- 配信日:2023.04.28
- 更新日:2024.08.21
オープンイノベーション Open with Linkers
オープンイノベーション事例~味の素冷凍食品の取り組みを徹底解説
オープンイノベーション推進における4つの壁
経営陣や R & D の上層部のメンバーは、オープンイノベーションの重要性をしっかり把握していて活動を許容しているし、どんどん推進していくことを望んでいます。一方、現場の技術者たちにとっては自身の殻を破る労力が必要になります。つまりオープンイノベーションは面倒な仕事だと捉えられがちです。
なぜオープンイノベーションが面倒な仕事になってしまうのか、その原因は大きく分けて4つあり、壁として立ちはだかります。
- 1. 技術者それぞれの機密情報への意識に差があること
- 2. 協業先との契約の整備に手間がかかること
- 3. 1 ・ 2の結果、自前主義に走りがちなこと
- 4. 最終的に現状維持への意識が強まりオープンイノベーションが他人事化していくこと
この壁によって、オープンイノベーションに対して積極的に取り組む人がどんどん減っていくという状態に陥りがちです。
私(今泉氏)はオープンイノベーション担当者がやるべきことを決めて、4つの壁を越えるべく次の対策をしています。
オープンイノベーション推進の壁1:「機密情報に対する意識の差」への対策
1つ目の「技術者それぞれの機密情報への意識に差があること」においてよく起きるのが、意識が高すぎると自社情報を開示しないためパートナーが全く見つからなかったり、マッチング会社をうまく使いこなせなかったりすることです。一方で意識が低すぎるとノウハウとして秘匿すべきようなコア技術が外部流出する可能性があります。
機密情報への意識は高過ぎでも低過ぎても良くなく、案件ごとに機密情報のレベルを技術者とすり合わせながら仕事をすることがオープンイノベーション担当者に求められると考えています。そのため味の素冷凍食品では、対策として勉強会の実施や情報管理記録の徹底、機密情報の定義の周知、機密情報の取り扱いルールの教育などを行っています。
オープンイノベーション推進の壁2:「契約整備の不備」への対策
「契約整備の不備」でよくありがちなのが、パートナーが見つかって機密保持契約( NDA )を結んだものの、知的財産の帰属については双方の話し合いで決めるなど簡易型の NDA を締結して開発を進めた結果、事業化まで進んだタイミングでパートナーが知的財産の出願を行っていたことが発覚するケースです。
本来 NDA 締結後に共同研究開発の契約を結んでお互いの役割や知的財産の帰属について詳細な取り決めをしておくべき案件を、技術者とパートナーに仕事を任せきりにしていたことで技術コンタミ(技術混入)が発生する可能性があります。
このようなケースの対策としてオープンイノベーション担当者は、契約について技術者に丸投げするのではなく、自身が契約状況の確認を行い、契約フォローアップをしたり知財専門家による契約勉強会を実施したりして、契約関連の作業が技術者の重荷にならないようにケアしていく必要があります。
【関連記事】
知財戦略について、中村合同特許法律事務所 弁護士・弁理士の山本 飛翔さまに弊社セミナーでお話しいただきました。
本記事では、知財戦略に取り組むメリットや、大手企業とスタートアップが協業する際に契約内容で注意するべきことなどを紹介しています。
オープンイノベーション推進の壁3:「自前主義に走りがち」への対策
外部連携を活用する意識が根付いていないと、共通の言語と価値観を持った仲間だけで仕事を始めてしまいがちです。効率的な働き方ではありますが、イノベーションが起きる可能性は下がってしまいます。さらにリサーチ不足な状態で技術開発をスタートしたことで、他社の特許にぶつかり開発がストップしてしまうことも少なくありません。
この対策もオープンイノベーションの担当者に求められる要素です。具体的には、オープンイノベーション先探索セッションを積極的に実施したり、技術者と密なコミュニケーションをとったり、自らが動いてパートナーを探索したりすることが大切です。単純に技術課題を明確化してマッチング会社に丸投げするのではオープンイノベーションは上手くいきません。
オープンイノベーション推進の壁4:「現状維持の意識が強い」への対策
従業員に現状維持の意識が強いと、オープンイノベーションに関与せず他人事として考える風潮が社内にできてしまいがちです。現状維持の意識に囚われてしまう原因は主に、外部環境を踏まえた自社の技術レベルを把握できておらず、漠然とした認識で研究を進めてしまうことにあります。すると現状に危機感がなくなり、オープンイノベーション推進の必要性を感じられなくなってしまうのです。
もう1つ現状維持の意識に関わることとして、技術課題が明確でないとパートナーが見つからないと思い込んでいることが挙げられます。その結果、技術課題の発見に何時間もかけてしまい時間を浪費してしまうケースもあります。
