- 配信日:2021.01.12
- 更新日:2024.08.21
ものづくり マッチング事例
「清水建設×ダイヤ工業」アシストスーツの開発ストーリー ~掘削作業の負荷軽減・腰痛防止の為に~
はじめに
清水建設株式会社とダイヤ工業 株式会社は、掘削作業の負荷を軽減でき、腰痛防止効果も備えたアシストスーツ「ワーキングアシストAS」を共同開発しました。
「ワーキングアシストAS」の開発は、ビジネスマッチングによるパートナー探索サービス「 Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」を介して、清水建設がダイヤ工業と出会ったことで製品が実際に具体化し始めました。運動器のサポーティングシステムメーカーであるダイヤ工業とのマッチングに至った経緯、「Linkers Sourcing」を使った感想、そもそもの開発目的、そして清水建設におけるイノベーション推進などについて、清水建設株式会社 土木総本部 土木技術本部 技術計画部 技術第3グループ 兼 イノベーション推進部 CIMグループの三木様にお話を伺いました。
■ワーキングアシストASとは?
「ワーキングアシストAS」は一体どのような製品なのか、まずはその概要をご説明します。
「ワーキングアシストAS」はベスト型で、容易に着脱可能なアシストスーツです。前述したように多種多様な用途に活用していただけますが、主な目的は人力掘削作業における負荷軽減です。具体的にはスコップを使って土砂を投げ出す動作において、脊柱起立筋の筋負担を10%程度軽減することができます。
参考画像のように利き腕の肩と反対の二の腕を結ぶゴムベルトの伸縮によってスコップを使った動きを補助してくれます。しかし、商品にはゴムベルトが2本同梱されますので、両腕に装着することも可能です。また、腰周りに装着するベルトは骨盤コルセット機能を備え、作業姿勢を安定させることに加え、腰痛の防止効果もあります。
「ワーキングアシストAS」にご興味がある方は、清水建設のプレスリリースに詳細とダイヤ工業の販売窓口が記載されていますので、ご参照下さい。
■清水建設におけるイノベーション推進と開発テーマ
三木様は技術計画部 技術第3グループにおいて、主たる業務として首都圏管内の土木工事現場における技術支援や受注支援、各種技術開発を担いながら、「ワーキングアシストAS」に至る開発テーマのリーダーを務められました。
「弊社の事業領域は建築、土木など多岐に渡ります、対象もオフィス、工場などからトンネル、ダム、橋梁など非常に幅広いものとなっております。イノベーション推進部が取り組む開発テーマに関しても、土木の分野だけでも数十、建築と合わせると200を超えます。『ワーキングアシストAS』は、そのテーマの一つから生まれたものです。しかし、アシストスーツの開発がテーマだったわけではなく、地下埋設物を傷つけてしまうような事故を少しでも減らしたいということが始まりです」
地下埋設物は目に見えないこともあり、作業中に傷を付けてしまう恐れがあります。
特に機械での掘削ではどうしても繊細な制御が難しく、最終的には人力で注意深く作業を行わざるを得ないのが現状です。しかし、当然ながら人力での掘削作業は作業員の方にとって非常に大きな負担となります。
「実はリンカーズさんへの依頼は2つ出しました。機械作業で対処できれば効率的にも良いので、埋設物の手前で機械を止められるような技術がないかという探索をお願いしました。ところが、やはり現状では難しいことが分かり、人力作業における負荷軽減に絞って進めることに決めたのです」
■情報収集とパートナー探索手段
人力作業における負荷軽減に繋がる技術及びパートナーを探すにあたり、最終的に三木様は「Linkers Sourcing」を活用されることになりますが、従来の情報収集・パートナー探索手段としては、展示会への参加や個人的な繋がり・クチコミが中心だったそうです。
「私自身が技術探索のような業務を主としているわけではありませんので、やはり個人的な繋がりが中心です。『それについてはあの人が知っていると思う』など、社内で相談をしていく中で得られたクチコミから辿っていくことが多いです。また、関連する内容の展示会があれば、普段からなるべく足を運ぶようにしていますし、そこで知り合った方や過去に関わったことのある企業からのメールなども情報の一つとしています」
