• 配信日:2020.11.06
  • 更新日:2021.09.28

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーションのすすめ Part ② ~Webセミナーレポート~

「オープンイノベーション」が叫ばれて久しい中、必ずしも望んだ結果が得られているわけでは無く、成果の最大化に向けた重要なノウハウは各社に局在化、暗黙知化している状況にあります。

そこでリンカーズは、これまで様々な企業のオープンイノベーションを技術マッチングの観点から支援してきた結果見えてきた、「オープンイノベーションが浸透している企業の成功パターン」を具体例を交えて紹介し、皆様のイノベーション活動が加速する組織体制/オペレーション設計の一助となる情報を提供することを目的に、本Webセミナーを企画・開催いたしました。

今回は「これからのオープンイノベーションの在り方」「実現に向けた課題」という2つのテーマに即した「キーワード」を各パネリストの皆様に事前に準備いただき、そのキーワードを取り上げながら、そのキーワードの解説、ディスカッション、質疑を進めていくスタイルで進行しました。

今回の記事では「実現に向けた課題」のパートをご紹介いたします。Part①の記事はこちらになります。

パネリスト
● 一般社団法人Japan Innovation Network 常務理事 松本毅様
● キャディ株式会社 代表取締役 加藤勇志郎様
● リンカーズ株式会社 代表取締役社長 前田佳宏

モデレーター
● リンカーズ株式会社 取締役 加福秀亙

1.オープンイノベーションにおける「カーブアウト」という解決策

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■試行錯誤の繰り返しとバリューを意識することで結果が変わる

モデレーター:さて、ここからは2つ目のテーマ「実現に向けた課題」ということで、キーワード「カーブアウト」をいただいています。

前田:私からこのキーワードを出させていただきました。ベンチャー企業の社長をしていると、「人」、そしてその人の「リーダーシップ」に、企業として成功するか否かがかかってくるなと思っています。リーダーの判断軸でいかに組織を動かしていくかが大事なので、大企業だと「同じ文化」「同じ等級制度」「同じ報酬」の中で新規事業をやるのは厳しいと思います。新規事業を牽引できないリーダーであれば、外部から連れてくるということも考えなくてはならない。

また、立ち上がって間もない新事業のリーダーには、プレイングマネージャー的な素質も必要になります。さらに「アイデア創出力」「判断力」も必要です。新規事業では、1日、1週間、1ヶ月と短いスパンで状況が変わっていき、判断しなければならない回数が非常に多くなります。そこでリーダーが「適切なタイミング」で「適切なジャッジ」ができるかどうかで企業が変わります。ですから「適切なタイミング」「適切なジャッジ」を妨げる制度や文化があると、当然うまくいきません。

もう1つ大事なのは、挑戦する機会があることです。失敗して咎めるのではなく、ある程度トライアンドエラーを繰り返さないと、成功に到達しません。 トライアンドエラーを繰り返せる土壌を作るためには、会社の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の中でも、特に「バリュー」が重要になると思います。リーダーが常に指示ができるわけではないですから、メンバー自身が、いろんなシチュエーションで自分で考えて行動しなければならない。「バリュー」はその際、メンバーの行動指針になり、いろいろなシチュエーションでの判断軸になります。

またバリューはいくつあっても良いと思います。会社で定めたバリュー、部門で定めたバリュー、チームで定めたバリュー、それぞれを口ずさめるくらい浸透させる。そこまでいくと、メンバーが自立して動いていくようになります。 そして、ここまでお話したことを、フレキシブルにやろうとした場合、「カーブアウト」してそれまでの会社の文化がこれからの会社にふさわしくないと考えれば、自分たちで新しい文化を作り直していく。また、新しいリーダーが必要であれば外部から登用する、それくらいのことが必要だと思います。

モデレーター:ありがとうございます。同じくベンチャー企業を経営されている加藤さんはどのようにお考えでしょうか。

■強制的に意思決定機関を分ける

加藤勇志郎様(以下「加藤」):私が実際に支援をして成功した事業のお話をすると、2年半くらいかけてカーブアウトをして、子会社を作り、意思決定機関を完全に別にしていました。その会社で課題になっていたのは、意思決定の遅さと、事業を進めている途中から、どうしても数字を求められる、ということでした。社長がOKをしているにも関わらず、経営陣から利益について追及され始める。そうなると、経営陣を説得するためにまた時間もお金もかかる、という悪循環でした。

それを打開するために、完全に独立して、資金も親会社からだけではなく、自分たちでも調達しました。そうするとスピード感もかなりあがり、海外支店も作って、そこでの意思決定も早くなり...と、うまく行った事例でした。ですから、なにか突破口が見えてきたら、カーブアウトして強制的に意思決定機関を分けるというのはとてもいいと思います。

