• 配信日:2024.05.27
  • 更新日:2024.05.30

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特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

二次元構造の特異形状ナノ素材の事例


特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

ここからは特異形状ナノ素材として、

二次元構造の

  • ・MXene
  • ・遷移金属ジカルコゲナイド( TMDs )

をメインにお話しします。

二次元構造材料にはさまざまな種類があります。エネルギー分野で見かけることの多い材料を4つ取り上げました。

  • ・MXene
  • ・遷移金属ジカルコゲナイド( TMDs )
  • ・層状複水酸化物( LDH )
  • ・Graphene

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

この4つの材料について、2010 年以降の論文の発表数を調べてみました。

MXene に関しては 2011 年ごろに発見されたといわれており、 2013 年〜 2023 年の直近 10 年間で論文数が 517 倍と急激に増加しています。

遷移金属ジカルコゲナイド( TMDs )に関しても、MXeneほどではないですが、直近 10 年間で 17 倍に伸びています。

層状複水酸化物(LDH) はかなり古くからある材料なのですが、それでも 10 年間で 3.6 倍に増加。

Graphene は他の3つの材料と比較し、論文数が一桁大きいのですが、それでも 2.1 倍伸びています。

ここでは、4つのうち MXene と遷移金属ジカルコゲナイド( TMDs ) について深掘りしていきます。

MXeneの事例


特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

MXene は導電性が高く、光電変換機能もあり、また層状の無機物ですので機械的特性も持っています。より特徴的なのは、設計のバリエーションが豊富な点です。どういうことかというと、 MXene の組成の一般式は M _n+1X _n(T_x) で表現されます。 M が遷移金属のバリエーション、 X が炭素と窒素、 n が1〜3の整数で、変数の組み合わせのバリエーションが豊富で、そのため盛んに研究が進められています。先ほど紹介した『創造学のすすめ』に照らし合わせると、構造は二次元なのですが、要素に関して、かなりのバリエーションが取れることが分かります。現在、実験ベースで 30 種類以上の MXene が報告されており、シミュレーションベースでは数百種類以上存在する可能性が示唆されています。構造は二次元であるという前提のもと、要素の組み合わせを変えることで特性が変わり、どういう脈絡を作れるか、どういう機能を発揮できるかなどを考えていくことが、新しい材料やデバイスのソリューションにつながってくると思います。

MXene の合成方法に関しては、選択的エッジングプロセスというものが一般的です。
他にも、CVD 法や水熱合成法などが研究されていますが、量産に向く合成法は未だ研究段階といえるでしょう。

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

画像(右)は、MXene の一つである「 Nb2CTx 」に関して、その用途例が記載された論文を引用しています。先にも述べたように、MXene は要素の組み合わせが多数存在するため、論文ベースでもエネルギー分野、センサ分野、触媒分野、エレクトロニクスなど幅広い用途での使用例が示されています。

続いて、具体的な研究事例について紹介していきます。

Hefei University of Technology の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

この事例では、MXene を燃料電池のカソード触媒の担持体(たんじたい)* として使用しています。MXene は、導電性を持っていて、比表面積も高く、構造安定性があって、カードハウスの構造がとれるということで、本用途のような空間のナノデザインに適した材料です。この用途は、メソポーラスカーボンのような炭素系の材料が担持体として使われることが多いのですが、比較すると無機物であるが故、耐食性に優れている点が訴求されています。このような脈絡は、MXene の要素と構造から容易に創造できると思います。要素と構造の組み合わせから脈絡が創造できる事例として紹介しました。

*担持体=他の物質を固定する土台となる物質のこと。

City University of Hong Kong の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

続いては、 MXene をアニオン電池の電極材料として用いた場合の特性を、シミュレーションで評価した研究事例の紹介です。MXene は、その組成を変化させた9種を、またアニオン電池のキャリアとなるアニオン4種を、変数として用いています。シミュレーションなので、まだ基礎研究段階ですが、特定の用途で機能を発現させるために、多くの要素の中から、最適解をシミュレーションで絞りこんでいる事例として紹介しました。

