
- 配信日:2025.06.23
- 更新日:2025.06.23
オープンイノベーション Open with Linkers
機能性素材の最前線:4万件論文分析で見えた8つの技術トレンド
自己修復材料の応用と実用化研究
続いて自己修復材料(割れたり傷がついたりしたとき、自然に修復される材料)について。

自己修復材料も注目度が高まっている分野で、様々な応用研究が進められています。

画像は自己修復コンクリートの事例です。コンクリート内にバクテリアを休眠状態で含ませ、ひび割れなどが発生して酸素や水が侵入するとバクテリアが活性化し、ひびを埋める成分を生成します。現在、インフラ向けに実用化が進められているところです。

また、超分子やゲルなど複雑な分子を使った自己修復性材料の研究も進められています。付けたり外したりできる接着用途での開発や、壊れてもすぐ修復するデバイス保護材の提供などが行われている技術です。

医療分野での応用も進んでおり、画像左の大阪医科薬科大学では、血管に材料を縫い付けることで血管と馴染んで穴を塞いでくれる材料を研究しています。画像中央の ADA Science & Research Institute は歯科用自己修復レジン(歯の傷を修復する材料)を開発しています。


論文分析では、どのカテゴリーも伸び率が高いことがわかりましたが、ここでは「バイオインスパイア設計とナノフィラーで実現する自己修復複合材料」について見ていきます。



このカテゴリーの研究として、生体模倣・階層構造設計による多機能自己修復材料の研究(植物や動物の傷を修復するメカニズムを模倣)や、ナノフィラーや粒子を混ぜることで自己修復性を高めたり壊れにくくしたりする研究などが進められています。
超伝導材料の基礎研究と産業応用
次は超伝導材料についてです。

超伝導材料は 10 〜 20 年前から注目されていた分野ですが、最近は核融合関連で産業向けの実用化が少しずつ進んでいます。

特に、強力な磁場を使う施設での応用事例が見られます。

産業応用として、画像左の東芝グループがモビリティ分野向けの超電導モーターを開発し、航空機などへの応用を目指しています。しかし、一般のモビリティに使うにはまだ技術的ハードルが高い状況です。


論文数は多くありませんが、直近の伸び率は高い傾向にあります。ここでは「遷移金属と2次元材料の融合が開く超伝導と蓄電池応用」というカテゴリーについて見ていきましょう。



このカテゴリーに含まれる研究としては、例えば2次元材料の原子・電子構造を制御して超伝導性能を最適化する研究、インターカレーション(結晶の層間に物質を挿入)・界面設計による超伝導特性の研究などが進められています。ただし、まだ基礎研究が中心で実用化研究はあまり多くないという印象です。
電磁シールド材料の最新動向と応用技術
次は電磁シールド材料について。

電波を遮蔽したり振動を制御したりする技術は従来からありますが、最近の動向としては軽量化と高周波対応が注目されています。

具体的には、 5G や 6G (ミリ波やテラヘルツ波)などの高周波電波を効率的に制御する材料の開発や、ミリ波やテラヘルツ波のシールド材料、反射材料の開発が活発に行われています。

また、磁力をシールドするための薄型材料開発も行われており、透磁率が高く薄い材料を使った磁気シールドも開発されています。

さらに特殊なめっきの技術も研究が進んでおり、材料表面やコンポーネントに薄い膜を形成し、電磁波をシールドする加工技術の開発も行われています。


論文分析では 10 のカテゴリーが抽出され、「積層造形技術と複合プロセスによる高機能電磁シールド製造」が急成長しています。このカテゴリーについて、注目トピックを見ていきましょう。



カーボンナノチューブやグラフェンなどの2次元材料を組み合わせて分散させ、様々な特性(電磁シールドの特性)を持たせる研究や、これを 3D プリンターで3次元的に造形してデバイス化する研究、 3D プリンティングを使った複雑な形状や機能勾配(グラデーション)を持つ電磁シールドの研究などが進められています。
エネルギー蓄積/変換材料の研究開発と応用
続いて、エネルギー蓄積・変換材料について。

エネルギーの蓄積や変換を行う材料に関する研究も数多く行われています。

Web 調査では、2次電池向けの新しい技術として注目されていることがわかりました。例えば、リチウムイオン電池や空気電池などに使われるシリコン負極材料としての活用が進んでいます。

また、全固体電池の開発も注目されており、スマートフォンや EV 向けなど、小型から大型まで様々な用途で活用される可能性があります。


論文分析では、「 MOF ・ COF フレームワークで拓く次世代エネルギー貯蔵」というカテゴリーが注目されていることが見えてきました。



MOF (金属有機構造体)は有機分子で「ジャングルジム」のような骨格を作り、接点に金属原子や金属イオンを配置した構造を持つ材料です。有機分子と接点の金属の種類を選択することで孔の大きさや特性を調整できるため注目されています。 COF は全て有機構造で構成され、 MOF よりも柔軟性や軽量性に優れています。 COF は電池材料や水素貯蔵体として応用研究が進められています。
機能性高分子の応用事例と環境配慮型開発
最後に機能性高分子について。


