
- 配信日:2025.03.12
- 更新日:2025.03.12
オープンイノベーション Open with Linkers
GAFAMの技術動向を論文・特許から徹底分析!
GAFAMとは?
GAFAMとは、Google、Apple、Facebook(現 Meta )、Amazon、Microsoft の5つの巨大テクノロジー企業の頭文字を取った略称です。これらの企業は、世界中で広く利用されるサービスを提供し、AI、クラウド、デバイスなど幅広い技術分野で研究開発を行っています。
・Google は検索エンジンや広告、クラウドサービス、
・Apple はスマートフォンやパソコン、ウェアラブルデバイス、
・Facebook(現 Meta )は SNS やメッセージングアプリ、
・Amazonは ECサイトやクラウドサービス、
・Microsoft は OS やクラウドサービス、ゲーム
などを提供しています。
GAFAM は、豊富な資金力と技術力を活かして、新規事業への進出や他社との連携を積極的に行っています。
以下の記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『米国デジタルプラットフォーマーが注力する最新技術トレンド』の内容を書き起こしたものです。
GAFAM 各社の最新の技術動向を、論文や特許データの分析から明らかにし、彼らが最近どのような研究・開発を行っているか紹介します。
記事の最後では、セミナー講演時に使用した資料を無料にてダウンロードいただけますので、あわせてご覧ください。
目次
● GAFAMとは?
● GAFAM の研究開発の調査スコープ、手法
● GAFAM 各社の論文・会議録件数、特許出願の状況
○論文・会議録件数の傾向
○特許出願の傾向
● GAFAM の技術分析
○クラスタリングした結果から見る GAFAM の技術動向
○ GAFAM 各社の技術注力分野
○論文、会議録から見るGAFAM 各社の技術トピックランキング・トップ 15
○特許から見るGAFAM 各社の技術トピックランキング・トップ 15
● GAFAM の論文・特許のマクロ分析まとめ
● GAFAM 各社の技術事例(一部紹介)
○Microsoft の技術事例:ヘッドマウントディスプレイで実現するアバター制御技術『HMD-NeMo』
○Microsoft の技術事例:ヘアピン構造DNAを活用したDNA合成技術
○ Microsoft の技術事例:深層学習モデルによるプログラムコード自動補完システム
○ Microsoft の技術事例:圧電素子によるマイクロ流体熱管理デバイス
○ Meta の技術事例:『 SpaText 』
○ Meta の技術事例:『 IMAGEBIND 』
○ Meta の技術事例:『 Carbon Explorer 』
● GAFAM 技術トレンド調査レポートのご案内~論文・特許解析と専門家インタビューで探る未来の R&D 戦略~
GAFAMの研究開発の調査スコープ、手法

まず調査スコープおよび手法について説明します。
本調査では 2015 年から 2024 年 11 月頭ごろまでに出された論文・会議録、出願された特許データを対象として、自然言語処理を活用した包括的な分析を行いました。調査対象は GAFAM とその関連企業です。調査対象データとして、論文・会議録データを約5万件、特許を約8万件収集して分析をしました。
集計分析方法について説明します。まず、GAFAM の企業ごとにグループ分けを行い集計しました。データ処理には自然言語処理を用いました。具体的には、前処理およびテキスト解析を実施し、その後、技術トピック(類似キーワードを多く含む文書)単位でクラスタリングを実施しました。
さらに AI を用いて各クラスターの文章を要約し、技術トピックとして適切なラベルを付与しました。
以上の方法で得られた技術トピックを紐づけた母集団データをもとに、各企業の技術動向について分析した結果を紹介します。
GAFAM 各社の論文・会議録件数、特許出願の状況

