• 配信日:2021.02.26
  • 更新日:2022.02.17

ものづくり マッチング事例

新事業創出に向けたダイセルのオープンイノベーション。
試作/受託製造パートナー探索でリンカーズを活用

はじめに


セルロイド会社8社の合併によって1919年に設立された大手化学メーカー 株式会社ダイセル は、セルロース化学、有機合成化学、高分子化学、火薬工学をコア技術に、化学工業の枠を超えて事業領域を拡大。社内のみならず、大学・研究機関、他社との協業・連携を強化し、革新的な技術・製品を生み出すためにオープンイノベーションにも注力しています。

事業創出本部 新事業開発部 技術企画グループを率いる岩谷様は、同社のオープンイノベーションの取り組みを担うお一人です。

岩谷様、そして技術企画グループでは、新事業の種となりうる新素材・新技術の創出に取り組まれています。多種多様なアイデアを立案し、厳選した案件が本格的な試作検証ステップに進むことになりますが、岩谷様はその試作パートナーの探索において弊社のサービス「Linkers Sourcing」をご活用下さいました。試作検証が成功した暁には受託製造まで任せられる協業パートナーです。

今回の記事では、岩谷様が「Linkers Sourcing」を利用された経緯や感想などの他、ダイセルのオープンイノベーションへの取り組み、新事業創出に向けた考え方などをご紹介したいと思います。

オープンイノベーションは社内外の複数の組織、人間が関わることもあり、様々な課題を抱えられている企業が多いかと思います。その一助になれば幸いです。

1919年 大日本セルロイド株式会社 創立
1919年 大日本セルロイド株式会社 創立

■ダイセルとオープンイノベーション


ダイセルは創立100年を超える歴史ある企業ということもあり、今やその事業領域は多岐に渡ります。モビリティ、エレクトロニクス、メディカル、コスメ・ヘルスケア、環境・エネルギーなど大分類の時点で非常に幅広く、それぞれを細分化すると、さらに驚くほどの範囲に及びます。

ダイセルの注力市場
ダイセルの注力市場

祖業であるセルロース素材は様々な事業領域で展開されていますし、エンジニアリングプラスチックも「ジュラコン POM」に代表される製品のように様々な機器で使われています。自動車のエアバッグを膨らませる「インフレータ」も同社の火薬工学が活かされた代表的製品です。

実は、ダイセルの概要は同社の公式動画でとても分かりやくまとめられていますので、ぜひご覧になってみて下さい。

新事業創出に向けたオープンイノベーションへの取り組みにも特筆すべきものがあります。

創立100周年を迎えた2019年を機に大きな組織改革が行われたそうですが、例えば、顧客、大学・研究機関など外部パートナーとの共同開発をしやすいよう、クリーンルームや多機能実験室を備えた「オープンラボ」が設置されています。

また、シミュレーション技術によってスピーディーかつ手軽に各種検証ができる「バーチャルラボ」も活用されています。

さらには新事業創出及び既存事業強化を迅速かつ効果的に行うべく、研究開発部門と生産・エンジニアリング部門を集約した「イノベーション・パーク」が2017年に設立されています。

イノベーション・パークの中核をなす執務棟「iCube」
イノベーション・パークの中核をなす執務棟「iCube」

積極かつ大胆に改革を進めているダイセルが2019年10月に組織体制を刷新して誕生したのが事業創出本部です。岩谷様が所属する新事業開発部 技術企画グループは、社内外の最新技術動向の調査・研究などを行いつつ、ダイセルのシーズと顧客のニーズを結び付け、新規事業創出に向けた企画・立案を担っています。

そして有力な企画は、同じ新事業開発部内のコーポレート研究センター、イノベーション・パークなど社内の研究メンバーらと協力して検証を進め、事業化に向けたステップを歩んでいくことになります。

■新事業創出に向けて


事業創出本部 新事業開発部 技術企画グループは、新事業創出に向けた起点ということになります。

そこで技術企画グループには、セルロース、電子材料など、得意分野の異なるメンバーが集い、それぞれが顧客、外部研究者などへのヒアリングを積極的に行うなど、広範囲な情報収集に当たっています。

「我々のグループでは、各分野で将来的に望まれるであろう材料などを予測し、深堀していきます。例えば、環境に優しいバイオ由来の材料であれば、その現状はどうなのか、大学の研究内容をはじめとして詳細に調べます。

