• 配信日:2023.01.30
  • 更新日:2024.07.22

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カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

シリコンバレーで進むガス会社にとって不都合な未来


カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

シリコンバレーではガス会社にとって不都合な未来が始まっています。カリフォルニア州都のサクラメントでは、オール電化の新築住宅にのみ補助金が出るという状況です。

また 2019 年にはバークレイ市が新築住宅・レストランにガスを禁止する制度を設けました。当初は反対意見もありましたが、現在は全米 60 都市以上に拡大しています。

さらにサンフランシスコ市では新築ビルのガス禁止制度があったり、古いガス火力発電所が停止して大規模なバッテリーに置き換わったりしています。
すなわちシリコンバレーでは、天然ガスが燃やせない時代が来るというリスクが顕在化しているのです。

今後、主導権は間違いなく電化社会に移り、電力事業も新しい形になっていきます。新規事業者が多数参入して競争が激化した複雑な電力ネットワークになるでしょう。

このような状況下でいわれているのが、エネルギー業界でもデジタル力が競争優位の条件であるということです。

既存の電力事業も崩壊するリスクがあります。発電・送配電・小売の観点で見ると、発電の部分はすでに日本でも多くの事業者が再生可能エネルギーを拡大していくことで、電力会社の収益を奪っています。小売の部分では顧客接点の強いテック企業が電力を売り始めると、電力会社は顧客を取られるリスクがあるといわれています。

すなわち、既存の電力会社のワーストケースシナリオは、老朽化したインフラ(送配電網)のメンテナンス会社に成り下がることです。

そこで電力大手はこれまでのエレクトロンで儲ける時代から、データで儲ける時代に移行するという動きが北米を中心に起こっています。

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エネルギーの電化技術の一つである「マイクロ波技術」について、高い技術力で世界に注目される大学発ベンチャーのマイクロ波化学株式会社に、弊社セミナーでお話しいただきました。
本記事では、マイクロ波で実現するカーボンニュートラルについて紹介しています。

エネルギー大手企業の活動


カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

エネルギー大手は、将来を形成するであろうスタートアップに投資あるいは買収して、自ら変革するということを行っています。特に欧州のエネルギー大手は世界中のスタートアップを M & A する段階に入っています。

このような状況の中、エネルギー × モビリティの異業種格闘技が世界中で起きています。石油メジャー、電力もグリーンでデジタルも強いエネルギー会社にシフトしているのです。さらに EV の充電やモビリティサービスへも展開し、製造業の企業も買収しています。

反対に製造業でもエネルギー会社を作ってエネルギー事業に参入する、あるいはモビリティ分野の企業がエネルギー部門を作ってエネルギー分野に参入するということも行われています。

グローバルクリーンテックの状況


カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

クリーンテックグループが発表した 2022 年版のクリーンテックベスト 100 社では、セクターごとに見ると「エネルギー & パワー」が 41 社で、最もホットな領域は水素。次が「資源 & 環境」で 21 社で最もホットな領域は CCUS です。

地域別に見ると、北米が 63 社、欧州 + イスラエルが 30 社で、過去のランキングを見ても概ねこのような割合になっています。残念ながら日本の企業がランクインしたことはありません。つまり世界で戦えるクリーンテック分野のスタートアップは日本に無いといえます。そのため先述のエネルギー6社がシリコンバレーでスタートアップ探索を行っているのです。

エネルギー企業ランキングを見ると、石油メジャーの規模が非常に大きいということが分かります。石油メジャーにはスタートアップへ出資あるいは買収する余力があるため、他分野の企業と比較して活動が最も進んでいます。

ガス会社や電力会社の本当の敵


既存のガス会社や電力会社にとって本当の敵は、新しく参入してくる敵ではないかと考えています。

アメリカのテック系の雑誌『 FASTCOMPANY 』が発表している、最もイノベーティブなエネルギー会社ランキングにランクインする企業こそがエネルギー分野への新たな参入者であり、その企業とどう戦うか、あるいはどう組むかを柔軟に考える必要があると思います。

