• 配信日:2020.07.29
  • 更新日:2023.09.01

オープンイノベーション Open with Linkers

産学連携でパーソナルモビリティを実現するために大切なこと

※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。

自動運転など人間の移動手段に用いられるテクノロジーは急速に進化しつつあり、セグウェイなど、さまざまな乗り物も登場するようになりました。超高齢社会と呼ばれる現在、ただ移動できるだけでなく個人が楽しく安全に運転することができ、人間工学を考慮した身体にやさしいパーソナルモビリティ(個人の乗り物)が求められています。 パーソナルモビリティの研究を中心に、超高齢社会を踏まえた福祉機器の研究をされている、大阪府立大学 大学院工学研究科の准教授博士(工学)である中川智皓(ちひろ)様にお話を伺いました。 記事の後半では、企業と大学での技術開発に対する考え方の違いや大学の先生の側から見た企業との連携の課題についてもお伺いしました。産学共同に取組みたい企業の方にもご参考になるかと思いますので、是非最後までご覧下さい。

ワクワクするパーソナルモビリティをめざして

大阪府立大学 中川先生 大阪府立大学 大学院工学研究科 准教授博士 中川智皓様

リンカーズ

中川先生がパーソナルモビリティに興味を持ったきっかけを教えていただけますか?

大阪府立大学 中川様

人間の移動手段には鉄道や自動車など多くのものがありますが、自転車のようなパーソナルモビリティが最も身近だったからです。実は、学術的には分かっていない部分がまだ多いことにも興味を抱きました。

セグウェイをはじめとしてパーソナルモビリティというのはワクワクするものなので学生にも人気があり、現在研究室には20人学生が所属していて2人の教員で担当しています。研究室全体の専門は機械力学・制御で、人間を含めて物体の運動や振動を取り扱う分野です。 私個人ではパーソナルモビリティの研究に最も力を入れていて、研究テーマではセグウェイや電動自転車など個人の移動手段となる乗り物も扱っています。これらは自動車などと比較して軽量な乗り物である為、人間の質量が全体のバランスに与える影響が大きくなります。ですので人間の動きをしっかり理解した上で設計することが大切です。

パーソナルモビリティの課題

セグウェイは簡単に乗れるように見えますが、初めて乗る人にはコツが必要で、機械式のブレーキがついていないなど、従来の乗り物とは異なる特性があります。安全な乗り物にするためにはあらゆる危険性を考えることが必要です。海外では既に公道で使われていますが、日本の公道では基本的にパーソナルモビリティを利用できません。したがって「公道で使った場合どのような危険性があるか?」と仮説を洗い出して、ひとつひとつ改善点をみつけてクリアにするアプローチを取っています。 パーソナルモビリティの専門的な研究者はまだ少なく自動車に関する研究者の方が圧倒的に多い状況です。ただ、いずれ日本でもパーソナルモビリティに関する制度が整備されて、企業が参入して、利用が一気に拡がる可能性があります。その時のために今から学術的な研究ができることは、大学ならではのメリットだと考えています。

パーソナルモビリティに夢みること

現在自動運転についての研究が進んでいますが、自動運転と同様に自分がどこかに行きたいときに気軽にパーソナルモビリティを使うことができるようになることが理想です。もちろん途中から電車など別の移動手段に乗り換えてもいいのですが、自宅から行きたいところまですべての道が通じてAIが学習しながら賢くなって移動の安全性を確保できると便利ではないでしょうか。自動車の場合は自分の部屋に入れることはできませんが、パーソナルモビリティなら部屋に収納もできます。 また、パーソナルモビリティの場合は”乗せてもらう”という考え方と”自分で操縦する”という考え方の2つで人間の動きが異なります。製品づくりとして重要なことは自分で操縦する時の楽しさや移動したくなるワクワク感だと思うので、その感覚を踏まえながら魅力的な乗り物ができればと考えています。 歩きたくなったら歩いても構わないでしょうし、人間が歩いている後ろからパーソナルモビリティが付いてくるなど、いろんなことができるようになるはずです。