こちらは、 GAFAM 各社における論文・会議録と特許出願の動向・トレンドを大まかに示したグラフです。
論文・会議録のトレンドは 2020 年から 2023 年にかけてピークを迎え、その後全体的に横ばいの傾向になっています。 2024 年大きく下がっているように見えますが、これはまだ 2024 年が終わっていないためであり、最終的な数値はもう少し増えると思われます。しかし残り2カ月ほどということを考えると、 2023 年と比較して減少に転じる可能性があります。
論文・会議録件数の傾向
論文・会議録の数がグラフのような傾向になっている背景としては、5年ほど前から研究活動を一時的に活発化した後、安定期に入ったからではないかと予想しています。
企業ごとの特徴を見ると、論文・会議録の数は Google が最も多いことがわかります。これはおそらく 2012 年以降のディープラーニングブームを牽引している結果で、 AI やデータサイエンスといった先端分野でリーダーシップを発揮しているからだということが伺えます。
一方 Apple の論文・会議録数は他と比べて非常に少ない状況です。反面、特許数は Apple が最も多いというところから考えると、 Apple の企業戦略的な部分が論文・会議録数に大きく影響していると思われます。基礎研究よりも特許応用研究に主軸を置いているのでしょう。
Meta は 2017 年頃から論文・会議録数が増加していることがわかります。おそらくメタバースや AI に関連した研究開発が増えたことが要因と推察されます。
Amazon も同様に 2017 年頃から論文・会議録数が増えており、クラウドや物流に注力していると予想しています。
Microsoft の論文・会議録数は元々多く、比較的安定して基礎研究も行っている状況なのだと伺えます。
特許出願の傾向
特許に関しては、全体の傾向として論文・会議録と比べて各社の特徴がよく出ていると感じます。
Microsoft と Amazon の特許出願数が少しずつ減っており、知財戦略の部分が大きいと思うのですが、設備投資やクラウドデータベースセンターへの投資などに集中している可能性が考えられます。
一方、 Google の特許出願状況は少しずつ増加していることから、幅広い領域で知財保護を重視しているのではないかと思われます。
また Apple の特許出願数が急速に増えており、新規製品や技術開発への投資が反映されている可能性が考えられます。
Meta は横ばいの状況です。
なお、このグラフでわかるのは GAFAM 全体の大まかな傾向であり、技術動向を知る上でさらに詳細な分析が必要です。
GAFAMの技術分析

そこで弊社では、独自に開発したアルゴリズムを使って、論文と特許の情報を技術トピックごとにクラスタリングを実施しました。この方法によって、技術的に意味の近い文章を自動的に整理し、トピックごとの技術動向を精査できました。
具体的な手法は、論文と特許のタイトル、アブストラクトといったテキストデータを集めて解析して、一旦数値ベクトルに変換します。その後、次元削減を行ってクラスタリングを実施し、最終的に画像にある図のように2次元マップに落とし込みました。1ドットが1文書を示していて、数万件のデータが並んでいます。また類似クラスターごとに色分けし、近いものが島のように集まっています。このデータをもとに、 生成AI を使って分析してトピック名を付けました。
クラスタリングした結果から見るGAFAMの技術動向

こちらが技術トピック別に分類した結果です。まず 300 程度の技術トピックを先ほどのクラスターマップから作り、それを集約し、 20 個程度の中分類を作りました。さらに8つの大分類にまとめたのがこの表です。
大分類の内訳は上から順番に、
- 1. 基礎インフラ技術
- 2. プラットフォーム技術
- 3. 知能化技術
- 4. インターフェース・メディア技術
- 5. 先端材料・デバイス技術
- 6. 自動化・制御技術
- 7. 医療・バイオ技術
- 8. 環境対策関連技術
となりました。
それぞれどのような情報が含まれているかを表の「内容」フィールドに書いています。例えば基礎インフラ技術の中分類は通信ネットワーク技術、ハードウェア設計、エネルギー・電力管理、データベース・ストレージとなり、さらに詳しい内容を右側に記載しているという形です。数が多いので詳しい紹介は割愛します。

このような大分類を作り、再度分析を行いました。上記のグラフは、 GAFAM 全体の集計結果に基づき、各技術分野における件数の割合推移をグラフ化したものです。左側は論文・会議録、右側は特許出願に関するデータを示しております。
左側の論文・会議録の動向に関して、 2015 年から 2024 年にかけて知能化技術( AI 関連)の割合が顕著に増加していることから、 GAFAM 各社はやはり AI に関する研究開発を強化していることがわかります。
別の分野は件数自体が少ないため埋もれがちではありますが、例えば医療・バイオ技術が増えていることからヘルスケア分野にも注力しているのだと伺えます。
右側の特許の動向に関して、件数自体は少ないのですが知能化技術の割合が増加しています。ハードウェアなどに比べて知能化技術は特許化しにくい面はあるものの、知財化が進んでいることがわかります。さらに、先端材料・デバイス技術の割合も増加しており、ハードウェア技術にも注力していることが見て取れます。全体を見ると、既存の技術基盤の強化も継続して行っていることがわかりました。
GAFAM各社の技術注力分野