上記画像は導電性高分子を活用した事例です。導電性高分子はコンデンサや電極材料として応用されており、製品化例も出てきています。

環境に配慮したポリマーの開発も進んでおり、画像左の積水化成品工業株式会社では、フッ素を使わずに LED 照明の蛍光体などを分散させる技術を開発しています。また、中央の富士フイルム和光純薬株式会社では、高吸水性ポリマーを使った紙おむつを開発。右側の花王では、温度によって溶けやすさが変わるポリマー(温度の変化で使用済みの製品からポリマーを取り出せるようにすることで、リサイクル性を向上させることが目的)を開発しています。

医療・バイオ分野での応用も進んでおり、画像左の大阪大学では、末梢神経に巻いて神経損傷を治すシートを研究しています。中央の JSR 株式会社では、バイオセンサー用ポリマーを開発。右の東北大学では温度で接着性を制御できる医療デバイス用材料を提供しています。


論文分析では多数のカテゴリーが抽出されました。ここでは「フレキシブルエレクトロニクスと導電性高分子の融合で次世代デバイスを創出」というカテゴリーについて見ていきます。



このカテゴリーでは、ナノカーボンや金属ナノ粒子を複合化した高機能導電性材料や、自己修復材料の実用化研究など、様々な観点で研究が進められています。
以上がセミナーでお話しした内容です。機能性素材についてより詳細な分析結果を知りたい方は、「 Linkers Trend Map – 技術総覧 – 」をぜひご活用ください。R&D や新規事業企画の基礎資料として、効率的に世界の研究動向を把握することが可能です。「 Linkers Trend Map 」と「 Linkers Trend Map – 技術総覧 – 」のサービス資料は以下から無料ダウンロードいただけます。
「 Linkers Trend Map 」サービス資料の無料ダウンロードについて
「 Linkers Trend Map 」サービス資料を、以下のボタン先の申込フォームからお申し込みいただけます。フォームに情報を入力後、送信ボタンを押してください。その後、自動的にページが切り替わりますので、そちらから資料をダウンロードしてください。
セミナー講演資料のダウンロードについて
本記事に関するセミナー講演資料を、以下のボタン先の申込フォームからお申込みいただけます。フォームに情報を入力後、送信ボタンを押してください。その後、自動的にページが切り替わりますので、そちらから講演資料をダウンロードしてください。
講演者紹介

浅野 佑策
リンカーズ株式会社 イノベーション推進事業本部
【略歴】
東北大学工学部卒業( 2006 年)、東北大学大学院工学研究科修了( 2008 年)
株式会社東芝 生産技術センターにおいて半導体製造プロセスの研究開発に従事。
その後、アクセンチュア株式会社にて大手製造業における、工場デジタル化や業務自動化などのデジタルトランスフォーメーションを複数推進。
現職では、メーカーでの研究開発とコンサルティングの経験を活かして、エレクトロニクス領域を中心に、先端技術動向調査、技術マッチング、技術情報を効率的に収集するための技術開発など、製造業向けのイノベーション創出を支援している。
【関連記事】
表面処理技術の最新動向:4万件論文徹底分析!耐摩耗・耐食から自己修復まで

『 Linkers Trend Map 』を活用した表面処理技術に関する最新動向を解説!4万件の論文分析に基づき、耐摩耗、耐食、自己修復など、注目の技術トレンドを紹介しています。技術開発のヒントが満載です。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
リンカーズ株式会社は、ものづくり企業向けにイノベーション・オープンイノベーションを支援している会社です。技術パートナー探索やユーザー開拓など、ものづくり企業の様々な課題に対してビジネスマッチングを軸にしたソリューションをご提供しています。またあらゆる技術テーマでのグローバル先端技術調査も承っております。
◆技術パートナーの探索には「 Linkers Sourcing(リンカーズソーシング)」
Linkers Sourcing は、全国の産業コーディネーター・中小企業ネットワークやリンカーズの独自データベースを活用して、貴社の技術課題を解決できる最適な技術パートナーを探索するサービスです。ものづくり業界の皆様が抱える、共同研究・共同開発、試作設計、プロセス改善、生産委託・量産委託、事業連携など様々なお悩みを、スピーディに解決へと導きます。
◆技術の販路開拓/ユーザー開拓には「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」
Linkers Marketing は、貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供するサービスです。面談に至らなかった企業についても、フィードバックコメントが可視化されることにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げていただけます。
◆技術情報の収集には「 Linkers Research(リンカーズリサーチ)」
Linkers Research は、貴社の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査サービスです。各分野の専門家、構築したリサーチャネットワーク、独自技術データベースを活用することで先端技術を「広く」かつ「深く」調査することが可能です。研究・技術パートナー探し、新規事業検討や R&D のテーマ検討のための技術ベンチマーク調査、出資先や提携先検討のための有力企業発掘など様々な目的でご利用いただけます。
オープンイノベーションの推進についてお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
「まだ方向性が決まっていない」
「今は情報収集段階で、将来的には検討したい」
など、具体的な相談でなくても構いません。
リンカーズが皆さまのお悩みや課題を伺い、今後の進め方を具体化するご支援をさせていただきます。
リンカーズはものづくり企業の方向けにさまざまな Web セミナーを開催しています。
最新のセミナー情報やセミナーのレポート記事など、お役立ち情報を公式 Facebookでご案内しています。ぜひフォローをお願いします。