パーソナルモビリティと福祉のつながり

リンカーズ

パーソナルモビリティの技術は、他にどのような分野で応用されるのでしょうか。

大阪府立大学 中川様

移動権の確保や環境への配慮ということで、自動車を補完するラストワンマイルを担当できる新しいモビリティが求められています。この時に重要なのは安全性です。

パーソナルモビリティが私のメインの研究ですが、その研究に関連して福祉機器、振動関連の機器、人工知能に関連するシステムなども研究しています。 いま手がけているのは高齢者向けの姿勢訓練機器です。セグウェイも同じですが、人間が立ったり歩行したりするときにはバランスをとらなければいけません。身体のバランスに関する研究をしていたことがきっかけで、高齢者の方のリハビリテーションの先生と知り合いました。 その先生から、「こういう訓練機器が欲しいが、どのようにして作ればいいのか分からないし、制御の方法も分からない。一緒に研究しないか?」というお話をいただいて、一緒に開発をさせていただいています。 高齢になると足首を使わずに上体だけで姿勢を制御するようになる傾向があるとのことで、その場合、足の筋肉を使わなくなるため、筋力が低下してしまいます。 足の筋力の低下は、高齢者の方が転倒する大きな原因につながります。そのため、きちんと足の筋肉を使うように床面をうまく移動させて、どのタイミングで踏ん張らなければいけないなど、動作を意識させる訓練機器を作っています。筋トレ用というわけではなく、身体のバランスを重視した機器になります。

フットワークの軽い研究者は起業家になる

リンカーズ

大学発ベンチャーが注目されていますが、身近に起業された優秀な研究者の方はいらっしゃいますか?

大阪府立大学 中川様

宇宙系の研究をされていた方が起業されましたが、素晴らしい研究をされていたので起業なさったのも当然だろうと、違和感はありませんでした。そういった方はフットワークが軽いことが特長ですね。

行動的で優秀な人材が大学から消えていってしまうことは残念に思う気持ちもありますが、力のある人にはどんどん起業してもらい、大学はもっとクリエイティブに進化しなければいけないと考えています。 大阪府立大学はICTの取り入れがあるので、もっと効率的に活用するとよいと思います。学生も板書を目で見たり聞いたりするのではなく、インターネットを使ってeラーニングで自習をすれば、大学ではディスカッション時間を増やすことができます。アメリカの大学では講義のネット配信がされていて、学生が熱心に学んでいます。どこの大学でも「研究を頑張れ!」と言いますが、そのためには研究に割く時間をどこかで捻出しなければなりません。そこでテクノロジーを活用することが必須になるのです。 優秀な研究者の教員は常に最先端のテーマを研究なさっていて、成果をもとに研究内容を進化発展させるので毎年同じ研究はしていません。当たり前のことですが、多忙な日々の中でなかなかできることではありません。優秀な先生に共通することはフットワークが軽いこと。さまざまな研究会にアクティブに出席される一方で、学生のテーマの割り当てなども適切であり、研究者としても教育者としても素晴らしいと感じます。 自分の研究が世の中に出ること、社会貢献できることは研究者として非常に意義があり、その為に起業する優秀な研究者もいます。ただ経営に携わることは非常に神経を使うので、起業した研究者は大学を辞めてしまうケースもあります。私も、株式会社ではありませんが、小さな一般社団法人を立ち上げていますが、経営は研究とはまた違った難しさがありますね。

産学協同における大学の優位性、企業の優位性

リンカーズ

産学協同では、企業と大学のそれぞれに特長があると思います。大学の優位性といったものにはどんなことがあるのでしょうか?

大阪府立大学 中川様

企業は結果を早く求めますが、大学では長いスパンできっちり踏み込んだ研究ができます。また、最先端の論文に幅広く目を通しますので、大学独自のアイデアが出ることもあります。