King Abdullah University of Science and Technology の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

次は、MXene を使った生体センサの事例です。エネルギー分野以外でも、導電性と異方性という機能を活用しています。ハイドロゲルの中に導電性のある平面材料( MXene )を組み込むことで、歪(ひず)みが起きたときに導電パスがつながる機構を利用し、膜の導電性変化から歪みを検知できる仕組みになっています。エネルギー分野の事例と同じような機能を活用していますが、展開先が生体センサということで、少し脈絡が異なる事例として紹介しました。

遷移金属ジカルコゲナイド(TDMs)の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

続いて、遷移金属ジカルコゲナイド( TDMs )を紹介します。この材料も二次元構造を持っています。特性としては導電性を持っていますし、光学的な特性も持っていますし、二次元の無機材料なので構造安定性も高いという特徴もあります。具体的な物性値は異なりますが、MXene と共通点の多い材料です。また、特徴としては、層数の制御が比較的容易といわれています。

組成は、 MX2 で表され、エネルギー分野でよく見るのが 二硫化モリブデン( MoS2 )です。

TDMs の合成方法は、MXene と比べて量産フェーズに近いものが出てきている印象で、フェーズとしては少し進んでいるかと思われます。MXene とは、導電性などの各物性値が異なるので、用途に合わせて最適化していく必要があります。

Shanghai Jiao Tong University の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

TDMs を使用した具体的な事例を紹介します。ここで紹介するのは、先に紹介した MXene の事例と全く同じ、燃料電池のカソード触媒の担持体としての活用事例です。組成としては、二硫化モリブデン( MoS2 )を使用しており、脈絡は、MXene の事例と同様、無機物故、耐久性が向上することをうたっています。構造と機能が同じであるため、異なる要素であっても、同様の用途で使用されている事例として紹介しました。

University of Central Florida の事例

特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

こちらは、TDMs を水電解の光触媒として使用している事例です。光触媒として標準的な TiO2 との組み合わせで、広い波長領域に対応し、効率を上げるという取り組みです。先ほどの事例と、同じ要素と構造ですが、着目する機能が異なる事例として紹介しました。これまでの説明からも、MXene をこの用途に使用した事例も存在しているかもしれない、という考えに至ると思います。

Jamia Millia Islamia の事例

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こちらは生体センサとして、TDMs を使用している事例です。組成は、MoSe2 で、平面構造を利用し、さらにそこに修飾を行うことで、複合体として、三次元構造の箒(ほうき)状という特異形状をなしています。エネルギー分野でも、カーボンナノチューブとグラフェンなど、次元の異なる素材を組み合わせる事例も多く見られております。

今回は、いくつかの事例を通して、使用されている素材を「要素」「構造」「機能」「脈絡」で捉えることで、他用途への展開や、他素材への置き換えなど、模倣の先に進むためのヒントをご提供させていただいたつもりです。少しでもお役に立てていれば幸いです。

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特異形状ナノ素材のエネルギー分野における活用事例~MXene・遷移金属ジカルコゲナイド(TMDs)~

伊藤 崇倫
リンカーズ株式会社 リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所 プロジェクトマネージャー

名古屋大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
化学系メーカーに入社後、ディスプレイやバッテリーに使用される素材の研究開発に従事する。その後、同社経営企画部門にて、新事業開発に取り組む。
アメリカ駐在を経て、TOC(制約理論)をベースにしたコンサルティング会社に転職、製造業の研究開発マネジメントの支援を行う。
2021 年よりリンカーズに入社し、先端素材、環境関連技術、食品、アグリ分野などの先端技術調査、用途開拓支援サービスLinkers Application Searchのマネジメント、規制やビジネス全般に関する調査など広範な領域を担当する。

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