- 配信日:2023.06.23
- 更新日:2024.07.01
オープンイノベーション Open with Linkers
フードテックの現状~日本の課題と海外のフードテック事例
海外におけるフードテックのトレンド
フードテックに取り組む海外企業の数は非常に多いのですが、国ごとに力を入れている分野が異なります。
こちらの表は、フードテックのカテゴリーごとのトレンドをまとめたものです。例えば、農業技術のカテゴリーでは、プラントファクトリーの普及や、ビッグデータ・ドローンの活用、精密農業技術の進化などがトレンドとなっています。
フードテックの歴史とこれから
「フードテック」という言葉はここ最近生まれた新しい言葉だと考えている人が多いかもしれません。実はフードテックの歴史は長く、 18 世紀の産業革命から始まり、食品流通や生産性の向上、冷凍技術、保存技術、ミネラル・ビタミンの発見などへと発展していきました。
新しい生産方法や技術が生まれるたびに新たな課題が生じ、その課題を解決するサービスが次の世代で生み出される、という状況を繰り返しています。
将来フードテックはどうなっていくかというと、持続可能性と環境配慮が重視されていくでしょう。そのうえで人間が食品を生産するときに必要な肥料・飼料などを確保するために、現状の方法を変える技術が生み出されていくと考えられます。
将来を見据えた各国のフードテック事例
持続可能性と環境配慮が重視される中、各国ではどのようなフードテックの取り組みを進めているのか、紹介します。
フードテックの海外事例1:フランスの取り組み
フランスではフードテックに取り組む企業が増加中で、世界トップクラスにまで成長する企業も出ています。特にアグリテックや畜産関連の技術発展がめざましい国です。フランスは元々農業が盛んなため、将来的に農業を維持していくためにはどうしたらいいのかを追求しています。
フランス政府も農業の生産者を守っていくために、さまざまな取り組みをしています。
- ・資金調達支援
- ・税制優遇
- ・産業団地の整備
- ・人材育成
- ・国際連携
など。国が主導しながら農業の分野でのイノベーションを促進している状況です。
このようなフランスの中で、私が最も注目している企業がインセクト社。昆虫養殖をしている企業で、日本の昆虫養殖とは規模感が全く異なり、ほぼ自動化された昆虫養殖の工場を建設し、昆虫へのエサやりや商品製作をオートで行える仕組みまで作っています。
日本でも最近昆虫食が話題になっていますが、ヨーロッパでも昆虫を食べる人はごく一握りしかいません。インセクト社で養殖された昆虫は飼料として使われます。人間の食べ物としてではなく、動物の食べ物として昆虫養殖を進めているのです。
このような背景があり、世界中からインセクト社への投資が集まり、近年大きく成長しています。
フードテックの海外事例2:スペインの取り組み
スペインもフードテックが急速に進歩している国の1つです。スペインでは施設園芸 / 植物工場が拡大し、東京都と同じくらいの面積を誇る施設が続々と登場しています。
過去、施設園芸 / 植物工場において世界トップだったオランダを抜くのではないかといわれるほど、高い品質も実現しています。
なぜスペインで施設園芸 / 植物工場が急速に拡大したかというと、以下のような理由が挙げられます。
- ・施設園芸に適した気候(日照時間の長さ)
- ・若者たちが施設園芸に関心を持っている
- ・スペイン政府の手厚いサポート
- ・技術革新によるコスト削減
- ・国際市場からの高い需要
特にスペイン政府の対応が幅広く、例えばEUの取り組みでは、最大100%、技術開発・イノベーション支援機関がフードテックに対して費用の80%まで融資・投資するなどの制度を設けているなど、かなりベンチャー企業が参入しやすい環境を整えています。こういった制度を利用してフードテックに取り組む企業、若手がスペインで増えているのです。
フードテックの海外事例3:中国を中心としたIT系企業の取り組み
急成長する世界のフードテックのバックにいるのは、主に大手 IT 企業です。大手 IT 企業が積極的に投資を行っています。
例えば Tencent というゲーム会社は、フードテック企業 48 社に投資しています。投資金額は数十兆円を超える規模です。
Alibaba という企業もフードテックに投資しており、トレーサビリティと品質向上のためのブロックチェーン技術を活用したり、新鮮な農産品を消費者に直接届けるためのオンラインプラットフォームの運営などを行っています。個人的に感心したのは、農業や畜産業へ融資できる金融サービスなどのサポートも行っている点です。
中国の Tencent 、 Alibaba はフードテックに力を入れている企業として注目されています。
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海外と日本のフードテックの比較
世界ではさまざまなフードテックが育っています。
例えば REEF Technology という企業では、駐車場の空きスペースをレストランやミニ物流拠点としたり、ドローンの発着場やゴーストキッチンとして使っていくなどの取り組みを進めています。
Nuro という企業では、自動運転で最高 100 km/h まで出せる自動運転車を使って食品を運搬する技術を開発しています。
さまざまな企業が取り組みを進めていますが、目指している先は同じで「食料安全保障」だと私は考えています。食料安全保障の観点から自分たちの国をどう守っていくのか、それにより今までの食品産業における常識をひっくり返せる可能性もあるため、いかに主導権・覇権を握るかということに重きを置いて、投資している国や企業が増えてきています。
日本のフードテックも世界に負けてはいません。
例えば日本製紙という企業では、セルロースナノファイバーを食品添加物として活用する技術を開発しています。より味がおいしくなり、賞味期限が伸びるなどの効果もあります。さらに飼料、肥料、魚粉にも応用可能です。
また丸紅、富士フイルム、太陽石油が協業し、水素細菌と水素・二酸化炭素を組み合わせてタンパク質や化学品を生み出し、代替肉やプラスチック製品、バイオジェット燃料などの開発も行っています。
「食」の生産者の倒産や食糧危機を解決すべく取り組みを進める日本
国や自治体もサポートが進んでおり、他にも多くの日本企業がフードテックに参入しています。
一方で、食の生産者たちの倒産リスクが非常に高まっており、食糧危機につながる可能性があります。その解決に国と民間企業が力を合わせて取り組んでいる状況です。
こういったフードテックにチャレンジする企業と既存の企業がタッグを組むことで新しい技術・製品の開発にもつながり、国が抱える食の問題の解決にもつながるのではないでしょうか。その際にただマッチングするだけでなく、各企業がどのような強みを持っているのか、どのような製品を生み出し、どのような市場にアプローチしていくかデータを用いて判断することが、事業成功のポイントだと思います。
講演者紹介
大野 泰敬 氏
株式会社スペックホルダー 代表取締役社長 / 農林水産省 農林水産研究所 客員研究員
【略歴】
複数企業を経営する事業家兼投資家。
ラジオNIKKEIの情報番組「ソウミラ」、FM 軽井沢など人気 FM ビジネス情報発信ラジオ5番組のメインパーソナリティを務める。
ソフトバンク株式会社で新規事業などを担当した後、CCC で新規事業に従事。
2008 年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸の iPhone のマーケティングを担当し、シェア拡大に貢献。
独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業 14 社をサポート。
テクノロジーに精通しており、東京オリンピック大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員、明治大学客員研究員にも就任。
ご当地イノベーションを提唱し、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍。
事業実績 500 億円、独立後個人事業で 10 億円のビジネスを作り出す。
著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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