- 配信日:2020.08.11
- 更新日:2023.09.01
オープンイノベーション Open with Linkers
フレームワークの重要性と「考え方を揃える」ことの価値 三谷宏治教授インタビュー2
※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。
前回、『経営戦略全史』の著者である三谷宏治教授から人材育成についてお話をお伺いし、言語や考え方(フレームワーク)が揃うと議論や意思疎通・意思決定が素早くなる、と学びました。
人材育成とは9割の人ができていない基礎を何度も繰り返して身に付けさせること 三谷宏治教授インタビュー1
また、言葉を揃えることは、オープンイノベーションでバックグラウンドの違う他社と連携する際にも重要だ、という気付きにもつながりました。 今回は、現在リンカーズで使われているフレームワークや言語について対談形式でアドバイスを頂戴しました。各企業で利用しているフレームワークや言語がありましたら、是非比べていただければと思います。
2つのフレームワークと1つの共通言語
リンカーズでは2つのフレームワークを重要視しています。 1つは「業務の優先順位(リソースアロケーション)」を確認するためのマトリックスになります。もう1つは業務の進め方に関する「GISOV(Goal、Issue、Solution、Operation、Value)」というものです。 また、共通言語としては「roti(ロティ―)」という用語を社内でよく使っています。「リターン オブ タイム インベストメント(Return of Time Investment=roti)」の単語の頭文字による言葉で「時間あたりどれぐらいのリターンを得られるか」という指標です。
フレームワーク1:仕事の優先順位(リソースアロケーション)
リンカーズ 前田 佳宏
横軸の投資規模は「人」「物」「金」の3つのリソースが、大量に必要か、少しで済むのかという大きさを示します。縦軸は、その投資に対するリターンの大きさです。それぞれを分割してできる4つのエリアのどこに業務が当てはまるかを検討することによって、改善に着手すべき業務かそうでないかを判断しています。
リンカーズでは、わずかな工夫で大きなリターンを得られる施策(図のA)から実行することを徹底しています。リンカーズ社内の例を挙げると、中小企業に送信するメールの文章を少し変えるだけで企業からの反応が大きく変わる場合があります。そういったものが、まず手を付けなければならないAの領域です。 逆に、大きな投資で小さなリターンしか得られないDのエリアの施策に無意識に取組んでいる場合が意外に多いので、それをできる限りなくすようにしています。 大きな投資で大きなリターンを得られるもの(図のC)は、基本的にみんなで取り組むグループワークです。そこは大きな投資がかかりますが、それはそれでやり続ける必要があるので、4つの象限の中でどれを実施しているかをきちんと理解しながらやる必要があります。それをこのフレームワークを使って、繰り返し社内の皆に伝えています。
三谷教授
フレームワーク2:GISOV
リンカーズ 前田佳宏
G ゴール(目標)を設定する (Goal) I ゴールを到達するために越えなければいけない課題 (Issue) S 課題を解決するためのソリューション (Solution) O 実現するためのオペレーション (Operation) V 付加価値を出す (Value)
業務のG(目標)を掲げて目標に到達するためのI(課題)を抽出し、それを解決するS(ソリューション)を考える。Sまで達成できる社員は多いのですが、それを実現するO(オペレーション)にはチームワークが必要になり、関わる人の数が増えれば増えるほど難易度が高くなります。もちろん経営者としてはV(結果)を出すまでできているかどうかが大切です。 テーマごとの大きな進捗を把握・コミュニケーションのためにも、フレームワーク(考え方)が非常に重要だと思っています。
三谷教授
今の話でいうとG(ゴール)やI(課題)を適当に出していいんだったら意味がありません。「ゴールは社長の言う通りですよね」「上司が課題はこれだと言った」「お客さん3人に聞いたらこうでした」、で済むなら簡単ですよね。
そこを論理的に詰めることで、もしくは発想力で面白いゴールや課題を付け足して、真に価値を生みうるS(ソリューション)につなげられるか。ここはセンス次第のところでもありますが、研修で鍛えられる面も大きいです。ただ、それで課題をいくつ並べても仕方なくて、一番ダイジな課題(ゴールを到達するために越えなければいけない課題)は何かを常にちゃんと考えることが必須です。
タイムマネジメントの共通言語:roti(ロティ―)
リンカーズ 前田佳宏
特に営業チームでは「これはロティ―が低い」といった言葉が自然に出るようになってきていますし、そういうものはすごく重要だと思います。
