- 配信日:2024.01.23
- 更新日:2024.06.10
オープンイノベーション Open with Linkers
オープンイノベーションの課題と乗り越えるために必要なスキル
本記事はリンカーズ株式会社主催のウェビナー『社内外連携の課題を考える~イノベーティブな連携はなぜうまくいかないのか~』のお話を編集したものです。
マグナリープ株式会社 代表取締役社長 兼 一般社団法人 新技術応用推進基盤 代表理事の谷村 勇平 (たにむら ゆうへい)様に、社内外連携、オープンイノベーションの意義や、失敗してしまう要因から担当者が持つべき意識・スキルについてお話しいただきました。
社内外連携を行う部署で、新しく担当になり何をすればいいのか、どのようなスキルを身に付ければいいのか知りたい方、または現在の取り組みに課題を感じている方は、ぜひお読みください。
目次
・社内外連携(オープンイノベーション)の必要性
・社内外連携とオープンイノベーションの違い
・オープンイノベーションが上手くいかない要因
・オープンイノベーションの課題を乗り越えるには
・オープンイノベーション担当者が学びたい意識とスキル
社内外連携(オープンイノベーション)の必要性
谷村氏:
まず、社内外連携(オープンイノベーション)はなぜ必要なのでしょうか。
私たち新技術応用推進基盤では社内外連携(オープンイノベーション)の定義を「企業としてのやりがいを再発見する」ことを目的とした、会社の枠を超えた各種の取り組みであるとしています。
なぜこのような定義としているかというと、社内外連携に取り組む意義や企業様のモチベーションを考えた場合、例えば新製品開発や新規事業開発を目的と表現しては不十分であると思っているからです。
一般的にいって、社内外連携(オープンイノベーション)での期待値は、どちらかというと非連続な成長が期待されています。既存のケイパビリティを上手く活用することに比べ、非連続な成長はハードルもリスクも高いものですが、なぜあえて非連続性が協調されているのでしょうか。
それは昨今の先進国企業の、より切羽詰まった環境がそうさせているのだと思っています。
具体的に言うと、以下4つのような背景が、非連続性をもった新事業の必要性を押し上げていると思います。
1つ目は自前でやりきるのが困難になってきていること。昨今、製品は複雑性を増しているため、単品の技術だけで製品として成り立つことは減ってきていると思います。一つの製品の中に複数の技術がミックスして製品を形づくっており、いくらコア技術をおさえるといっても、既存技術や製品の延長線上だけでビジネスを思い描くことは難しくなっています。
2つ目は努力に対するうまみの減少。製品の複雑性が増している一方で、製品が売れる期間(プロダクトライフサイクル)が短くなっており、次々に新製品を出していかなければならない状況です。さらに新興国メーカーとの価格競争は激しさを増すいっぽうです。仮に既存事業と連続的に事業を作ったとしても、その製品が売れる期間も短ければ、価格競争も起きてしまうことで、(既存のものも含めた)事業全体が陳腐化するリスクを抱え、努力をする割にうまみが減ってきている印象です。
3つ目はアイデア不足。数十年前であれば、新発明が生まれる国はそれなりに限られていましたが、現代では「世界を変える新発明」が世界中のさまざまなところで生まれるようになってきました。すぐ隣でゲームルールを壊す新発明を生み出しているのに、既存の産業・技術のルール上で開発を進めていてはアイデア不足と言われてしまいます。結果的に既存事業のうまみも減ってしまっていくでしょう。
4つ目はブラックボックスによる閉塞感。数十年前までは、技術は秘匿するのが一般的でした。すると、どうしても組織として内向きの思考になるため、社内の人間関係など、本来競争要因にならない部分で競争が発生してしまうことがあります。既存事業の延長にある新事業は、こうした過去のしがらみから自由になることはできません。
つまり、今までの事業の延長線上で新事業を生もうとしても、難しさが増しているわりにうまみは少なくなっており、閉塞感も感じるということです。そのうえ、いつゲームチェンジ的な発明にポジションを奪われるかもわからない。こうなると、企業全体として現在の事業の延長にやりがいや夢を描きにくいのではないでしょうか。
