• 配信日:2025.12.19
  • 更新日:2025.12.19

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新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

仮説ストーリー分析


仮説ストーリー分析とは、事業の成功、事業目的を達成するために仮説を明確にしていくことです。

新規事業の仮説は「この製品が完成すれば、 2030 年に売上は 100 億円になる」といった具合に曖昧なことがよくあります。まさに「なせばなる」というようなロジックに飛躍がある仮説(メインストーリー)を立ててしまいがちです。

しかし、この仮説を実現するまでには間があり、その間にある段階(サブストーリー)をより明確にしなければ達成は難しいのです。そのために仮説ストーリー分析を行います。

新規事業チームが立てたメインストーリーと、その間にあるサブストーリーを企画管理部門が確認し、「ここをもう少しわかりやすく教えてください」と突き詰めていく。これにより「 2030 年に売上は 100 億円になる」までの流れや、やるべきことがより具体的になっていきます。

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

画像は「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざをメインストーリーとして、サブストーリーを明確にしていった場合のケースです。仮説ストーリー分析を進めていくと、実は「風が吹くことと桶屋が儲かることには直接的な関係がなく、ネズミが増えれば良い」ということがわかり、企画管理部門は新規事業成功のためのより効率的な支援ができるようになります。

この仮説ストーリー分析をツールやフォーマットに落とし込んで簡単にできるようにする。それを使って新規事業チームと企画管理部門の支援担当者でやり取りしてもらうと、事業計画のブラックボックスが減っていき、新規事業について社内で説明しやすくなるのです。

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

画像にあるとおり、仮説ストーリー分析は定性情報だけで作ることができるため、プロジェクトの早期段階でも行えます。また「新規事業を頑張って進めているのだが、仮説やゴールが見えない」という場合も、仮説ストーリー分析を行うことがおすすめです。

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

そしてストーリーができたら、そこに数字を当てはめていきます。すると、仮説が外れたら、ストーリーがどう変わるのかがわかってきます。新規事業のリスクを定量的に分析することも可能です。

基礎的な分析の重要性

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

仮説ストーリー分析を上手く行うには、基礎的な分析をしっかりとすることが大切です。この基礎的な分析をするために、企画管理部門の支援担当者から新規事業チームに問いかけてほしいことを、7つの質問として整理しています。

そして、例えば一番上の「どうなったら良いか?」という質問に対する回答を出すには、右側にある PEST 分析や SWOT 分析が効果的です。どちらもごく基本的な分析方法ですが、仮説ストーリー分析を行うための有効な方法となります。

新規事業支援者の質問力の重要性

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

また、仮説ストーリー分析には質問力も重要です。新規事業を支援する部門の方々が、「新規事業チームに何を質問したら良いかわからない」と困っていることがよくあります。私も頻繁に相談を受けます。このお悩みに対し、「 IT ツールを使って質問していく」ということを提案しています。

IT ツールを使ってどのように質問するのか、いくつか方法があるので、1つずつ見ていきましょう。

仮説一覧の作成

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

まずは仮説一覧を作成するという方法で、最もおすすめな取り組みです。新規事業部門が作成した仮説ストーリーの中に、どんな仮説があるのかを項目分けし、それぞれの説明と該当する数字を書いていきます。

仮説一覧を作ってみると、大抵の場合「これはどういうことなんだろう?」と感じる部分が大量に見つかります。その疑問を新規事業チームに投げかけることでコミュニケーションを取っていくという方法です。

そして、この仮説一覧をもとに新規事業をモニタリングしていくと、仮説が良くなっているのであれば事業も前に進みやすくなります。あるいは、上手くいかないのではないかということがわかる場合もあります。

言ってしまえば、仮説ストーリー分析は仮説一覧を作るためのプロセスなのです。この仮説一覧は、仮説検証型経営の最も重要な部分です。

感度分析

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

それから、感度分析もよく使う手段の1つです。数字を決め打ちにせずに、「Base」「Law」「High」という形で、計画として使う数字(「Base」)より悪くなったら、その数字がどれくらい小さくなるのか(「Law」)、あるいは良くなったらどれくらい大きくなるのか(「High」)、そういった変動の大幅を考慮した分析方法です。