私個人としては将来の電池の材料に興味がありますし、エレクトロニクスに強いメンバーであれば、5G、6Gといったモバイル通信の今後の世代で新素材のチャンスがあるのではないか等、それぞれが広くアンテナを張り、グループ全体で多様な領域をカバーしています」

新規の事業創出に向けたアイデアの土台となるのは自社のコア技術です。

「すでにある技術に対して、足りないものを一つ、二つと加えることで、その技術が強化されます。関連技術を取り込むことで、元々の幹が太くなるわけです。技術が強化されれば、当然できることが増え、間口が広がり、新しい顧客開拓にも繋がります。

自社に全くノウハウのない、見知らぬ分野で新事業を創出するというよりも、弊社の強みに立脚し、プラスアルファの技術を社内外問わず追加していく形での強化が重要だと考えています」

ダイセル 岩谷様
コア技術に新技術をプラスしていくことで、その幹が太くなり、技術力が強化されると語る岩谷様

会社の基本方針としても、オープンイノベーションのパートナーにはサプライチェーンの川上・川下を問わず、さらには同業他社ですら除外せず、トータルでの価値向上を目指した事業創出に向けて、言葉通り「オープン」にパートナーシップを求めているといいます。

■リチウムイオン2次電池とカルボキシメチルセルロース増粘剤


新事業創出における基本的な考え方の補足説明として、岩谷様が個人的な関心事項として挙げられた「電池」を例としてお話頂きました。

ダイセルのグループ会社、ダイセルミライズ株式会社の製品「CMCダイセル」は、リチウムイオン2次電地に使われる材料として世界的なシェアを持っています。

リチウムイオン2次電池は今や誰にとっても身近な存在ですが、その構造を詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか?

「皆さんお持ちのスマホ、電気自動車などで使われるリチウムイオン2次電池には、正極と負極の電極板があり、セパレーターという隔膜が挟まれています(下図参照)。その負極板は、硬くゴロゴロとした炭素の粒を、水や有機溶剤で練って、混ぜ合わせ、インク状にして銅箔に塗って乾かして作られています。

練り合わせる際に溶剤の粘度が高くないと炭素の粒は重いので沈んでしまいます。増粘剤は、粒が沈まないようにする補助的な材料です。そして『CMCダイセル』を使うことで、粘度が高く、とろみのついた、とても綺麗なインク状にでき、高品質な塗膜を形成できます」

リチウムイオン2次電池の構造
リチウムイオン2次電池の構造

「CMC」とは「Carboxymethyl Cellulose」(カルボキシメチルセルロース)の頭文字をとったものです。ダイセルでは、カルボキシメチルセルロース系の素材は、電池以外でも多種多様な分野で様々な形の製品として展開されています。

そしてダイセルミライズ、ダイセルにはリチウムイオン2次電池に関する技術と、供給先を始めとする関連企業との繋がりがありますのでこれらの繋がりを利用して新たなニーズの掘り起こしや提案を行う活動を実践しています。

これは一つの例ですが、このように社内に土台のある技術において、プラスの何かを加え、新たな種として育て上げていくことが技術力の着実な強化に繋がることは明白です。

「社内に足掛かりがあるものから新しいことをやっていきましょう、という考えはトップのメッセージの一つとしても打ち出されています。そこに何かをアドオンし、付加価値を高めた新しい何かを生み出すことが重要です」

■試作段階における課題とパートナー探索


岩谷様は試作・検証段階へ進む案件における試作パートナー探索を目的として「Linkers Sourcing」をご活用されました。冒頭でも触れたように、最終的な受託製造も見越したパートナーです。

初期段階の検証に用いる手作りレベルの試作品であれば社内で製作可能ですが、顧客に向けた本格的な評価用のサンプルとなると、より工業的に製造された物が求められ、外部の試作パートナーが必要になることがあるといいます。

「具体的に案件を言えないために説明が難しいですが、ある次世代デバイスのトレンド予測において、このような材料が使われるのではないかという仮説を立てました。その材料に関する要素技術は社内にあります。

しかし、試作には社外の技術を組み合わせる必要がある。実際にデバイスで検証する段階では、手作りの試作品で評価しても意味がなく、工業的に製造されたサンプルが望まれる訳です。それをクリアしない限り先に進めません」

ところが、自分たちだけでのパートナーを探索することには限界があると仰っています。

「当然、担当者が一生懸命探す訳ですが、その手段はインターネット検索、伝手を知っていそうな人物に当たるなどの人脈便りです。もちろん最終的には、どこか見つかるまで探しますが、仮に見つけても『まだあるんじゃないか?』という疑念が拭えません。

