• 配信日:2023.09.07
  • 更新日:2024.09.24

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生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

事例6:シャペロンタンパク質が酵素を保護する仕組みを模倣した「自己分解プラスチック技術」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

これまでは動物、植物を模倣した技術を紹介してきましたが、生物模倣には生物の細胞内の仕組みを模倣した技術も存在します。その1つが、アメリカの Intropic Materials Corporation が開発した「自己分解プラスチック技術」です。

従来の自己分解・生分解プラスチックは強度に問題がある、あるいは意図しないタイミングで生分解が始まってしまうことが課題であり、商品化した際に長期間の保存には適さないというデメリットがありました。そこで、 Intropic Materials Corporation は生物の細胞内にあるシャペロンタンパク質に着目。シャペロンタンパク質は生物内で酵素を保護する機能があるだけでなく、酵素の活性化をスイッチングする機能もあります。シャペロンタンパク質によって酵素が働き出すタイミングを制御する、あるいは酵素の分解を阻害するというような機能を有しているのです。

このシャペロンタンパク質の仕組みを利用し、 Intropic Materials Corporation は、プラスチックの分解酵素とシャペロンタンパクに該当する水溶性高分子ポリマーの複合体を開発しました。水溶性高分子ポリマーの複合体をあらかじめ自己分解性プラスチックの中に封入して、製品を作成します。すると、通常の状態では生分解性酵素が一切働かないため、従来のプラスチックと同様の強度を維持することを可能にしました。使い終わった後は酵素を活性化させて分解ができます。酵素の保護機能を解除する条件は、一定の水分と 40 度以上の温度を付加することだけのため、各家庭での分解も可能にします。

昨今のプラスチック利用で問題になっているのがマイクロプラスチックという非常に細かい分子に分解されたプラスチックです。何が問題かというと、自然界では一切分解されず、マイクロプラスチックを摂取してしまった生物の体内にそのまま蓄積してしまうことにあります。ここで紹介した自己分解プラスチックはマイクロプラスチック以下の小ささまで分解することが可能であり、不純物なく細かく分解できるので、分解生成物を用いてさらにプラスチックを作ることも可能です。環境に優しく効率の良い再生産を実現できる技術といえます。

事例7:自然界の光合成を模倣した合成生物学による「CO2回収利活用プラットフォーム」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

まだ試作段階ですが、バナナが熟成過程でエチレンを生成することに着目し、微生物にエチレン生成酵素遺伝子を組み込んでエチレンを生み出す技術です。バナナのエチレン生成酵素遺伝子に限らず、何らかの生成酵素遺伝子を微生物に組み込むことでさまざまな化学物質を作ることができます。この技術では CO2 をソースに有機肥料や脂質、アルコールなどを生成できるとのこと。

この技術を研究している Cemvita Factory Inc では、 2023 年4月にバイオプラントを作成し、弊社の見積もりでは月産1トンのエチレンの生産が可能だと試算しています。最終的には 170 万トンの CO2 を用いて化合物を生成することを予定しているとのことです。

モノづくり × 各産業


生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

生物模倣技術を用いたモノづくりの観点で事例を紹介します。

各製品を作ったプロセスを理解し、 Biomimetics をどのように活用して研究開発・製品開発を行うかというインスピレーションを提供できればと思います。

事例8:ヘビの動きを模倣した自走式柔軟ロボット「Soryu-C」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

へビの動きを模倣した、配管など狭い場所の点検が可能な自走式ロボットの事例です。

株式会社ハイボットという企業が開発したもので、4つの独立した制御部位で構成されており、移動にはキャタピラとホイールを用いて、連結部分が回転することでヘビのような動きを再現可能にしています。これにより方向転換や段差の上り下りなどがスムーズに行えるのが特徴です。

このロボットの強みは、人が入れない危険な場所に入り込んで点検作業が行えることにあります。

細い管の中を走り回るロボットとしては、ヘビ以外にもミミズやイカなど体が柔らかい生物の動きを模倣した技術も報告されています。

昨今、インフラの老朽化が各地で進んでおり、水道の点検や汚染水の配管などの点検作業に活躍するのではないかと期待されています。

事例9:シャコの捕脚構造を模倣した耐衝撃特性を大幅に向上させる炭素繊維強化プラスチックの「素材積層技術」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

海で暮らすシャコには捕脚と呼ばれる足があり、この足を使って高速の打撃を繰り出し、貝殻を割ったりします。この打撃の衝撃は脚を高速で動かすことで発生した泡が崩壊することによって生まれます。その衝撃を捕脚自身も受けてしまうため、捕脚を守るために捕脚はヘリコイド構造という作りをしているのです。

ヘリコイド構造とは、繊維で作られた細い板が螺旋状に積層されたような構造のこと。外圧が加わった際に力が分散されるような仕組みで、この構造のおかげでシャコの捕脚は衝撃に耐えることができます。

このヘリコイド構造にインスパイアされた、アメリカの Helicoid Industries Inc. は、炭素繊維強化プラスチックを用いてヘリコイド構造を模倣し、配向方向をずらしながら積層した対衝撃素材を作りました。従来の素材と比べて強度も耐久性も向上しています。

この技術は航空宇宙部品や、風力タービンのブレード、自動車などに応用可能で、軽量化しエネルギー効率を高める効果なども期待されています。

事例10:節足動物の防水戦略と蝶の色彩を模倣した100%再生可能かつ有害フッ素化合物を含まない「防水透湿生地」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

