• 配信日:2023.01.16
  • 更新日:2023.09.01

オープンイノベーション Open with Linkers

大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー「高い技術力で世界に注目される大学発ベンチャー」のお話を書き起こしたものです。
ウェビナーでは、Heartseed株式会社 開発担当取締役 Chief Medical Officer の金子 健彦(かねこ たけひこ)さまに、『大学発のイノベーションを世界市場へ Heartseed株式会社の挑戦』というテーマでお話しいただきました。
医療業界の先端技術や、大学発ベンチャーとのオープンイノベーションに興味のある方は、ぜひご覧ください。

Heartseed株式会社の概要


大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

Heartseed株式会社は「心筋再生医療」で世界をリードする慶應義塾大学医学部発のベンチャーで、 2015 年に設立されました。代表取締役社長は、慶應義塾大学循環器内科の教授でもある福田恵一が務めております。
わが社の基盤技術は、福田社長が 90 年代後半からライフワークとして取り組んできた心臓再生につながる技術です。20年以上前に骨髄細胞から心筋を作成したことを論文で報告し、シャーレの上で心筋が拍動している映像を公開し、世界に衝撃を与えました。その後、ES細胞、iPS細胞での心筋の作成に成功し、産業化できるところまでたどり着きました。現在はヒトでの効果を確認する、治験の段階に入っています。
対象疾患は心不全で、これまで様々な上場企業、 VC ( Venture Capital )から総額 82 億円の資金調達を行ってきました。

大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

Heartseed株式会社は、これまでJapan Venture Awards の科学技術政策担当大臣賞、大学発ベンチャー大賞文部科学大臣賞、その他海外でも多数の賞を受賞し、国内外で高い評価を受けています。

心不全とは


大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

本来、心臓の壁は厚く、拍動してポンプのような役割をしてくれますが、心筋梗塞や狭心症などでその壁が薄くなりポンプとしての機能が弱まると、全身に血液が送れなくなってしまいます。これが心不全という病気です。心不全の患者は日本国内に 120 万人、アメリカに 500 〜 600 万人、全世界では 6500 万人もいます。この心不全を再生医療で根治することを目指して、わが社は研究開発を行っています。

Heartseed株式会社による心筋細胞の純化精製技術


大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

私たちの治療の基本的なコンセプトは「心臓の薄くなった壁に心筋を足して心不全を治す」ことです。
Heartseed株式会社の技術は主に4つに大別できます。

  • 1. iPS 細胞を心室筋へ特異的に分化誘導する技術
  • 2. 目的外の細胞を死滅させる純化技術
  • 3. 移植後の生着率を良くするために心筋の微小組織(心筋球)を作る技術
  • 4.球になった心筋を直接心臓に移植するためのデバイス

の4つです。
これらの技術を用いて、まずは他家細胞で臨床段階に入っており、自家細胞によるオーダーメイド治療も開発を進めています。

大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

これまでの心筋再生医療の課題は、iPS 細胞から心筋を作ると、iPS 細胞やその他の細胞がたくさん残ってしまうという点でした。そのまま動物に移植すると、心筋ではなく骨の細胞や腸管の細胞、皮膚の細胞などが混ざった奇形種という腫瘍ができてしまいます。そのため、心筋の培養中に純粋な心筋細胞だけを残す技術が必須だったのです。

大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

福田社長をはじめとする慶應義塾大学の研究グループは、心筋細胞と他の細胞では代謝経路に大きな違いがあることを発見しました。心筋細胞は乳酸を栄養素にできますが、他の細胞はグルコース(ブドウ糖)やグルタミンがないと生きていけないことが分かったのです。
この違いを利用して、栄養素のある培地と無い培地を用意し、その中で細胞を培養すれば純化精製ができるという仮説を実証したのが以下の画像にある研究です。

大学発ベンチャーの先端技術~心筋再生医療イノベーション(Heartseed株式会社)

左側にある写真のピンク色の部分が心筋、青色の部分がその他の細胞です。純化前の心筋細胞はさまざまな細胞が混ざっていますが、純化することで心筋細胞以外は全て死滅しています。
外部の化学メーカーと共同で、乳酸を足してブドウ糖とグルタミンを引いた培地の開発に成功したことで、純化精製技術を編み出すことができました。