- 配信日:2023.11.29
- 更新日:2024.06.17
オープンイノベーション Open with Linkers
代替食品のトレンドと企業事例〜市場の将来性と解決すべき課題〜
代替食品のトレンド
代替食品のトレンドとして、どのようなものが注目されているのか紹介します。
植物ベースの肉
大豆などを使って作る肉はすでに広く知られています。動物の権利を守ることを重視する人たちが注目している一方、健康面でのデメリットなどが課題として存在しています。
オートミルク
オートミルクは麦を原料とした植物ベースのミルクで、伝統的な乳製品に比べてアレルギーリスクが低く、環境への負荷が低いことなどから注目されています。
セルベースの肉
セルベースの肉とは、動物の細胞を培養して製造する肉です。動物の命を奪うことなく、動物の肉と同じような食感を持つ食品が生産可能。環境への影響を大幅に削減しつつ、動物の権利を守りながら高品質な肉を消費者に提供できるということで、生産者にも受け入れられていくのではないかと期待されています。
植物ベースの魚
魚の肉を模倣した代替食品です。海洋資源の枯渇やオーバーフィッシングの問題を解決するための選択肢として作られています。こちらも大豆やえんどう豆などの植物性タンパク質を使用して、魚の味や食感を再現しています。技術の進化によって環境負荷の低減、海洋生態系の保護を目指し、展開しているところです。
植物ベースの卵
大豆やえんどう豆などの植物性タンパク質を使用して製造される卵です。伝統的な卵の生産に関わる動物の権利、環境の問題などを解決できるのではないかということで期待されています。
ここまでに紹介してきた代替食品には、大豆を使用するものがあります。ではその大豆を誰が作って、誰が購入するのか、現在、争奪(そうだつ)合戦が起きているのです。需要が高まると単価は上がります。そして生産や輸送には大量にエネルギーを使う必要があるため、原材料費が高騰(こうとう)するのは避けられない問題です。
フェルメンテーション(発酵)を利用したプロテイン
フェルメンテーションを利用したプロテインは、微生物の発酵を利用してタンパク質を生産するものです。この技術は従来のタンパク質生産方法に比べて、環境負荷を大幅に削減できます。高品質なタンパク質を提供できる、持続可能な食の一つとして注目されています。
低環境負荷の食材
低環境負荷の食材ということで、生産や輸送の過程での CO2 排出量が少ない食材を用いたものです。持続可能な食の一つとして研究が進められています。
代替甘味料
代替甘味料は、砂糖に代わる甘味料です。カロリーが低い、またはゼロカロリーで、糖尿病や肥満の予防ができ、健康的な食生活を目指す選択肢の一つとなります。
未来の食のトレンド洞察
未来の食のトレンドとして、特にテクノロジーの進化は、未来の食のトレンドを形成するうえで非常に重要になるでしょう。
今後、さまざまなフードテックが誕生すると思われます。ローカルフードやオーガニック食品の需要が増加するとも予想されていますし、新しいスーパーフードといわれているもの、そして 3D フードプリンタや AI によりパーソナライズされた食事提案などが次々に誕生するでしょう。
これらの要素を踏まえ、代替食品は市場として可能性があるかというと、個人的には疑問に感じる部分が多いです。 1,800 億米ドル以上の市場規模は夢のような予想ですが、そのために乗り越えるべき課題が非常に多いという印象を受けています。特にコストの戦いが課題として大きいです。そのため、単に市場規模の成長性だけを見て参入するのはリスクが高いと思われます。もし参入する場合は、自社の強みを使ってどのようなことができるのか、色々なデータを収集しながら投資、そして事業化を目指すべきだと思います。
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注目すべき日本の代替食品企業
世界では代替食に関する動きが顕著(けんちょ)に現れていますが、日本では動きはないのか、できていないのかというと、そういうわけではありません。
代替食品事業に取り組む企業で、私が最も注目しているのは日本製紙です。
注)日本製紙株式会社の事例は『フードサイエンスの最新技術と事例 20 選』の記事でも、注目のフードサイエンス企業の事例として紹介しています。
その理由は、日本製紙が作っているセレンピアというものにあります。セレンピアは木から抽出するセルロースナノファイバーです。髪の毛の1万分の1くらいの細さに加工することで、世界で初めて食品添加物として応用することに成功しています。一部の代替食品の原材料は海外でしか獲れず、その国に依存しなければならなくなります。その際に高いコストがかかったり、リスクが発生したりしがちです。しかし、セレンピアを原材料として活用できれば、日本の国土の7割を占める自然環境、すなわち木を活用しながら食品添加物が作れます。
セレンピアにはさまざまな効能があります。日本製紙は国内唯一の食品添加物としての CNF (セルロースナノファイバー)であるカルボキシメチル化 CNF を作っており、本来は車のボディやタイヤなどに使われているものなのですが、最近は食品添加物としても使われています。
また、牛のエサや魚のエサや肥料も作れますし、食品添加物として使用すれば味や風味を長続きさせ、賞味期限を伸ばすこともできます。日本が抱える食の問題を解決できる技術として期待されているのです。
過去にも同様の技術研究はされていたのですが、ビジネスにならず研究の継続ができない状況でした。しかし、日本製紙ではビジネス化し、大量生産できる体制を整えていく方向で進んでいます。大量生産するための工場が実現できれば、黒字化も見えてくるでしょう。
今、食の領域で何が起きているのか
現在、食の領域では原材料費が高騰しています。また輸出の停止による調達不足も各地で起きている状況です。このような背景があり、食の生産に大きな問題が発生しています。
食の生産者は多大な影響を受けており、倒産のリスクが高まっています。実際に畜産の現場では大手企業でも倒産してしまう状況です。国が各地知事に畜産・農業・養殖業社への支援対策をしている事態にもなっています。
本来なら、今より高い価格で販売しなければならない商品の赤字分を生産者が賄(まかな)っている状態が、今の日本です。このままでは、数年後に食の生産者がいなくなってしまうかもしれません。
対策として、食の生産者を黒字化させることが求められます。その方法として、主に次の2つが挙げられます。
1つは生産性を向上させること。もう1つは中長期的に効率化・代替化を図ることです。
私個人としては、ここまでに紹介してきた食品の代替化は中長期的に発展していくのではないかと考えています。一方、食の問題をビジネスとして解決するには、単に代替食品事業に参入するのではなく、生産者側のシステムの代替化の方こそ市場が大きくなると予想しています。
講演者紹介
大野 泰敬 氏
株式会社スペックホルダー 代表取締役社長 / 農林水産省 農林水産研究所 客員研究員
【略歴】
複数企業を経営する事業家兼投資家。
ラジオNIKKEIの情報番組「ソウミラ」、FM 軽井沢など人気 FM ビジネス情報発信ラジオ5番組のメインパーソナリティを務める。
ソフトバンク株式会社で新規事業などを担当した後、CCC で新規事業に従事。
2008 年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸の iPhone のマーケティングを担当し、シェア拡大に貢献。
独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業 14 社をサポート。
テクノロジーに精通しており、東京オリンピック大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員、明治大学客員研究員にも就任。
ご当地イノベーションを提唱し、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍。
事業実績 500 億円、独立後個人事業で 10 億円のビジネスを作り出す。
著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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