- 配信日:2023.01.30
- 更新日:2024.07.22
オープンイノベーション Open with Linkers
カーボンニュートラルの現状~シリコンバレーのスタートアップと日本企業
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「シリコンバレーの脱炭素イノベーション~元駐在員に学ぶオープンイノベーション徹底解剖」のお話を編集したものです。
東北電力株式会社 事業創出部門 アドバイザーの出馬 弘昭(いずま ひろあき)さまに、『シリコンバレーにおける脱炭素イノベーションと日本の状況』というテーマでお話しいただきました。
世界の脱炭素の動向に興味のある方、カーボンニュートラルに取り組まれている方は、ぜひご覧ください。
◆目次
・シリコンバレー駐在員としての取り組み
・ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を「正味ゼロ」にすること)達成のための目標
・シリコンバレーで行われている脱炭素に向けた取り組み
・シリコンバレーで進むガス会社にとって不都合な未来
・エネルギー大手企業の活動
・グローバルクリーンテックの状況
・ガス会社や電力会社の本当の敵
・クリーンテックで欧米に劣後する日本の現実
・日本の明るい兆し
シリコンバレー駐在員としての取り組み
私(出馬氏)は、2016 年から毎週シリコンバレーのどこかで開催されているスタートアップのピッチに参加し、日本にレポートを送っていました。レポートの内容から日本側で興味をもったスタートアップがあれば訪問、交渉して実証実験を行うということに5年間取り組み、数千社のスタートアップと面会。そのうち数十社とビジネス開発を行いました。
東京ガスの CVC の活動を例に挙げると、大きく分けて3つのことに取り組み、スタートアップの探索を行ってきました。
- 1. アクセラレータプログラムに参加してスタートアップに会う。
- 2. 2つのベンチャーキャピタルに出資
- 3. 欧米の主な脱炭素系カンファレンスのスポンサーになる、あるいは参加する
2021 年に私がシリコンバレーから日本に帰ってきて感じたのは、世界の脱炭素イノベーションが日本に伝わっていないということでした。以来、シリコンバレーでの経験を多くの人に伝える活動をしています。
ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を「正味ゼロ」にすること)達成のための目標
2021 年に IEA (国際エネルギー機関)が、 2050 年までにネットゼロを達成するにはどうすれば良いかを示したレポートを作成しました。
まず建物分野では、 2025 年に化石燃料ボイラの販売終了。そして同年に 85 % 以上の建物がゼロカーボン仕様になることを世界中で実現する必要があるとしています。
運輸の分野では、2030 年に世界の自動車販売の 60 % が EV (電気自動車)。 2035 年には内燃機関自動車の販売終了を世界で達成することが必要だと示しています。
産業の分野では、2050 年に重工業生産の 90 % 以上が低排出化を世界で実現。
電力の分野では、 2050 年に世界の約 70 % の電気が太陽光と風力になるよう達成することが求められます。
どの取り組みも非常にハードルが高いのですが、これらを達成したうえでさらに CO2 を年間 7.6 ギガトン回収する必要があります。
ネットゼロの達成にはかなりのイノベーションが必要だということが分かりますが、ここにビジネスチャンスがあるのです。
世界的に見るとイノベーションの担い手はスタートアップのため、各国のスタートアップがビジネスチャンスを求めて激しい競争を繰り広げています。
【PR】
カーボンニュートラルに関するレポートのご案内
リンカーズでは、カーボンニュートラルに向けた技術を「広く」「深く」知ることのできる、「カーボンニュートラル最新技術動向マルチクライアント調査」レポートをご提供しております。リンカーズの技術リサーチャーがグローバルの先端技術情報をピックアップし、専門家の目で情報を整理しているため、効率的な情報収集が可能です。
シリコンバレーで行われている脱炭素に向けた取り組み
シリコンバレーはイノベーションおよび脱炭素のメッカです。脱炭素型のスタートアップはクリーンテック( Cleantech )と呼ばれることが多いため、ここからはクリーンテックと呼びます。
現在のシリコンバレーには、日本企業の第3次進出ブームが来ており、約 1,000 社が進出しています。各業界のトップ企業がシリコンバレーでスタートアップの探索・協業・出資・買収を行っている状況です。
エネルギー業界では大阪ガスの進出を皮切りに、東京ガス・中部電力・エネオス・出光興産・ INPEX の計6社がシリコンバレーで活動しています。
なぜ多くの日本企業がシリコンバレーに進出しているかというと、シリコンバレーは世界中のスタートアップが集まった、さまざまな事業の実験場になっているからです。すなわちシリコンバレーには日本の未来があるとも考えられるため、その現状を見るために日本企業が進出しています。
シリコンバレーのエコシステム
スタートアップは起業後、シード・アーリー・ミドル・レイター・ EXIT と成長するのが一般的です。シリコンバレーだけでも毎年2万社のスタートアップが起業するといわれていて、7〜8年の有期限の間に急激にスケールさせて EXIT していきます。
スタートアップを支えるのがヒト・モノ・カネ・アドバイスの提供者で、この体制が世界で見ても最も整っているのがシリコンバレーです。
クリーンテックに特化したエコシステムの地域ランキングというものがあります。 2022 年のランキングを見てみると、1位は当然シリコンバレーです。ベスト 10 を見ると、北米が5、欧州 + イスラエルが4、アジアが1という比率です。ベスト 35 まで見ても日本はランクインしていないという現実があります。
クリーンテックの歴史
クリーンテックはサンフランシスコにある『クリーンテックグループ』が作った言葉です。彼らが創業したのが 2002 年、その翌年にはテスラが創業しているので、当時がクリーンテックの黎明期だったと認識しています。
その後、2009 年に第1次クリーンテックブームが到来 。この年にアメリカでオバマ大統領が就任し、気候変動対策に力を入れて、スタートアップに多額の投資が行われました。
当時はハードウェアが中心でしたが、残念ながらハードウェアはソフトウェアに比べてスケールしにくかったため、冬の時代を迎えます。その頃、エネルギーの業界にもソフトウェアのスタートアップが台頭してきました。
2017 年ごろからが第2次クリーンテックブームと呼ばれており、投資の勢いが徐々に戻ってきました。 2000 年代前半に創業して冬の時代を乗り越えた、真に強いクリーンテックを欧州の石油メジャーや電力会社が買収するという動きが活発化したのもこの年代です。
2021 年ごろからはクリーンテックバブルと呼ばれています。ソフトウェアだけでは脱炭素の実現は難しいため、このタイミングでハードウェアの復権(水素・ CCUS* ・長期エネルギー貯蔵)として投資マネーが膨らんでいるのが世界の現状です。
欧米のエネルギー大手は 2000 年代前半から CVC を作ってシリコンバレーに拠点を置き、スタートアップへの出資を始めています。日本企業は 2011 年ごろから商社がクリーンテックに出資を始め、エネルギー業界の大手は 2016 年ごろから活動を始めています。欧州と比較すると、日本の大手企業でも 10 年ほど取り組みが遅れている印象です。
* CCUS=分離・回収・貯留した CO2 を利用すること