• 配信日:2025.07.03
  • 更新日:2025.07.03

オープンイノベーション Open with Linkers

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『 RICOH の社内外を巻き込むイノベーション事例』のお話を編集したものです。

株式会社リコーの新規事業創出プログラム『 TRIBUS(トライバス)』の責任者である森久 泰二郎 (もりひさ たいじろう)様に、TRIBUS 運営における知見や挑戦、取り組みについてお話しいただきました。

株式会社リコー(RICOH)について


まずリコー( RICOH )について簡単に紹介します。 1936 年に創業し、本社は大田区大森にあります。主要な開発拠点として海老名にテクノロジーセンターというものも構えています。

現在の社長は大山ですが、会長・山下が社長時代にオーナーとして発足したのが今回紹介する TRIBUS というプログラムです。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

リコーは海外にも多数の拠点があり、従業員比率でいうと海外の方が多くなるグローバル企業となっています。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

リコーの歴史を簡単に紐解くと、 1936 年に理化学研究所で所有していた感光紙の製造・販売技術の権利を獲得し、理化学研究所からスピンオフしたような会社です。その後、事務機器分野へ本格的に進出し、 1977 年にオフィスオートメーションの概念を提唱しました。「機械にできることは機械に任せて、人はより創造的な仕事をする」ことをアシストしたいという考えで、グローバル化。そしてサービス事業の拡大を経て、現在はデジタルサービス( DX )を軸に働く方々に寄り添いながら創造性のある働き方をし、その延長線上に働く喜びを感じられる世界の実現を目指しています。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

また、リコー(RICOH)は「はたらくに歓びを」という企業理念の使命と目指す姿を掲げており、社員一人ひとりがイキイキと働ける会社作りも進めています。その手段の1つとして 2019 年に社内副業制度が設けられ、社員が本業以外の別の部署の仕事を工数 20% 以内で担当できるようになりました。この時期に TRIBUS も発足し、その 20% という時間を使って新しい事業に挑戦できるような取り組みを行っています。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

他に、スタートアップとのオープンイノベーションという観点で、コーポレートベンチャーキャピタル( CVC )の「 RICOH Innovation Fund 」を 2023 年末に立ち上げました。

新規事業創出を促すリコーの「TRIBUS (トライバス)」とは?


リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

リコーで行っている TRIBUS のコンセプトや設立背景について説明します。 TRIBUS は一言で言うと「日本初の社内外統合型アクセラレータープログラム」です。事業創造のための挑戦の場として 2019 年より活動しています。

大きな特徴は、RICOH グループの社員が応募できる社内新規事業プログラムと、スタートアップの皆さんが応募いただけるスタートアップアクセラレーションプログラムの2つが合わさったものという点です。社内チームの方は、ビジネスプランが最終採択されると事業化に進み、スタートアップの皆さんはその後、事業部との協業や新しいサービスを一緒に展開していくなどの取り組みを行っていくことになります。

TRIBUSの設立背景

現在の社会環境は移り変わりが激しく、不確実な要素が多い時代となっています。いわゆる「 VUCA 」の世界です。そして世の中のプロダクトライフサイクルはどんどん短くなっています。導入期から成長期期、成熟期、そして衰退期へと進む中で、製品単価も利益も下がっていき、同じサービス・プロダクトを売り続けることは難しい世の中です。このような環境では、既存企業も新しい事業や新しいサービスに取り組まなければいけません。リコーも同じような状況です。

さらに、これまでは同業他社が競合先でシェアを奪い合うという状況だったのが、産業の垣根を越えて争う時代になりつつあります。様々な企業・人が越境してビジネスをしている。このような環境です。

TRIBUS が始まるきっかけとなったのは、2019 年以前、リコーに大きく3つの観点で課題があったためです。
1つは経営戦略視点でニューノーマルの時代に向けて事業変革や事業創造が必要だということ。

2つ目は研究開発視点で、保有技術のサービス化においてスタートアップとの連携・協業が必要だと認識していたこと。

3つ目は社員からのボトムアップです。「フィールドコミュニケーション」という形で当時の役員たちが 1,000 人ほどの社員と各拠点でコミュニケーションする場があったのですが、社員から「既存のプロセスに縛られている」「新しいことに挑戦・提案する場がない」という声が寄せられたこと。

そのような中で、RICOHグループから継続的・持続的に新規事業を創出し、そういったことができる起業家人材を発掘・育成。さらにスタートアップとの共創を通じてスタートアップの事業創造マインドを社内に広く伝播することを目的として TRIBUS を発足しました。

TRIBUSにおけるイノベーションに対する考え方と価値判断基準

次は TRIBUS が考えるイノベーションの捉え方について。意図的にイノベーションを起こすことは難しいものです。スタートアップの数が多いアメリカでも難しいとされています。

RICOH としては百発百中でイノベーションを起こすというよりも、そのようなマインドセットを社内に浸透させることを目指しています。次から次へと新しい事業の種にチャレンジしていくことが普通に行われる、そういった風土にしていきたいと考えています。

また、 TRIBUS のようなプログラムは単発で終わったり、1年だけで終わったりしてしまうケースもよくあります。そうならないために価値判断基準としてシンプルな3つの指針を決め、以下のことを「やらない」ように決めました。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

  • 1. リコーグループだけで判断する
  • 2. リコーグループだけの新規事業の価値観で取り組む
  • 3. ガス抜きのような形で、新規事業に対して「いいね」だけで終わらせる

1つ目の「リコーグループだけで判断しない」の一例として、 TRIBUS のピッチコンテスト審査では、社内の役員だけでなく社外のベンチャーキャピタル( VC )の代表の方たちにも、社内審査員の数より多く集まっていただき審査します。新規事業は既存事業の知見だけでは判断しづらいところもあるため、様々なスタートアップを見てきた VC の経験や、彼らの視点を重視してこのような形式を採用しているのです。

リコー(RICOH)のTRIBUSが生み出した新規事業事例


これまでの実績として、社内外から総数約 1,214 件(講演時)の応募が集まりました。初年度はオフライン会場で開催しましたが、 2020 年からコロナ禍で完全オンライン化したことにより、地方の方も含めて様々な人が応募しやすい環境が副次的に生まれました。

スタートアップに関しては、創業間もないシード期から、まもなく IPO(新規株式公開)するようなレイターステージまで、様々なステージの企業に参加していただいています。

社内の新規事業として以下のような事例が生まれました。

リコーの新規事業事例!TRIBUSの成功の秘訣

  • ・リコーで初めてとなるクラウドファンディングを活用した手持ち型のハンディプロジェクター
  • ・耳が不自由な方のためのオンラインコミュニケーションツール「 Pekoe(ペコ)」
  • ・立体印刷技術を使った独自のアートブランド「 StareReap(ステアリープ)」
  • ・グッドデザイン賞ベスト 100 を受賞した水中撮影システム「 STAYTHEE(ステイシー)」
  • ・学校で役立つ AI ツールとして評価されたグラフィックコミュニケーションツール「 piglyph(ピグリフ)」

など。

社内の新規事業は必ずしもリコーの中にとどまる必要はなく、カーブアウトするという選択肢も用意しており、これまでに2社が起業しました。

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