より細かく分析するために、大分類についても集計しました。画像は 2023 年以降に発表された論文・会議録と特許出願件数を、大分類の技術カテゴリごとに比較したグラフです。
まず左側のグラフについて。プラットフォーム技術、知能化技術、インターフェース・メディア技術が多く、各社7割程度を占めています。特許と比べると、 知能化技術が多いという点が特徴です。
また医療・バイオ技術も特許と比べて論文・会議録のほうが比率として高いことがわかります。医療系の論文が多い理由は、そもそもアルゴリズムやモデルなどが特許化しにくい点や、技術革新のスピードが非常に速いため特許化に時間をかけるよりも論文を次々に出し、コミュニティを大きくする(プレゼンスを高める)ほうが効果的だと考えられているからだと思われます。
一方、特許出願数について特徴的なことは、 Apple の出願数が非常に多いことです。論文・会議録数と比較するとその差が際立っています。これは Apple 独自の戦略上、知財の保護を重視していることが理由でしょう。 Apple の特許の半数程度が基礎インフラ技術です。ただ、インフラといっても大規模なインフラではなく自社デバイスに特化した技術が中心だと思われます。
他の企業を見ると Google 、Meta はスマートフォンやスマートウォッチ、 VR ゴーグルなどを扱っているので、インターフェース・メディア技術が多いことがわかります。 Microsoft 、 Amazon は強力なクラウドサービス事業を行っているので、基礎インフラ技術やプラットフォーム技術の割合が他社と比べて高いという結果になっています。
このように各社ごとに層別化するとより特徴が明確になりました。
論文、会議録から見るGAFAM 各社の技術トピックランキング・トップ 15

ここからさらに解像度を高めるために、細かい分類をして比較してみました。画像は 2023 年以降に公開された論文・会議録における、 GAFAM 各社の技術トピックランキング・トップ 15 をまとめたものです。件数が多かった技術トピック順に並べています。
全体的に見て、各社とも AI 関連トピックの割合が高いことがわかります。特に強化学習や自然言語処理、音声認識・分類技術、機械学習関連、基盤技術開発などに注力しているということが伺えます。
昨今「マルチモーダル」という言葉をよく耳にします。各社のランキングを見るとマルチモーダルが上位に食い込んできており、世に出てくる前の技術の兆しが、論文・会議録のランキングから読み取れるな、ということを感じました。
各社個別に見ていくと、 Google は上位に強化学習の基盤研究開発、自然言語処理における照応・質問応答などがランクインしています。他に3Dでの物体の検出・シーンの理解や、AIと機械学習の管理・倫理などの件数が伸びている状況です。 AI を中心に幅広いトピックにおいて調査・研究開発が行われていることが特徴と言えます。
さらに量子コンピュータや、がん研究・遺伝子発現解析といった他の企業にはない特徴的なトピックも抽出されています。 Google はAIを中心に、基礎研究から応用技術まで広範な領域をカバーしていることが伺えます。
次に Apple は音声認識・分離技術が1位で、自然言語処理や3D物体検出・シーンの理解などが続きます。ユーザーインターフェースやハードウェアに関するトピックが多いため、やはりプロダクト志向の強さが反映されている印象です。論文数自体は少ないものの、よりプロダクトに近い研究が行われているということがわかりました。
Meta については、強化学習の基盤技術開発、自然言語処理、音声認識といったトピックが上位にランキングしています。また、マルチモーダル学習、動画解析・行動認識なども上位であることから、メタバースや AR/VRの 技術に関連する研究に注力しているのだと思われます。
Amazon は自然言語処理、強化学習が上位にランクインしています。特徴的な点として、 AI よりも検索・ランキングシステムや、レコメンデーションシステムなど、オンライン販売や動画配信サービスなどでユーザーに対してどのような提案ができるか、そこに注視したソフトウェアの基礎研究が多いことが挙げられます。それに加えて電力システム制御などインフラ関係の基礎研究の論文が多いのも特徴です。
最後に Microsoft は他の企業と同様に自然言語処理や強化学習が上位を占めていますが、特にマルチモーダルに注力している点と、 AI の倫理に関する基礎研究を行っている点が特徴といえるでしょう。 Microsoft は AI 研究において社会的な責任・関心を持っているという印象を受けました。また Microsoft の特徴的なトピックとして他に出てくるのが、クラウド系のサービスです。ヒューマンコンピュータインタラクションと職場テクノロジーというものがランクインしています。これはおそらく Teams を効果的にユーザー体験に繋げるような研究が行われていているためでしょう。このようなトピックも充実してきたのは面白い部分だと思います。
特許から見るGAFAM 各社の技術トピックランキング・トップ 15

