• 配信日:2023.10.20
  • 更新日:2024.09.24

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グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

水素生成技術の事例


次に、各トピックについて代表的な技術を取り上げて紹介します。

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

まずは水素製造というところで、アルカリ水電解に関する技術を紹介します。

Technical University of Berlin の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

こちらは海水を用いてアルカリ水電解を行う事例です。陰極に白金ナノ粒子、陽極に水酸化ニッケルと鉄を使ったという点が、今までの電解装置と異なる部分です。水酸化ニッケル鉄は一般的なイリジウムベースの触媒と比較して、優れた触媒活性と、酸素発生反応を示しました。

さらに海水を使うことで、イオンが酸化するというような事態を防ぐことが可能で、より選択的に酸素発生反応を継続できるという点が大きな特徴です。

1s1 Energy の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にプロトン交換膜を使った水電解システムを紹介します。こちらはアメリカのベンチャー企業1s1 Energy が開発したシステムで、大きな特徴はプロトン交換膜を用いていることにあります。このシステムは、アメリカで特許を取得した4価のホウ素を含有したプロトン交換体からなる技術を用いており、プロトン交換膜自体は PFSA という一般的なものですが、ホウ素を含有している点が特徴です。さらに、優れた機械的、化学的安定性を持つことも大きなポイントだと認識しています。

Versogen の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にプロトン移動ではなくアニオン(陰イオン)を移動させる交換膜の技術を紹介します。イオンの交換膜を PAE という、比較的低コストな交換膜を開発した点が特徴です。

電極触媒に関しても、ニッケルフォームの多孔質輸送層を用いている点も特徴で、これにより充分な耐久性のある低コストな電解層技術になっています。この AEM に関しては、貴金属を用いない電極で生産できるという特徴もあります。

Topsoe A/S の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

続いては固体酸化物型の水電解の一例です。触媒技術で有名な Topsoe A/S という企業が、産業規模の水電解が可能な固体酸化物電解セルを開発しました。 700 ℃ 以上の高温で作動し、非常に高い水素の製造能力を持つ技術です。 PEM 型やアルカリ型に比べて生産量が 30 % 高いという特徴があります。

もともと固体酸化物電解セルというのは、生産能力が高いといわれていましたが、高温で作動するので、材料の劣化が激しいという課題がありました。 Topsoe A/S が開発した技術は比較的、安定的に水素生産能力を高く発揮できるという点が特徴です。

Pennsylvania State University の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

廃水から水素を生成する、微生物電解セルという技術もあります。微生物が溶液中の有機物を分解して、発生したエネルギーを電気エネルギーに変えることでプロトン還元し、水素を生成するのです。しかし、微生物を用いているので、どうしても電極に微生物が付着してしまいます。そこで電極にグラファイトのブラシを用いることで、微生物による性能低下を防いでいます。

この技術はかなりグリーンで低エネルギーな方法として、注目を集めています。

東京理科大の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

人工光合成の、少し変わった技術を紹介します。

水素発生に用いられる光触媒として、あまり注目されていない水酸化鉄を用いた光触媒による水素生成技術です。水酸化鉄の光誘導によって水素が生産されるという研究が東京理科大から発表されています。その効率が通常の光触媒として用いられる酸化チタンの 25 倍以上、かつ触媒活性は 400 時間以上安定していたという結果も発表されています。

アンモニア合成技術の事例


グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

続いて、アンモニア合成技術の事例を紹介します。

NTN 株式会社の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

鉄系触媒を用いたアンモニア合成の事例です。アンモニア合成には鉄系触媒が用いられることが多いのですが、その鉄系触媒にバナジウムを含んだ合金から生産されるアンモニア合成触媒を、日本の NTN 株式会社が特許申請しました。

バナジウムを含有する合金は比較的安価で入手できるため、製造コストが下がるというメリットもあります。

Georgia Institute of Technology の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

アメリカの Georgia Institute of Technology が発表したのが、アンモニア合成の電気化学的な還元反応の技術です。特徴的なのが、常温でのアンモニア合成を可能にする点。用いている素材は Au のナノ粒子なのですが、 Au のナノ粒子を中空ナノキューブと呼ばれる、中をくり抜いて中空構造を作っていることがキーになる技術ポイントです。その構造によって高いアンモニア合成効率を実現できています。

