ③ 事業育成」は「中期」の取り組みに対して行っているアプローチで、「 ④ 既存事業の拡大」は「短期」で行っているアプローチです。

Daigasグループのイノベーションに関する具体的な取り組み


ここからはDaigasグループの事業創出活動に関する具体的な取り組みを解説していきます。

研究開発

まずは研究開発について、

  • ・A.カーボンニュートラルの実現
  • ・B.既存事業の高度化
  • ・C.コア技術を活かした事業創造

の3つの領域に分けて順に説明していきます。

カーボンニュートラルの実現

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

まずカーボンニュートラルの実現について説明します。画像はDaigasグループのカーボンニュートラルビジョンです。当社はガス会社であるため、カーボンニュートラルには非常に敏感ですし、社会的な課題も感じています。このビジョンの中で掲げている柱は2つ。メタネーション技術の開発(都市ガスの脱炭素化)と、再生可能エネルギーの導入・火力発電の脱炭素化(電源の脱炭素化)です。

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

前の画像で紹介した「メタネーション」とは、e-メタンを合成する技術のことです。またe – メタンとは、グリーン水素等の非化石エネルギー源を原料として製造された合成メタンのことをいいます。メタンの燃焼時に排出されるのと同量の CO2 を原料として使用するため、 e – メタンの利用により大気中の CO2 に増減はありません。

既存事業の高度化

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

次に既存事業の高度化について説明します。当社の研究部、技術部門、開発部門の中にある材料評価技術、 AI ・シミュレーション技術、センシング技術、燃焼技術などを、当社グループ事業に活用することで既存事業のさらなる高度化に貢献しています。

コア技術を活かしたイノベーション創出

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

こちらのグラフは横軸に時間を、縦軸に技術開発・事業化のフェーズを記載しています。時間の経過に従って技術開発・事業化のフェーズが上がっていくのが正常な進化でしょう。この進化において当社が特に大事にしているのは、上がっていく段階でのテーマの種まき、可能性の見極め、方向性の随時修正、そして出口戦略の確認です。これらは行ったり来たりするものだと考えており、研究開発を進める中で PDCA サイクルを回していくということが極めて大切だと思っています。

大阪ガスのイノベーション事例〜長期・中期・短期戦略の使い分け〜

こちらの画像は、 2024年度にブラッシュアップしたステージゲートです。特徴は研究開発フェーズの進捗に合わせ、未来価値開発部 ・未来価値実現部との連携を強化することで、出口戦略を適正化することにあります。

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