- 配信日:2023.09.19
- 更新日:2024.06.24
オープンイノベーション Open with Linkers
おいしさを数値化するフードテック~味の分析事例~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『「おいしさ」フードテック~味の数値化と分析事例~』を編集したものです。
株式会社 味香り戦略研究所 主席研究員の髙橋 貴洋(たかはし たかひろ)様より、味の分析と活用事例をお話しいただきました。
味覚に関する最新のフードテックについて知りたい方は、ぜひお読みください。
◆目次
・味分析に取り組む味香り戦略研究所とは
・おいしさを構成する3大要素
・味覚センサーによる味の数値化の分析
・フードマッチ/フードペアリングの実現
・フードテックの活用事例の紹介〜コレスキ〜
・フードテックの活用事例の紹介〜 FOODDATA 〜
・フードテックの活用事例の紹介〜 FOOD NFT 〜
味分析に取り組む味香り戦略研究所とは
当社(株式会社 味香り戦略研究所)では創業当時から味の数値化、おいしさの解明に取り組み続け 20 年が経ちました。今回は味の分析から生まれてきたさまざまなサービスを紹介します。
おいしさを数値化するうえで、「味」以外にも「匂い」「食感」が大事です。さらに、食事環境・心理的要素・食文化など、様々な要素が絡み合いおいしさを実現しているのです。それぞれの要素を上手に活かしながらお客様に伝えていくということを、当社では取り組み続けてきました。
おいしさを構成する3大要素
おいしさには、味・風味・食味などさまざまな要素が含まれています。その中でもおいしさの3大要素といわれている「味」「におい」「食感」が重要です。これらを上手く数値化することで「おいしい」が輪郭を表すのです。
まず、味覚は世界で初めて味を数値化する分析機器の味覚センサーで味を分析、数値化します。食感分析にはテンシプレッサー(タケトモ電気)、株式会社山電のクリープメーター、島津製作所のテクスチャアナライザなどの機械もあります。
においについては、ガスクロマトグラフィーやにおい識別装置など、様々な機械が市販されています。このような機械を使って、おいしさを数値化するのです。
機械でできない部分は、人の感覚を使って評価する「官能評価」で、おいしさを探求します。
味覚センサーによる味の数値化の分析事例
上の表では、味覚センサーでどのようなデータを取得できるのかを表しています。
味覚センサーとは
味覚センサーの先の部品にセンサー膜(ビニールシートのような膜)がついています。シートの中の脂質の種類を変えることにより、苦味や酸味のイオンなどの幅広い物質選択性が生まれます。膜の表面に物質がつくと、電位が変化します。電位の変化を味の強さとして PC に記録し、どれ程変化があったのかを各呈味の標準物質に換算して味の強さを数値化するのです。
味覚センサーでは、先味と後味の測定ができます。先味とは、口に入れた瞬間の強い味のことです。飲み込んで口に残るのが後味です。例えば後味が重要なビールのキレ味、薬の苦味の持続性評価などが可能です。
他にも、熱燗・冷酒など、温度帯の味を区別できます。使い方次第で色々と測定できる機械です。
ビールの分析事例
ビールの分析結果例を見てみましょう。左画像は、縦軸が苦味、横軸が酸味を表し、数値が1違うと味も全く違います。
普通のビールとノンアルコール系・微アルコールなどを比べています。微アルコールは、酸味が少なくまろやかで苦味がしっかりあることが特徴です。ノンアルコールは苦味が少ないと思われがちですが、ビールの代替品となるため、本格的な苦味をつけるなどの設計があります。さらに6軸のレーダーチャートでは味わいの全体的なバランスを確認でき、グラフが似ているほど似たような味、と解釈できます。興味深いことにさまざまなビールを測定して平均を取ると、日本の有名ビールが中心にプロットされたりします。これは日本のベンチマーク的なビールの象徴とも言えるかもしれません。
食感分析との組み合わせ解析も可能
味データと食感分析を組み合わせて解析した結果を見ていきましょう。
最近はブランド米など、様々なお米を集めて味や食感を分析し、測定結果として出しています。
あじみマップ(一覧表)では、一見わかりにくい味や食感を詳しく見ることができます。例えば、マップの近くのお米を食べてみる、いつもは食べない反対側の味の濃いものを食べてみたいなど、消費者がお米を選ぶ時に使いやすいです。ブランド名や価格だけで購入を決めがちですが、米本来の特性を見ることで商品選択の幅が広がるだけでなく、〇〇にあう米などの予測も立てることができます。
フードマッチ/フードペアリングの実現
20 年間程さまざまな食品を測定・味分析し続けた結果、当社には 12 万アイテム程の味分析データが蓄積されています。もちろん食品以外にもお薬・洗口液なども測定可能です。
この味分析データを使って近年では、フードマッチ、フードペアリングの予測を実現しています。例えば、フードペアリングのマッチングに重要な3つの味「苦味・酸味・塩味」のバランスを見ることでそれが可能になってきます。
なぜこの3つの味を選んでいるかについて、説明しましょう。
うま味・甘味は、母親のお腹の中にいるときから先天的に好きな味、といわれています。
苦味・酸味・塩味は、後天的に学習する味といわれています。塩味は赤ちゃんの時は味がわからなくても、少し経つとわかるようになります。塩味については、強すぎると毒になるなど、品の濃度バランスをみるうえで重要なため、指標に取り入れています。
2品(料理とドリンク)のこれらの味が近いほど同調する、程よく離れていると双方で補う、そのような解析をしていきます。例えばビールと枝豆は塩味のところで補いが生じているが、苦味と酸味のところで同調しているため、相性の良い組み合わせ、と判断できるのです。
フードマッチは食材同士の掛け合わせの予測や、一般消費者のタブレットに入れてソムリエシステムのように使うことも可能です。
⇒ 次のページでは、フードテックの活用事例「コレスキ」を紹介します。