広島大学の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にリチウムの機能性を利用した新規常圧アンモニア合成法として、日本の広島大学が発表した技術を紹介します。

通常だと高温・高圧でアンモニア合成するのが一般的ですが、常圧でアンモニア合成し、かつ貴金属を用いないようなプロセスで合成するというのがこの技術の特徴です。

また少し変わったポイントとして、擬触媒プロセスというものを作っていることが挙げられます。リチウムを含有した触媒を使っているのですが、このリチウムが一旦窒化されて、窒化リチウムになってから、アンモニア合成された後に、もう一回合金再生されるという少し特殊な挙動を示す合金を使用しています。

通常、アンモニア合成されたときにリチウムが使われるのですが、再生する場合には、かなり高温かつ多量のエネルギーが必要です。一方、この技術では勝手に合金を再生するという特殊な挙動を示すので、リチウムを繰り返し利用するときに、その高温、多量なエネルギーをかける必要がなく、かなり省エネルギーなプロセスになります。

Universita degli Studi di Messina の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にカーボン系触媒を紹介します。イタリアのメッシーナ大学が開発した、導電性のカーボンナノチューブと、鉄ナノ粒子を用いた技術です。一度水素の水電解を挟んで、そこからアンモニアを生成するというフロー電解槽技術で、そのフロー電解槽に CNT を担持したナノ粒子の電極に素材を用いているのが特徴です。

通常だと、このような素材には貴金属が使われることが多いのですが、貴金属を用いず、水素ガスの生成と、あとはアンモニアの安定的な生成を実現しています。

次世代太陽電池/光熱ハイブリッドシステムの事例


グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

最後に、次世代太陽電池 / 光熱ハイブリッドシステムの事例を紹介します。

Ecole Polytechnique Federale de Lausanne の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

2次元・3次元のペロブスカイト材料を用いた、高耐久性を有する太陽光電池を開発している事例です。2次元と3次元のペロブスカイト構造を組み合わせることによって、高い安定性と優れた変換効率という、両方のメリットを活かした高性能な電池を開発しています。

東京大学の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

東京大学が研究している技術で、電極にカーボンナノチューブ薄膜を用いたペロブスカイト太陽電池を紹介します。カーボンナノチューブにフラーレン誘導体を塗布することにより、フレキシブルな太陽光電池セルが作れるというような研究です。貴金属を用いず、塗布型で作れ、低コストであることが特徴なのですが、その他に電極を曲げても特性の低下が少ないという特徴があります。

Helmholtz-Zentrum Berlin fur mterialien und Energie の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にペロブスカイトと別の太陽光電池を組み合わせたタンデム型の研究事例の紹介です。ドイツの HZB はペロブスカイトの研究を進めており、世界的にもトップを走っている研究機関です。

こちらの機関が開発した技術は、ペロブスカイトと別の層、トップセルとその下のセルの間にある中間層に特殊な材料を用いています。これにより電力の変化効率を安定的に維持するという効果があります。タンデム型の中でも高い変換効率を維持できる技術です。

Aligarh Muslim University の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

次にハイブリッド構造の太陽光電池の事例です。太陽電池セルの下に置くサーモセルを流れる熱媒体として電熱性の高いナノ流体を用いることで、太陽光電池のセルを冷やすという効果が非常に高いという特徴があります。そこで得た熱エネルギーを別のものに活用できるという点も特徴です。

Inha University の事例

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

最後に、太陽光電池の下のサーモセルに熱電変換素子を組み込んだ事例です。こちらは研究段階のものが多く、そのうちの1つです。サーモセルのモジュールにシアン化鉄カリウムという熱電変換素子を用いることで、太陽光の熱で発電するという効果と、サーモセルの冷却効果で発電変換効率を上げられるという、一挙両得な技術といえます。

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講演者紹介

グリーンエネルギー製造を支える素材技術事例~水素・アンモニア・太陽光~

鈴木 希
リンカーズ株式会社 リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所 プロジェクトマネージャー

物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点( MANA )外来研究員。群馬大学大学院工学研究科応用化学・生物化学専攻修士課程を修了。
2019 年にナノマテリアル系の研究開発型ベンチャーを起業。同社では日本医療研究開発機構( AMED )の研究課題に採択された事業に国立大と共に参画し、企業と大学/研究機関との共同開発も数多く行った。2021 年よりリンカーズに所属し、素材・化学系の調査を主に担当。

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