大学で気を付けることとしては、テクノロジーの進化を含めて世の中の流れがすごく早いので「いま研究していることが本当に役立つのか?」など、日々振り返りながら研究に携わらないとまずいのではないかという点だと感じています。新しい技術に敏感になり、その先端技術を取り入れて研究に活かしたり、大幅に研究を軌道修正したり、時流を見据えたマインドが必要です。 結果を早く求める企業では「この案では現実的には厳しいね」「時間がかかるよね」と即座に指摘をいただくことがあります。従って、大学としてはできるだけ早く実現可能な方法を模索して、研究者や学生も考えて共同参画する素養をつけておくことが重要です。本当に売れるのか、その機能は本当に必要なのか、ということも企業では当たり前ですが、大学の研究者は忘れがちなことです。 しかし、大学の研究ならではの強みもあります。たとえばパーソナルモビリティの設計では、企業が主体の場合「こんなデザインにしたい」ということをまず決めて、試作して乗ってみて「問題がありますね。どうにかなりませんか?」という流れで進行します。しかし、大学の研究では「人間の動きを考慮した場合、この車両なら人間の動きはこうなる。だから人間の動きに合わせると、この車両が最適な解になる」という風に、最適解を体系的に見つける手法になっています。「なぜ、この形なのか?」と問われたときに、しっかりと研究に裏付けられた運動力学で説明できることが、学術研究による大学の強みです。 とはいえ、私たちは学術的な観点から考えますが、試作したものを企業の方に使ってもらうと「この仕様では こういうことが実際に起こるんだよね」など、何回も実際に使用しているからこそ指摘できることを聞かせていただけます。実際に物に携わった経験から得た意見を交換できることは、大学側としては非常にありがたいことです。

産学共同で重要な情報交換

企業から大学に情報提供するとき、具体的な内容を明らかにされない部分が多いため、大学側がどのような協力ができるかを判断するのが難しい面があります。企業はあまり情報を外部に出しませんが、大学が持っている情報は論文になっていれば基本的にオープンです。そのため、情報交換を密にすることが大事かなと感じています。 企業が大学を訪問した際に、参考資料として論文をお渡しする教員は多いと思います。簡単な論文であれば企業は求めていた情報に気づくこともあるでしょうが、大量の論文を渡されただけでは、企業の担当者はその中から求めている技術を見つけることは困難だと思います。 企業が探しているそのものの技術でなく、専門から外れていたとしても、役に立つ情報が大学の論文の中にあることは少なくありません。その情報にたどり着く近道は、やはり企業と大学がもっと情報交換することだと思います。

URAセンターとリンカーズの利用

リンカーズ

2012年に URA(University Research Administrator)センターを発足されましたね。具体的には、URA センターができたことによって何が変わりましたか?

大阪府立大学 中川様

研究者は助成金の申請など事務的な面倒な作業を嫌がるのですが、そういうところをきっちりサポートしていただけます。情報提供もしていただけるので助かっています。

URA センターは、研究者の支援と産学官ネットワークによる地域イノベーション推進のために設立されました。利用する方に知っていただくには、研究者が自分は何をやっているのかという実績を、ある程度提出しておく必要があります。 共同研究や分からないことは、ひとまずURAセンターに連絡すれば親切に対応していただけるので非常にありがたい存在です。外部からの技術相談では第1回目の打ち合わせからURAも同席して対応していただけます。研究費の申請書など事務処理のほか、イベントの紹介など情報交換もできるので活用させていただいてます。

リンカーズのマッチングサービスの利用

これまで共同研究のネタやつながりは人脈や紹介に頼っていました。コネクションがなければ、まずは大学内に絞って探して研究者を探しましたが、ちょっと課題とは的外れな話をして、せっかく時間をいただいたのにムダになってしまったこともありました。 ところが今回リンカーズのサービスを利用したところ、まったく面識がなかった方々であったにも関わらず、企業が求めている情報を得ることができたのでとても良かったと感じています。 大学の研究費は削減されつつあります。助成金を申請する場合も、かなりのエネルギーを必要とします。適切な共同研究のパートナーを迅速に見つけて、その労力を研究の時間にかけるようにできることは重要です。

大阪府立大学 中川智皓様からの学び

パーソナルモビリティは、これから個人の移動手段としてワクワクする体験をもたらすとともに、超高齢社会にとっても必要なものになると考えられます。また、モビリティの研究は福祉にも役立ち、応用範囲の広い技術です。

産学共同においては、企業と大学の文化や情報の違いが連携のネックになる点もありますが、違っているからこそお互いの長所を活かす事が出来、共同でモノづくりに取り組む価値があるとも感じました。

企業同士であっても企業と大学であっても、異なるもの同士の出会いを提供することで、モノづくりのイノベーションが起こる少しでも助けになれればと改めて思いました。