撥水技術としてはハスの葉を模倣した技術が有名ですが、ここではハスの葉に加えてさらに強力な撥水効果を持つトビムシの表皮構造を模倣した生地を紹介します。

この生地は撥水素材だけでなくアゲハ蝶の羽の微細構造も模倣しており、色を変化させることが可能です。撥水性と色の変化を組み合わせたアパレル素材として応用されています。

先ほどの SDGs の話にもつながるのですが、この素材は有機フッ素化合物を使用しないで使える素材ということも特徴で、モノづくりとともに SDGs も意識した Biomimetics の応用事例といえます。

事例11:ハリセンボンの表皮構造を模倣した「超撥水材料」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

こちらも撥水技術ですが、素材ではなくコーティング技術です。物に撥水機能を付与するため素材の表面を凹凸に加工するなどの方法は効果的なのですが、凹凸がなくなったら再処理するのが難しいという課題があります。そこで、再処理が比較的容易で金銭的コストも安い技術を求めて研究開発されたのがこの技術です。

コーティング材料は持続性に問題がありましたが、ハリセンボンの表皮構造を模倣した超撥水材料により解決しました。シリコン基材の中に酸化ナノロッドでハリセンボンのトゲを再現して持続性の高い凹凸構造を実現。これを使うことで、撥水性の高く持続性のあるコーティングが可能です。

事例12:植物由来のクロロフィルを模倣した「化学反応用クリーン触媒」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

こちらは植物のクロロフィルの光合成プロセスを模倣するために作った有機光触媒の事例です。

光合成を触媒する分子にクロロフィルというものがありますが、クロロフィル自体を使うのではなくシミュレーションによって再設計した有機光触媒を使っています。現在3種類の製品を提供中です。

この技術の利点としては、金属触媒を使わないことと、高い温度の環境が要らず光のみで化学反応を活性化させられることが挙げられます。

事例13:海綿動物の骨格構造を模倣した「鉛フリー圧電複合エネルギーハーベスタ」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

海に生息するスポンジ状の生物の構造を模倣して高効率・高耐久性の圧電素子を開発した事例です。

既存の圧電素子にはエネルギーハーベスタ(圧力が加わったときにエネルギーを生み出すもの)というものがあるのですが、それには力が均等に伝わらないという問題がありました。しかし海綿動物の骨格構造を模倣することで均等に力が分散するようになり、丈夫かつ力を電気エネルギーへ変換する効率も向上しました。

事例14:ムール貝の岩への接着機構を模倣した「止血用接着剤」

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

ムール貝の足糸(そくし)の接着機構を医療に応用した事例です。 Biomimetics の分野で接着系の材料開発への応用で有名なケースとしてはヤモリなどがあります。ムール貝もその一例ですが、ヤモリとの違いは、ムール貝は海の近くの岩場で生活しているので、湿潤環境においても生息できるような分子を分泌している点です。つまり水の中でも使える接着剤として活用できます。

このムール貝の足糸を模倣した技術をさらに医療に活用するということで、止血用のハイドロゲルに応用したのがこちらの技術です。

ゼラチンにムール貝の足糸の構成成分であるカテコールと、可視光で固まる基材を合成して出血している部位に注入することで、カテコール基によって組織がくっつきます。そこに光を当てて固めることで止血するという技術です。

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講演者紹介

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

喜多村 悦至
リンカーズ株式会社 リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所 シニアリサーチフェロー 博士(農学)

東北大学加齢医学研究所研究員。 鹿児島大学大学院 連合農学研究科 生物利用科学専攻 博士課程修了。
2003 年英国 Dundee 大学 Life Sciences 学部 博士研究員、2011 年同学部 Senior research associate、2017 年熊本大学発生医学研究所教員を務め、DNA 複製機構や染色体均等分配機構の研究、解明に取り組む。2018 年よりリンカーズ オープンイノベーション研究所に入社し、アカデミアバックグランドを活かして、バイオテクノロジー領域を中心に先端技術動向調査、産学連携促進活動など、製造業向けの技術マッチング活動を支援している。

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

久留 和成
リンカーズ株式会社 リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所 リサーチマネージャー 博士(医学)

九州大学大学院 医学研究科 博士課程修了。
2002年 日本宇宙フォーラム、2003 年 英国 Dundee 大学、2006 年 英国Imperial college London にて博士研究員、2010 年 佐賀大学医学部、2015 年 北海道大学歯学部にて生理学・薬理学分野の教員を務め、中枢神経領域における摂食調節・糖尿病研究に取り組む。
2022 年よりリンカーズ オープンイノベーション研究所に入社し、医学、ヘルスケア、バイオテクノロジー領域を中心に先端技術動向調査を行う。

生物模倣技術の最新事例14選~SDGs実現・モノづくり~

黒田 昇平
リンカーズ株式会社 リサーチプラットフォーム事業本部 オープンイノベーション研究所 リサーチマネージャー

九州大学工学府物質プロセス工学専攻修士課程修了。
大手化粧品メーカー、大手電機メーカーなどで研究開発・事業開発に従事。
2021年より現職にて、主にメディカル・ヘルスケア、日用品・消費財系の技術動向調査を行う。

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