そのための対策として、オープンイノベーション担当者は技術者が俯瞰(ふかん)的に自社技術を評価し、他社技術と比較するための調査を定期的にインプットして仕組みづくりをしていくことが求められます。あわせてオープンイノベーションに関する外部講演会の実施や、オープンイノベーション推進を自分事化するためのワークショップの実施、研究所から新規事業を提案できる仕組みづくりなども行いモチベーションを高めることも行うべきです。
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オープンイノベーションの成功事例:パナソニック社との技術交流
最後に事例として、味の素冷凍食品とパナソニック社が行ったオープンイノベーションで生まれた成果を紹介します。
そもそも、冷凍食品の事業領域内で新規事業を考えているだけでは新しい顧客価値につながるシーズが生まれる可能性は高まりません。そこで他領域からの刺激によって冷凍食品事業単体の視点では提供できないような顧客価値・技術サービスの創出ができないかと考えました。
その中で思いついたのが家電メーカーとの共創です。家電領域を事業とするパナソニック社と技術交流が成立し、2社で新しい技術開発を行う枠組みを組み立てました。
パナソニック社の狙いは、コモディティ化している冷凍冷蔵庫において新冷蔵機能の技術開発・製品への実装と、冷凍食品の専門家から技術的なアドバイスを受けることだったと考えております。
味の素食品側としては、冷凍食品の品質評価手法をパナソニック社に提供することで、真に意味のある新機能を冷凍冷蔵庫に搭載できる可能性があると考えていました。それから家電技術の知見を獲得することと、他社の R & D の業務姿勢から学びを得て自社の R & D を見直す機会にすることも狙いでした。
2023 年2月に発売になった冷凍冷蔵庫に新しく『うまもり保存』という機能が搭載されました。冷凍食品は冷凍保管中に劣化していくのですが、『うまもり保存』では劣化速度を従来の 10 分の1程度にまで抑えることが可能です。
実際に取り組んでみて良かったと感じることは、冷凍冷蔵庫に『うまもり保存』を実装することで、私たちが顧客に届けたい本当の Fresh Frozen の冷凍食品を提供できるようになったことです。『うまもり保存』を家電メーカー単体で実現するのは難しいでしょうし、冷凍食品メーカーである私たちでも冷凍中の食品劣化を防ぐのは並大抵の技術では実現できないことでした。それがパナソニック社との共創で実現できたことは大変喜ばしく感じます。
講演者紹介
今泉 圭介 氏
味の素冷凍食品株式会社 研究・開発センター 研究開発推進部 企画推進グループ グループ長
【略歴】
2002年 味の素冷凍食品株式会社入社。業務用事業部に配属され、PB品・OEM品の企画・開発に従事。
2003年 研究・開発センターへ異動。冷凍餃子の開発や微生物制御技術の技術開発、官能評価手法の開発を担当。
また知的財産の統括業務を通じて、共同研究・アライアンス活動にも従事。
2017年 生産本部 関東工場へ異動。製品の工業化(スケールアップ)、餃子新ラインの敷設を担当。
2020年 研究・開発センター 研究開発推進部 企画推進グループで味の素グループ会社間のR&D連携、味の素冷凍食品の研究開発戦略の策定・推進役として、研究・開発センターの運営、オープンイノベーションを担当。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
◆ 「Linkers Sourcing」サービス紹介ページ
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆「 Linkers Marketing 」サービス紹介ページ
貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供します。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントを可視化することにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げます。
◆「 Linkers Research 」サービス紹介ページ
リンカーズのグローバルな専門家ネットワークや独自のリサーチテクノロジーを駆使し、貴社の要望に合わせて、世界の技術動向を調査します。調査領域は素材、素子、製品、ITシステム、AIアルゴリズムまで幅広く、日本を代表する大手メーカーを中心に90社以上から年間130件以上の調査支援実績があります。
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