• 配信日:2024.01.23
  • 更新日:2024.06.10

オープンイノベーション Open with Linkers

オープンイノベーションの課題と乗り越えるために必要なスキル

オープンイノベーションの課題を乗り越えるには


オープンイノベーションの課題と乗り越えるために必要なスキル

谷村氏:
まず、前項のいわゆるテクニカルな課題というものには、結局のところ「目的や事業の絵姿が不在のプロジェクト」というケースが多いように思います。

当然のことですが、目的不在になってしまったプロジェクトは上手くいきません。しかし、世のオープンイノベーションの企画を見ていると、何がしたいのかよくわからない企画も沢山あるのが実態かと思います。目的をひねり出して交流するとしても、最初から交流を目的としてしまっていれば事業が生まれないのも当然のことでしょう。仮に技術交流が活発となっても、それでは R & D レベルの話で閉じてしまい、事業創出まで進むのは難しいように思います。
技術開発と事業開発の間には想像以上に距離があり、「最終的にこういう事業をやる」というポイントから逆算して行動していかないと、周囲からは「 R & D の人たちが何かやっているな」と思われるだけで終わってしまう可能性があるからです。

このような場合、オープンイノベーション云々以前に、何がしたいのかきちんと立ち返って社内で合意形成することが不可欠です。そこに裏ワザやショートカットはありませんし、目的が他人から与えられることはありません。
もし難儀するのであれば、アイデアを企画というカタチに変えるための支援を受けることはすすめます。しかし実行者は自分たちであるという意識を保持し続けることが肝要です。

次に、利益相反によって頓挫するケース。ある意味、社内で賞賛されるような話ほど、実は自社の貢献が少ないというジレンマが出てくることがあります。社内で称賛されるとは、つまり社内ではできないこと、つまり相手方にかなり「おんぶにだっこ」であるという事です。
事業計画書の内容は素晴らしいものの、自分たちの貢献度が低く、相手側に寄りかかるような形になってしまっている状態。それにもかかわらず自分たちの利益を要求しすぎると、相手と喧嘩別れになるリスクが高まります。

これの解決には、きちんと貢献と利益を明文化し、交渉するという当たり前のステップを踏むことが必要になります。しかし多くの場合、このステップがないがしろにされているように感じます。
特に、貢献が少ないのは誰か明らかになってからこのステップを踏もうとすると、貢献が少ない側はナアナアにした方が得になりそうと思ってしまうので、「貢献度を試算するのは難しいから…」「信頼関係でやっているから…」と、非協力的になってしまうことがあります。

このように、課題を乗り越えるために「目的をきちんと持つ」「貢献と利益をフェアに配分する」ことを実現するには、2つの対策が必要となります。

体制づくりとスキルづくり

谷村氏:
「目的をもって、貢献と利益をフェアに配分しながらプロジェクトを進める」というのは、実際チームとしてかなり高度なことです。高度なことを成し遂げるには、体制として不自然だったり、1人1人のスキルが不足していたりすれば、たちまちうまくいかなくなってしまいます。

「体制作り」に関して私から言えることとしては、まずきちんと責任者を置こうということです。私の経験では、名目上の責任者はいてもプロジェクトを事業化まで持っていくことにコミットメントしている人が不在というケースが多いように感じます。また、コミットメントしている人に適切な評価を与えていなかったり、実態のリーダーと名目のリーダーが異なるねじれ体制を敷いていたり、不在ではないが責任者が責任者として機能しない体制も散見されます。事業作りにコミットする責任者を誰がやるのか、きちんと明確にするべきです。
また、オープンイノベーションを本業の体制の下部構造としないことも大切になります。例えばオープンイノベーションを自社の R & D という本業に対する何らかの取り組みの1つと考えてしまうと、(本業が順調であればその陰にかくれてしまうため)「事業化さえできればいい(事業化そのものが目的となって、価値や利益の創出が二の次になる)」という考えに至りがちです。そのため、本業目的ではない、事業創出を行う責任者が求められます。
加えて、接点を多面的に持てる体制かも重要になります。限られた人としか話ができなければアイデアも限られてしまうので、市場に精通している人材に市場開拓者としての役割を負ってもらうことも必要になるでしょう。

次に「スキル作り」について、オープンイノベーションを成し遂げていくためには、個別のスキルでいうと市場を調査する力や、技術を比較して優勢を判断する力などさまざまなスキルが求められます。
個々のスキルのクオリティも、もちろん重要な要素ではありますが、私がオープンイノベーションを成し遂げるのに最も重要と考えているスキルは、「これら1つ1つのスキル(およびそこから得られた情報)を統合し、事業計画としてストーリーに落とし込む力」だと思います。
結局のところ、市場調査結果だけ、自社分析だけ、技術分析だけでは、どこまでいっても断片的な参考情報に過ぎず、So What?(だから何なの?)感が否めません。それら情報を統合し、最終的に、今回のプロジェクトとしてはこういうビジネスを行うという計画や意思決定に落とし込む力こそが、目的を持ってフェアな利益を得ながらプロジェクトを進めるのに欠かせません。
しかしながら個々の情報収集スキルに比べ、この統合スキルを持つ人材は多くないというのが印象です。この統合スキルを持つ人材がメンバーに欠けてしまうと、豊富な情報はあるのだけれど、結果として何をやるのかが見えず連携が空中分解してしまうことがよくあります。

