- 配信日:2024.03.05
- 更新日:2024.06.03
オープンイノベーション Open with Linkers
フードテック2023年振り返りと2024年の展望
この記事は、リンカーズ株式会社が主催した Web セミナー『フードテック 2023 年振り返りと 2024 年の展望』のお話を編集したものです。
フードテック分野に幅広い知見をお持ちの、農林水産省 農林水産研究所 客員研究員の大野 泰敬(おおの やすのり)様に、日本と世界各国がどのようにフードテックに取り組んでいるのか、大手 IT 企業の動きなども交えてお話しいただきました。
2023 年のフードテックの動向を振り返り、2024 年はどのような技術が注目されるのか知りたい方は、ぜひお読みください。
目次
・2023 年における日本のフードテックの傾向
・海外のフードテックの動向
・世界で活躍する IT 企業
・なぜ世界でフードテックが注目されているのか
・環境問題/気候変動への対応
・ダボス会議
・2024 年のフードテックの動向
・7つの注目技術
2023年における日本のフードテックの傾向
日本に限定した、 2023 年のフードテックの傾向について紹介します。
画像はフードテック関連キーワードの検索トレンドを表したものです。過去5年間で検索数は2倍ほどにしか増えていません。そのため、他の産業と比較するとニッチな分野といえ、元から興味関心があった人だけが注視していると思われます。さらに特徴的なのが、星印が付いているところです。1年で検索数がピークになるのが 11 〜 12 月。なぜかというと東京で『フードテックジャパン』という展示会があるためです。このことから日本のフードテックは『フードテックジャパン』を中心に動いているといえます。
海外のフードテックの動向
一方、世界ではフードテックの市場が急速に進化しています。各国、フードテックに関する分野に投資している状況なのですが、日本のフードテックに投資は集まっていないという現状があります。
フードテックに投資をしている企業の中で個人的に最も注目しているのがシンガポールです。シンガポールはこれまで、あまり食に取り組んでいなかった国でしたが、たった数年で世界屈指のフードテック先進国に生まれ変わっています。
これまでシンガポールは食料の約9割を輸入に依存していました。この状況を変えていこうという動きがあり、自給率を増やしていくためにフードテックを次世代産業と位置付けて、「都市型農業」「水産養殖」「培養技術」を育て周辺諸国に輸出をしていく方向に国が舵(かじ)を切りました。以降、フードテックに取り組むベンチャー企業への資金面での支援などに力を入れています。
世界で活躍するIT企業
食の産業は市場規模が大きく、ビジネスチャンスも多いので IT 系の大企業や、IT 事業で成功を収めた方たちが積極的に参画してきています。 Microsoft 社の創業者であるビル・ゲイツ氏もその一人です。
ビル・ゲイツ氏は現在、アメリカ最大の農地保有者となっています。コロナ禍で倒産しかけている農業事業者を次々に買収し、食料安全保障の観点からもそうですし、持続可能な農業の分野でどのように IT が貢献できるのかを積極的に取り組み、調査しています。さらに畜産農家や養殖業を支援したりしています。
他にアリババとテンセントも積極的に投資をしている IT 企業です。
さらに Google もフードテックに投資しており、 Tidal X (タイダル・エックス)という事業を進めています。
日本企業では、ソフトバンク社の創業者である孫正義さんが食の領域に高い興味を持っており、グループ全体で積極的に投資をしています。その取り組みの一つが『 REEF Technology 』という会社で、駐車場の空きスペースを使ってクラウドキッチンを作り、料理を提供するという事業を行っています。ここにソフトバンク社が出資しています。
日本国内においてソフトバンク社は、 2023 年だけで見てもかなり動いていました。例えば、ソフトバンクグループに『たねまき』という会社があります。国内最大級のトマトの施設園芸プロジェクトを行っている企業です。茨城県常総市に拠点を置き、約 180 名の雇用を創出して、ロボット技術や専門のシステムなどを活用して効率的なトマトの生産を実現しています。同規模の施設を複数箇所に設置するべく、積極的に投資しています。
そして養殖技術についても大きな動きがありました。ソフトバンクグループ内にある AI の専門チームが食の生産・流通・輸出を AI を使ってサポートする技術を開発しています。
さらに小売の領域にも少しずつ参入してきています。元々コンビニだった居抜き物件を使って Yahoo! マートという、物流およびリアルな販売も行う拠点ができ始めています。このような拠点が増え、今後 MFC ( Micro Filfulment Center )のような働きをするようになるのではないかと思われます。そうなると、日本全国で注文してから十数分でモノが届くということが現実味を帯びてくるでしょう。
ソフトバンクグループ全体で出資している金額は約 5.4 兆円です。 Google 、アリババ、テンセント、ソフトバンクのような大手 IT 企業が 2023 年も積極的に投資を図っています。このような企業とどう連携するのかということも大切なポイントです。
なぜ世界でフードテックが注目されているのか
なぜ世界でこのような流れが生まれているのか。その理由として先ほどお伝えした食の市場の大きさやビジネスチャンスの多さが挙げられます。一方、国という単位で見ても各国で食に取り組む動きが出てきているのはなぜか。その理由をお話しします。
まずは日本の食料自給率について。カロリーベースで約 38 % というデータがあります。
卵の自給率を見ると 97 % と非常に高いのですが、国産飼料のみで生産した場合、 13 % まで一気に低下します。
牛肉の自給率は 47 % ですが、これも国産飼料のみで生産した場合、 13 % まで低下します。
豚肉は 49 % から6% まで低下します。現在メディアで発表されている日本の自給率は、実は海外などから飼料が入ってくることを前提としており、入ってこなかった場合大幅に低下するというのが実情です。
これは日本だけの問題ではありません。一部の国を除いては、食料自給率が低い国がたくさんあります。グローバル化により他国に依存する国が非常に増えており、このような背景から先ほどのシンガポールを筆頭に自給率を上げていこうと各国が取り組んでいる状況です。
食品産業は古くから培った仕組みで構成されています。そこに新規参入するのは難しかったのですが、昨今はこの状況が IT や AI の力で大きく変わり始めており、古くからあるサプライチェーンを刷新できる可能性が高まりつつあるため、大手 IT 企業は投資を進めているのです。