リンカーズを知ったキッカケも社内での繋がりです。
掘削作業における負荷軽減は土木だけでなく建築工事も含めて複数の事業領域で抱える共通した悩みだということもあり、土木総本部外の技術戦略室からも人材が投入され、偶々その方が弊社を知っていたことがキッカケだったそうです。
「本プロジェクトのメンバーの中に技術戦略室に所属している者がいて、彼からのクチコミで知りました。具体的にプロジェクトをどのように動かしていこうかという段になった時、色々な技術を持った会社を紹介してくれるリンカーズさんという会社があるという話を彼から聞き、実際に探索を依頼することにしたのです」
■「Linkers Sourcing」の活用とメリット
三木様は従来の探索手段のネックについて次のように述べています。
「人との繋がり、クチコミが中心ということは、私も含めて各個人のネットワークに依存していることになります。当然、拾い切れていない情報が沢山あると思いますし、その点は課題だと感じていました」
また、「実際に『Linkers Sourcing』を利用した結果、とても沢山の候補をご紹介していただけたことは、非常に良かったと思います」と語られています。本プロジェクトに対して弊社からは合計52の候補をご紹介させていただきました。
「やはり選択の幅が広がったと感じました。我々が全く知らない会社もありましたし、中には大学の先生もいらっしゃいました。色々と思いもよらない方からお話を頂戴できました」
パートナー候補の提示が一度にまとめて行われなかったことも良かったことだと三木様は仰っています。
「52の候補が全て出揃ってからの一括提示ではなく、ある程度区切って順次ご提示いただく形式は、私としても助かりました。少しずつ予備情報を入れながら順次新しい情報を追っていくことができました」
「Linkers Sourcing」によって探索時間を短縮できたことも利点だったと指摘されています。
「リンカーズさんに依頼しなかった場合、そもそもダイヤ工業さんを見つけ出すことができたのかという根本的な問題があります。探索開始の時点で迷走したことは確かだと思います。仮に自力でやった場合、実際にどれくらい期間が延びたのか、正確な予測はできませんが、半年程度は余計に掛かったかもしれません」
■負荷軽減手段をゴム製アシストスーツに絞り込む
本プロジェクトのテーマはアシストスーツの開発ではなく、あくまでも地下埋設物事故の軽減、そのための人力作業における負荷軽減です。手段は問わずに解決できる技術及びパートナーの探索を行った結果、アシストスーツに行き着いた、という流れです。
「負荷軽減手法としてアシストスーツで補助をするというのは当初から想定していました。しかし、実際に届いた提案の多くがアシストスーツだったということには驚きましたし、直接的に体を補助するために最も有効な手段はやはりアシストスーツなのだと実感しました」
アシストスーツといっても、その種類は大きく3つに分かれます。
「モーターを使ったアシストスーツ、人工筋肉を活用したアシストスーツ、ゴム系の素材を使ったアシストスーツ、この3種類に大別できますが、それぞれに強みと弱みがあります」
プロジェクトのメンバーは実際にいくつかのアシストスーツを試用されたそうです。
「実際にご提案のあった企業10社ほどと面談をさせていただきまして、アシストスーツをお持ちいただき、我々も試してみました。その結果、ゴム系のアシストスーツに絞りました。現場では、やはり繰り返し作業が多いので、完全な追従性が求められます。また、一日中、全く同じ作業をするわけでもありませんので、着脱が容易だという点もポイントの一つです。そして、作業員の方々、一般消費者が無理をせずに購入できる価格帯の製品にしたかったので、コストを抑えられるという点も大きかったです」
■ダイヤ工業とのパートナーシップ締結
複数の企業と面談し、各種アシストスーツを試された結果、最終的にダイヤ工業との共同開発を決めることになりますが、その決定的な理由は何だったのでしょうか?