体制作りとスキルある人材の確保は、ありがちなうまくいかない要因を避けるのにとても重要になりますし、「そうはいっても人がいないから…」などと目をつぶってはいけないことでもあります。急がば回れという言葉もありますが、そういう場合は人材育成から始めることも検討するといいのではと思います。

事業構想づくり

谷村氏:
最も貢献した人が最大の利益を得るべきだというフェアな姿勢が素晴らしいことは、多くの方が理解していることだと思います。しかし実際にオープンイノベーションを進めていくと、貢献云々とは無関係に互いになるべく多く利益を取ろうとするので問題が出てきます。そして、引き受けた貢献とリスクがどんなものか、イマイチ見える化できないことが問題を大きくします。

交渉のスタート地点を定義し、落としどころを探るためにも、見える化は必要です。そして見える化を進めていくために必要な力が、上記の統合スキルに加えて、特に重要となる個別スキルも2つあると考えています。

まずは基本的な事業構想力。貢献度などを計算するための大元となる事業計画が不明確だと、どれくらい貢献したのかが判然としません。

もう1つはシナジーや補完関係を見極める力。特にオープンイノベーションは企業規模の格差が大きいことが多いので、事業単品では収支計算できない場合があります。

大手企業側によくある話で、社内都合の数値を超えないといけないという理由で、貢献度を無視して新事業からの利益を奪取しようとすることがあります。その時、大手企業側の企業規模からして新事業はまだまだ小さいことが多いので、結果的に理不尽すぎる要求が出てくることがあります。
ビジネスを行ううえの基本的なマナーとしても逸脱した態度ですが、大手企業側は自らの態度の酷さに気づいていないケースもあります。結果、喧嘩別れの要因になるでしょう。

短絡的な利益だけでなく、オープンイノベーションによって培ったもの、特に重要なコアの部分を見たときに、自分たちの既存事業や将来に向けてどのようなシナジーがあるのかを具体化できるクリエイティビティが担当者にないと、結果的に失敗に終わってしまう可能性が高いと思います。

オープンイノベーション担当者が学びたい意識とスキル


谷村氏:
前項で話したような、統合的なスキルを身につけるにはどのような順序となるでしょうか。
まずオープンイノベーションをするにあたって、様々な個別スキルが必要になります。市場調査・技術調査、社外の人とのコミュニケーション、財務、交渉術、これらのスキルを統合して事業計画としてストーリーに落とし込む力など。

一般的には、担当者の多くが個別スキルを身に付けることからスタートし、個別スキルを身に着けた延長線上にやがてスキルが統合されていくと考えられているように思います。しかし私は、統合スキルは個別スキルとはまた別ものであり、必ずしも個別スキルの延長線上に習得されるものではないと考えています。

もちろん、個別スキル自体をまったく知らなくてもいいということではありませんが、誰か他人がまとめた情報を基に、これを統合させてストーリーを作ることもまた、もちろんできるわけです。

統合スキルを培おうという意識をもって経験を積まねば、漫然と個別スキルを研(みが)いても統合スキルは身につきません。統合的に物事を考えるスキルを培うため、3つの要素を意識してみてください。

まず、「対局を作る」意識です。将棋盤で例えるなら、「いま、盤面はどこからどこまででと考え、盤面の上にはどんな力を持ったプレイヤーがどこに位置しているのか、そして自分はどこにいるのか」ということを種々の情報から作り上げるわけです。断片的な情報から想像力を働かせ、勝負の盤面を組み上げていく力が「対局を作る」力です。

次に、「主観」の意識です。盤面における自分の居場所が掴めたときに、では自分が盤面のどこに行きたいのか、どんな役割を担いたいのか、そこに行くためにどんなストーリーが必要かを考えるのが「主観」という力です。

もう1つが「客観」。他のプレイヤーがどのような意図で動いているのか、直近の単純な動きだけでなくその動きからその人は市場全体でどのような狙いがあるのか想像してストーリーに落とし込む力も求められます。

世の中ではオープンイノベーションが進んでおり、今後も継続していくことが期待されていますが、そのためには人と組織のスキルアップも重要となっていくでしょう。

これまでリンカーズでは、イノベーション・オープンイノベーションを推進してこられた様々な企業の方にセミナーにご登壇いただき、各企業のお話をレポート記事として掲載してまいりました。
そのなかで、オープンイノベーションの実践事例記事を以下のリンク先でまとめておりますので、オープンイノベーションの具体的な実践事例を知りたい方は、ぜひご覧ください。

講演者紹介

オープンイノベーションの課題と乗り越えるために必要なスキル

谷村 勇平 氏
マグナリープ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 新技術応用推進基盤 代表理事
リンカーズ株式会社 オープンイノベーション研究所 客員研究員

東京工業大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科修了。
国内大手通信企業においてクラウドサービスの企画・開発・運用にたずさわった後、
米国系大手戦略コンサルティングファーム 2 社にて、トレンド技術の事業化や技術開発戦略の構築を支援した。
現在は表情解析の AI ツール等を提供するマグナリープ株式会社にて代表取締役をつとめつつ、「技術とビジネスをつなげ、新事業を創出する」ことをテーマとした一般社団法人 新技術応用推進基盤にて代表理事をつとめる。

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