- 配信日:2024.11.22
- 更新日:2024.11.22
オープンイノベーション Open with Linkers
エフェクチュエーションとコーゼーション~イノベーションを起こす2つの思考プロセス〜
エフェクチュエーションとは。コーゼーションとは
エフェクチュエーションとコーゼーションは、起業やビジネス戦略の思考法として広く知られています。どちらも意思決定や行動を促すプロセスでありながら、アプローチや考え方に大きな違いがあります。
エフェクチュエーションとは
エフェクチュエーション( Effectuation )とは、不確実で予測が難しい状況下での意思決定方法を指します。この思考法は、起業家の行動や意思決定の研究から生まれたもので、従来の計画的なアプローチに対し「手持ちのリソースを使って可能性を拡げる」ことに重点を置いています。未知の市場や製品に向けて、行動しながら学び、成長していくのがエフェクチュエーションの特徴です。
コーゼーションとは
コーゼーション( Causation )は、エフェクチュエーションとは対照的に、ゴールから逆算して行動計画を立てるプロセスです。こちらは、比較的予測可能な状況下で効果を発揮する方法で、具体的な目標を設定し、それを達成するために必要なリソースや手順を順序立てて計画します。コーゼーションは、目標達成のために必要な手順がすでに明確である場合に適しています。
エフェクチュエーションとコーゼーションのどちらも、場面に応じて適切に使い分けることで、ビジネスの成功につながる重要なアプローチとされています。
リンカーズでは、「科学技術情報発信・流通総合システム」( J-STAGE )に掲載されている研究論文『大企業の新規事業開発におけるエフェクチュエーションの活用― 持続的なBMIプロセスを可能とするイントラプレナーの意思決定と行動 ―』の著者の一人である、竹林 一(たけばやし はじめ) 氏を講演者としてお招きし、『イノベーションが生まれ続ける2つの思考プロセス』というセミナーを開催いたしました。
以下はセミナーでのお話を紹介する記事です。
竹林氏より、イノベーションを起こすための思考プロセスや実際の事例、エフェクチュエーションとコーゼーションについてお話しいただきました。
◆目次
・エフェクチュエーションとは。コーゼーションとは
・イノベーション思考法「ピボットマネジメント」
・ピボットマネジメントの事例1:駅を街の入口に
・ピボットマネジメントの事例2:知のエンジンを創造する
・イノベーション人材/組織を創る
・イノベーションを生み出すには「思考プロセス」を変える
・発想のリフレーミング
・意思決定のリフレーミング
・エフェクチュエーションとコーゼーション
・エフェクチュエーションの5つの原則
・ステージゲートでエフェクチュエーションとコーゼーションを使い分ける
・まとめ:イノベーションを起こすには
イノベーションの思考法「ピボットマネジメント」
今までの仕組みやビジネスモデルは賞味期限が切れ始めてきています。これはビジネスに限った話ではなく、社会の仕組みや年金の仕組み、社会の構造自体も賞味期限があって切れていきます。今までのビジネスや仕組みの延長線上で事業を続けていても、いつか限界がくるでしょう。
そうではなく、新しい軸、新しい思考パターンを作らなければなりません。これをピボットマネジメントと言い、私(竹林氏)が長年やってきたことでもあります。
ピボットマネジメントの事例1:駅を街の入口に
私はオムロンに入社して自動改札機を中心に駅のオンライン化やサービス化を担当しました。事業として好調だったのですが、当時の社長が私に「自動改札機ビジネスは賞味期限が切れはじめている。何か新しいことを考えてくれ」と言われました。なぜかというと、やがては自動改札機自体がなくなるということを予想していたためです。世の中が次々に変化しているので、既存の事業は一番売れているときでも、すでに将来に向けて賞味期限は切れ始めていきます。そのことに当時の社長は気付いていたのです。
そこでさまざまなサービスを考えて、提案したのですが、社長からはダメ出しをされ、従来の延長線上ではない「新しいピボット【軸】を作ってくれ」と言われました。