今リンカーズには色んなバックグラウンドを持った人が中途社員として入社しています。コンサルティング会社からも沢山来ますし、メーカーの研究職、ベンチャー企業、みんな入社時点で能力も意識もバラバラです。バラバラの中で、やっぱりできる人をベストプラクティスにしてそこに合わせたいと思うが、なかなか難しい。 マインドセットとスキル、それと大切なのはタイムマネジメントです。ただ要領よくタイムマネジメントできる人をベストプラクティスにして、そこに合わせるのは簡単そうでもすごく難しいのです。
三谷教授
だから、その人にそのまま合わせようというのは多分無理ですね。でももしその人がセンスでやっていても、それをちゃんと伝えられる形のノウハウやステップへ落とせるのならOKです。そうでなかったとしても、組織としてはその人をベンチマークして、他の人がマネできる形にしていくことでしょう。
ちなみに私のタイムマネジメントは「早めにやる」こと。それだけです。ぎりぎりにやるからみんな失敗するのです。だから何でもまずは、ちょっと手を付けましょうと。
手を付けると難易度が高いか低いか、この情報が無いと進まないなどが分かります。それが分からないまま締め切り前日に手を付けるから「このデータは今から依頼をかけないと無理だ」と、破滅するのです。プロジェクトとしての破滅を回避するために多くの労力が割かれ、早めに手をつけていれば1で済むことが10かかることになります。そしてそれが次に影響し、雪だるま式に……。 でも最初にちょっと考えれば、どんなデータが必要か、難しいのか簡単か、自分の手に負える負えないかが見極められます。早めに手をつけていれば、難易度の高い発想力が必要なものは調子が良いときにやることができます。疲れているときには簡単な腕力仕事を頑張ります。早めにスタートしていれば、そういうバイオリズムに合わせた仕事の仕方も出来ますが、それが前日ならもうやるしかありません。それでいいアイデアが出るでしょうか?火事場のバカぢからなんて本当は存在しないのです。
考え方を揃えること
三谷教授
ふつうの大学では、教員は考えが違うからこそ価値があります。高い専門性を持って独自の研究をし、その方法論や知識を学生たちに伝えます。だからこそ考え方もみな異なります。でもそれでは短期にビジネス、経営を学ぼうとする人たちにスキルを伝えることは難しくなるので、KIT虎ノ門大学院では、最低限、考え方を揃える努力をしています。 客員教員をお願いするときにも、単に「この科目をお願いします」ではなく「基本の考え方の科目があるので見学して」「この教本を読んでおいて」と伝えています。そのまま教えなくてもいい、でも学生は必ずこれを学んでくるから、そういう「考え方」で質問してきます。それに対して「なんだそれ」と言わないで欲しい、「そうだよね」とちゃんと言ってねとリクエストしています。全員でそういう反応ができるようにしようと。バラバラな中でも考え方を揃えようという方針でやっています。これは普通の大学では無理ですね。 考え方を揃えるのは面倒くさいことです。でもだからこそ、会社としての力になります。揃えると決めて、飽きずに繰り返しましょう。中途の人が入社したら、それがいつでも、最初にその研修を受けられるようにすることです。せめてビデオでも良いから見せること。そうしないと会社はすぐバラバラになり、非効率になっていきます。
リーダーだけがその言葉を知っていても伝えるのが難しい
リンカーズ 前田佳宏
三谷教授
リーダーだけがその言葉を知っていても、部下にはうまく伝わらない。だからチームや部署毎でいいから、丸ごと同じ考え方を学ぶ方が効率的なのです。言葉も発想も考え方もそう。 私が理事をやっているNPOでは、常勤職員が数十名を超えるようになったタイミングに、そろそろやらないと、となって、なんとか全員集めて研修を3回やりました。リンカーズはそれを実施できる最後のチャンスかもしれませんよ(笑)。
あとがき
三谷教授に最後にご指摘いただいた「考え方を揃える」ことは、継続的な事業拡大を目指す組織にとって最も重要なことだと思います。現在弊社も会社の行動指針の刷新を行っており、その中で社員が守るべき基本的なルール設定を行っております。信頼できるリーダーのもとで、ルールに従って動くチームを増殖していくことが、事業の継続的な成長を可能にすると考えております。
三谷教授へのセミナー依頼などはオフィシャルサイトの「問合せ」から可能です。 また、一般参加できる三谷教授のセミナーは非常に少なくすぐ満席になってしまうようですが、ブログに情報を掲載下さっていますので、ぜひご確認下さい。 三谷宏治教授のオフィシャルサイト 三谷宏治教授のオフィシャルブログ「三谷3研ブログ」
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