- 配信日:2024.01.01
- 更新日:2024.06.17
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【2024年】年初インタビュー「製造業を取り巻く変化について」|味の素冷凍食品株式会社
2023 年は AI の革新的進歩をはじめ、外的環境の変化が著しい 1 年でした。同年、リンカーズのセミナーにご登壇いただいたイノベーション推進者、経営者、実務家の皆さまが、この変化をどのように捉えているのか。イノベーション活動に変化をもたらしたもの(こと)、注目技術、そして 2024 年の企業の役割・課題などについて、2024 年の年始インタビューとしてお話を伺いました。
本記事では、味の素冷凍食品株式会社 研究・開発センター 技術開発部 技術開発部部長の今泉 圭介 氏にお話を伺いました。
※所属企業・肩書は 2023 年 12 月時点のものです。
◆目次
・2024 年、製造業が果たしてゆくべき役割や課題
・今、危機感を持っていることについて
・自社のイノベーション活動に変化をもたらすもの(こと)
・注目している技術
・2024 年、オープンイノベーションに関して
2024年、製造業が果たしてゆくべき役割や課題
ーー今、製造業が果たしてゆくべき役割、その役割を果たすにあたっての課題について、どのように考えていますか。
今泉氏:製造業が今後果たすべき役割と課題について、以下のように考えます。
1.持続可能性への取り組み
【役割】環境に配慮した製造プロセスの確立や再生可能エネルギーの導入など、持続可能な食品製造を実現すること。
【課題】環境に配慮した製造はコストがかかりやすく、持続可能な資源の確保が難しいこと。
2.食品安全と品質の確保
【役割】生活者に安全で高品質な食品を提供するため、品質管理の徹底と製造プロセスの透明性の向上。
【課題】全体の品質管理や透明性を確保するためには、効率的な検査・監視システムの構築が求められること。
3.テクノロジーの導入
【役割】自動化やデジタル技術の活用により、製造プロセスの更なる効率化と柔軟性の向上。
【課題】新しいテクノロジーへの投資や導入には初期コストがかかり、あわせて、従業員のスキル向上が必要となること。
4.多様なニーズへの対応
【役割】生活者の多様なニーズに対応した新製品の継続的な提供。(特に健康志向の高まりを感じる)
【課題】市場の変化に迅速に対応するためには、スピーディな製品開発プロセスと、生産ラインの柔軟性が必要であること。
5.サプライチェーンの強化
【役割】サプライチェーンのリスク(特に中国リスク、物流問題)に備えつつ、透明性の向上と安定的で迅速な供給の確保。
【課題】 サプライチェーン全体の状況が把握できるリアルタイムな情報共有システムの構築とそれによるリスク管理の更なる強化が必要となること。
ーー上記の役割や課題について、重要性や緊急性などは変化しているでしょうか。
今泉氏:5つの項目でそれぞれ「役割、課題」を記載しておりますが、重要性、緊急性は変化してきています。
2023 年時点では「デジタル化とテクノロジーの活用」、「サステナビリティへの取り組み」の重要性が高く、「人財のスキル向上と多様化」、「サプライチェーンの脆弱性への対応」の緊急性が高くなってきていると感じます。
今、危機感を持っていることについて
ーー今後、製造業を取り巻く環境の変化に対して、もっとも危機感を持っていることを教えてください。
今泉氏:「自社でイノベーションを起こせないこと」です。加工食品メーカーは原材料を仕入れ、加工により付加価値を高め、販売することで利益を創出します。よって、加工技術に特化しており、外部の知見やアイデアへのアクセスが限定的です(原材料・加工設備の知見に偏りがち)。また、長寿命の製品を扱っており、既存の製品の改良に重点を置く戦略を取ることが多く、そこにリソースが割かれ、新しい技術や製品の開発に注力することを難しくしています。国内の人口減、世界人口の増加、生活者の嗜好の多様化、販売チャネルの多様化が急速に進む中、事業を成長させる為には、兆しを捉え、生活者や加工食品使用者の行動を変容させるようなイノベーションを起こしていく必要性を強く感じます。
自社のイノベーション活動に変化をもたらすもの(こと)
ーー2023 年、貴社のイノベーション活動に変化をもたらすと考えられる外的環境変化や、技術革新はありましたか。
今泉氏:生成 AI( Generative AI )の加速度的な進化という技術革新がありました。この技術革新を R&D の実際の業務プロセスに落とし込み、よりよく活用できる企業がイノベーション活動をより進化させると思います。
ーー2024 年以降、どのようなことがイノベーション活動の大きな変化につながると注視していますか。
今泉氏:
1.デジタルテクノロジーの進化
2.オープンイノベーションと産業エコシステムの広がり
3.人工肉や代替プロテインの普及
4.デジタルマーケティングと D2C の広がり
5.サステナビリティと健康志向の高まり
6.国ごとに異なる食品関連規制に対応した食品安全性と透明性の担保
注目している技術
ーー注目している技術、技術カテゴリについて教えてください。
今泉氏:企業としてはサステナビリティと健康志向に関する技術カテゴリに注目しています。理由は生活者のサステナビリティへの関心と健康志向が高まっており、加工食品メーカーは、おいしさに加え、環境への配慮や健康栄養価値の向上に焦点をあてた製品を提供することで市場競争力を高めることができるからです。
個人としてはデジタルテクノロジー( IoT、ビッグデータ分析、AI )に関する技術カテゴリに注目しています。理由はデジタルテクノロジーが生産プロセス、研究開発、製品設計・デザイン、サプライチェーン管理、マーケティングなど、企業活動のあらゆる側面に影響を与えているからです。
2024年、オープンイノベーションに関して
ーーリンカーズのようなオープンイノベーション支援のビジネスマッチング仲介会社に期待する役割などに変化はありますか。
今泉氏:前述の通り、加工食品メーカーは加工技術開発に特化しており、外部の知見やアイデアへのアクセスが限定的です(原材料・加工設備の知見に偏りがち)。メーカー自身がリーチできていない外部で進行するテクノロジーの進化とイノベーションを踏まえ、加工食品メーカーが潜在的に持つ構造課題解決に資する情報を見極めて、課題解決に向けて共に歩めるパートナーを提案していただけると嬉しいです。
回答者
今泉 圭介 氏
味の素冷凍食品株式会社 研究・開発センター 技術開発部 技術開発部部長
【略歴】
2002年 味の素冷凍食品株式会社入社。業務用事業部に配属され、PB品・OEM品の企画・開発に従事。
2003年 研究・開発センターへ異動。冷凍餃子の開発や微生物制御技術の技術開発、官能評価手法の開発を担当。
また知的財産の統括業務を通じて、共同研究・アライアンス活動にも従事。
2017年 生産本部 関東工場へ異動。製品の工業化(スケールアップ)、餃子新ラインの敷設を担当。
2020年 研究・開発センター 研究開発推進部 企画推進グループで味の素グループ会社間のR&D連携、味の素冷凍食品の研究開発戦略の策定・推進役として、研究・開発センターの運営、オープンイノベーションを担当。
2023年 研究・開発センター技術開発部で冷凍食品全般の技術開発を担当
リンカーズの実施する Web セミナーにご登壇いただいた皆さまに年始の特集インタビューとしてお話を頂戴しております。他の皆さまへのインタビューはぜひこちらをご覧ください。
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