- 配信日:2024.03.01
- 更新日:2024.06.03
オープンイノベーション Open with Linkers
オープンイノベーションの定義と類型を企業の事例とあわせて紹介
アウトバウンド型オープンイノベーション
アウトバウンド型オープン・イノベーションは、エンケルという人の定義では「アイディアを市場に出したり、 IP (知財)を売却したり、外部環境へアイディアを普及させることで技術を増やし、利益を獲得すること」とされています。
すなわち、企業外部へ技術や知識を流出させることが主題です。
具体例を挙げると、
- ・知財の販売
- ・ライセンシング
- ・スピンオフ
- ・ジョイントベンチャー
などがあります。
森下仁丹の事例
森下仁丹(もりしたじんたん)は非常に歴史のある会社で、元々は生薬を銀で包んだ仁丹の出荷額のピークは 1982 年での 37 億円とされています。しかし、他社の口中清涼剤が登場したことで 2002 年には出荷額が 3億円にまで落ち込んでしまいました。
森下仁丹は生薬を銀箔でコーティングする技術を持っており、「何かを包む」という技術は高いレベルで保有していました。そこから、継ぎ目のないシームレスカプセルを作ることに成功。 1980 年には実用化されていたのですが、自社のブランドイメージを守るために食品や医薬品にのみ応用されてきました。
シームレスカプセルは、従来のカプセルとは異なり、粉末や親油性の薬品だけでなく、親水性の薬品を入れることもできます。さらにサイズ、被覆率が小さい点も特徴です。
森下仁丹はシームレスカプセル技術を社内活用するだけでなく、特許を基礎にして社外にオープン化しました。シームレスカプセル技術が社外で活用された事例の一つとして、雪印メグミルクのビフィズス菌が入ったカプセルを含むヨーグルトがあります。ビフィズス菌は微細な粒に封入されてヨーグルトの中に入っていますが、小さいため食べても違和感がありません。さらに、この粒は人間の腸に達したタイミングで溶け出します。この時間のコントロールができる点も大きなポイントです。
技術をオープン化したことで、ライセンス料などにより森下仁丹は業績を回復することができました。
双方向型オープンイノベーション
双方向型オープン・イノベーションを、私は「相補型」と「創発型」に分けています。それぞれ説明していきます。
相補型オープンイノベーション
相補型は足りない知識を補うタイプのオープン・イノベーションです。2つ以上の技術を組み合わせることで、足りない部分を補い、1つの商品・サービスを生み出すオープン・イノベーションを意味します。
バクテリアによるレアメタル回収の事例
相補型オープン・イノベーションの事例として、先ほどの森下仁丹の事例の続きを説明します。
森下仁丹はシームレスカプセル技術を保有しています。この技術を使えば、どんなものでもカプセルに入れることができます。森下仁丹はこの技術を食品や医薬品以外に活用できないか、情報収集をしました。そこで、目をつけたのが大阪府立大学の教授が行なっていたレアメタル資源の循環研究。特にバクテリアを使ったレアメタルの回収を研究していることに着目します。森下仁丹はシームレスカプセルにバクテリアを入れることができれば、研究も進むし、新しい価値を実現できるのではないかと考えました。
森下仁丹のシームレスカプセルにバクテリアを封入し、レアメタルが溶けた溶液にカプセルを入れます。溶液がカプセルの中に入り込みますが、バクテリアは外に出ることができません。すると、バクテリアはレアメタルを取り込むようになり、レアメタルが回収できます。溶液から直接レアメタルを回収するのは難しいのですが、カプセルなら回収は容易です。取り出したカプセルを火にかけるとカプセルとバクテリアは燃えてしまいますが、レアメタルは燃えないので、レアメタルだけを回収できます。
森下仁丹の技術と、大阪府立大学の研究を組み合わせ、お互いに補完し新しい価値を創出したオープン・イノベーションの事例です。
創発型オープンイノベーション
創発型は、知識を出し合って、新しい知識を創出するタイプのオープン・イノベーションです。創発型は知識を出し合っても何ができるかは分からない、玉手箱的な面白さがあります。一方で、事前に綿密な計画を立てることは少なく、楽観的なオープン・イノベーションと捉えられることもあります。
創発型でよくあるケースとして、仮に優良大企業2社( A 社、 B 社)があったとします。お互いの社長同士が出会って意気投合し、お互い優良であることが分かり、各社の知識を持ち寄ればより良い商品やサービスができるのではないかと盛り上がり、協業しようという話になります。各社の社長が自社に戻り、他社と協業することになったから、何かしらやれとミドルクラスに指示し、ミドルクラスは技術交流会などを開催。交流会などを通して何かしらの成果は出たものの、 A 社、 B 社それぞれの社長は成果に納得せず「もっと大きなことをやれ」と言い、ミドルクラス以下が困り果ててしまう、というケース。私が知る限りでも非常によく発生しています。
もちろん創発型でも、良いものが生まれることはあるので否定するわけではありません。私が言いたいのは、創発型を成功させるのは難しいということです。なぜかというと、手段が目的化していて、戦力が欠如しているためだと、私は考えています。オープン・イノベーションをやることは目的ではなく手段です。オープン・イノベーションが流行っているからという理由だけで始めると、失敗する可能性が非常に高いのです。
ここでいう戦略とは、将来像とそれを達成するための道筋のことです。現在の自社の姿から、なりたい将来像(新しく提供したい価値)が目的となります。この将来像を公言しているだけでは、ただのスローガンに過ぎません。その将来像に至るまでどのようなシナリオが考えられるか検討してはじめて戦略になります。これが上手くできれば、創発型でも成功する可能性が高まると思います。
講演者紹介
真鍋 誠司 氏
横浜国立大学大学院 国際社会科学府・研究院 教授
【略歴】
博士(経営学)。専門は、技術経営論、イノベーション・マネジメント論。神戸大学経済経営研究所を経て、2004 年より横浜国立大学。2021 年4月より、横浜国立大学経営学部長。先端科学高等研究院・共創革新ダイナミクス研究ユニット長、台風科学技術研究センター・社会実装推進ラボ長、地域連携推進機構ネクストアーバンラボ・横浜産学官共創推進ユニット長(全て横浜国立大学)。横浜未来機構・設立発起人代表・フェロー。2021 年 11 月には、知的財産及び法律業務の DX 開発及びサービス等を手掛ける、株式会社 FineMetrics を設立した。共著書に『オープン化戦略―境界を越えるイノベーション―』( 2017 年、 有斐閣)がある。
オープンイノベーションを支援するリンカーズの各種サービス
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◆アウトバウンド型オープンイノベーションなど、技術の販路・ユーザー開拓には「 Linkers Marketing(リンカーズマーケティング)」
Linkers Marketing は、貴社の技術・製品・サービスを、弊社独自の企業ネットワークに向けて紹介し、関心を持っていただいた企業様との面談機会を提供するサービスです。面談にいたらなかった企業についても、フィードバックコメントが可視化されることにより、今後の営業・マーケティング活動の改善に繋げていただけます。
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Linkers Research は、貴社の業務目的に合わせたグローバル先端技術調査サービスです。各分野の専門家、構築したリサーチャネットワーク、独自技術データベースを活用することで先端技術を「広く」かつ「深く」調査することが可能です。研究・技術パートナー探し、新規事業検討や R&D のテーマ検討のための技術ベンチマーク調査、出資先や提携先検討のための有力企業発掘など様々な目的でご利用いただけます。
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