- 配信日:2024.09.20
- 更新日:2024.09.20
オープンイノベーション Open with Linkers
新規事業創出のプロセス・課題・事例~カシオ計算機に学ぶ~
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『強い新規事業~独自技術とオープンイノベーション~』のお話を編集したものです。
カシオ計算機株式会社(以下、カシオ)の開発本部 事業イノベーションセンター フェローの水品 隆広(みずしな たかひろ)様より、新規事業の創出について、カシオの事例とあわせてお話しいただきました。
◆目次
・カシオの紹介
・事業の成長と衰退
・新規事業創出のプロセス
・製品の構成
・新規事業における課題と失敗するケース
・カシオの新規事業の事例
・既存事業の新領域事例:時計のマルチバンド6と GNSS ハイブリッド
・新規事業の事例1:プリントペンディングマシン
・新規事業の事例2:AI ペット『 Moflin 』
カシオの紹介
カシオは昔からイノベーティブな会社で、常に「創造 貢献」という経営理念を意識し、イノベーションを起こしたいと考えている人が集まっていると私(水品氏)自身は認識しています。
4人の兄弟が助け合って創業しました。特に樫尾 俊雄(かしお としお)さんという方が発明を多くされた方で、この人が開発したリレー計算機をきっかけに会社として大きく拡大し、イノベーションを起こし続けてきました。
現在の主要製品は時計、エドテック * 、サウンド関連、プロジェクター、医療機器などがあります。
*エドテック:Education(教育)と Technology(テクノロジー)を組み合わせた造語。
事業の成長と衰退
画像は事業の成長と衰退を表した図です。事業は立ち上がってから黎明(れいめい)期に顧客を掴み、掴んだ顧客の理解が進んだことで、顧客にならなかった人たちが求めている商品を提供できるようになり、成長期を迎え、あるところで安定期が来ます。いわゆる動的平衡(へいこう)状態という期間で、事業が陳腐化していく速度と進化していく速度が同じ状態です。
成長期のようにサービスや商品を作っていれば売れる状態はいつまでも続かず、世の中のニーズは変わっていき、安定期に入ると作っても売れないというケースがちらほら出てきます。そしてある時期になると強力な競合が現れたり、破壊的イノベーションが起きたりして衰退していく。多くの事業がこのような変遷をたどります。
しかし実はこの変遷の手前にも段階があって、黎明期に行く前に「知の探索」を行う時間があり、「このユーザーに対して本当にこの商品が届くのだろうか」と考えている期間があります。その後、実際に事業が立ち上がって成長期を迎えると同時に、今あるサービスや商品をどう進化させていくか「知の深化」を行っています。このままだと安定期を迎えて衰退期に入ってしまうので、安定期に入ったタイミングで別の事業ができないか、「知の探索」の旅に出ることが大切です。
新しい領域を開拓していかないと、事業だけでなく会社も衰退の一途をたどることになります。「知の探索」は衰退期に入ってからあせって行ってもうまくいかないことが多いので、事業が順調で安定していて資金が豊富なタイミングでやるのが基本です。誰が見ても当たり前のことだと思うのですが、できない企業は少なくありません。
まとめると、企業の成長のためには、既存事業の時代に合わせた変化と、新規事業創出が必要ということです。
例えばカシオのデジタルカメラの場合、液晶テレビ事業とカメラの研究開発成果が融合し、デジタルカメラ事業が生まれました。デジタルカメラは売れて、「知の深化」を経てより高機能になっていったのですが、あるタイミングで全然売れなくなってしまいました。その後も研究開発を続けてカードカメラというものが生まれます。これは顧客の「ポケットに入っていつでも撮影できるサイズのカメラが欲しい」というニーズにマッチし、大きく売れました。
当時も携帯電話にカメラが搭載されて、いつでも撮影できるというニーズは満たしていたのですが、画質があまり良くなく、綺麗な写真を撮るならデジタルカメラが必要ということで、差別化ができていたのです。しかしスマートフォンが登場してからはデジタルカメラの市場は急速に狭まり、試行錯誤したのですが売れなくなってしまいました。
それでも「映像を加工する技術はまだ活用できる」という考えで研究開発をして、今はメディカルの分野に進んでいます。
新規事業創出のプロセス
より細かく見ると、事業は画像のようなプロセスで進めていきます。
左端に想定顧客を考えるフェーズがありますが、一般的に顧客群として考えるのではなく、一人の顧客を想定してその顧客にどんなニーズがあるのかを分析していきます。そこから商品企画としてコンセプトや売上予測、コストなどを考えていき、本当に顧客のニーズを満たせるのか何度もピボットしながら検証していきます。その結果「これなら売れるだろう」という案ができれば、量産設計・品質保証を経て生産していくことになるのです。
これらのプロセスは事業が好調だと関係者の向く方向が一致しやすく、比較的スムーズに進みます。
新規事業となると、不確実性が高く、いくら調査してもエビデンスは得られないため、先へ進める判断が難しくなります。
製品の構成
製品の構成を見ると、多くの部品・技術でできているのが基本です。イメージとしては、自社内に導入した技術やオリジナルの技術がストックされていて、それを使いながら製品を作り、足りない技術については外部調達するという感じです。技術を外部調達するだけでなく、商品企画を外部の企業に任せることもできます。しかしその結果、どの会社が作っても同じような製品になってしまうことも少なくありません。つまり自社で作る意味はなくなってしまうのです。言い換えると製品にはオリジナリティが必要で、それこそが存在価値なのだと私は思います。
弊社が製品を作る場合、オープンイノベーションとして外部から技術・知識を提供してもらいながら行います。その際、顧客のほうから「こういう製品が欲しいです」と言ってくれることはまずありません。顧客を観察したり、一緒に生活したりすることで、顧客の暗黙知を自社の暗黙知にする必要があります。そのような暗黙知を外部から提供してもらうこともありますし、異業種の企業とアイデアを交換したり、大学・研究機関・ R&D 企業などとは共同研究・開発という形で新しい技術を作ったりします。
他には弊社の事業戦略や将来のビジョンをオープンにして、部品メーカーからアイデアや技術を提案してもらったり、 ODM に製品の製造をお任せしたりすることもあります。
このようなオープンイノベーションの中、どの部分でオリジナリティを作るのかというと、製品のアイデアの段階で作る場合もあれば、共同研究・開発の中で作ることも、部品メーカーに弊社のコアとなる部品を作ってもらうこともあります。