そこがベストだと確信できず、いつまで経っても探し切ったという感覚を持てないという難点があります。これは思い入れの強いアイデアほどその傾向があります」

そして探索作業そのものだけでなく、アポイントなどの段取り面も含めて時間が掛かるそうです。

高度な化学素材を製造できる企業の数は少ない印象だったので、探索はそれほど難しくないのではないかとの疑問をぶつけたところ、「確かに化学物質を作りましょうとなると莫大な投資が必要な話になりますし、大手でなければ難しいと思います。しかし、我々の案件で求めていたのは、素材の加工です。素材自体は我々が作り、それを顧客での検証に適したサンプルへと加工できる試作・受託製造パートナーを探していました」とのことで、依頼案件に関しては、加工が可能な企業の心当たりもなく、それこそ新しい分野、土地勘のない領域であれば尚更分からない。

そこで「Linkers Sourcing」を使ってパートナーの探索をすることを決めたということです。

■「Linkers Sourcing」を使った感想


では、岩谷様は弊社のサービスをどのように知ったのでしょうか?

「既に異動してしまいましたが他社から転職してきた元同僚の向井さんがリンカーズさんのサービスを利用したことがあり、御社のサービスについて聞きました。ですが、実は私自身も以前から御社のことは知っていました」

以前弊社のことを取り上げて下さったメディアの記事をご覧になったことがあるそうで、「記事を見て、勢いあるベンチャーとして注目していた会社でした。そこに向井から実際に使ったことがあると聞いて、私も機会があれば利用してみようと思ったわけです」とのことでした。

ダイセル岩谷様

「Linkers Sourcing」を使った感想を伺うと、時間の節約、パートナー候補の数を得られることなどに加え、興味深いお答えがありましたのでご紹介します。

「やはり時間の節約ができると思います。そして、先ほど自分たちで調べるとキリがないというお話をしたかと思います。しかし、御社に依頼した場合には、調べ切った、探し切った、全てを網羅したという感覚を得られます。

変な言い方ですが、逆にダメだったらダメだったで諦めがつくと思います。自分たちで探索しても「いつか見つかるんじゃないか」と、諦め切れない気持ちがどうしても残ります。

ですが、『Linkers Sourcing』で探索して頂いた結果、仮にパートナーシップ締結とならずとも、探し切ったという確信は持てますし、実際にそれくらいのご提示を頂いたかと思います」

今回、弊社からは数多くのパートナー候補を提示させて頂きましたが、その中に、自社の探索で候補と考えていた企業が入っていたことも重要だったと仰られています。

「今回提示頂いたパートナー候補のリストには、我々が自分たちで調べた段階で考えていた候補の企業も入っていました。それがあることで御社の探索力を信用することができましたし、その上で自分たちでは見つけられなかったパートナー候補を提示頂けたので、我々の要望を正確に汲み取って探索頂けたという安心感も得られました」

パートナー候補の絞り込みについては、「我々の今回の希望は、試作対応に加えて、上手く行った場合の受託製造まで担当頂けるパートナーです。そのため、その条件が選定基準となります。例えば、製造装置メーカーさんの場合には、我々が装置を購入して我々が作る、という話になります。

それは今回の我々が望んだ形とは異なります。初期のラボスケールのステップからお付き合い頂けて、順調に進んだ場合には受託製造までお願いできる、そういうパートナーが今回の基準でした」と、今回はその基準で選定を進められたそうです。

■ Linkersの活用を検討されている方へのメッセージ


最後に「Linkers Sourcing」の利用を検討されている方へのメッセージを頂戴しました。

「候補となるパートナーを探し切りたいとか、効率良く探したいといった場合、『Linkers Sourcing』を使ってみることをお勧めします。リンカーズさんに依頼すれば、候補を探し出してきてくれますし、その間は我々も主たる業務に集中できます。時間の節約になりますし、それこそ探索期間も定まります。また、探索の網羅感も得られると思います」

「Linkers Sourcing」の良い点を幾つも挙げて頂き、弊社としても嬉しい限りですし、岩谷様は今後も弊社サービスを必要とする案件で活用していきたいと仰って下さいました。

今回はお忙しい中、貴重なお話を聞かせて頂き、誠にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

※本インタビューは参加者全員がリモートの環境で行われたため、人物写真が鮮明さに欠けたものとなっています。ダイセル、岩谷様、読者の皆様に申し訳なく思いますが、ご理解頂けますと幸いです。



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