それから6カ月ほど悩んだある日の朝、新宿駅を歩いていたときにふとあるテーマを思いついたんです。朝の新宿駅には 500 〜 600 万人の人が集まってきて、街へ出て行きます。つまり駅とは、街の入口ではないかと。そこで「もし駅が街の入口だとしたら、どんな面白いことができるか」を当時のチームメンバーに考えてもらいました。
そこで出てきたアイデアは非常に画期的なものだったんです。今まで自動改札機は駅の業務を効率化する手段でした。そうではなく街の活性化や安心・安全な街作りの手段とするという新しいピボット【軸】となるアイデアがでてきました。このピボット【軸】を変えることがイノベーションだと私は考えています。
ピボットマネジメントの事例2:知のエンジンを創造する
私はリーマンショックが起きた時代にソフトウェア受託開発会社の社長をやっていました。非常に苦しい時代ではあったのですが、リーマンショックの中、他の企業と比べても私の会社が真っ先に依頼を打ち切られてしまっていたんです。お客様のもとを回って理由を聞いてみたところ共通していて、「1人の月の単価が高いから」というものでした。やみくもに社員の賃金を下げるということはできませんし、そもそも安く仕事を請け負うために会社をやっていたわけではないという想いがありました。要は、今の価格でも選んでいただけるにはどうすればいいのかを考える必要に迫られました。
そこで「ソフトウェア受託開発会社からピボット【軸】を変えるためのプロジェクト」を立ち上げることにしました。当時の中堅社員を集めて「ウチの会社は何のために存在していて、これから何を軸に生きていくのか」を改めて考えてもらったんです。加えて「お客様にとってなくてはならない会社となるには」「相見積を取られるテーマはやらない為に何をすべきか」というお題も出して、考えてもらいました。
6カ月後、社員たちは「うちはソフトウェアの受託開発会社ではなく、知のエンジンを創造する会社になります」と提案してきました。「知のエンジン」とは「お客様が勝ち続けるためのアーキテクチャ」、ソフトでいうとプログラムの構造です。これを提案する会社になりますという結論を出しました。
私はこの意見を聞いて、お客様はどんな人なのか、どんな関係性になれば「お客様にとってなくてはならない会社」になれるのかを改めてみんなに整理してもらったんです。それが画像の顧客関係 1.0 、 2.0 、 3.0 。
顧客関係 1.0 は受委託の関係です。コストシェアとも言い換えられます。コストシェアとは顧客と開発原価をシェアすることですが、必ず受託側のシェアが多くなり、受託側は儲かりにくい傾向があります。
顧客関係 2.0 は提案型の関係です。提案型とは、お客様から依頼が入る前に、お客様の課題を半歩先で入手・分析し解決策を提案することを意味します。ここからは、バリューシェアになります。すなわち顧客とともに「顧客への提供価値」を高めて成果(価値)をシェアすることになる。そうなると相見積もりを取られることは少なくなります。
顧客関係 3.0 は、お客様と共創する関係です。世の中の変化を呼んでお客様とともに新しい価値を作っていく共創型のビジネス。このような関係性になればお客様はパートナーであり、完全に受委託の関係からは脱します。
「知のエンジンを創造する」ことを実現するビジネスモデルも中堅社員たちが提案してくれました。まずターゲット顧客を選んで顧客の課題を深掘りしていく。そこで顧客に言われたとおりのプログラムを作るのではなく、お客様が勝つためのアーキテクチャ、つまり知のエンジンを考えて提案します。提案した知のエンジンは私たちの中にもノウハウとしてどんどん蓄積していきます。そこでたまったノウハウを N 倍化して、他の顧客に売ります。またその顧客の課題を深掘りして提案していく。このように顧客との関係性を、 1.0 〜 3.0 で強化していくビジネスモデルを考えてくれました。
イノベーション人材/組織を創る