例えば画像のグラフにある「ピーク獲得シェア」が下がってしまった場合、どこまで NPV (正味現在価値)が下がるのかを定量的に評価します。このグラフでは、ピーク獲得シェアが下がっていくと NPV がマイナスになることもある。そのため、この事業はシェアの獲得が大切だということがわかります。感度分析のグラフで一番上に表示されている、ということは、ピーク獲得シェアの変動がNPVに最も大きな影響を与える、ということですから、ピークシェア獲得の検討の優先順位を高めて限られた時間を使おうじゃないか、と関係者と合意できます。このようなグラフを Excel などで作成するのも有効です。

また、とある企業で実際にあった例なのですが、コーポレート部門の方が分析をして、「販売マージン率が大事ですね」と新規事業チームに話をしたら、「え?」という反応をされてしまいました。新規事業チームは販売マージン率に注目していなかったのですが、感度分析により「マージン率が下がったら、事業規模を拡大しても意味がない」ということがわかりました。これにより、コーポレート部門から事業戦略上の重要なアドバイスができたケースがあります。

シナリオ分析

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

それから、仮説検証型経営ではシナリオ分析をよくやります。新規事業がどんな場合に良くなるのか、悪くなるのかを、仮説を組み合わせて議論する方法です。

これは新規事業でも R&D でも設備投資でも M&A でも同じで、「いくらまで投資できるか、そのときの前提仮説はどういう組み合わせか」ということを議論していくと、まず事業のことがよくわかってきます。どんな仮説が重要なのかは感度分析で当たりをつけておいて、実際にどの仮説がどの程度実現すれば、いくらくらい儲かるのかということを詰めていくわけです。

シナリオ分析は新規事業のアーリーの段階では大まかなリスクの理解に役立つ程度かもしれませんが、事業が進んで追加投資が必要になったり、アライアンスの関係でバリュエーションもしなければならなくなったりした場合には、いくらまで出せるのかという難しいぎりぎりの議論に対して、納得度の高い関係者の合意を形成するために有効でしょう。

また、社内の新規事業でもスタートアップのように、事業価値を継続的にモニタリングしていくことを企業によっては実施します。どうやったらこの事業価値が高くなるのかをコーポレート部門と新規事業チームと関係者とで共有する場合にもシナリオ分析が役立ちます。

モニタリング

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

仮説検証型経営において重要なことは、モニタリングです。すなわち、仮説の変化を見ていくことが欠かせません。これが既存事業との最も大きな違いです。

既存事業は「先月の成果はどうだったか」などと厳しくマネジメントするのですが、新規事業で「先月の成果はどうだったか」を聞いてもあまり意味がありません。それよりも3年、5年、 10 年先のゴールを達成するために必要な仮説が実現に向かっているかという変化を見ることが大切です。仮説を見ることで事業が良くなっていっているのか、悪くなっていっているのか、透明性を高めていく。つまり、数字だけを追いかけるのではなくて、仮説をモニタリングするのが仮説検証型経営だということです。

案件の一元管理

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加えて、案件を一元管理することも非常に重要になります。新規事業もいくつもやっていると、その全てを定量的に管理できなくなってしまうことがよくあります。「複数ある新規事業それぞれのミッションとビジョンくらいは整理・管理できているものの、数字については深掘りできていない」というときに、仮説検証型経営がおすすめです。

講演者紹介

新規事業の立ち上げリスクを最小化!「仮説検証型経営」で成功確率を高める実務手法

小川 康 氏
インテグラート株式会社 代表取締役社長

製造業・製薬会社・総合商社・電力/ガス会社等による、リスクの高い事業投資(製品開発・新規事業・M&A・出資案件等)に関して、経営理論とITを活用した意思決定支援に豊富に経験を持つ。
定性・定量両面の分析・可視化等の手法を活用して複雑で不確実な案件の重要仮説を明確にし、関係者のコミュニケーションを活性化させることによって、納得感の高い意思決定を達成する仮説検証型経営を活用することが特徴。

東京大学工学部都市工学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(起業学/ファイナンス)
日本価値創造ERM学会理事、研究・イノベーション学会会員、日本リアルオプション学会評議員、日経ビジネススクール講師、日本取締役協会正会員、日本CFO協会主任研究委員

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