こうした本質的な問題から脱し、企業としてのやりがいや期待をもう一度獲得するために、非連続な成長が期待されています。そして非連続な成長を行うには、当然、社内のリソースだけで実行することは困難です。結果、社内外連携(オープンイノベーション)は、企業としてのやりがいを再発見するための、非連続な成長に必要なことなのだと考えています。
社内外連携とオープンイノベーションの違い
谷村氏:
企業としてのやりがいを再発見し、非連続な成長を創り出すことが社内外連携(オープンイノベーション)の目的の一つであるとお話しました。
しかし社内外連携といっても様々あります。単純な依頼・発注関係も社内外連携といえますし、他にもすり合わせ開発、共同製品開発、資本連携と、連携深度の浅いものから深いものまで様々です。そして単純な受発注関係まで、非連続な成長云々という目的と重ねて考えるのは違和感があるのではないでしょうか。ここで私たちが定義した目的や必要性は、社内外連携の中でもオープンイノベーションと呼べる領域におけるものと考えていただければと思います。
では、社内外連携や協業の概念とオープンイノベーションは何が違うのでしょうか。
オープンイノベーションの概念を言語化したのは、2003 年のチェスブロウ氏によるものと思いますが、彼が言っているのは、組織外にイノベーションを展開することがオープンイノベーションの到達点であるということでした。
組織内でアイデアを研究・開発・製品化していくと、組織の売上としては割に合わないなどの観点から着手しないものなどがでてきます。企画時に 1,000 あった研究テーマが製品化する頃には3つになるというのはよく言われている通りです。
しかし、自分の企業を主語とすれば「割に合わないアイデア」でも、社会や他社を主語とすれば割に合うものがあるかもしれません。そこで譲渡や関連企業化などの方法で、自分たちの組織の外側に新しい事業を生み出すのがオープンイノベーションの考え方だと思っています。
その意味で、組織の内側、つまり自社や既存事業とのシナジーありきで考える協業や連携の概念とは異なるものだと思います。
オープンイノベーションが上手くいかない要因
谷村氏:
近年、国内でもオープンイノベーションの取引件数や CVC の投資額などは右肩上がりに推移しているかと思います。しかし同時に、オープンイノベーションに取り組む企業からは「上手くいかない」という声も聞こえてくるのが実情です。
テクニカルな問題として実はとてもよくあるのが、「真剣ではない」こと。何となく上からの指示で取り組んでみたものの、言ってみただけに近いアイデアが多くてどうも推進しない。そしてキーマンが異動したり転職したりすると取り組み自体が消滅してしまい、真剣味が生まれないケースが往々にしてあります。
それから「交流や意見交換と勘違いしてしまうこと」も問題です。オープンイノベーションは、ここまでお話ししたように、企業にとってやりがいある事業を創造するという非常に重要かつ芯を食った取り組みであるはずなのに、現場が意見交換や技術交流に終始して仕事を生み出せないケースです。
テクニカルな問題は、そもそもの動機づけや目的意識といったプロジェクトマネジメントの範疇(はんちゅう)でおきる問題ですが、仮にこれを乗り越えても、より根本的な問題によって失敗してしまう場合もあると思います。つまり、利益相反の問題です。
事業検討が進んでいくに従って、当然、貢献した人に適切な利益が配分されるべきなのですが、貢献度と利益分配がアンバランスになって喧嘩別れが起きたり、技術的には完成しても事業責任にリスクがあるためお互いになすりつけ合い撤退したりといった状況が私の耳にもよく聞こえてきます。
このような問題について「うちは大丈夫」と言いきれる会社は少ないと思います。経営陣が高いモチベーションでオープンイノベーションを企画しても、現場では上記のような問題でダラダラしてしまうことはけっして特殊なことではないのです。オープンイノベーションはこのような問題を避けながら、本来の目的を達成できるよう考えなければなりません。