私はここ 10 年ほど「起承転結人材モデル」に沿った人材連携こそイノベーションを起こせると提唱し、このモデルに沿って人材育成を行っています。「起承転結」、それぞれどのようなタイプの人材が当てはまるのか説明していきます。
「起」の人材はみんなが思いつかないようなアイデアをゼロから思いつける人です。彼らは世の中の動きをしっかり掴んでいることが多いです。次は「承」の人材。「起」の人材の言動を咀嚼(そしゃく)して自社の世界観やグランドデザインに落とし込んでいきます。これがイノベーションにおいて大切なのです。それが新しいピボット【軸】を生み出すきっかけになり得るでしょう。
そして「承」の人が作ったグランドデザインを基に「転」の人が論理的なビジネスモデルを作っていく。例えば駅を街の入口にする「 One to One 」マーケティングの事業計画とかリスク管理は「転」の人が行い、「このパターンは駄目だ」ということが分かれば、今度は安心・安全の見守りサービスを作っていく。これを精緻(せいち)化して事業計画を書き、リスク回避しながら KPI を設定。そうして生まれた仕組みを「結」の人がオペレーションする。こうして新しいピボット【軸】が生まれ、イノベーションが起こります。
「起」「承」はイノベーションを仕掛けるタイプで、「転」「結」はきっちりオペレーションをやってくれる人材であり、どちらも重要です。「起」の人の考えはほとんど妄想設計に過ぎず、「承」の人が入ってようやく構想設計になります。構想設計まで落とし込まないと、ほとんどの人が具体的にイメージすることができません。そして構想設計を基に「転」の人が機能設計を行うことで事業が細かく把握できるようになってきます。最後に「結」の人が詳細設計を行っていきます。
「起」の人はアート思考、「承」の人はリフレーム思考、「承」と「転」の間くらいの人がデザイン思考、「転」の人は論理思考です。「結」の人は改善思考という傾向が見られます。
いわゆるイノベーションタイプは先見性と想像力があり、トライ & ラーンをする人です。トライ & ラーンの結果が見えてくると、 QCD( Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期) をきっちり作り込んでくれる人が商品やサービスを完成させてくれます。イノベーションタイプの人と QCDを作り込む 人、どちらも大切です。
日本の企業を見ると「起」「承」は創業者が行ってきました。その創業者に「転」「結」を担う番頭さんがついていたんです。「起」「承」の人が作ったアイデアを「転」「結」の人が具体化し、さらにブラッシュアップしていく。こうやって日本企業は勝ち残ってきました。
ところが「起」「承」の人がいなくなりビジネスモデルが変わると、「転」「結」の人だけでは、新しいことが起こせなくなります。「イノベーション」や「トランスフォーメーション」を起こせる「起」「承」の人が今の既存企業にどれくらいいるかというと、非常に少なくなっています。
「起」「承」は、戦後直後くらいはたくさんいたのですが、 1990 年代頃からは「起」「承」の人が作ったアイデアをブラッシュアップしていく「転」「結」の人の数が増加していったのです。そのため、現在多くの企業が。新しいビジネスを作る人がいない状態に陥っています。
「起」「承」の人と「転」「結」の人、それぞれを適切にマネジメントする形を企業の中で持っていかなければ生き残ることは難しいでしょう。日本は「転」「結」の人材を多く育ててきました。しかしもう一度、ピボット【軸】を変えられる「起」「承」の人材を育成していく必要があると思います。そして役員は「起」「承」の人、「転」「結」の人どちらかに偏るのではなく、どちらもバランス良くコントロールしないと新しいイノベーションは起きないでしょう。
ここまでの「起承転結人材」の説明を踏まえ、私がオムロンにいた頃どんな仕組みを作ってきたかというと、私自身が「承」の部分を務め、既存事業部から「転」人材を「承」人材として育成する為に私の部門に出向、「起」の部門や人から上がってきたアイデアからグランドデザインを描き、その中から具体的な事業化を推進していきます。その中で既存事業へ移管するもの、独自で立ち上げていくものをジャッジメントしていきます。