「ダイヤ工業さんはゴム系のアシストスーツを既にいくつか商品化していますので、必要な技術を有していたという点、そしてR&Dセンターで筋電位測定ができるなど実験施設を持っていた点が大きな理由です。数値的なエビデンスを取りながら開発を進めることで、より確かなものを作り出せますから。そのような点からダイヤ工業さんにご協力をお願いすることを決めました」
■開発の流れ
パートナーが決定し、実際に共同開発を始めるにあたり、まずはダイヤ工業の実験施設を用いて掘削作業時の筋肉の状態を調べるとともに、既存製品を着用した場合のデータと比較します。それらのデータを基に開発の方向性を決定。具体的な製品開発が始動することになります。
「ダイヤ工業さんは既に『DARWING SATT (ダーウィンサット)』を始めとした幾つかのアシストスーツを商品化しています」
「それらを試しましたが、例えばダーウィンサットには臀部アシストのための補助ベルトがあるのですが、掘削作業では邪魔になることが分かりましたので、臀部・足の補助は不要だと判断しました。同じように色々と試し、データを取りながら試作イメージを練り上げ、実際に試作品を制作。完成した試作品を現場の作業員の方に試用していただいてアンケートを取る。そのフィードバックを元に改善して再度試作、再びの試用、という流れを繰り返し、最終仕様を固めていきました」
プロジェクトは2017年に開始され、途中、新型コロナウイルス感染拡大防止のための国内情勢を受けて開発が中断した期間もあったそうですが、実働2年ほどを掛けて完成し、9月に販売予約開始となっています。
■「ワーキングアシストAS」は広く一般販売
共同開発と一口に言ってもそこには様々な形があります。今回のパートナーシップでは、清水建設が要求仕様の設定、試作品を用いた使い勝手の確認等を担当し、ダイヤ工業が設計・試作・筋負担の軽減効果検証を担っています。
そして完成した「ワーキングアシストAS」はダイヤ工業が販売を行い、法人のみならず我々一般消費者が一着から購入することも可能です。価格も33,000円(税込)と、無理のない範囲に収まっています。
本製品を清水建設の現場だけでなく、他の建築・土木現場を始め、自由に活用していただき、様々な作業で人々の負荷軽減に役立てられればと仰っています。
「建設現場では高齢化が進んでおり、50代・60代の方もいらっしゃいます。やはり歳を重ねると若い人と同じとは行きません。若い人の中には、10%ほどの補助であれば不要だと言われる方もいますが、高齢の方からは非常に助かるとの声を頂きます。掘削作業のアシスト機能だけでなく、コルセット機能によって腰が楽になったという方もいます。弊社の現場作業員の方はもちろんとして、一般の方を含めて幅広く役立てていただければと考えています。そもそも作業負荷軽減というのは弊社の現場に限った課題ではありません。価格も開発初期の段階から約3万円を目安としました。5万円となると、手を出しにくいと思いますし、逆に1万円では素材や機能を十分に確保できない可能性があります」
■ 「Linkers Sourcing」の活用を検討されている方へのメッセージ
清水建設には技術研究所があり、日々様々なテーマの開発に取り組まれているそうですが、今回のアシストスーツのような研究はしていなかったように、自前でやれることには限界があり、三木様は今後も外部との連携を積極的に行っていきたいと仰っています。
そして今後、清水建設のように外部パートナーを探す方、外部との連携を検討している方に向けて、「Linkers Sourcing」活用のメリットなどのメッセージを頂戴しました。
「『Linkers Sourcing』を利用することで、自分たちのネットワーク外にある技術・パートナーを簡単に見つけることができますし、その情報は順次上げてくれます。加えて、最終面談の日程調整なども含めてパートナーとのマッチングが完了するまで、しっかりと面倒を見ていただけます」
清水建設株式会社にてご利用いただいた、
「 Linkers Sourcing 」サービスについてはこちら。
本サービスの詳細説明のほか、どのような課題をどのように解決できるのか分からないといった場合も、リンカーズの豊富なイノベーション支援実績の知見から、最適な課題解決のご提案をさせていただきますので、ぜひ以下の「本サービスに関するお問合せはこちら」からご相談ください。