クリーンテックで欧米に劣後する日本の現実


カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

世界のクリーンテックの総数を見ると、日本の占める割合は 0.7 % です。北米と欧州 + イスラエルを足した数値と比較すると 100 分の1未満で、圧倒的に少ないといえます。

さらに残念ながら日本では、スタートアップより投資家の方が多いという状況になっています。
北米・欧州では政府系のお金がスタートアップの育成に役立っています。一方、日本は投資件数上位30者ランキングの中で政府系は1つだけで、ほとんどを企業が占めている状況です。日本において補助金などの国のお金は大企業や大学には入るものの、スタートアップには入っておらず、成長に生かされていないことが分かります。

エネルギー大手企業の再生可能エネルギーの目標を 2030 年の段階で比べると、欧米のエネルギー大手は 60 〜 120 ギガワットレベルを目標としています。日本の大手電力・ガスの目標は5ギガワットで、桁が1つも2つも違うレベルです。

大規模バッテリーの世界市場のランキングを見ると、1位がシーメンスとアメリカの電力会社との合弁会社である『 Fluence 』、2位がテスラとなっています。このランキングにも日本の電力・製造業の企業は入っていません。

水素の分野では、グリーン水素を作る場合、2020 年まではアルカリ型が主流であり、日本が得意としていました。しかし 2021 年以降は PEM 型、さらに SO 型、AEM 型が大幅に伸びるといわれています。

電解槽のベンダーのランキングベスト 10 を見ると、欧州では水素を扱う企業へ投資し育成している状況で、アメリカ以上の高い水準を誇っています。しかし日本の企業はランキングに入っていません。

日本の明るい兆し


カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

ロイター社が発表した 2022 年版世界のエネルギートップイノベーターのランキングでは、日本企業からは3社がランクインしました。ハードウェアの分野なら日本はまだまだ世界と戦えると感じます。

世界で最もイノベーティブな企業ベスト 10 に選ばれた、ヒートポンプをサブスクで提供するアメリカの『 SEALED 』というスタートアップがあります。彼らが使っているヒートポンプが日本のダイキン製ということで、省エネ技術において日本は世界をリードしていると思います。

『 TDK Ventures 』が CVC を作り、『 ENERGY WEEK 』というエネルギー分野の著名人を集めたカンファレンスをやっており、こういった部分でも日本の大企業の存在感が出てきているように感じます。

横河電機では 2021 年にロサンゼルスのグリッド系のスタートアップを買収しました。クリーンテック分野における日本企業の最初の買収事例ではないかと思います。

シリコンバレーに進出したエネルギー企業6社は、連携してスタートアップとのマッチングイベントを行う取り組みもしています。

また大阪ガスから電力ガス会社初のカーブアウト事例が生まれました。
上記のように、近年、日本企業にとっても明るい兆しが見えつつあります。

講演者紹介

カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業

出馬 弘昭 氏
東北電力株式会社 事業創出部門 アドバイザー
大阪大学フォーサイト株式会社 取締役 VP of Business Development
IZM 代表

【略歴】
1983 年京都大学工学部機械系物理工学科を卒業。大阪ガスに入社し主に R&D および IT 部門でネットビジネス・データ分析・行動観察・オープンイノベーションなどの新規事業やプロジェクトを立上げた。2016 年より米シリコンバレーに駐在し欧米クリーンテック(脱炭素スタートアップ)とのビジネス開発を開拓。2018 年に東京ガスに入社し、シリコンバレーの CVC 立上げに参画。2019 年、Plug and Play のエネルギープログラムで Corporate Innovation Award を電力ガスで初受賞。2021 年に帰国し東北電力に入社、事業創出部門のアドバイザーに就任。また IZM 代表として製造業などの外部顧問、日経エネルギー Next などの記事執筆、海外スタートアップの日本展開支援なども務める。2022 年には大阪大学フォーサイトを立ち上げ、取締役に就任。大手企業の新価値創出を伴走・支援。南カリフォルニア大学ロボット研究所客員研究員、京都大学非常勤講師、大阪市立大学非常勤講師、日本オペレーションズリサーチ学会副会長などを歴任。

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