こちらの画像は先ほどの論文と同様に、 2023 年以降に出願された特許を対象として各社の技術トピックのランキングトップ 15 を示しています。
全体の傾向として、論文と同じように AI 関連技術が多いことがわかります。それ以外の特徴としてネットワークのインフラ関係やユーザーインターフェースに関する技術トピックが多くランクインしていることも挙げられます。
また論文と比べて企業ごとに注力する分野の違いもはっきりと出ています。まず Google については、音声認識と音声アシスタント技術や、ワイヤレスネットワークとメッシュネットワークなどのワードが上位にランクインしており、それに加えて、やはり強化学習や動画圧縮技術、デジタルコンテンツ処理といった AI 技術にも注力していることがわかりました。他の企業にない特徴としては自動運転車両制御などのアプリケーション技術や、量子コンピュータといった次世代の計算技術の知財化も進んでいる状況です。
Apple は、ワイヤレスネットワークとメッシュネットワークが圧倒的に多いということがわかりました。次いで仮想化技術・ XR 技術とインターフェースがランクインしています。 Apple の特許出願についてはデバイスやユーザーインターフェースに関する技術に特化していることが伺えます。一方、 Apple といえば Apple Watch での健康管理が有名です。ではヘルスケア系はどうなのか見てみたところ、 13 位にランクインしています。ニュースとしては話題にはなっていないもののヘルスケア系の生体センシング技術にも注力していることがわかりました。
Meta はメタバースを意識した特許出願状況になっている印象です。例えば視線追跡技術、仮想 / 拡張現実環境とインターフェースが上位に入っています。 Meta は VR 関連スタートアップであった Oculus VR を買収し、Meta Quest(VRヘッドセット)をリリースしており、最近はスマートグラスも出そうとしています。同社は、このようなメタバースや拡張現実に関する技術開発を引き続き行っていくと予想できます。また Meta のランキングに健康モニタリング・管理が含まれていたのが気になり調べてみました。こちらは、健康のモニタリングというより生体センシング技術で、筋電位や脳波などをセンシングしてメタバース上のアバターに反映させるような技術だとわかりました。やはり Meta は仮想空間におけるアバター作成や、空間認識などに注力しているということでしょう。
Amazon は、他企業と同じように音声認識と音声アシスタント技術が多いという結果になっています。おそらく Alexa 関係の技術でしょう。他社との違いは自動運転車両制御が上位に入っていることが挙げられます。車両以外も含まれていると思いますが、物流関係の制御技術を特許化しているということが推察されます。
最後に Microsoft は自然言語処理、機械学習などが上位に入っています。そして意外でしたが、仮想 / 拡張現実環境とインターフェースや音声認識など、人間とのインターフェース技術にも最近注力していることが伺え、今後どのような形で世に出てくるかというところは非常に興味深いところです。
GAFAMの論文・特許のマクロ分析まとめ
GAFAM の論文・特許のマクロ分析において、メタバース、生成AIブームといった昨今のテック界限の動きと合致している技術トピック分析が行えました。
数万件単位の技術情報を体系的に分析し、トピックを抽出するアプローチ自体は以前から有効性が認識されていました。しかし、これまでは実行手段が限られていたため、多くの工程が人力に頼る状況でした。
近年のAI技術の進展と、それに伴う多様なAIツールの登場により、大規模な技術情報を短時間で分析することが可能となりつつあります。本セミナーで紹介した手法は、これらの技術を最大限活用し、効率的かつ網羅的な技術調査を実現するものです。
今後このようなAI活用型の分析手法を研究・技術開発の現場で効果的に導入することで、より迅速なイノベーションの創出や、研究活動の質の向上に寄与できるものと考えます。
次のページ:GAFAM 各社の技術事例を一部紹介します。