モデレーター:松本さんも前職のときに似たような経験をされていますよね。

■チャンスは常に準備している人に訪れる(Chance favors the prepared mind)

松本毅様(以下「松本」):私の前職大阪ガスに勤務していた時、当時の社長の大西(故・大西正文氏)が、当時まだ日本では起こっていなかった「規制緩和」「エネルギーの自由化」に注目し、これからはガス事業に代わる新事業をやらなくてはならない、と思い立ち、新規事業のための会社を数多く新たに立ち上げました。そこで手掛けた新規事業のなかで、うまくいった会社に「KRI」という研究開発受託会社や、「大阪ガスケミカル」という素材・材料ビジネスの会社があります。その事例から考えるに、大企業本体から離れて、新しい事業体で新規事業を行えるということは、それに関わる社員にとってはとても良い形です。

また、日常生活においても常にビジネスのことを考え、新しい価値について考えるということも成功するためには大事です。これは私が創設した日本初のMOT(Management of Technology/技術経営)スクールに在籍していたある研究員の方の事例なのですが、彼はカーボン材の研究をしているにも関わらず、自分の専門分野ではない有機金属錯体という分野の先生と親しくなったんですね。その先生から依頼をされた仕事で調査を行ううち、材料に何かを吸着させて、必要に応じて触媒等を利用して分解するという「吸着剤」という概念を思いつき、やがて浄水器事業の立ち上げに成功した、という事例がありました。

これは、フランスの著名な細菌学者、パスツールがいうところの、「チャンスは常に準備している人に訪れる(Chance favors the prepared mind)」と同じです。これからは何が求められるのか、ということを常に考えていると、何か1つの情報が入ったときに「これはビジネスになるのではないか」とアイデアがひらめき、ビジネスとして考えることができます。そういう人にとっては、新事業を手がけられる新しい会社の存在があるのは、とても有意義です。

モデレーター:貴重な事例を交えたお話、ありがとうございます。

2.イノベーションを起こす「発見力」とは

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■「発見力」に必要なのが「イノベーターDNA」

モデレーター:では、最後のキーワードに移りたいと思います。「社会課題による機会の特定」ということですが、これは松本さんからのキーワードです。

松本:現状を振り返りますと、オープンイノベーションの手段として、新規事業部門を既存の組織や枠組みから切り離す「出島戦略」が流行っています。しかし、その出島を作ったある企業に「御社にとってこの『出島』はどのような目的があるのですか?」と聞いたところ、「そこが課題なんです」と返ってくる。そんな「流行りに飛びつく」現状がありますが、大事なのはもちろんビジネスとして考えることです。でも日本はその成功確率が低い。それは成功する仕組がないか、そもそもビジネス自体が間違っているかです。しかし、世界は目的を持って成功確率をあげています。ですから、日本企業も、世界の社会課題から、自分たちが解決したい問題を見つけることが求められます。

これからの人材は「実行力」だけがあってもダメです。新しい「発見」をして戦略に落とし込める「発見力」があるどうかがポイントです。この場合の「発見」とは、「自分たちが取り組むべき課題は何か」という観点で「世界の社会課題」を分析・整理し、自分たちの課題を見つけることです。そしてこの「発見力」に必要なのが「イノベーターDNA」と呼ばれる能力です。これは「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」といった行動的スキル、そしてこれらのスキルを「関連づけられる思考力」を持ち、現状に意義を唱えてリスクをとる勇気を持つということです。(下に続く)

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3.新規事業の創造に不可欠な要素とは

■「やるべきか?」「できるか?」「やりたいか?」の3要素に応えることで成功するイノベーション

松本:大阪ガスの事例を挙げますと、大阪ガスが持っている「活性炭」の技術と、ベンチャー企業が持っている「マイクロカプセル蓄熱材」を融合させることによって、これからの自動車産業に求められていた「新しい複合材」を開発し、自動車のエンジンが抱えていた環境問題を解決に導く新機能を共創することができました。このように、モビリティが抱えている従来の環境問題が世界で起こっている、ということをキャッチしながら、課題解決をビジネスとしてつなげることが大事です。先ほどの「吸着剤」の話もそうですね。この事例のように、事業を成功に導けるための3大要素について話をします。新事業をやりたい人材がいても、大手企業になると、「やるべきか?」の段階で否定されて、なかなかできないことが多い。しかし、この段階では「世界の社会課題を我社が解決しなければならない(だからやるべきである)」というシナリオを作れるか、にかかっています。

次に「できるか?」については、まさにオープンイノベーションの出番です。ベンチャー企業や中小企業と協業することによってできる」というシナリオを、先ほどの「やるべきか?」のシナリオとあわせて作る、この2つの要素が重要です。

最後にもう1つの要素「やりたいか?」があります。今の大手企業にはそもそも新規事業をやりたい人がいないという課題があります。そこでアントレプレナーシップを後押しできるような、先ほどの話にもありました、会社の外に子会社を作ったりして環境を整えることもできるでしょう。

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この3つの要素「やるべきか?」「できるか?」「やりたいか?」に応え、やりたい人がチャレンジできる仕組みがを作ることが大事です。特に「やるべきか?」については、目先の課題ではなく、大きな社会課題を見つけてくることが重要です。

モデレーター:なるほど、「やるべきか?」をどのように発見するかが重要になりそうです。ベンチャー企業の社長である加藤さんは、会社を立ち上げるときにどういった機会の捉え方をして、現在にいたるのでしょうか。

■「大きな市場」「深い課題」「グローバルでの共通性」

加藤:私も事業をやる際に「やるべきか?」「やりたいか」のところを大事にしていました。私の会社は製造業の受発注プラットフォームなのですが、この業界で会社を立ち上げた理由の1つは、製造業の総生産額は、フード業界とかアパレル業界とかを除いた、いわゆる「ものづくり」のところだけで180兆円くらい、GDPでも2割ぐらいあり、最大産業で「大きな市場」であるというところです。

もう1つは「深い課題」があるかというところです。先ほどの180兆円のうち120兆円が「調達」にかかるコストですが、調達分野ではイノベーションが100年以上起きておらず、この調達をいかに最適化するかに深い課題があったからです。

最後に「グローバルでの共通性」があるかということも重要視しています。日本の製造業は世界でのブランド力は高いです。実際「世界ブランドランキング100」という、世界でブランド力の高い企業100社のランキングのうち、日本の会社でノミネートされている企業はほぼ製造業であり、製造業のランクインの割合も世界で最も多いです。世界的にみても、ものづくりブランドが一番強い国で、この製造業をやる意義がある。この「大きな市場」「深い課題」「グローバルでも価値提供ができる」という観点でこの事業をやるべきだと判断しました。

「やれるか?」のところでいくと、私は今の会社を技術責任者の小橋(注:小橋昭文氏)と創業したのですが、彼は米国のAppleでiPhoneやAirPodsの開発をリードしていたエンジニアで、彼を日本に招いて一緒に会社を立ち上げました。「やるべきか?」「できるか?」「やりたいか?」は「Will」「Can」「Must」のようなものだと思うのですが、それがあるというのは、事業を立ち上げるにあたって非常に大事だと思います。確かに大企業だと、良い扱いをされないばかりに「やりたいか?」が少ないのは事実だと思います。ですから、やりたい人が活躍できる場所を作ってあげるのが大切、という点は先ほどの話につながりますね。

モデレーター:ありがとうございます。前田さんはなにかご意見ありますか。

4.日常的にグローバルな情報を入手する必要性

■英語で情報を取り入れ、最適な情報だけを取り入れる

前田:2000年から世の中で流通する情報の量が等比級数的に増えており、これからもその速度で増えていくと思います。また、世界で存在する情報の多くが英語で存在します。ですから、日本がこれから輸出を増やしてGDPを拡大していこうと考えた場合、英語の情報も含めて取り入れ、その情報をジャッジできる土壌が重要であり、リーダーとしては、情報をキュレーションし、最適な情報だけを取り入れていくことも必要です。そういった意味では、グローバルにキーマンとのネットワークを拡げていくのも重要だと思います。また、ヒト・モノ・カネという観点で考えた場合、技術が素晴らしくても、いかにその技術を売っていくか、あるいは他の技術とつなげてシナジーをおこさせるか、といったようなことは中小企業単独だとできないこともあると思います。技術以外で足りない「人」や「金」といったピースを揃えないと会社としては成長できないので、そういう部分を、私たちのようなベンチャー企業がつなげる役割を果たしていると思っています。

■情報のインプットがないと取り組むべき課題が見つけられない

松本:イスラエルのベンチャー企業は、自動車産業において、目指すべき究極の安全運転の先に「自動運転」があることを2、30年前から予測し、画像認識技術やデータサイエンスの分野で研究を行っていました。これらベンチャーのシフトのトレンドを常に見ていたのがドイツの自動車会社だったり、今自動運転の分野で先を走っている米国のテスラです。そういう事例をみると、社会課題について取り組み、変化をおこしている情報をいかに世界から入手するか事が大事かがわかります。そのような情報のインプットがないと、自分たちが取り組むべき課題が見つけられない。そう考えると、グローバルな情報の入手が重要なポイントになります。

オープンイノベーションの未来についてのディスカッション内容を2つの記事でご紹介いたしました。

改めて読むと「なるほど、たしかに」と感じる人も多いかもしれません。しかし課題のど真ん中にいる時や、課題が複雑な場合には明確な解が見つけられないものです。そもそも課題を見つけることすら難しい場合もあります。

今回のディスカッション内容や事例紹介が、少しでも皆様のビジネスに役立つことを願って。

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